終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章93 胎動する悪意
「はあぁー、捕虜を逃がすなんて有り得ないんですけど?」
玉座の間に響くのは、気怠げな様子が滲み出ている少女の声音だった。
薄暗く、だだっ広い空間は隅から隅まで掃除が行き届いており、眩い光がさせば綺羅びやかな装飾が顔を見せる、玉座が存在するに相応しい場所であった。王が鎮座する場所としては異例なほどにこの空間には光が足りておらず、陰湿な雰囲気に満ちている。
陰湿な雰囲気に拍車をかけるような言葉を漏らす少女は、ツインテールに結んだ薄青の髪を手で払い除けて大きなため息を漏らす。
少女は誰もが認める幼女体型で、フリルがふんだんに施されたゴスロリ服に近い衣装に身を包んでおり、服から僅かに覗く手足は薄暗い空間の中に居ても分かるほど病的に白いのが印象的である。
「ふん、そんなこと僕は知らないさ。僕だってお気に入りのおもちゃがなくなって、イライラしてるんだ」
少女の言葉にいち早く反応してみせるのは、これまた小柄な体躯をした少年だった。
少年は栗色の髪を肩上まで伸ばし、純白の生地に金の装飾が施された軍服のような騎士服に身を包んでいる。その格好は帝国の騎士であることを示すものであり、しかしそれ以外の部分は外見を見る限りは普通の少年である。
薄青のツインテールを揺らす少女の言葉に、少年は苛立たしい様子を隠そうともしていない。
「そのおもちゃが逃げるさまを、指を咥えて見てただけって言う訳、ハイネ?」
「……ルイラ。まず、君を殺してあげてもいいんだけど?」
「口だけは達者みたいね、ハイネ? やれるもんならやってみなさいよ」
ハイネとルイラ。
同じ空間に存在し、同じ組織に属しているにも関わらず、ハイネとルイラはそれぞれに喧嘩腰であることを隠そうともしない。一発触発という状況において、しかし周囲に存在する人間たちはそれを止めようともしない。
「ちッ……うざってぇな……」
誰に言うでもない独り言を漏らすのは、手入れをされていない乱雑に伸びた金髪と、その奥に光る紅蓮の瞳が印象的な青年、アワリティア・ネッツだった。
「アハッ、帝国騎士たちが本気で戦ったら……誰が強いんだろうネ」
いがみ合うハイネとランズを見て気味の悪い笑みを漏らすのは、情熱的な赤い髪を腰まで伸ばし、黒い瞳に十字架を浮かばせる女性、ユーレシア・アリア。
「聞くに堪えない雑音だ……早くこの空間から立ち去りたいね」
玉座の間において、最も二人の争いに関心を持たないのは、薄紫の髪を短く切り揃え、一切の感情が消失した瞳が印象的な青年、ルクスリア・ランズだった。
今、この玉座には五人の騎士が集結していた。
一人は、金髪に真紅の瞳が印象的な『怠惰のグリモワール』を所有する青年、アワリティア・ネッツ。
一人は、薄紫の髪に無気力な態度が印象的な『憤怒のグリモワール』を所有する青年、ルクスリア・ランズ。
一人は、薄青の髪をツインテールにし、気怠げな態度を隠そうともしない『憂鬱のグリモワール』を所有する少女、シャスナ・ルイラ。
一人は、情熱的な赤髪を腰まで伸ばし、漆黒の瞳に異形の力を宿す『強欲のグリモワール』を所有する女性、ユーレシア・アリア。
一人は、栗色の髪を肩上まで伸ばし、帝国騎士の証明である軍服に身を包むのは『色欲のグリモワール』を所有する少年、アレグリア・ハイネ。
帝国ガリア。
世界を混沌に陥れようとする悪の中枢たる帝国の中でも、最高クラスの実力を誇る騎士たちが今、玉座の間に集結しているのだった。普段、彼らは一切の制約を課されていないために自由な行動を取っているのだが、この日は彼らが絶対の忠誠を誓う帝国総統からの命令により、こうして玉座の間に集まることとなったのである。
しかし、彼らを呼びつけた帝国総統であるガリア・グリシャバルの姿はまだない。大罪の名を冠したグリモワールの所有者である帝国騎士たちは、総統が姿を現すまでの間、手持ち無沙汰な時間を余儀なくされている。
