死の花が咲いた日

巫夏希

第10話 一日目


 会議一日目の朝は雨から始まった。しとしとと降り注ぐ雨の音を聞いて起きる。
 どうやらあの後僕はすんなりと眠りにつけたらしい。そして無事に眠ることができたということは、不条理の敵襲も無かった、ということになる。

「本日から三日間、祈祷師会議が開催されます」

 朝食を終えて、単刀直入にエレンが言った。

「正直、これからどうなるのか我々にもはっきりしていません。昨日もこちらに強襲してきた敵……確か、不条理でしたか、そういうものもやってきています。祈祷師はそれに対して戦闘できる能力を保持していません。レベルこそ高いですが、それはあくまでも祈祷師の地位を維持するために必要なものですよ」
「……レベル、か」

 僕は溜息を吐いて、残っていたトーストを口に放り込んだ。

「それじゃ、こちらは何をすればいい? 会場は昨日の場所で、僕たちは誰も入ることは許されない。それどころか扉も窓も密閉状態にする。要するに密室になるのだろう」
「簡単なこと。会場に不審な人物が入らないか監視すればいい。もしその状況で何か起きたならば……犯人は自ずと切り分けることができるでしょう?」
「その場合は、祈祷師が犯人……ということか」

 こくり、とエレンは頷いた。
 身内を疑いたくはないが、しかし状況がそろってしまった以上そう発言するしか無い。

「そうなりますね。ですから、そういうかたちで分担していきましょう。私とあなた、二人で会場の表で不審な人物が入らないように」
「……もちろん、出ないようにもすべきだろう?」
「それは当然ですよ。それに、その言葉は屁理屈にすぎません。ですから、ですからこそ、私たちで何とかしないといけません。今回の会議で何かあったとき、責任を取るのは私たちではありません。この国全体にかかわる問題になりますから」

 祈祷師会議はこの国の威信をかけたものだと、この仕事を行う前に聞いたことがある。
 だから何か起きたときはこの国の権威が同時に失墜する。
 即ち、祈祷師を守る立場にある人間は今まで以上に真剣に取り組まねばならない。

「……しかしながら、不測の事態が起きることもあるでしょう」

 そう言って、エレンは自分の胸を指さした。

「私のレベルは二十五です。確かあなたは四十八ですよね。ですから……足せば七十になるでしょう。……この言葉の意味が理解できますね?」
「つまり、何かあったら……」
「私を殺して、『花』を咲かせなさい」

 その言葉は、ひどく重たいものだった。ずしり、と僕に重たく伸し掛かった。
 でも、僕はそれが役割だ。たとえどんなことをしたとしても、祈祷師であるアルナの命を守る。それが僕の役目。だからこそ、エレンもまたそれに命がけで協力しようと言っている。
 その覚悟を無碍にするわけにはいかなかった。

「……解った。ありがとう」
「礼には及びませんよ。……でも、出来ることならそのようなことが無いようにしたいですが」

 そうして、僕とエレンは同時に頷いた。


 ◇◇◇


 会議会場には、既に多くの人間が居た。階級はどれも上流階級の人間ばかり。さすがに国王陛下自らが会場に足を運ぶことはないが、貴族や大臣等、この国の重鎮と言っても過言ではない存在ばかりが居た。

「……こんなに祈祷師会議って注目されるものなのか?」

 会場入り口の前にて、僕はエレンに問いかける。
 エレンはさも当然のことのように答えた。

「祈祷師会議は世界の未来を決める大事なことですからね。本来ならば世界各国から要職の人間が集まりたいところではありますが、この国はセキュリティが厳重となっていますから……。なので、この国の要職しか集まっていません。ですから、映像転移ポールを利用して世界各国に映像が配信されています」
「映像転移ポール……確か科学の国で開発されたという最新技術の機械、だったか。よくその国が簡単に技術を貸してくれたな。普通なら技術を盗まれないためにNGを出すんじゃないか?」

 映像転移ポール。
 転移魔法の技術を応用して、映像そのものを転移魔法の対象としていろいろな場所へ転移させることのできるポールのことだ。説明だけ言えば簡単なことかもしれないが、映像をどう物体に落とし込むかが技術者の力の見せ所だったらしい。しかし、近年それがうまく落とし込むことのできる手段を発見したらしく、今回の製品化に至ったらしい。噂によれば今回の祈祷師会議での利用は世界各国に映像転移ポールを売り出すための戦略とも言われているが、まあ、そんなことは僕にとってはどうでもいいことだった。

「それ程、世界が注目している……ということですよ。まあ、私にとってはこの盛り上がりなんてほんとうにどうでもいいことですけれどね」

 エレンがそう言った、ちょうどその時だった。
 待合室のある庁舎から祈祷師が一人ひとりレッドカーペットを歩いて出てきた。
 それを見て周りの群衆は大きな声を上げる。確かに、普通に生活していれば祈祷師なんて滅多にお目にかかることのできない存在だ。だからそのような反応をするのは至極当然なことなのかもしれない。
 それはそれとして。
 祈祷師は大きな声を聴いてもそれを目にくれず、会議会場へと向かっていく。
 昨日出会った祈祷師の数々も、あれほどフランクな態度をとっていたのに今ではそれを忘れさせるような真剣な顔立ちだった。やはり、彼女たちも祈祷師だということだ。

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