88の星座精鋭(メテオ・プラネット)
縮小~最強になるために~
――ネイサン・マティス。
小春と同じく橙組に所属しており、ほぼ毎日放課後に小春を迎えに行っていたため、俺とも仲良くなった。
何度も話したことがあるし、ずっといい奴だと思っていた。
それなのに――まさか、小春を攫うだなんて。
「ネイサン……何で、こんなことしやがった」
「そうだなあ。強いて言うなら、最強になるためかな」
――最強になるため。
ネイサンはそう言ったが、俺には到底理解ができなかった。
訝しむ俺に、ネイサンは更に続く。
「この島に暮らしている八十八人は、全員能力者だろう? その中には当然、かなり強力なものもいっぱいある。だから――全ての能力の弱点を探って、殺してやるんだよ。そうすると、相対的においらが一番強くなるよね。世界に能力を持った人なんて、おいら以外にはいなくなるんだからさ」
そこで、ようやく分かった。
姉貴が言っていた、資料室に侵入した人物というのは――ネイサンのことだったのだ。
全ての能力について詳しく書かれた資料を見て、それで弱点などを調べたのだろう。
「だけどね、不満に思ってることがあるんだよ。資料室には、全ての能力のことが詳しく書かれた資料があるはずなのに――何故か、君のだけがなかったんだよ、吹雪」
俺の能力に関して書かれた資料だけ、資料室にはなかったというのか。
それはそうだろう。
何故なら、その資料は――姉貴が持っているのだから。
「君に訊いても教えてくれないし……だから、おいらは考えた。妹を、人質にしようってねえっ!」
「……お前ッ」
腹が立った。
そんな下らないことのために、小春を巻き込みやがったことが。
そして、俺のせいで巻き込んでしまったことで、自分自身にも怒りが沸いてくる。
俺は無意識に、拳を強く握り締めていた。
「ほら、能力使いなよ。おいらが、潰してやるからさあッ!」
ネイサンはそう言って煽ってくるが、俺の能力はいつでも使えるわけじゃない。
だから、歯を噛み締めつつネイサンを睨むだけで、何もできなかった。
「……お兄ちゃん。そんな人の言う事なんか、聞く必要ないよ」
不意に、そんな声が聞こえて。
振り向くと、腕を押さえながらも三冬が立ち上がっていた。
「お兄ちゃんの能力は、使うのに条件がいるんだったよね。それなら、大丈夫。ふゆが戦うよ」
三冬にも、俺の能力に関して少しだけなら話したことがある。当然、条件があるということくらいなものではあるが。
三冬は前に左手を突き出し、そして言い放つ。
己の、能力名を。
「いくよ――〈海蛇座〉ッ!」
すると、三冬の掌から水が放出された。
ただし、当然それは普通の水などではない。
蛇のような形をした、とても長い水だ。いや、蛇というよりはドラゴンに近いだろう。
三冬の掌から出現した水龍は、真っ直ぐにネイサンへと向かっていく。
しかし――。
「無駄だよ、そんな分かりやすい攻撃じゃ」
ネイサンが、つまらなさそうに言った直後。
三冬が放った水龍は、瞬時に消滅してしまった。
……いや、違う。消滅したのではない。
小さくなったのだ。
よく目を凝らさないと目視できないほどに、小さく。
極度に縮小した水龍はネイサンの胴体に直撃し――儚くも霧散してしまう。
かなり縮められたことで、力も弱まってしまっていたのだろう。
「――〈顕微鏡座〉。これが、おいらの能力だよ」
ネイサンが説明してくれたが、先ほどの光景を見せられてしまうと嫌でも分かる。
おそらく、物体を縮小させる能力なのだろう。
ついさっき、小春を拘束している縄を三冬が解こうとしたとき、突然三冬が腕を押さえて座り込んだのは、この能力による攻撃をくらってしまったのだと思う。
きっと、能力で見えないほどに小さくした針とかを投げたのだ。
とはいえ、今のはあくまで推測に過ぎないわけだが。
「まだまだだよ……っ!」
三冬は諦めず、今度は両手の平で水龍を放つ。
しかし、やはりすぐさま縮小されてしまい、ネイサンの体に当たっても虚しく弾け飛ぶ。
彼が言ったように、三冬みたいな目に見えて分かりやすい能力だと、ネイサンには通用しない。
こちらの攻撃が当たる前に――小さく、無力化されてしまうから。
「……っ」
