異世界で勇者に選ばれたと思ったらお姫様に選ばれた件

りょう

第3話姫との対面

 時間という名の猶予を与えてもらった俺は、とりあえず国王様の娘さんに会う事に。

(十歳で俺と同じ身長って、あり得ないよな普通)

 さっきから俺の頭の中を巡っているのはその事だった。何せ十歳なんて小学校四年生とかそのレベル。それなのに身長が百七十近くあるって、成長期の一言では済まされないくらいのレベルだ。

「なにかお考え事ですか? 姫様」

 先程俺にドレスなどを渡そうとしてきたステラというメイドの案内で、姫に会いに行く途中、そんな言葉をかけてくる。

「サラッと姫様とか呼ぶなよ。俺はあくまで男なんだから」

「しかし明日には姫様になられるじゃありませんか」

「勝手に決めないでくれよ」

「でもなる以外に選択はないと思いますが」

「それは……まあ分かってはいるんだけどさ」

 その決断をするために必要になってくるのは、国王様の娘さんに会う事だと俺は思っていた。果たして病弱と呼べるかは分からないが、母親を亡くした事が原因で、姫になりたがらないのは事実だ。その所だけは同情する。

「カステラって言ったっけ? あのさ、その次期姫について聞きたいんだけど」

「ステラです。それについては本人と直接お話しした方がいいと思いますよ。ほら、ここがラン様のお部屋です」

 いつの間に部屋に着いていたのか、ステラが扉の前で足を止める。やはり小国とはいえど王家の人間だ。部屋の扉だけでも豪華さが伝わってくるし、かなり大きい。

「ラン様、例の方湯お連れしました」

「どうぞお入りください」

 ステラがノックしてそう声をかけると、向こうから優しげな声が返ってくる。ちょっと想定していた声よりも大人しめな声だったので、ちょっとばかり驚きながらも、ステラと共にラン姫の部屋へと入る。
 噂の姫様は、へやのベッドにいた。

「初めまして、ですね。あなたが……お父様が言っていた私の影武者になってくれる方?」

「はい」

 長い黒髪と、整った顔立ち。そしてその名を表すかのような蘭の花の色のような色の大きな瞳。やはり異世界なだけあって目の色とか唇の色とか、俺の世界では見れない特徴が多かったが、ものすごい美人なのは分かった。

「では私は一度席を外しますので、二人でゆっくりお話しください」

 ステラが部屋から出て、俺と姫の二人きりになる。

「よろしければそちらの椅子にお座りください」

「あ、ありがとうございます」

 二人きりになって急に寒く緊張してしまった俺は、ガチガチになりながら彼女がわざわざ用意してくれた椅子に座った。

(ほんとうに十歳か?)

 その対応とか見て、益々疑念が広がる。こんな小学生が俺の世界にいたとしたら、それはもはや神に近い。

「この度はこんな事に巻き込んでしまってすいませんでした。こんな私の何かのために女装をしてまで、影武者になっていただくことになって」

「あ、謝らないでくださいよ。それに俺はまだ影武者になるとか決めては……」

「嫌ですか? 影武者になる事を」

「い、嫌と言いますか、その、ですね」

 緊張して先程から敬語でずっと話してしまう俺。いや、身分的にはそれが間違いではないのだろうけど、それを抜いてもどうも彼女の前では調子が狂う。

「無理な頼みなのは私も百も承知なのです。本来なら私が立つべき地位なのですから。しかし……」

「立てない理由があるんですよね」

 理由を聞いてはいるものの、それを口にするのは少し彼女が可哀想なのでそれは控えておく。本人も多分、その言葉を聞きたくないだろうし。

「今の私が仮にお母様がいたあの場所に立ったとしても、きっと国のために何もできないと思うんです。それに私はお母様のように力もありません。きっとこのままでは争いに勝つ事もできないません」

「普通は女性が戦う事は難しいですからね」

「あなた様の世界ではそうなのですか?」

「はい。そもそも争いなんてほぼない国でしたから」

「まあ」

 こちらの世界との常識の違いに逆に驚く姫。世界が違う事で常識も変わってくるだろうし、恐らく今後は俺の方が驚かされることの方が多いかもしれない。

「そういえばあなた様の名前を聞いてよろしいでしょうか」

「高橋勇介。勇介って呼んでくれて構いません」

「ユウスケ様ですね。では改めて言わせてください」

 姫は俺の名前を確認するや否や、その場で小さくではあるが頭を下げた。

「ユウスケ様、お願いさせてください。どうか私に代わってこの国の姫になっていただけないでしょうか? 私もいつかは必ず克服してみせます。ですからそれまではどうか……ゲホッ」

 言葉の途中で突然咳き込んでしまう姫。俺は咄嗟の行動で、彼女の背中をさすってあげる。

「大丈夫ですか? 姫」

「あ、ありがとうございます……ゲホッ」

 しばらく咳がやむまでさすってあげた俺は、彼女の様子を見ながらある事を考えていた。

(ここまで頼まれて無視できないよな……)

 体が弱いのに、わざわざ頭を下げられてしまったら俺も断ろうにも断れない。それに彼女を見るとどこか思い出してしまうのだ。昔の事を。

(今度こそ力になれるなら俺は……)

 少しだけ道を外す事になってもいいのかもしれない。

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