終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第六章8 炎獄の激戦Ⅱ
ハイライト王国が統治するバルベット大陸。
その南方には世界を守護する女神の一人が存在していた。
炎獄の女神・アスカ。彼女は炎を自在に操り、世界に火の魔力を供給している。かつて他の女神たちと共に世界を混沌に包む魔竜を撃退した。女神たちの中でも一際戦いに適合した力を持っていた。
誰よりも強い力を持ちながら、誰よりも平和を願って戦い続けた。
炎髪は勇気と力の証。
それを体現した存在であったはずだった。
『……航大さん、準備をしてください』
『そうだね。来るよ?』
バルベット大陸の南方地域に存在し、東方地域とも近い位置に存在する小さな田舎街・レント。普段この街は旅人たちが行き交う小さいながらも活気のある平和な街であった。そんな平穏な街が一瞬にして業炎に飲まれることとなった。
命の芽を摘み、形あるもの全てを炎に包む。
残虐非道な行為を行ったのは、魔竜でもなければ魔獣でもない。氷都市・ミノルアを襲った帝国騎士でもない。短く切り揃えられた炎髪を風に揺らす少女がこの事件の首謀者であるのだ。
「…………」
紅蓮に輝く炎髪を持った少女が南方地域において大小様々な『街』を襲っているという噂はあった。しかし、それはあくまで『噂』であり、実際にその光景を目撃した人物は存在していなかったのである。何故ならば、炎髪の少女と邂逅を果たして生き延びた人間が皆無であったからである。そのため、王国には噂程度の報告しか挙がってはおらず、これまで本格的な調査が行われることはなかった。
「ブリュンヒルデもやられたってのか……?」
『あまり考えたくはないけどね……』
『しかし、相手が本気を出した女神であるならば、それも考え難くはないかと』
業炎が支配する街の中で、航大はただ一人で粉塵を見つめている。
南方地域で猛威を奮った炎髪の少女。それは女神と呼ばれる存在であり、今航大たちはその存在と対峙している。封印が弱まったことで世界に漏れ出した『闇の魔力』。それを吸収してしまった炎獄の女神・アスカは我を失い、世界を守護する役割すらも忘れて湧き上がる破壊衝動の赴くままに行動する。
「――邪魔するモノは、全て破壊する」
業炎と粉塵が支配する世界からゆっくりとした動きで姿を現すのは、つり目に意思の強い瞳と、短く切り揃えられた赤髪に華奢な身体を包む紅蓮のコートが印象的な少女・アスカだった。
「リエルとブリュンヒルデがこんな簡単に……」
暴走したアスカを止めるために飛び出していったリエルとブリュンヒルデ。リエルは北方地域を代表する賢者であり、ブリュンヒルデは異世界から召喚された英霊である。それぞれバルベット大陸の中でも一際強い力を持っていたはずだが、それでも本気の女神を前に粉塵へと姿を消してしまった。
『……航大くん、急いで』
『力なら私のを使ってください。アスカが相手ならば優位に立てるはずです』
「分かった。――英霊憑依・氷神」
威圧感と殺気を隠そうともしない炎獄の女神・アスカを前にしても臆することなく、航大は大きく一步を踏み出して迎撃の体勢を整える。
航大が選択するのは氷獄の女神・シュナ。
相手が火を得意とするのならば、こちらは対となる氷を得意とする力を選択する。それは最も理にかなった選択であることに間違いはない。業炎が支配する世界において、その身に圧倒的なまでに濃厚な氷の魔力を纏う。
氷獄の女神・シュナと融合を果たした航大は、その姿を劇的に変化させる。短い茶髪は瑠璃色へと色を変え、更に航大の腰にまで届くほどに伸びている。その身体にも魔力を帯びた瑠璃色のローブマントを纏っており、航大の右手には氷の結晶が取り付けられた魔法の杖が握られており、この姿こそが女神と憑依を果たした『氷神』である。
「…………」
