終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章81 過酷な試練
ライガ、シルヴィア、リエルの三人が過酷な砂塵の試練を受けている中、爆風に吹き飛ばされた白髪の少女・ユイは暴風吹き荒れる砂塵を抜けて闇夜が支配する砂漠の中心で倒れ伏していた。
アケロンテ砂漠。
この地に足を踏み入れる前、ユイたちはアリーシャという少女から砂漠の危険性については聞いていた。
常に砂嵐が吹き荒れており、大型の魔獣が闊歩する死の大地であると聞かされていたユイだが、彼女の眼前に広がる砂漠が見せる実体はアリーシャから聞いていたものとは全く違うものであった。
満月と満天の星が照らす夜のアケロンテ砂漠は、柔らかく吹き渡る風の音以外は無音であり、魔獣の姿なども見えない。気候的にも安定しており、暑くもなければ寒くもない。当初の話からは想像も出来ない砂漠の姿に戸惑うユイの前に、『それ』は突如として姿を現した。
満天の星空へ真っ直ぐに伸びる塔。
それは闇夜の中でも分かるほどに異様な存在感を放っており、更に塔からは肌に突き刺さる濃厚な魔力が放出されていた。
「…………」
砂漠の中で存在感を発する塔を見て、ユイは吸い寄せられるようにして歩を進めた。何があるか分からない。もしかしたら何かの罠かもしれない。
暴風が吹き荒れる砂塵の中を進んでいたユイたちは、何者かによる炎球の攻撃を受けて散り散りになってしまった。炎球を放つ者がいるのは確実であり、その存在がユイを塔へ呼び寄せている可能性だってある。
「…………」
そんなことは重々承知しているユイだったが、最も愛する少年の存在が近くにない限り、彼女は行動し続けるしかなかった。自分の中でまだ息づく英霊の力が、彼の無事を証明してくれている。
それならば、白髪を揺らす少女・ユイは前に進み続ける以外の選択肢はなかった。
「さぁ、僕に見せてみるんだ。君の力を。君があの子を想う力の強さを――」
塔へと足を踏み入れたユイの前に姿を現したのは、全身をフードマントで覆った少女だった。背丈はユイと同等であり、楽しげに弾む声音で性別が辛うじて判別できた。
「くッ!」
突如として姿を現したマントの少女は、ユイに試練が足りないと言い放つ。言葉の真意すら判別させる前に。マントを靡かせる少女はユイへ攻撃を仕掛けてくる。
「……航大を、助けるッ!」
隠そうともしない敵意を前にして、ユイもまた地面を蹴って跳躍する。
航大がくれた戦う力。
それは円卓の騎士の頂点にして、歴史に輝かしい名を刻むアーサー王物語に登場する『騎士・アーサー王』の力。異界の英霊を呼び寄せ、ユイに憑依させることができる航大が召喚した英霊であり、ユイの中に英霊は残り続けていた。
「へぇ、丸腰に見えたけどそうじゃないんだ?」
「ふぇッ!? な、なんですかこれはッ!?」
ユイの様子が一変する。
白髪に金髪が混じり、その右手には黄金に輝く両刃剣が握られている。
金色に輝く甲冑ドレスが風に靡き、一瞬にして姿を変えたユイを見て、フードマントを揺らす少女は驚きの声を漏らす。
「てか、変わり過ぎじゃない?」
「ひ、ひぃッ!? な、なにか来ますッ!?」
「……まぁいいか。それじゃ、挨拶代わりの――」
上空高く飛び上がった少女は、意地悪くその口を歪ませると右手を強く握りしめる。
すると、少女の握り拳を中心として周囲から暴風が纏わりつき始める。
「えいッ!」
暴風はどんどんとその大きさを増していき、気付けば少女の頭と同等レベルにまで成長を遂げる。そこから何が始まるのか、少女は可愛らしい掛け声を漏らすと、まだ空中に存在する状態で思い切り右手を突き出していく。
「――――ッ!?」
突き出された右手から球形の暴風が放たれる。
凄まじい速度でアーサー王に変化したユイに接近する暴風の球。
瞬きの瞬間に近づく風球に対して、アーサーは対応が遅れてしまう。
「――――」
風球がアーサーに直撃するのと同時に、塔全体を揺さぶる衝撃が走り抜ける。塔を形成する地面が網目状にヒビ割れて瓦解し、凝縮された暴風が一気に解放されて周囲に吹き荒れる。
あっという間に塔の内部が粉塵で支配され、アーサーの安否はまだ判別しない。魔法の詠唱もなくここまでの破壊力を叩き出すことができる、フードマントを被る少女は自らの実力をたったの一撃で証明してみせたのだ。
「あれー、もしかしてやり過ぎちゃったかな?」
