終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~

桜葉

第五章88 立ち向かう心

「もっとだよ。もっと僕を楽しませてくれ」

 激化する戦い。
 砂塵を抜けし試練者たちは、最後の戦いへとその身を投じていく。

 試練者たちの願いはたった一つ。
 倒れ、眠る少年を救いたいというその一点だけ。

「ライガ、そっちからッ!」

「ぐッ……分かってるってッ……」

「遅れるな、二人ともッ……この戦いは長引けば不利になるぞッ」

 激しい戦いの連続に瓦解を始める砂漠の塔。

 絶え間ない轟音が鳴り響く中で、ライガ、シルヴィア、そしてリエルの三人は女神を討ち倒すために走り続ける。

 彼らが戦うのは、かつて世界を魔竜の手から救い出した救世の女神である。風を操り、世界に存在する風の魔力の根源たる存在で、暴風の女神としての名を持つ少女・カガリ。彼女は試練者たちの願いを叶えるために、自らを討ち倒せと最後の試練を与える。

 願いを叶えるために、今も眠る少年を助けるために、ライガたちは刃を振るい続ける。しかし、対するのは女神である。この世界に生きるただの人間であるライガたちが苦戦するのは必然なのであった。

「女神ってのを敵にするってのが……」

「ここまで強いなんて……」

 瓦礫が雨のように降りしきる中、ライガはその身に風の武装魔法を纏って瞬速での移動を続ける。そんなライガの隣で走るのは、金色の髪を揺らし、白銀の甲冑ドレスに身を包んでいる剣姫・シルヴィア。

 その僅か後方に続くのが、瑠璃色の髪を揺らす少女・リエルだった。

「あの人はまだまだ力を隠している。気を抜くなッ!」

 飛び回るように動き続けるライガたち。
 しかし、彼らの刃が暴風の女神・カガリに届くことはない。

「くっそッ、またかよッ!」

「どうして私たちの剣が……」

 カガリの身体を切り裂こうと繰り出されるライガとシルヴィアの刃。

 しかしそれは、彼女の身体に到達する前に吹き荒れる暴風によって防がれてしまう。女神であるカガリはその身体に見えない風の鎧を纏っているようだった。如何なる攻撃も防ぐ風の鎧。それは絶対的な防御力によってライガたちの攻撃を完全に封殺することに成功していた。

「もう少しさ、工夫ってものを見せて欲しいよね」

「――――ッ!」

 カガリが右手を払う。
 すると、ライガとシルヴィアの身体が紙切れのように瓦礫の中へ吹き飛んでいく。

 先程から同じ光景の繰り返しだった。剣を振るっては吹き飛ばされて、剣を振るっては返されて。全く打開の道を見出だせないまま、悪戯に時間だけが経過していく。

「天地を凍てつかす究極の氷槍よ、あまねく悪を穿て――氷槍龍牙ッ!」

 ライガとシルヴィアの後に続くのは賢者・リエル。彼女もまた落ちてくる瓦礫を避けながら魔法の詠唱を続けていく。

「これなら、どうじゃッ!」
「むッ……」

 低い姿勢で走りながらリエルが唱えるのは巨大な氷の槍。

 ライガとシルヴィアの時とは違い、女神の妹であり、強力な魔法を使役するリエルの登場にカガリの表情が僅かに変化する。飛び込んでくるリエルの片手には、魔力によって生成された巨大な氷槍が握られている。これまでの戦いにおいても度々出現してきた氷の槍が持つ危険性を、カガリはその目で見た瞬間に理解する。

「それは直撃したら危ない奴だね……ッ」

「逃がす訳には……」
「いかないッ!」

「んなッ!?」

 リエルの接近を許し、魔法の直撃を避けるために飛び上がろうとするカガリ。

 しかし、そんな彼女の行動を遮ったのは、先程吹き飛ばされたライガとシルヴィアだった。二人は吹き飛ばされた直後に体勢を立て直し、そしてカガリの行動を読んだかのように再び跳躍していた。