女神と憑依した航大を見るなり、炎獄の女神・アスカの表情が僅かに変化する。苦虫を噛み潰したような苦々しい表情であり、これまで一度として表情を変えなかった女神の変化を、航大は見逃さない。
「いくぞ、シュナ」
『……はいッ!』
両足に力を込めしっかりと踏ん張る、そして両手で杖を強く握りしめて身体の前でしっかりと固定する。静かに息を吐き、集中力を高めていく。
『航大さん、度重なる鍛錬で氷神の時間は確実に伸びています。しかし、油断はしないでください。リミットは消えた訳ではなく、伸びただけであることを』
「了解……」
目を閉じ、脳内に響くシュナの言葉に答える。それと同時に自らの身体に魔力を集中させる。
「……氷獄の女神、シュナ」
歩く足を止めた炎獄の女神・アスカは苦い表情のまま小さく呟くと、地面が大きく抉れるほどに踏ん張りを見せた直後に航大へと一直線に飛びかかっていく。業炎を切り裂き、粉塵を掻き消しながら猪突猛進な様子を見せるアスカ。愚直なまでに直情的な攻撃の動作。しかしそれこそが、炎獄の女神・アスカの戦い方であった。
「美しき氷の華、凍てつく世界に咲き誇れ――氷雪結界」
突進してくるアスカを見据えながら航大が唱えるのは、リエルが得意とする氷の結界魔法。氷魔法でありその仕組さえ理解しているのであれば、女神・シュナと融合した今の航大が使えない魔法はない。強力な魔力を武器にリエルよりも強力な魔法を完成させることが可能であり、氷神・航大を中心に街全体を包み込むように結界が生成されていく。
「――――ッ!?」
街を氷雪結界が包んだ瞬間、あれほどにまで燃え盛っていた業炎が全て消失する。瞬きの瞬間に業炎は姿を消し、温暖な地域に存在する田舎街・レントは即座に凍結した。苦しむ人々も、それを燃やす業炎も凍結させたのは、女神と一体化を果たした航大である。
「……これで、少しは苦しまずに逝けるかな」
『…………』
航大が放つ結界魔法。
それはただ業炎を掻き消すだけではない。未だ、街のあちこちで業炎に包まれて苦しむ人々もまた瞬時に氷の世界へと誘っていた。痛みや苦しみもない、あまりに優しく残酷な最期を人々に強制することとなり、航大の胸は強い痛みに苛まれる。
いつか、北方の都市・ミノルアでは自らの力が足りなかった故に多くの人々が苦しみの果てに命を落とした。そんな過ちは繰り返さないと誓ったはずなのに、今もこうして航大は自らの力が足りなかった故に多くの人が命を落とす瞬間を見ている。
ミノルアの時と違っているのは人々が少しでも苦しまずに命を落とす方法を与えているだけに過ぎない。凍てつき、静寂が支配する世界の中で航大は再びの絶望に目を閉じる。
「さて、これ以上被害を広める訳にはいかない。殺す気で……いくぞッ」
『……はい』
氷神・航大の視界には分厚い氷に閉じ込められた炎獄の女神・アスカが映っている。
同じ女神の攻撃が直撃したのであるならば、いくら炎獄の女神といえど無事で済むはずがない。炎髪が印象的な少女もまた猛進途中の姿勢で凍結はしている。しかし、それだけでこの戦いが終わるとも到底思えないのが現実である。
「――――」
アスカの身体を包む氷にヒビが入る。
その直後、氷の割れ目から紅蓮の炎が姿を見せて加速的にアスカの身体に纏わりつく氷を瓦解させていく。
「連なり、潰せ、重なるは永久凍土の断壁なり――氷壁双頭ッ!」
アスカの身体を封じていた氷が完全に瓦解した瞬間、再び彼女の身体は氷の中へと消えていく。分厚く巨大な氷の板が二枚出現し、音もなく目に留まることなくアスカの身体を押しつぶす。一枚、また一枚、更に一枚、一秒と時間が経過する度に分厚い氷の板がアスカの身体を潰そうと一点に集中していく。
あまりの速さに逃げることすら不可能。大地を揺らしながら生成される氷の板は対象が完全に沈黙するまで重なり続ける。
「…………」
氷結した街に心地良い風が吹く。
