第8章番外編　#5「召喚」

　---あれは1ヶ月程前の話。この家に住み始めてまだ間もない頃だ。

　「ふー、これでいいかしら？」

　私は召喚の儀式をするため、色々準備をしていた。私はまだ未熟なところはあるが、色々家庭の事情があって、私はサモナーにならなければならなかったのだ。

　慣れない環境ではあるが、決してできないわけではない。手順さえ間違えなければきっと成功する、はず。

　習った手順通りに術式を部屋の床に書き、儀式に必要な素材をその術式の真ん中あたりに置いた。あと必要になってくるのは私自身の血液のみだった。

　「私の血を術式に染み込ませれば、儀式が始まるのよね？」

　私は手順を確認すると果物ナイフを手に取った。これで軽く指を切り、その傷口から出る血液を術式に染み込ませる。それで儀式の本番が始まる。儀式が始まれば途中でやめることも逃げることもできなくなる。それは死を意味するからだ。

　「…すー…はー、すー…はー」

　いざ儀式が始まるのかと思うと私の全身に緊張が走っていた。落ち着かせるために1度深呼吸してみた。まだ緊張しているが、さっきよりは多少マシになった。

　大丈夫。しっかりサモナーの勉強をしてきたのだ。手順もしっかり覚えている。間違いはない。きっと大丈夫。緊張するのはしっかりとやってきた証拠なのだ。大丈夫。私ならできる。

　「…よし」

　私は自分自身にそう言い聞かせて、果物ナイフで自分の人指し指を軽く切った。そして出血した人差し指を術式を軽くなぞるようにそっと置いた。

　「獣達よ。我が血を欲するのなら、我が召喚に応じ、契約を結びたまえ！」

　人差し指を置きながら私は召喚獣に呼びかけた。この呼びかけに召喚獣が応じてくれるかどうかで、合否、もとい生死が決まるのだ。

　「ッ！？」

　すると血の馴染んだ術式が赤く光り出した。そして途端にものすごい威圧感を感じた。その威圧感に思わず恐縮してしまった。これが召喚獣？　威圧感だけでここまでとは、一体どんなすごい召喚獣が呼びかけに応じたのだろうか？

　「……」

　赤く光り出したかと思うと、今度はものすごい暴風が部屋の中で吹き荒れた。あまりの暴風で目を見開くのも精一杯だった。

　「ッ！？」

　そんな中、暴風の発生する中心に１つの影がかすかに見えた。あれが、召喚獣？

　「……」

　---しばらくすると赤い光りも暴風が消えていった。どうやら収まったようだ。

　そして先ほど見えていた影の姿がだんだんあらわになっていく。

　「…えっ？」

　しかし私は意外な光景を目撃してしまった。

　術式の中心に、1人の男の子が立っていたのだ。