死の花が咲いた日
第11話 世間話
そして全員が入った段階で、僕とエレンが殿を務める形で中に入る。
扉を閉めると、あれほど聞こえていた歓声も全く聞こえなくなってしまった。
「……あまり知らなかったが、この会議場、遮音性が高いんだな……」
「祈祷を主にする場所ですからね。静かに、正確に言えば外部の音が聞こえないような環境にしないといけません。後は、祈祷師が狙われないように頑丈な建物にしています。……まあ、簡単に言えば最重要人物が何かするときに便利な場所、ということですよ。それに、この扉を閉めてしまえば外部からの侵入者も防げますからね」
「ずいぶんとこの場所について知っているんだな」
僕はエレンに訊ねる。
それに対してエレンは溜息を吐いて、どこか遠くを見つめながら言った。
「……私の父がこの会場を設計した人間なんですよ。有名な建築家だったもので、国王陛下から任させてこの場所を設計した、ということになるのですけれど」
そうだったのか。それは驚きだ。エレンの父親が建築家――正確には設計士だったとは。
僕はエレンにさらにそれについて聞こうとしたが、
「でも、私、父のこと嫌いなんですよ。たぶんそれを知らないあなたは父のことについて質問しようとしたかもしれませんが……」
そうだったのか。
おっと、失敬。
危うく墓穴を掘るところだった。
「いや、別に、そんなことは思っていないぞ。ただこの場所の警備についてちょいと考えていただけだ。それくらい考えておかないとこれからどうなるか解らないし」
「それもそうですね。……確かに、今の私の話はただの余談でした。忘れていただいて結構です。いや、それ以上に忘れてもらったほうが有り難いのかもしれません。勤務中に余計な、無駄な話をしたのですから」
「いや、それは別に構わないよ。結果としてかなり有意義な話を聞けたことには変わりないのだから」
有意義な話、というのはもちろんこの会場の構造についてだ。それほど頑丈な設備ならば簡単に崩れ去ることはないだろう。それについては一安心だ。昨日の『不条理』とやらが建物を爆破しようと試みても一先ずある程度なら保つことが出来る、ということなのだろう。
建物の構造についてはこれで問題ないことが解った。
次は設備状況についてだ。この建物はホール状になっており、僕たちが今居る場所――待合室が会議場を取り囲むように配置されている。扉は全部で四箇所あるが施錠されており、現状自由に出入りすることができるのは今僕の目の前にある北の扉のみとなっている。
この北の扉はメインとなる出入り口と面しているため、多数の出入りが想定される。それに窓もない空間となっているため、唯一の外部との出入り口となっているため、単純に言えば、ここだけを警備すれば外部からの侵入がないということになる。
「侵入がない、といってもどこまで侵入をシャットアウトできるか、だがな……」
「はっきり言って百パーセントのシャットアウトは不可能だと考えられます。密室にも抜けがあるように、シャットアウトにも抜けがありますから。ですが、だからこそ、私たち二人がここに居るのです。少なくとも二人も居れば何とか目は誤魔化す事は出来ないでしょう? 二人とも金で買われている可能性は除いて」
二人とも――ってそれは僕も含まれているということか。
はっきり言ってそんなことは絶対にしないのだが、実際それを言ったところで信じてもらえるかどうかは怪しいところだ。だって見知った人間ではないからね。
結局のところ、それ以上僕は言及しなかった。する必要がないと思ったからだ。
「……それにしても、暇だな」
「仕方ないでしょう。あちらが動きを見せない限り、こちらとしては何も出来ない。今頃きっと祈祷をしているころじゃないかしら? ……それならそれで祈祷しています、っていうのが解りやすくしてくれればいいのに」
解らなくはないが、別にそこまで配慮する必要が無い――という結論なのではないだろうか。
「……とにかく、祈祷の瞬間は見てはいけないとは言うからね。もしかしたら、配慮が足りないあなたは一度くらい見たことがあるのではなくて。祈祷師が祈祷をしているその瞬間、神が下りるというらしいけれど」
神が下りる。
それだけを言われても、特に僕には理解できる話ではなかった。それに、見たことがあるのではないかと言われても見たことはない。確かに何回か祈祷の瞬間に立ち会ってしまったことはある。だが、祈祷の瞬間に入ってはいけないなどと聞いたことはないし、一度もそんな姿を見たことはなかった。
はっきり言って、そんなことは気のせいではないか?