アーサーからの反撃もなく、フードマントの少女が放つ凶悪な攻撃が炸裂してしまった。この展開は少女にとって予想外なものであり、マントを靡かせながら軽やかな動作で着地する少女は、小首を傾げて頭上に「?」を浮かべる。
「うーん、これは予想外だなー。もう少しだけ、歯ごたえがあると思ってたんだけど――」
立ち込める粉塵を見て、少女は軽口を漏らす。
砂漠の中にぽつんと存在する塔に、再びの静寂が訪れようとしたその瞬間だった。
「振るうは黄金の剣、もたらすは絶対の勝利、聖なる輝きよ悪を滅せ――絶対なる勝利(聖剣・エクスカリバー)」
粉塵の中から聞こえるのは、絶対の勝利を約束する聖剣の名。
塔を支配する粉塵が一瞬で掻き消える。
「おやおや……そんなに大きな魔力、感じることは出来なかったんだけどなー」
粉塵の中心に存在するのは、金色の甲冑ドレスに身を包んだ異界の英霊・アーサー王。彼女は両手で持つ黄金の剣を天高く突き上げ、自らを中心に膨大な魔力を集中させている。
「はあああああぁぁぁぁぁーーーーーッ!」
周囲に響き渡る怒号。
次の瞬間、アーサーは両手に持った黄金の剣を思い切り振り下ろす。
「――――」
刹那の静寂が支配した後に、凄まじい破壊の音が塔を支配する。
眩い輝きが一つの光の帯となりフードマントの少女を貫こうとする。
「――すっごい攻撃だね。でも、ちょっと甘かったかな?」
「ごめんね、ユイちゃん。そう簡単に終わらせる訳には、いかないんだよ」
破壊の音に紛れてそんな声音がアーサーの鼓膜を震わせる。
突如としてアーサーの頭上から姿を現したのは、デミアーナ村でユイたちと出会い、そして彼らを砂塵へと誘った少女・アリーシャだった。
飛来してきたアリーシャはアーサーと憑依したユイを直接攻撃するのではなく、アーサーが放つ光の一閃とフードマントで全身を覆った少女の間に着地する。
「これも、こんな早くに使う予定はなかったけど……はあぁッ!」
フードマントの少女を守るように着地するアリーシャは、短い怒号を漏らして地面に両手を付ける。その直後、アリーシャが触れる大地が光り輝き出すと、塔を揺らしながら土壁が出現する。
「そ、そんな……ッ!?」
アーサーが放つ光の一閃は、アリーシャが生成する土壁に阻まれてしまう。
しかしそれでも、アーサーが放った聖なる一撃は土壁を破壊することに成功するのだが、それっきり勢いが失われ消失してしまう。
「へぇ……あの壁を壊すかぁ……直撃してたら危なかったかもね」
「はぁ……今のは私がでなくても良かったんじゃ?」
「そんなことないよー、僕だって油断していた訳だし、ていうか勝手に出てきたのはアリーシャちゃんじゃん?」
「……ぼーっとしてるからですよ」
フードマントの少女とアリーシャは顔知りのようであり、互いに軽口を言い合っている。アーサーは状況を飲み込むことができず唖然としていたが、時間の経過と共に今の状況はアーサーにとって良くない方向に進んでいると理解する。
「まさか、仲間が居るなんて……聞いてないです……」
「あっはっはー、ごめんね? 本当はこの子には出てくるなって約束をしてたんだけど、こう見えて心配性だからさ」
「誰が心配性ですか」
「あははー、手厳しいね、こりゃ」
呆然とした様子で声音を漏らすアーサーに対して、フードマントの少女はどこまでも軽い様子で反応を返すばかり。
アリーシャもまた不機嫌な様子であるものの、少女を守るために戦うといった意思を見せている。
「さぁ、どうする? ここで退くのも立派な選択肢だよ。自分と相手の力量差をしっかりと見極める。そうじゃないと、まだ長い命を無駄にすることになる」
「…………」
「どうして貴方だけ、あの砂塵を抜けることができたのか……それは分からない。だけど、ここは最終試練の場所。進めば命すら落とす場所」
「…………」
「どうする? このまま進んで僕たちと戦うか……」
「それとも逃げて安寧を求めるか」
フードマントの少女とアリーシャがアーサーに突きつける問いかけ。
それはアーサーとなったユイの覚悟を問うものだった。
「私は……」
二人の問いかけに、アーサーからユイへと戻った少女はゆっくりと口を開く。
「私はここに来るまでの間、たくさん失敗をしてきた……たくさん、迷惑をかけてきた。でも、どんな時でも傍に居てくれた人がいた……」
ユイが向ける視線の先。そこには深い眠りにつく少年の姿があった。
「自分の名前も知らない、自分が何者なのかも知らない。そんな私が唯一知っているもの……それは航大の傍に在り続け、彼を守ってあげるということだけ」