「なによ、ランズ? アンタ、最近なにか仕事でもした? 私、アンタの活躍って奴を何も聞かないんだけど?」
「話しかけないでもらえるかな? 知能が低い人間と話すと、こっちまで頭が悪くなる」
「……グリモワールを持ちなさい。今すぐにでも、アンタを殺してあげる」
「誰に向かって口を利いているのか、君こそ分かっているのかい?」
今度は憤怒のグリモワールを所有するランズと、憂鬱のグリモワールを所有するルイラが一発触発な状況へと発展してしまう。帝国騎士たちはそれぞれが強大な力を持っているが故に、総統の命令がない場合はこうしてすぐに対立してしまうことがある。
個性的な帝国騎士たちをまとめることができるのは、彼らの王であるガリア・グリシャバルと――
「……全員、静かに」
「――――」
今、玉座の間に姿を現した褐色の肌と、漆黒の黒髪が特徴的な少女、ガリア・ナタリだけなのである。
個性的な六人で構成される帝国騎士たちの中でも頂点に立つ少女・ナタリが姿を現すなり、あれほどまでにいがみ合っていた帝国騎士たちが無言になる。
力による絶対の支配。
それが帝国ガリアでは当たり前の事実であり、国内でも筆頭の力を持つ帝国騎士たちの中でもその事実は適用されているのである。
「けっ、第一衆だかなんだか知らねぇけど、どの面下げてここに現れたんだかな」
ナタリの登場によって玉座の間は久しい静寂に包まれていた。
しかし、それをぶち壊したのは乱雑に伸びた金髪と、その奥で爛々と輝く真紅の瞳が印象的な青年・ネッツだった。彼は帝国騎士の頂点に立つナタリを前にしても尚、普段通りの態度を崩そうとはしなかった。
明確な怒りと敵意を隠そうともしないネッツは、静かに歩みを続けるナタリに暴言を吐き捨てる。
「聞いたぜ? アンタ、捕虜が逃げる手助けをしてたって話じゃねぇか」
「…………」
先の帝国ガリアで起きた騒動。
帝国騎士と同じ大罪の名を冠したグリモワールを所有する少年・航大と、異能を操る白髪の少女・ユイを捕らえた帝国ガリアだったが、一瞬の隙を突かれ彼らを取り逃がしてしまった。
この事実は帝国ガリアの内部でもごく一部の人間にしか知らされていないのだが、それを耳に入れたネッツはここぞとばかりに噛み付いていく。
「帝国騎士のトップに立って偉そうにするのはいいけどよ、まずはその説明が先なんじゃねぇのか?」
「…………」
「黙ってないで、なんか言えよ」
威圧的な言動を続けるネッツと対峙するナタリ。
彼女は表情ひとつ変えることなく、言葉を発することもなくただ立ち尽くしている。
何か反論を考えているのでもなく、褐色の肌に漆黒の髪を揺らす少女・ナタリはただ無言で、ただ無感情にネッツを見つめるだけ。
「おい、だから……黙ってねぇで――」
「……そこまでだッ!」
ネッツが更に何かを言おうとしたところで、玉座の間に大きく野太い男の声音が響き渡った。
「その件に関しては、我がナタリを許したのだ」
「んなッ……!?」
「どうした、ネッツ? まだなにか疑問があると? 帝国ガリア総統たる我の決定に、何か不満でもあるのか?」
圧倒的な存在感とともに玉座の間へ姿を現すのは、帝国ガリアの総統であり、この世界を混沌に陥れようとする悪の中枢なのであった。軍靴を鳴らし、巨体を揺らながら姿を見せるガリアは、その顔に笑みを浮かべつつも強い光を放つ眼光がネッツに有無を言わせない圧力を放っている。
「……いえ、なにも」
「それなら良いのだ。帝国ガリアを守護せし、我が優秀な騎士たちよ。時は満ちたッ!」
玉座の前まで到達したガリアは、その両手を大きく広げると集まった帝国騎士たちへ高らかに宣言する。騎士たちはガリアが放つ言葉の意味が分からず、その顔を顰める者もいれば、小首を傾げて怪訝そうな顔をする者と反応は様々である。
「我々の悲願である世界を掌握するための動きを活性化させる。そのために必要な力を、君らには集めてきて欲しいと思う」