悔しそうに歯噛みしつつも、三冬は懲りずに両手から水を放出する。
だけど、今回はそれだけではない。
両手の平から水龍が出現した直後にその場にしゃがみ込み、両手を床に押し当てる。
あれは……何をしているんだ。
もしかして、床に向かって能力を発動しているのだろうか。
すると、床に謎の波紋が広がっていき――
「な……っ!?」
ネイサンの足元の床から、水龍が飛び出してきた。
先ほど三冬が掌を床に押し当てたとき、放たれた水は床の中を通ってネイサンのもとまで向かった――多分だが、そういうことだろう。
ネイサンは跳んで後退することによってかろうじて回避したが、水龍はまだ二つ存在する。
そう。三冬が床に放つ前に、両手から放出した水龍だ。
床からの攻撃を跳んで躱したことで、宙に浮いていて身動きのとれないネイサンへ水龍が襲いかかる。
いけるか……と思ったのも束の間。
「だから、無駄だって言ってるだろ」
バックステップの最中に、両手を前へ突き出して。
さっきまでと同じように、残り二つの水龍もあっという間に縮小してしまった。
やっぱり、だめか。
あの縮小能力に対抗するには、三冬の能力では難しいかもしれない。
水を放ったりなどの、目に見える攻撃ではすぐに縮小されてしまうのだから。
勝つためには、目に見えない能力で対抗するしかない。
たとえば、物体ではない攻撃。
今ここにいる人で、そんな能力を宿しているのは――俺だけだ。
「……三冬、お前はさがっててくれ。あとは、俺がやるよ」
俺がそう告げると、小春も、三冬も、そしてネイサンまでもが一様に愕然とした。
無理もない。
とある条件を満たさなければ戦えないことが分かっているから、俺がそんなことを言ってくるなどとは到底思えなかったのだろう。
俺だって、もちろん嫌だ。できることなら、ここから逃げ出したい。
でも、そういうわけにはいかない。
他でもない、この俺がやるしかないんだ。
三冬を、守るために。
小春を、救うために。
「だ、だめだよ。お兄ちゃんがさがっててよっ」
「大丈夫だ。お前の能力じゃ、相性が悪い」
「……お兄ちゃんなら、勝てるっていうの?」
三冬は、不安そうに訊ねてくる。
正直、勝算なんかない。勝てるかどうかなんて、やってみないと分からないのだ。
そもそも、俺は能力自体あんまり使ったことがない。
だから、上手く扱えるか心配だが……今更怖気づいたりなどできるわけもない。
絶対に、負けるわけにはいかないから。
「そのために。三冬、お前に頼みがあるんだ」
「頼み?」
鸚鵡返しで訊いてくる三冬に、俺は彼女のほうを振り向くこともせずに答える。
「ああ。俺に――攻撃してくれ」
「……えっ?」
俺の頼みに、三冬は怪訝な表情となった。
当然だ。
俺は、仲間である三冬に、その水龍を放つ能力を自分に撃てと言ったのだから。
でも、それは大事なことなのだ。
俺が、ネイサンに勝つためには。
「できるだけ全力で、撃ってほしいんだ。頼む、三冬」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。できるわけないでしょ、そんなこと! 下手したら……死んじゃうかも、しれないんだよ?」
「俺のことは気にしなくていい。だから――頼む」
「……っ」
三冬もネイサンも、俺がどうしてそんなことを頼んでいるのか理解できていないだろう。
小春だけは、一度俺の能力を見たことがあるから察してはいるだろうけど。
「……お兄ちゃんがそう言うってことは、何か考えがあるってことだもんね。でも、痛いから気をつけてよ?」
「分かってるよ、ありがとな」
三冬は意を決し、俺に掌を向ける。
そして――そこから、先ほどと同じ水龍が放たれた。
他でもない、俺に向かって。
「……くっ、ぐぁあぁぁぁッ」
水龍が俺の体に直撃し――俺は勢いよく突き飛ばされてしまい、壁に激突した。
正直、物凄く痛い。
当然だが、血が出てしまっている。
だけど、これでいい。
これで――ようやく、能力を使うことができる。
「……いくぞ」
俺は立ち上がり、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせる。
そして、叫ぶ。
「――〈蛇遣い座〉ッ!!」