「穿つは悪を断罪せし、氷獄の十字――絶氷十字」
冷気を纏った風は航大の身体を優しく撫でて、次なる魔法を生み出す。
重なり続けた氷の板。その更に上空に姿を見せるのは氷で作られた超巨大な十字架である。悪を穿つ最強の十字架はその美しさからは考えられないほどに強力な力を秘めている。
「堕ちろ」
周囲を流れる冷気よりも冷たく。
全てを凍てつかせる氷よりも冷徹な声音が漏れる。
「――――」
静寂を切り裂く破壊の音が鼓膜を震わせる。
上空に生成された氷の十字架はその下で重なる氷の板を破壊しながら大地を目指して落下する。氷が砕け散る音が連鎖し、最後には鈍い音と共に大地に突き刺さる。
白い粉塵が立ち込めて街を包む。
航大が魔法を唱えてから僅か数分。闇に支配されし炎獄の女神に対して、同じく世界を守護する氷獄の女神は手加減を加えることはなかった。かつて世界を守るために戦った仲間であったとしても、世界に害する存在であると認められるのであれば討たなくてはならない。
絶対のブリザードたる氷獄の女神・シュナ。
彼女と一体化する航大もまた彼女の考えに同調したからこそ、超常的な力を持ってして炎獄の女神へ鉄槌を下す。
「さて、次はどうする?」
『もっとキツイ一撃を加えるしかないでしょうね』
航大の視界には白い噴煙とそこから飛び出る十字架が映っている。
街を包んでいた静寂も一分と経たず切り裂かれる。
「…………」
大地に突き刺さる十字架が業炎に包まれる。
白い噴煙が掻き消え、それと共に十字架が完全に瓦解する。
「……邪魔を、する、な」
紅蓮の炎を纏い、炎獄の女神・アスカは小さく呟く。
その身体から発せられる炎は勢いを増していて、これまでの戦いでも彼女がまだまだ本気を出していないことが伺えた。全身に重圧としてのしかかる濃密な炎の魔力。それを一身に浴びても、航大は努めて冷静に次なる攻撃のプランを組み立てていく。
数多の死も、数多の悲しみも全てを凍てつかせる氷獄の街。
女神同士の戦いは終わりの姿を見せてはくれない。
その南方には世界を守護する女神の一人が存在していた。
炎獄の女神・アスカ。彼女は炎を自在に操り、世界に火の魔力を供給している。かつて他の女神たちと共に世界を混沌に包む魔竜を撃退した。女神たちの中でも一際戦いに適合した力を持っていた。
誰よりも強い力を持ちながら、誰よりも平和を願って戦い続けた。
炎髪は勇気と力の証。
それを体現した存在であったはずだった。
『……航大さん、準備をしてください』
『そうだね。来るよ?』
バルベット大陸の南方地域に存在し、東方地域とも近い位置に存在する小さな田舎街・レント。普段この街は旅人たちが行き交う小さいながらも活気のある平和な街であった。そんな平穏な街が一瞬にして業炎に飲まれることとなった。
命の芽を摘み、形あるもの全てを炎に包む。
残虐非道な行為を行ったのは、魔竜でもなければ魔獣でもない。氷都市・ミノルアを襲った帝国騎士でもない。短く切り揃えられた炎髪を風に揺らす少女がこの事件の首謀者であるのだ。
「…………」
紅蓮に輝く炎髪を持った少女が南方地域において大小様々な『街』を襲っているという噂はあった。しかし、それはあくまで『噂』であり、実際にその光景を目撃した人物は存在していなかったのである。何故ならば、炎髪の少女と邂逅を果たして生き延びた人間が皆無であったからである。そのため、王国には噂程度の報告しか挙がってはおらず、これまで本格的な調査が行われることはなかった。
「ブリュンヒルデもやられたってのか……?」
『あまり考えたくはないけどね……』
『しかし、相手が本気を出した女神であるならば、それも考え難くはないかと』
業炎が支配する街の中で、航大はただ一人で粉塵を見つめている。