「へぇ……」
「大切な人がそこに居る。守りたい人がそこに居る。私は逃げない。どんなに邪魔をしても、私は航大を守るために死ぬ気で戦う――」
強い決意を秘めた言葉を言い放つなり、ユイは再び英霊アーサー王とシンクロを果たす。白髪に金色が混じり、自分が果たすべき使命を果たすという光がその瞳に宿る。
「これは手強いかもしれないね」
「……どんな相手であっても、全力を出すだけ」
その身に圧倒的な魔力を纏うアーサー王を前にして、フードマントの少女とアリーシャは表情を険しくする。
砂塵を抜けた先に待つのは、新たな試練。
バルベット大陸西方を目指す戦いは、ついに最終局面を迎えようとしているのであった。
アケロンテ砂漠。
この地に足を踏み入れる前、ユイたちはアリーシャという少女から砂漠の危険性については聞いていた。
常に砂嵐が吹き荒れており、大型の魔獣が闊歩する死の大地であると聞かされていたユイだが、彼女の眼前に広がる砂漠が見せる実体はアリーシャから聞いていたものとは全く違うものであった。
満月と満天の星が照らす夜のアケロンテ砂漠は、柔らかく吹き渡る風の音以外は無音であり、魔獣の姿なども見えない。気候的にも安定しており、暑くもなければ寒くもない。当初の話からは想像も出来ない砂漠の姿に戸惑うユイの前に、『それ』は突如として姿を現した。
満天の星空へ真っ直ぐに伸びる塔。
それは闇夜の中でも分かるほどに異様な存在感を放っており、更に塔からは肌に突き刺さる濃厚な魔力が放出されていた。
「…………」
砂漠の中で存在感を発する塔を見て、ユイは吸い寄せられるようにして歩を進めた。何があるか分からない。もしかしたら何かの罠かもしれない。
暴風が吹き荒れる砂塵の中を進んでいたユイたちは、何者かによる炎球の攻撃を受けて散り散りになってしまった。炎球を放つ者がいるのは確実であり、その存在がユイを塔へ呼び寄せている可能性だってある。
「…………」
そんなことは重々承知しているユイだったが、最も愛する少年の存在が近くにない限り、彼女は行動し続けるしかなかった。自分の中でまだ息づく英霊の力が、彼の無事を証明してくれている。
それならば、白髪を揺らす少女・ユイは前に進み続ける以外の選択肢はなかった。
「さぁ、僕に見せてみるんだ。君の力を。君があの子を想う力の強さを――」
塔へと足を踏み入れたユイの前に姿を現したのは、全身をフードマントで覆った少女だった。背丈はユイと同等であり、楽しげに弾む声音で性別が辛うじて判別できた。
「くッ!」
突如として姿を現したマントの少女は、ユイに試練が足りないと言い放つ。言葉の真意すら判別させる前に。マントを靡かせる少女はユイへ攻撃を仕掛けてくる。
「……航大を、助けるッ!」
隠そうともしない敵意を前にして、ユイもまた地面を蹴って跳躍する。
航大がくれた戦う力。
それは円卓の騎士の頂点にして、歴史に輝かしい名を刻むアーサー王物語に登場する『騎士・アーサー王』の力。異界の英霊を呼び寄せ、ユイに憑依させることができる航大が召喚した英霊であり、ユイの中に英霊は残り続けていた。
「へぇ、丸腰に見えたけどそうじゃないんだ?」
「ふぇッ!? な、なんですかこれはッ!?」
ユイの様子が一変する。
白髪に金髪が混じり、その右手には黄金に輝く両刃剣が握られている。
金色に輝く甲冑ドレスが風に靡き、一瞬にして姿を変えたユイを見て、フードマントを揺らす少女は驚きの声を漏らす。
「てか、変わり過ぎじゃない?」
「ひ、ひぃッ!? な、なにか来ますッ!?」
「……まぁいいか。それじゃ、挨拶代わりの――」
上空高く飛び上がった少女は、意地悪くその口を歪ませると右手を強く握りしめる。
すると、少女の握り拳を中心として周囲から暴風が纏わりつき始める。
「えいッ!」
暴風はどんどんとその大きさを増していき、気付けば少女の頭と同等レベルにまで成長を遂げる。そこから何が始まるのか、少女は可愛らしい掛け声を漏らすと、まだ空中に存在する状態で思い切り右手を突き出していく。
「――――ッ!?」
突き出された右手から球形の暴風が放たれる。
凄まじい速度でアーサー王に変化したユイに接近する暴風の球。
瞬きの瞬間に近づく風球に対して、アーサーは対応が遅れてしまう。
「――――」
風球がアーサーに直撃するのと同時に、塔全体を揺さぶる衝撃が走り抜ける。塔を形成する地面が網目状にヒビ割れて瓦解し、凝縮された暴風が一気に解放されて周囲に吹き荒れる。