「アハッ、世界掌握の力……もしかしてそれっテ……」
「…………」
ガリアが言い放つ言葉に反応してみせたのは、赤髪を揺らす騎士・アリアと、金髪に小柄な身体が印象的な少年・ハイネの二人だった。彼らはコハナ大陸で航大を捕らえた際、あの大地に封印されていた魔竜・ギヌスの力を一部復活させていた。あの時の魔竜は分身ながらも、圧倒的な力を見せつけていた。
かつて世界を混沌に陥れた魔竜が持つ力の片鱗を見たことがあるのは、帝国騎士の中でもアリアとハイネの二人だけだ。
「そうか。アリア、ハイネの二人は魔竜に触れたことがあるのだったな?」
「アハッ、まぁ……魔竜ちゃんの力は確かに凄かったヨ」
「……そうだ。我らが野望を果たすため、魔竜の力が必要なのであるッ!」
分身であっても国一つを半壊させた力を持つ魔竜。
帝国総統であるガリアは、今まさにその力を手中に収めようとしているのであった。これまで世界は大きな戦争もなく均衡を保っていた。強力な戦力を持つ帝国ガリアを、それ以外の国々が連携することで押さえつけることで、世界はギリギリのところで均衡を保っていたのだ。
しかし、帝国ガリアはその均衡を破壊しようとしているのだ。
世界を混沌に陥れた魔竜の復活。それが意味するのは、均衡を保つ世界の破壊なのだから。
「諸君には世界各地で眠る魔竜を復活させ、帝国の地へと連れ帰るのだ。全てが揃った時、この世界は我らの手に堕ちる」
「…………」
ガリアの言葉に全員が真剣な表情と共に押し黙る。
この場にいるのは帝国ガリアの中で最も力を持つ帝国騎士たちである。彼らは目の前で両手を広げる総統・ガリアの意思に賛同し、与えられし力を最大限に活用することで、彼の役に立つことが生きる意味である。
「我らが目指すのは理想の世界。そのための一步がこの日、この瞬間なのだッ!」
ガリアの喜色に染まった声音が玉座の間に響き渡る。
終末へ向かう世界。
その速度は緩やかに、そして確実に早まっていくのであった。
玉座の間に響くのは、気怠げな様子が滲み出ている少女の声音だった。
薄暗く、だだっ広い空間は隅から隅まで掃除が行き届いており、眩い光がさせば綺羅びやかな装飾が顔を見せる、玉座が存在するに相応しい場所であった。王が鎮座する場所としては異例なほどにこの空間には光が足りておらず、陰湿な雰囲気に満ちている。
陰湿な雰囲気に拍車をかけるような言葉を漏らす少女は、ツインテールに結んだ薄青の髪を手で払い除けて大きなため息を漏らす。
少女は誰もが認める幼女体型で、フリルがふんだんに施されたゴスロリ服に近い衣装に身を包んでおり、服から僅かに覗く手足は薄暗い空間の中に居ても分かるほど病的に白いのが印象的である。
「ふん、そんなこと僕は知らないさ。僕だってお気に入りのおもちゃがなくなって、イライラしてるんだ」
少女の言葉にいち早く反応してみせるのは、これまた小柄な体躯をした少年だった。
少年は栗色の髪を肩上まで伸ばし、純白の生地に金の装飾が施された軍服のような騎士服に身を包んでいる。その格好は帝国の騎士であることを示すものであり、しかしそれ以外の部分は外見を見る限りは普通の少年である。
薄青のツインテールを揺らす少女の言葉に、少年は苛立たしい様子を隠そうともしていない。
「そのおもちゃが逃げるさまを、指を咥えて見てただけって言う訳、ハイネ?」
「……ルイラ。まず、君を殺してあげてもいいんだけど?」
「口だけは達者みたいね、ハイネ? やれるもんならやってみなさいよ」
ハイネとルイラ。
同じ空間に存在し、同じ組織に属しているにも関わらず、ハイネとルイラはそれぞれに喧嘩腰であることを隠そうともしない。一発触発という状況において、しかし周囲に存在する人間たちはそれを止めようともしない。
「ちッ……うざってぇな……」
誰に言うでもない独り言を漏らすのは、手入れをされていない乱雑に伸びた金髪と、その奥に光る紅蓮の瞳が印象的な青年、アワリティア・ネッツだった。