小春と同じく橙組に所属しており、ほぼ毎日放課後に小春を迎えに行っていたため、俺とも仲良くなった。
何度も話したことがあるし、ずっといい奴だと思っていた。
それなのに――まさか、小春を攫うだなんて。
「ネイサン……何で、こんなことしやがった」
「そうだなあ。強いて言うなら、最強になるためかな」
――最強になるため。
ネイサンはそう言ったが、俺には到底理解ができなかった。
訝しむ俺に、ネイサンは更に続く。
「この島に暮らしている八十八人は、全員能力者だろう? その中には当然、かなり強力なものもいっぱいある。だから――全ての能力の弱点を探って、殺してやるんだよ。そうすると、相対的においらが一番強くなるよね。世界に能力を持った人なんて、おいら以外にはいなくなるんだからさ」
そこで、ようやく分かった。
姉貴が言っていた、資料室に侵入した人物というのは――ネイサンのことだったのだ。
全ての能力について詳しく書かれた資料を見て、それで弱点などを調べたのだろう。
「だけどね、不満に思ってることがあるんだよ。資料室には、全ての能力のことが詳しく書かれた資料があるはずなのに――何故か、君のだけがなかったんだよ、吹雪」
俺の能力に関して書かれた資料だけ、資料室にはなかったというのか。
それはそうだろう。
何故なら、その資料は――姉貴が持っているのだから。
「君に訊いても教えてくれないし……だから、おいらは考えた。妹を、人質にしようってねえっ!」
「……お前ッ」
腹が立った。
そんな下らないことのために、小春を巻き込みやがったことが。
そして、俺のせいで巻き込んでしまったことで、自分自身にも怒りが沸いてくる。
俺は無意識に、拳を強く握り締めていた。
「ほら、能力使いなよ。おいらが、潰してやるからさあッ!」
ネイサンはそう言って煽ってくるが、俺の能力はいつでも使えるわけじゃない。
だから、歯を噛み締めつつネイサンを睨むだけで、何もできなかった。
「……お兄ちゃん。そんな人の言う事なんか、聞く必要ないよ」
不意に、そんな声が聞こえて。
振り向くと、腕を押さえながらも三冬が立ち上がっていた。
「お兄ちゃんの能力は、使うのに条件がいるんだったよね。それなら、大丈夫。ふゆが戦うよ」
三冬にも、俺の能力に関して少しだけなら話したことがある。当然、条件があるということくらいなものではあるが。
三冬は前に左手を突き出し、そして言い放つ。
己の、能力名を。
「いくよ――〈海蛇座〉ッ!」
すると、三冬の掌から水が放出された。
ただし、当然それは普通の水などではない。
蛇のような形をした、とても長い水だ。いや、蛇というよりはドラゴンに近いだろう。
三冬の掌から出現した水龍は、真っ直ぐにネイサンへと向かっていく。
しかし――。
「無駄だよ、そんな分かりやすい攻撃じゃ」
ネイサンが、つまらなさそうに言った直後。
三冬が放った水龍は、瞬時に消滅してしまった。
……いや、違う。消滅したのではない。
小さくなったのだ。
よく目を凝らさないと目視できないほどに、小さく。
極度に縮小した水龍はネイサンの胴体に直撃し――儚くも霧散してしまう。
かなり縮められたことで、力も弱まってしまっていたのだろう。
「――〈顕微鏡座〉。これが、おいらの能力だよ」
ネイサンが説明してくれたが、先ほどの光景を見せられてしまうと嫌でも分かる。
おそらく、物体を縮小させる能力なのだろう。
ついさっき、小春を拘束している縄を三冬が解こうとしたとき、突然三冬が腕を押さえて座り込んだのは、この能力による攻撃をくらってしまったのだと思う。
きっと、能力で見えないほどに小さくした針とかを投げたのだ。
とはいえ、今のはあくまで推測に過ぎないわけだが。
「まだまだだよ……っ!」
三冬は諦めず、今度は両手の平で水龍を放つ。
しかし、やはりすぐさま縮小されてしまい、ネイサンの体に当たっても虚しく弾け飛ぶ。
彼が言ったように、三冬みたいな目に見えて分かりやすい能力だと、ネイサンには通用しない。
こちらの攻撃が当たる前に――小さく、無力化されてしまうから。
「……っ」
悔しそうに歯噛みしつつも、三冬は懲りずに両手から水を放出する。
だけど、今回はそれだけではない。