「一対一では勝てなくてもなッ」
「私たちには、仲間がいるッ!」

 カガリの左右からそれぞれの剣で斬りつけるライガとシルヴィア。

 二人の刃はカガリの身体に触れる前に、見えない風の鎧によって防がれてしまうが、二人の押し込もうとする力が働いて、カガリに自由な動きをさせないようにしている。

「小癪だね、君たちもッ!」

「いきますよ、カガリ様ッ!」

 ライガとシルヴィアが稼いだ僅かな時間。
 それはこの戦いにおいて、大きな意味を見出した。

「喰らええええぇぇぇぇッ!」
「――――」

 リエルが投擲する巨大な氷の槍。
 それは一直線にカガリへ向けて直進し、刹那の静寂を産んだ次の瞬間に爆ぜる。

 カガリを中心に凄まじい爆風と轟音が発生し、氷槍が持つ破壊力をまざまざと見せつけていく。瓦解を始める砂漠の塔にもダメージを与えながら、リエルが放つ強大な氷槍は月明かりを受けてキラキラと光る氷の破片へと姿を変えていく。

「いやぁ……さすがにコレは……危なかったなぁ……」

 リエルたちが手応えを感じるよりも先に、粉塵を吹き消しながら姿を現す暴風の女神・カガリ。彼女は零距離でリエルの魔法を喰らいながらも、その身体には一切のダメージを受けてはいなかった。

「化物かよ……」

「でもまだ、チャンスはある。諦めちゃダメよ」

「そうじゃ。カガリ様の周囲に漂う魔力が減衰しておる。それが意味するのは……」

 不敵な笑みを浮かべるカガリから少し距離を取るライガたち。

「その通り。僕の絶対守護魔法を打ち破ったんだよ、君たちは。正直、コレを破られるとは思ってもなかったけどね」

「ここまでして、ようやく条件を同じになっただけとは……」

 砂漠の塔を舞台にした最後の試練が始まってからしばらくの時間が経過した。

 ライガたちの度重なる攻撃も、女神が纏う強力な防御魔法の前に全て無効化されてきた。しかしそれも、今この瞬間を持って互いの条件が一致する。

「こんなに痺れる戦いはいつぶりだろうね……それこそ、魔竜たちと戦っていたあの時以来かもしれない……」

 粉塵を掻き消し、塔が響かせる瓦解の音と共にカガリは静かに声音を漏らす。

「僕は今、すっごく楽しいんだよ。久しぶりに本気を出してもいい相手が現れてね……」

「――――ッ!?」

 突如として全身を突き刺す強大な魔力がライガたちを襲う。
 突き付けられる濃厚な魔力にライガ、シルヴィア、リエルの三人は背筋が凍ってしまう。

「コレが女神の本気って奴か……?」
「こんなに強い魔力……今までに感じたことない……」
「全員、気を引き締めるんじゃぞ……」

 それぞれが額に汗を浮かばせ、相手の出方を伺う中で、周囲をたゆたう魔力の源であるカガリが動き出す。

「風刃よ、万物を切り裂き、悪を討て――絶風神刃ッ!」

 カガリが唱えるのは、かつて魔竜との戦いでも使用した超強力な風魔法。
 自らの周囲に無数の風刃を生成し、それを自在に操って対象を滅する攻撃魔法。

 剣の姿を形成する風刃。数えることすら億劫になるほどの風刃を目の当たりにして、ライガたちは思わず生唾を飲んでしまう。

「さぁ、楽しい戦いはこれからだよ」

 カガリのそんな声音と共に生成された風刃たちが一斉に動き出す。

「ライガ、シルヴィアッ、全員を守ることは不可能じゃぞッ!」

「分かってるッ!」

「こっちのことはこっちでなんとかするってのッ!」

 風刃が動き出すのと同時に、ライガ、シルヴィア、リエルの三人がそれぞれ思い思いの方向へと飛び退る。固まっていては危険だと即座に判断しての行動である。

「逃げられるかな?」

 真の力を出してきた暴風の女神・カガリ。
 彼女が持つ力はどれだけの時間が過ぎてもなお健在である。

「くッ、これじゃッ……」

「戦うどころか……」

「逃げるだけで精一杯じゃのッ……」

 吹き荒れる暴風。

 その中を縦横無尽に飛び回る風刃は、逃げることしかできないライガたちへと容赦なく襲いかかっていく。右から左からと無数に迫る風刃に対して、ライガたちは防戦一方な状況へと追いやられる。一瞬でも気を抜けば命を落とすという状況の中で、カガリは更なる行動へと出ていく。