「アハッ、帝国騎士たちが本気で戦ったら……誰が強いんだろうネ」
いがみ合うハイネとランズを見て気味の悪い笑みを漏らすのは、情熱的な赤い髪を腰まで伸ばし、黒い瞳に十字架を浮かばせる女性、ユーレシア・アリア。
「聞くに堪えない雑音だ……早くこの空間から立ち去りたいね」
玉座の間において、最も二人の争いに関心を持たないのは、薄紫の髪を短く切り揃え、一切の感情が消失した瞳が印象的な青年、ルクスリア・ランズだった。
今、この玉座には五人の騎士が集結していた。
一人は、金髪に真紅の瞳が印象的な『怠惰のグリモワール』を所有する青年、アワリティア・ネッツ。
一人は、薄紫の髪に無気力な態度が印象的な『憤怒のグリモワール』を所有する青年、ルクスリア・ランズ。
一人は、薄青の髪をツインテールにし、気怠げな態度を隠そうともしない『憂鬱のグリモワール』を所有する少女、シャスナ・ルイラ。
一人は、情熱的な赤髪を腰まで伸ばし、漆黒の瞳に異形の力を宿す『強欲のグリモワール』を所有する女性、ユーレシア・アリア。
一人は、栗色の髪を肩上まで伸ばし、帝国騎士の証明である軍服に身を包むのは『色欲のグリモワール』を所有する少年、アレグリア・ハイネ。
帝国ガリア。
世界を混沌に陥れようとする悪の中枢たる帝国の中でも、最高クラスの実力を誇る騎士たちが今、玉座の間に集結しているのだった。普段、彼らは一切の制約を課されていないために自由な行動を取っているのだが、この日は彼らが絶対の忠誠を誓う帝国総統からの命令により、こうして玉座の間に集まることとなったのである。
しかし、彼らを呼びつけた帝国総統であるガリア・グリシャバルの姿はまだない。大罪の名を冠したグリモワールの所有者である帝国騎士たちは、総統が姿を現すまでの間、手持ち無沙汰な時間を余儀なくされている。
「なによ、ランズ? アンタ、最近なにか仕事でもした? 私、アンタの活躍って奴を何も聞かないんだけど?」
「話しかけないでもらえるかな? 知能が低い人間と話すと、こっちまで頭が悪くなる」
「……グリモワールを持ちなさい。今すぐにでも、アンタを殺してあげる」
「誰に向かって口を利いているのか、君こそ分かっているのかい?」
今度は憤怒のグリモワールを所有するランズと、憂鬱のグリモワールを所有するルイラが一発触発な状況へと発展してしまう。帝国騎士たちはそれぞれが強大な力を持っているが故に、総統の命令がない場合はこうしてすぐに対立してしまうことがある。
個性的な帝国騎士たちをまとめることができるのは、彼らの王であるガリア・グリシャバルと――
「……全員、静かに」
「――――」
今、玉座の間に姿を現した褐色の肌と、漆黒の黒髪が特徴的な少女、ガリア・ナタリだけなのである。
個性的な六人で構成される帝国騎士たちの中でも頂点に立つ少女・ナタリが姿を現すなり、あれほどまでにいがみ合っていた帝国騎士たちが無言になる。
力による絶対の支配。
それが帝国ガリアでは当たり前の事実であり、国内でも筆頭の力を持つ帝国騎士たちの中でもその事実は適用されているのである。
「けっ、第一衆だかなんだか知らねぇけど、どの面下げてここに現れたんだかな」
ナタリの登場によって玉座の間は久しい静寂に包まれていた。
しかし、それをぶち壊したのは乱雑に伸びた金髪と、その奥で爛々と輝く真紅の瞳が印象的な青年・ネッツだった。彼は帝国騎士の頂点に立つナタリを前にしても尚、普段通りの態度を崩そうとはしなかった。
明確な怒りと敵意を隠そうともしないネッツは、静かに歩みを続けるナタリに暴言を吐き捨てる。
「聞いたぜ? アンタ、捕虜が逃げる手助けをしてたって話じゃねぇか」
「…………」
先の帝国ガリアで起きた騒動。
帝国騎士と同じ大罪の名を冠したグリモワールを所有する少年・航大と、異能を操る白髪の少女・ユイを捕らえた帝国ガリアだったが、一瞬の隙を突かれ彼らを取り逃がしてしまった。