そう思ってしまう程だったが――それは彼女の矜持のためにも言わないでおくことが正解だろう。
「とにかく、何も起きないことは平和でいいことだが、仕事としては暇なことだね。……まあ、この発言自体若干不謹慎な発言になるのだが」
そんなことを言った、ちょうどその時だった。
その発言は僕にとって冗談のつもりだった。
祈祷が終わってから開かれるはずの、正面の扉がゆっくりと開かれていった。
「……もう、祈祷が終了したのか?」
「いや、そんなはずは……。少し、早すぎる気が……」
そして。
彼女の予想は的中した。
中から出てきたのは、アルナだった。アルナは普段と同じような表情だったが、どこか焦っているようにも見えた。
そして彼女は――僕たちに、告げた。
「……中に入ってください。大変なことが、そして、非常に残念なことが起きてしまいました」
扉を閉めると、あれほど聞こえていた歓声も全く聞こえなくなってしまった。
「……あまり知らなかったが、この会議場、遮音性が高いんだな……」
「祈祷を主にする場所ですからね。静かに、正確に言えば外部の音が聞こえないような環境にしないといけません。後は、祈祷師が狙われないように頑丈な建物にしています。……まあ、簡単に言えば最重要人物が何かするときに便利な場所、ということですよ。それに、この扉を閉めてしまえば外部からの侵入者も防げますからね」
「ずいぶんとこの場所について知っているんだな」
僕はエレンに訊ねる。
それに対してエレンは溜息を吐いて、どこか遠くを見つめながら言った。
「……私の父がこの会場を設計した人間なんですよ。有名な建築家だったもので、国王陛下から任させてこの場所を設計した、ということになるのですけれど」
そうだったのか。それは驚きだ。エレンの父親が建築家――正確には設計士だったとは。
僕はエレンにさらにそれについて聞こうとしたが、
「でも、私、父のこと嫌いなんですよ。たぶんそれを知らないあなたは父のことについて質問しようとしたかもしれませんが……」
そうだったのか。
おっと、失敬。
危うく墓穴を掘るところだった。
「いや、別に、そんなことは思っていないぞ。ただこの場所の警備についてちょいと考えていただけだ。それくらい考えておかないとこれからどうなるか解らないし」
「それもそうですね。……確かに、今の私の話はただの余談でした。忘れていただいて結構です。いや、それ以上に忘れてもらったほうが有り難いのかもしれません。勤務中に余計な、無駄な話をしたのですから」
「いや、それは別に構わないよ。結果としてかなり有意義な話を聞けたことには変わりないのだから」
有意義な話、というのはもちろんこの会場の構造についてだ。それほど頑丈な設備ならば簡単に崩れ去ることはないだろう。それについては一安心だ。昨日の『不条理』とやらが建物を爆破しようと試みても一先ずある程度なら保つことが出来る、ということなのだろう。
建物の構造についてはこれで問題ないことが解った。
次は設備状況についてだ。この建物はホール状になっており、僕たちが今居る場所――待合室が会議場を取り囲むように配置されている。扉は全部で四箇所あるが施錠されており、現状自由に出入りすることができるのは今僕の目の前にある北の扉のみとなっている。
この北の扉はメインとなる出入り口と面しているため、多数の出入りが想定される。それに窓もない空間となっているため、唯一の外部との出入り口となっているため、単純に言えば、ここだけを警備すれば外部からの侵入がないということになる。
「侵入がない、といってもどこまで侵入をシャットアウトできるか、だがな……」
「はっきり言って百パーセントのシャットアウトは不可能だと考えられます。密室にも抜けがあるように、シャットアウトにも抜けがありますから。ですが、だからこそ、私たち二人がここに居るのです。少なくとも二人も居れば何とか目は誤魔化す事は出来ないでしょう? 二人とも金で買われている可能性は除いて」
二人とも――ってそれは僕も含まれているということか。
はっきり言ってそんなことは絶対にしないのだが、実際それを言ったところで信じてもらえるかどうかは怪しいところだ。だって見知った人間ではないからね。
結局のところ、それ以上僕は言及しなかった。する必要がないと思ったからだ。
「……それにしても、暇だな」
「仕方ないでしょう。あちらが動きを見せない限り、こちらとしては何も出来ない。今頃きっと祈祷をしているころじゃないかしら? ……それならそれで祈祷しています、っていうのが解りやすくしてくれればいいのに」
解らなくはないが、別にそこまで配慮する必要が無い――という結論なのではないだろうか。
「……とにかく、祈祷の瞬間は見てはいけないとは言うからね。もしかしたら、配慮が足りないあなたは一度くらい見たことがあるのではなくて。祈祷師が祈祷をしているその瞬間、神が下りるというらしいけれど」
神が下りる。
それだけを言われても、特に僕には理解できる話ではなかった。それに、見たことがあるのではないかと言われても見たことはない。確かに何回か祈祷の瞬間に立ち会ってしまったことはある。だが、祈祷の瞬間に入ってはいけないなどと聞いたことはないし、一度もそんな姿を見たことはなかった。
はっきり言って、そんなことは気のせいではないか?
そう思ってしまう程だったが――それは彼女の矜持のためにも言わないでおくことが正解だろう。
「とにかく、何も起きないことは平和でいいことだが、仕事としては暇なことだね。……まあ、この発言自体若干不謹慎な発言になるのだが」
そんなことを言った、ちょうどその時だった。
その発言は僕にとって冗談のつもりだった。
祈祷が終わってから開かれるはずの、正面の扉がゆっくりと開かれていった。
「……もう、祈祷が終了したのか?」
「いや、そんなはずは……。少し、早すぎる気が……」
そして。
彼女の予想は的中した。
中から出てきたのは、アルナだった。アルナは普段と同じような表情だったが、どこか焦っているようにも見えた。
そして彼女は――僕たちに、告げた。
「……中に入ってください。大変なことが、そして、非常に残念なことが起きてしまいました」
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