南方地域で猛威を奮った炎髪の少女。それは女神と呼ばれる存在であり、今航大たちはその存在と対峙している。封印が弱まったことで世界に漏れ出した『闇の魔力』。それを吸収してしまった炎獄の女神・アスカは我を失い、世界を守護する役割すらも忘れて湧き上がる破壊衝動の赴くままに行動する。
「――邪魔するモノは、全て破壊する」
業炎と粉塵が支配する世界からゆっくりとした動きで姿を現すのは、つり目に意思の強い瞳と、短く切り揃えられた赤髪に華奢な身体を包む紅蓮のコートが印象的な少女・アスカだった。
「リエルとブリュンヒルデがこんな簡単に……」
暴走したアスカを止めるために飛び出していったリエルとブリュンヒルデ。リエルは北方地域を代表する賢者であり、ブリュンヒルデは異世界から召喚された英霊である。それぞれバルベット大陸の中でも一際強い力を持っていたはずだが、それでも本気の女神を前に粉塵へと姿を消してしまった。
『……航大くん、急いで』
『力なら私のを使ってください。アスカが相手ならば優位に立てるはずです』
「分かった。――英霊憑依・氷神」
威圧感と殺気を隠そうともしない炎獄の女神・アスカを前にしても臆することなく、航大は大きく一步を踏み出して迎撃の体勢を整える。
航大が選択するのは氷獄の女神・シュナ。
相手が火を得意とするのならば、こちらは対となる氷を得意とする力を選択する。それは最も理にかなった選択であることに間違いはない。業炎が支配する世界において、その身に圧倒的なまでに濃厚な氷の魔力を纏う。
氷獄の女神・シュナと融合を果たした航大は、その姿を劇的に変化させる。短い茶髪は瑠璃色へと色を変え、更に航大の腰にまで届くほどに伸びている。その身体にも魔力を帯びた瑠璃色のローブマントを纏っており、航大の右手には氷の結晶が取り付けられた魔法の杖が握られており、この姿こそが女神と憑依を果たした『氷神』である。
「…………」
女神と憑依した航大を見るなり、炎獄の女神・アスカの表情が僅かに変化する。苦虫を噛み潰したような苦々しい表情であり、これまで一度として表情を変えなかった女神の変化を、航大は見逃さない。
「いくぞ、シュナ」
『……はいッ!』
両足に力を込めしっかりと踏ん張る、そして両手で杖を強く握りしめて身体の前でしっかりと固定する。静かに息を吐き、集中力を高めていく。
『航大さん、度重なる鍛錬で氷神の時間は確実に伸びています。しかし、油断はしないでください。リミットは消えた訳ではなく、伸びただけであることを』
「了解……」
目を閉じ、脳内に響くシュナの言葉に答える。それと同時に自らの身体に魔力を集中させる。
「……氷獄の女神、シュナ」
歩く足を止めた炎獄の女神・アスカは苦い表情のまま小さく呟くと、地面が大きく抉れるほどに踏ん張りを見せた直後に航大へと一直線に飛びかかっていく。業炎を切り裂き、粉塵を掻き消しながら猪突猛進な様子を見せるアスカ。愚直なまでに直情的な攻撃の動作。しかしそれこそが、炎獄の女神・アスカの戦い方であった。
「美しき氷の華、凍てつく世界に咲き誇れ――氷雪結界」
突進してくるアスカを見据えながら航大が唱えるのは、リエルが得意とする氷の結界魔法。氷魔法でありその仕組さえ理解しているのであれば、女神・シュナと融合した今の航大が使えない魔法はない。強力な魔力を武器にリエルよりも強力な魔法を完成させることが可能であり、氷神・航大を中心に街全体を包み込むように結界が生成されていく。
「――――ッ!?」
街を氷雪結界が包んだ瞬間、あれほどにまで燃え盛っていた業炎が全て消失する。瞬きの瞬間に業炎は姿を消し、温暖な地域に存在する田舎街・レントは即座に凍結した。苦しむ人々も、それを燃やす業炎も凍結させたのは、女神と一体化を果たした航大である。
「……これで、少しは苦しまずに逝けるかな」
『…………』
航大が放つ結界魔法。
それはただ業炎を掻き消すだけではない。未だ、街のあちこちで業炎に包まれて苦しむ人々もまた瞬時に氷の世界へと誘っていた。痛みや苦しみもない、あまりに優しく残酷な最期を人々に強制することとなり、航大の胸は強い痛みに苛まれる。