この事実は帝国ガリアの内部でもごく一部の人間にしか知らされていないのだが、それを耳に入れたネッツはここぞとばかりに噛み付いていく。
「帝国騎士のトップに立って偉そうにするのはいいけどよ、まずはその説明が先なんじゃねぇのか?」
「…………」
「黙ってないで、なんか言えよ」
威圧的な言動を続けるネッツと対峙するナタリ。
彼女は表情ひとつ変えることなく、言葉を発することもなくただ立ち尽くしている。
何か反論を考えているのでもなく、褐色の肌に漆黒の髪を揺らす少女・ナタリはただ無言で、ただ無感情にネッツを見つめるだけ。
「おい、だから……黙ってねぇで――」
「……そこまでだッ!」
ネッツが更に何かを言おうとしたところで、玉座の間に大きく野太い男の声音が響き渡った。
「その件に関しては、我がナタリを許したのだ」
「んなッ……!?」
「どうした、ネッツ? まだなにか疑問があると? 帝国ガリア総統たる我の決定に、何か不満でもあるのか?」
圧倒的な存在感とともに玉座の間へ姿を現すのは、帝国ガリアの総統であり、この世界を混沌に陥れようとする悪の中枢なのであった。軍靴を鳴らし、巨体を揺らながら姿を見せるガリアは、その顔に笑みを浮かべつつも強い光を放つ眼光がネッツに有無を言わせない圧力を放っている。
「……いえ、なにも」
「それなら良いのだ。帝国ガリアを守護せし、我が優秀な騎士たちよ。時は満ちたッ!」
玉座の前まで到達したガリアは、その両手を大きく広げると集まった帝国騎士たちへ高らかに宣言する。騎士たちはガリアが放つ言葉の意味が分からず、その顔を顰める者もいれば、小首を傾げて怪訝そうな顔をする者と反応は様々である。
「我々の悲願である世界を掌握するための動きを活性化させる。そのために必要な力を、君らには集めてきて欲しいと思う」
「アハッ、世界掌握の力……もしかしてそれっテ……」
「…………」
ガリアが言い放つ言葉に反応してみせたのは、赤髪を揺らす騎士・アリアと、金髪に小柄な身体が印象的な少年・ハイネの二人だった。彼らはコハナ大陸で航大を捕らえた際、あの大地に封印されていた魔竜・ギヌスの力を一部復活させていた。あの時の魔竜は分身ながらも、圧倒的な力を見せつけていた。
かつて世界を混沌に陥れた魔竜が持つ力の片鱗を見たことがあるのは、帝国騎士の中でもアリアとハイネの二人だけだ。
「そうか。アリア、ハイネの二人は魔竜に触れたことがあるのだったな?」
「アハッ、まぁ……魔竜ちゃんの力は確かに凄かったヨ」
「……そうだ。我らが野望を果たすため、魔竜の力が必要なのであるッ!」
分身であっても国一つを半壊させた力を持つ魔竜。
帝国総統であるガリアは、今まさにその力を手中に収めようとしているのであった。これまで世界は大きな戦争もなく均衡を保っていた。強力な戦力を持つ帝国ガリアを、それ以外の国々が連携することで押さえつけることで、世界はギリギリのところで均衡を保っていたのだ。
しかし、帝国ガリアはその均衡を破壊しようとしているのだ。
世界を混沌に陥れた魔竜の復活。それが意味するのは、均衡を保つ世界の破壊なのだから。
「諸君には世界各地で眠る魔竜を復活させ、帝国の地へと連れ帰るのだ。全てが揃った時、この世界は我らの手に堕ちる」
「…………」
ガリアの言葉に全員が真剣な表情と共に押し黙る。
この場にいるのは帝国ガリアの中で最も力を持つ帝国騎士たちである。彼らは目の前で両手を広げる総統・ガリアの意思に賛同し、与えられし力を最大限に活用することで、彼の役に立つことが生きる意味である。
「我らが目指すのは理想の世界。そのための一步がこの日、この瞬間なのだッ!」
ガリアの喜色に染まった声音が玉座の間に響き渡る。
終末へ向かう世界。
その速度は緩やかに、そして確実に早まっていくのであった。
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