「螺旋に廻れ、螺旋に流れよ、我が生み出すは破壊の螺旋――風魔螺旋ッ」

 風刃が飛び交う中でカガリが唱えるのは、無数の螺旋状に回転する風玉を生成するものだった。膨大な魔力を内包した風玉が無数に姿を現し、それは見ただけでライガたちに危機感を与えるものだった。

「やっべぇぞ、アレ……」

「くッ……さすがは無尽蔵な魔力を持つ女神ってところか……」

 状況の変化を敏感に察したライガとリエルが苦い表情を浮かべる。

「このままやられてばかりじゃ……ないッ!」

 そんな中で一人飛び出していくのは、白銀の甲冑ドレスを暴風に靡かせる少女・シルヴィアだった。彼女は剣姫の力を用いて風刃の中を掻き分けて、魔法の準備をしているカガリへと接近する。

「世界を包め、全てを守護する、三日月の光よ――皇光の一刀セイクリッド・ブレイズッ!」

「させないッ!」

「いっけえええぇぇぇッ!」

 飛び出したシルヴィアが放つのは眩い光を帯びる三日月の聖なる斬撃。

 風刃を蹴散らしながら突き進む斬撃の行く道を遮るのはカガリが産んだ、螺旋状に回転する風玉だった。

「――――ッ!」

 凄まじい衝撃を周囲に撒き散らしながら、シルヴィアの斬撃がその動きを止める。

「ライガッ、行くぞッ!」

「分かってらぁッ!」

 シルヴィアが産んだ刹那のチャンス。
 それを逃す訳にはいかない。

「神剣・ボルカニカ、お前が持つ力を、解き放て――烈風風牙ッ!」
「地上に生まれし氷の波よ、全てを飲み込み、万物を破壊せよ――氷波絶海ッ!」

 シルヴィアが産んだ一瞬のチャンス。それを活かそうとしてライガとリエルが即座に行動を開始する。
 ライガが放つのは無数の風刃を解き放つ攻撃技。
 それに続く形でリエルが唱えるのは、巨大な氷の波を生成する氷魔法。

「くッ、さすがに数が多いと厄介だねッ……」

「「はあああぁぁぁぁーーーーッ!」」

 ライガとリエルの声音がシンクロして、強大な攻撃が暴風の女神・カガリに襲いかかる。

「風の刃よ、廻り切り裂けッ――風刃円舞ッ!」

 迫る攻撃に対してカガリが放つのは、これまでも使用してきた攻防一体の魔法。

 回転する風刃がライガの攻撃を打ち消し、そしてリエルが生み出した巨大な氷の波を切り裂こうとする。 

「マジかよッ、これでもダメってのかッ!?」
「諦めるな、ライガッ!」

 シルヴィアの斬撃を受け止め、更にライガたちの攻撃に対しても完璧に対応してみせるカガリ。
 遠距離による攻撃はカガリが生成する魔法によって全てが受け止められる。

 膠着状態に陥ろうとする状況に変化を生むのは、またしても甲冑ドレスを着るシルヴィアだった。

「まだまだぁッ!」
「くッ!」

「魔法がダメなら、直接ッ!」

 剣姫・シルヴィアが持つのは聖剣・ハールヴァイト。
 先代の剣姫から受け継いだ世界守護の聖剣。

 数多の風刃が駆け巡る中、自らの甲冑ドレスに傷を産み付けながらも、シルヴィアが止まることはない。カガリを目掛けてひたすらに直進する無骨なまでの行動。

 しかし、今この状況においてはそういった無骨な行動こそがカガリの意識を強く乱す。

「もらったぁッ!」
「甘いッ!」

 シルヴィアが地面を蹴って跳躍する。そして、そのままの勢いで聖剣を振り下ろす。

 相対するカガリもまた退くことはできないと、その右手に風の剣を作り出すと真っ向からシルヴィアにぶつかっていく。互いの剣が接触し、そこを中心に周囲へ衝撃が走り抜けていく。