両手の平から水龍が出現した直後にその場にしゃがみ込み、両手を床に押し当てる。
あれは……何をしているんだ。
もしかして、床に向かって能力を発動しているのだろうか。
すると、床に謎の波紋が広がっていき――
「な……っ!?」
ネイサンの足元の床から、水龍が飛び出してきた。
先ほど三冬が掌を床に押し当てたとき、放たれた水は床の中を通ってネイサンのもとまで向かった――多分だが、そういうことだろう。
ネイサンは跳んで後退することによってかろうじて回避したが、水龍はまだ二つ存在する。
そう。三冬が床に放つ前に、両手から放出した水龍だ。
床からの攻撃を跳んで躱したことで、宙に浮いていて身動きのとれないネイサンへ水龍が襲いかかる。
いけるか……と思ったのも束の間。
「だから、無駄だって言ってるだろ」
バックステップの最中に、両手を前へ突き出して。
さっきまでと同じように、残り二つの水龍もあっという間に縮小してしまった。
やっぱり、だめか。
あの縮小能力に対抗するには、三冬の能力では難しいかもしれない。
水を放ったりなどの、目に見える攻撃ではすぐに縮小されてしまうのだから。
勝つためには、目に見えない能力で対抗するしかない。
たとえば、物体ではない攻撃。
今ここにいる人で、そんな能力を宿しているのは――俺だけだ。
「……三冬、お前はさがっててくれ。あとは、俺がやるよ」
俺がそう告げると、小春も、三冬も、そしてネイサンまでもが一様に愕然とした。
無理もない。
とある条件を満たさなければ戦えないことが分かっているから、俺がそんなことを言ってくるなどとは到底思えなかったのだろう。
俺だって、もちろん嫌だ。できることなら、ここから逃げ出したい。
でも、そういうわけにはいかない。
他でもない、この俺がやるしかないんだ。
三冬を、守るために。
小春を、救うために。
「だ、だめだよ。お兄ちゃんがさがっててよっ」
「大丈夫だ。お前の能力じゃ、相性が悪い」
「……お兄ちゃんなら、勝てるっていうの?」
三冬は、不安そうに訊ねてくる。
正直、勝算なんかない。勝てるかどうかなんて、やってみないと分からないのだ。
そもそも、俺は能力自体あんまり使ったことがない。
だから、上手く扱えるか心配だが……今更怖気づいたりなどできるわけもない。
絶対に、負けるわけにはいかないから。
「そのために。三冬、お前に頼みがあるんだ」
「頼み?」
鸚鵡返しで訊いてくる三冬に、俺は彼女のほうを振り向くこともせずに答える。
「ああ。俺に――攻撃してくれ」
「……えっ?」
俺の頼みに、三冬は怪訝な表情となった。
当然だ。
俺は、仲間である三冬に、その水龍を放つ能力を自分に撃てと言ったのだから。
でも、それは大事なことなのだ。
俺が、ネイサンに勝つためには。
「できるだけ全力で、撃ってほしいんだ。頼む、三冬」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。できるわけないでしょ、そんなこと! 下手したら……死んじゃうかも、しれないんだよ?」
「俺のことは気にしなくていい。だから――頼む」
「……っ」
三冬もネイサンも、俺がどうしてそんなことを頼んでいるのか理解できていないだろう。
小春だけは、一度俺の能力を見たことがあるから察してはいるだろうけど。
「……お兄ちゃんがそう言うってことは、何か考えがあるってことだもんね。でも、痛いから気をつけてよ?」
「分かってるよ、ありがとな」
三冬は意を決し、俺に掌を向ける。
そして――そこから、先ほどと同じ水龍が放たれた。
他でもない、俺に向かって。
「……くっ、ぐぁあぁぁぁッ」
水龍が俺の体に直撃し――俺は勢いよく突き飛ばされてしまい、壁に激突した。
正直、物凄く痛い。
当然だが、血が出てしまっている。
だけど、これでいい。
これで――ようやく、能力を使うことができる。
「……いくぞ」
俺は立ち上がり、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせる。
そして、叫ぶ。
「――〈蛇遣い座〉ッ!!」
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