いつか、北方の都市・ミノルアでは自らの力が足りなかった故に多くの人々が苦しみの果てに命を落とした。そんな過ちは繰り返さないと誓ったはずなのに、今もこうして航大は自らの力が足りなかった故に多くの人が命を落とす瞬間を見ている。
ミノルアの時と違っているのは人々が少しでも苦しまずに命を落とす方法を与えているだけに過ぎない。凍てつき、静寂が支配する世界の中で航大は再びの絶望に目を閉じる。
「さて、これ以上被害を広める訳にはいかない。殺す気で……いくぞッ」
『……はい』
氷神・航大の視界には分厚い氷に閉じ込められた炎獄の女神・アスカが映っている。
同じ女神の攻撃が直撃したのであるならば、いくら炎獄の女神といえど無事で済むはずがない。炎髪が印象的な少女もまた猛進途中の姿勢で凍結はしている。しかし、それだけでこの戦いが終わるとも到底思えないのが現実である。
「――――」
アスカの身体を包む氷にヒビが入る。
その直後、氷の割れ目から紅蓮の炎が姿を見せて加速的にアスカの身体に纏わりつく氷を瓦解させていく。
「連なり、潰せ、重なるは永久凍土の断壁なり――氷壁双頭ッ!」
アスカの身体を封じていた氷が完全に瓦解した瞬間、再び彼女の身体は氷の中へと消えていく。分厚く巨大な氷の板が二枚出現し、音もなく目に留まることなくアスカの身体を押しつぶす。一枚、また一枚、更に一枚、一秒と時間が経過する度に分厚い氷の板がアスカの身体を潰そうと一点に集中していく。
あまりの速さに逃げることすら不可能。大地を揺らしながら生成される氷の板は対象が完全に沈黙するまで重なり続ける。
「…………」
氷結した街に心地良い風が吹く。
「穿つは悪を断罪せし、氷獄の十字――絶氷十字」
冷気を纏った風は航大の身体を優しく撫でて、次なる魔法を生み出す。
重なり続けた氷の板。その更に上空に姿を見せるのは氷で作られた超巨大な十字架である。悪を穿つ最強の十字架はその美しさからは考えられないほどに強力な力を秘めている。
「堕ちろ」
周囲を流れる冷気よりも冷たく。
全てを凍てつかせる氷よりも冷徹な声音が漏れる。
「――――」
静寂を切り裂く破壊の音が鼓膜を震わせる。
上空に生成された氷の十字架はその下で重なる氷の板を破壊しながら大地を目指して落下する。氷が砕け散る音が連鎖し、最後には鈍い音と共に大地に突き刺さる。
白い粉塵が立ち込めて街を包む。
航大が魔法を唱えてから僅か数分。闇に支配されし炎獄の女神に対して、同じく世界を守護する氷獄の女神は手加減を加えることはなかった。かつて世界を守るために戦った仲間であったとしても、世界に害する存在であると認められるのであれば討たなくてはならない。
絶対のブリザードたる氷獄の女神・シュナ。
彼女と一体化する航大もまた彼女の考えに同調したからこそ、超常的な力を持ってして炎獄の女神へ鉄槌を下す。
「さて、次はどうする?」
『もっとキツイ一撃を加えるしかないでしょうね』
航大の視界には白い噴煙とそこから飛び出る十字架が映っている。
街を包んでいた静寂も一分と経たず切り裂かれる。
「…………」
大地に突き刺さる十字架が業炎に包まれる。
白い噴煙が掻き消え、それと共に十字架が完全に瓦解する。
「……邪魔を、する、な」
紅蓮の炎を纏い、炎獄の女神・アスカは小さく呟く。
その身体から発せられる炎は勢いを増していて、これまでの戦いでも彼女がまだまだ本気を出していないことが伺えた。全身に重圧としてのしかかる濃密な炎の魔力。それを一身に浴びても、航大は努めて冷静に次なる攻撃のプランを組み立てていく。
数多の死も、数多の悲しみも全てを凍てつかせる氷獄の街。
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