「ぐぐッ……馬鹿力だねッ……」

「このまま、押し通すッ!」

 瓦解する塔の中心。
 そこでぶつかり合う二人の少女。

「シルヴィアッ!」

 暴風に靡く甲冑ドレスを纏う少女へ鋭い声音が飛ぶ。

「――――ッ!?」

 その声に敏感な反応を見せるシルヴィアは、剣を巧みに使ってカガリの姿勢を崩す。

「おっとッ!?」

 剣を弾かれたことで、カガリの身体が大きく揺れ動く。
 シルヴィアはすぐさま連撃に移ることはできない。
 ライガとリエルもカガリとは距離があり、すぐに行動することは叶わない。

 ならば、この状況において暴風の女神・カガリへ一撃を与えることができる人物はただ一人。

「異界の英霊(アーサー王)、私に力を、航大を助けるための力を――約束されし勝利の一撃(究極剣・エクスカリバー)ッ」

 暴風と風刃が吹き荒れる場を疾走する金色の一閃。
 それは異界の英霊とシンクロを果たした少女・ユイだった。

 彼女は異界の英霊とのシンクロで不具合を生じ、戦線から離脱していたのだが、千載一遇の好機に姿を現してくる。再び英霊・アーサー王とのシンクロを復活させたユイは、白髪と金髪が混じった長髪を風に靡かせて突進する。

「ここで、決めるッ!」
「ぐぅッ……最初からこれが狙いかッ!」

 風と一体化して直進するユイ。

「おっと、逃がさないッ!」

 咄嗟に逃げようとするカガリの動きを止めるのは、剣姫・シルヴィア。
 鋭い軌道で刃を放ち、殺気を孕んだ一撃にカガリも対応せざるを得ない。

「君も逃げないと、タダではすまないよッ!?」
「アンタを倒すことができるなら――この命、惜しくはないッ!」

 再び剣を交えるシルヴィアとカガリ。
 そのすぐ後ろからは、黄金に輝く聖剣・エクスカリバーを握って突進してくるユイの姿がある。

 彼女が放つのは絶対の勝利を約束する超強烈な一撃。

 瞬間的にではあるものの、女神であるカガリが放つ魔力を上回る力の奔流に、さすがの女神も焦りを隠すことが出来ない。

「はあああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーッ!」

 時は来た。
 刹那のチャンスがもたらすのは生か死か。

 これを逃せば、ライガたちの勝利が遠のく運命の一撃。

「――――ッ!」

 突進する少女が女神へと飛びかかる。

 刹那の瞬間。
 闇夜の中に佇む砂漠の塔が眩い光に包まれる。

「――――」

 閃光が砂漠を照らし、それに少し遅れてこの日一番の衝撃が広がっていく。

「…………」

 光が広がり、そして収束していく。

 破壊の一撃によって砂漠の塔は完全に瓦解し、ライガ、リエルが立つ頭上には満月が瞬いている。粉塵が周囲に広がり、そして時間と共にそれも霧散していく。

「す、すっげぇな……コレ……」
「けほ、けほッ……狭い塔の中じゃったからな……」

 倒壊した塔の跡で、まず最初に声音を漏らしたのはライガとリエルだった。
 二人は服を土埃で汚しながらも、大きな怪我もなくしっかりと立っている。

 ライガとリエルが視線を注ぐ先。
 そこは最も破壊の痕が大きな塔の中心部。

「…………」

 少しずつ晴れていく粉塵の中で、人影をライガたちは見つける。

 それは白銀の甲冑ドレスを身に纏った少女であり、綺羅びやかに輝く甲冑ドレスも今ではあちこちが破損してボロボロな状態になっていた。ユイが放つ強烈な一撃を間近で受けた結果であり、ドレスが破損した程度で済んだのは奇跡的と言ってもよかった。

「シルヴィアッ、無事だったかッ!」

 静かに立ち尽くすシルヴィアへ、最初に声をかけたのはライガだった。
 しかし、隣に立つリエルの表情は優れない。

「これは……まずいの……」

「は? 何言ってんだよ、リエル。シルヴィアの奴、怪我もないみたいだし、上手くやったんじゃ……」

「怪我がない? どこを見たら、そんな戯言が吐けるんじゃ?」

「――――」

 険しい顔を浮かべるリエルが向ける視線の先。
 そこへライガの視線も導かれ、そして残酷な現実と向き合う。

「…………」

 背後からでは気付きもしなかった僅かな異変。それはシルヴィアの胸に突き立つ風刃だった。白銀の甲冑ドレスすらも貫通する刃。胸に突き立てられた風刃を中心に、じわじわとシルヴィアの鮮血がドレスを汚す。

「嘘、だろ……なんで……」
「…………」

 ライガの声音が震える。
 目の前の光景が信じられないといった様子で、一步後ずさる。

「いやぁ……いつぶりだろうね、命の危機って奴を感じたのは……」

 随分と小さくなった粉塵の中から聞こえてくるのは、そんな声音だった。

 茶髪をサイドポニーに結び、露出の激しい衣服に身を纏うは、世界を守護する女神・カガリ。凄まじい一撃が直撃したため、さすがの女神といえどもその身体には無数の裂傷が刻まれている。ゆるんだ白いシャツが鮮血に汚れている。しかしそれは、女神の身体に流れていたものではない。

「君がずっと前線で戦っていたのならば、もしかしたら結末は違っていたかもしれないね」

「…………」

 シルヴィアとカガリの間に立つ一人の少女。
 白髪と金髪を織り交ぜた長髪が風に揺れる。

 少女はここぞとばかりの切り札としての役割を果たした。彼女が放った一撃は確かに女神に届いていたのだ。

 しかし、致命的なミスがあるのだとしたら、それは女神がその一瞬に何の対策も打っていない訳がないという事実。女神が仕掛ける罠の姿を、ユイが実際に体験していなかったのが、勝負の分かれ道だったと言わざるを得ない。

「これで二人が戦線離脱。残るのは魔力も残り少ない二人だけ、か」

「…………」

 カガリと真近くで対峙するユイは、右肩から左腰に掛けて鮮血を噴出させながら倒れ伏す。女神が仕掛けた風牙流円は、最後の一撃を放とうとするユイの身体を切り裂いた。そのために聖なる一撃は土壇場で力を失い、結果的に女神を討つことを不可能としてしまった。

「ユ、ユイッ!」

「切り替えるんじゃ、ライガ。試練はまだ、終わっておらんぞ」

「切り替えろって……お前、急がないと……ユイとシルヴィアがッ!」

「そんなこと、分かっておるッ! 分かっておるから、今は冷静に状況を分析するんじゃ」

 リエルの唇が悔しげに歪む。
 ライガと同じか、それ以上に悔しいのはリエルだ。

 彼女がこの作戦を思いつき、しかしそれは最悪の結果を生むだけ。
 責任感などを感じている暇はない。今、女神たちと戦えるのはリエルとライガだけなのだから。

「そろそろ時間も時間だし……早く決着をつけたいんだけど……」

「…………?」

 暴風の女神・カガリが向ける視線の先。
 そこには深い眠りにつく少年の姿がある場所。


「ふぅ……久しぶりに目を覚ましてみれば……まさか、こんなことになってるなんてな」


 カガリが向けた視線の先で動く存在があった。

 ライガとリエルにとっては酷く聞き慣れた声音であり、そしてずっと待ち望んだものでもあった。それを聞いているのが、ライガとリエルの二人だけであり、それぞれの瞳がこれ以上ないくらいに大きく見開かれている。

「ありゃりゃ、もうちょっと起きるの遅くてもよかったのに」

「あはは、カガリさん……そうも言ってられない状況じゃないですか。てか、俺を起こしたのは貴方でしょ?」

「うーん、起こしたつもりはなかったんだけどねー。瓦礫が頭に当たってショック的に起きちゃった感じかな?」

「え、さっきからずっと頭痛いなーって思ってたの、瓦礫が当たったのかよッ!」

「あはは、大丈夫。全部が終わったらまた治してあげるよ」

「なるほど。それじゃ、俺の大切な仲間を傷つけた落とし前……つけてもらいますか」

「……それもいいけど、その前にまず生き残ってる仲間に挨拶した方がいいんじゃないの?」

 カガリと軽い口調で言葉を交わす一人の少年。

 少年の登場に驚きを隠せないリエルとライガは、その口をぱくぱく開けて呆然と立ち尽くしているだけ。


「よ、ライガ、リエルッ。俺は帰ってきたぜ」


 そんなライガとリエルに軽い感じで言葉を投げかけるのは、異界の少年・神谷 航大なのであった。

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