あっという間に塔の内部が粉塵で支配され、アーサーの安否はまだ判別しない。魔法の詠唱もなくここまでの破壊力を叩き出すことができる、フードマントを被る少女は自らの実力をたったの一撃で証明してみせたのだ。
「あれー、もしかしてやり過ぎちゃったかな?」
アーサーからの反撃もなく、フードマントの少女が放つ凶悪な攻撃が炸裂してしまった。この展開は少女にとって予想外なものであり、マントを靡かせながら軽やかな動作で着地する少女は、小首を傾げて頭上に「?」を浮かべる。
「うーん、これは予想外だなー。もう少しだけ、歯ごたえがあると思ってたんだけど――」
立ち込める粉塵を見て、少女は軽口を漏らす。
砂漠の中にぽつんと存在する塔に、再びの静寂が訪れようとしたその瞬間だった。
「振るうは黄金の剣、もたらすは絶対の勝利、聖なる輝きよ悪を滅せ――絶対なる勝利(聖剣・エクスカリバー)」
粉塵の中から聞こえるのは、絶対の勝利を約束する聖剣の名。
塔を支配する粉塵が一瞬で掻き消える。
「おやおや……そんなに大きな魔力、感じることは出来なかったんだけどなー」
粉塵の中心に存在するのは、金色の甲冑ドレスに身を包んだ異界の英霊・アーサー王。彼女は両手で持つ黄金の剣を天高く突き上げ、自らを中心に膨大な魔力を集中させている。
「はあああああぁぁぁぁぁーーーーーッ!」
周囲に響き渡る怒号。
次の瞬間、アーサーは両手に持った黄金の剣を思い切り振り下ろす。
「――――」
刹那の静寂が支配した後に、凄まじい破壊の音が塔を支配する。
眩い輝きが一つの光の帯となりフードマントの少女を貫こうとする。
「――すっごい攻撃だね。でも、ちょっと甘かったかな?」
「ごめんね、ユイちゃん。そう簡単に終わらせる訳には、いかないんだよ」
破壊の音に紛れてそんな声音がアーサーの鼓膜を震わせる。
突如としてアーサーの頭上から姿を現したのは、デミアーナ村でユイたちと出会い、そして彼らを砂塵へと誘った少女・アリーシャだった。
飛来してきたアリーシャはアーサーと憑依したユイを直接攻撃するのではなく、アーサーが放つ光の一閃とフードマントで全身を覆った少女の間に着地する。
「これも、こんな早くに使う予定はなかったけど……はあぁッ!」
フードマントの少女を守るように着地するアリーシャは、短い怒号を漏らして地面に両手を付ける。その直後、アリーシャが触れる大地が光り輝き出すと、塔を揺らしながら土壁が出現する。
「そ、そんな……ッ!?」
アーサーが放つ光の一閃は、アリーシャが生成する土壁に阻まれてしまう。
しかしそれでも、アーサーが放った聖なる一撃は土壁を破壊することに成功するのだが、それっきり勢いが失われ消失してしまう。
「へぇ……あの壁を壊すかぁ……直撃してたら危なかったかもね」
「はぁ……今のは私がでなくても良かったんじゃ?」
「そんなことないよー、僕だって油断していた訳だし、ていうか勝手に出てきたのはアリーシャちゃんじゃん?」
「……ぼーっとしてるからですよ」
フードマントの少女とアリーシャは顔知りのようであり、互いに軽口を言い合っている。アーサーは状況を飲み込むことができず唖然としていたが、時間の経過と共に今の状況はアーサーにとって良くない方向に進んでいると理解する。
「まさか、仲間が居るなんて……聞いてないです……」
「あっはっはー、ごめんね? 本当はこの子には出てくるなって約束をしてたんだけど、こう見えて心配性だからさ」
「誰が心配性ですか」
「あははー、手厳しいね、こりゃ」
呆然とした様子で声音を漏らすアーサーに対して、フードマントの少女はどこまでも軽い様子で反応を返すばかり。
アリーシャもまた不機嫌な様子であるものの、少女を守るために戦うといった意思を見せている。
「さぁ、どうする? ここで退くのも立派な選択肢だよ。自分と相手の力量差をしっかりと見極める。そうじゃないと、まだ長い命を無駄にすることになる」
「…………」
「どうして貴方だけ、あの砂塵を抜けることができたのか……それは分からない。だけど、ここは最終試練の場所。進めば命すら落とす場所」
「…………」
「どうする? このまま進んで僕たちと戦うか……」
「それとも逃げて安寧を求めるか」
フードマントの少女とアリーシャがアーサーに突きつける問いかけ。
それはアーサーとなったユイの覚悟を問うものだった。
「私は……」
二人の問いかけに、アーサーからユイへと戻った少女はゆっくりと口を開く。
「私はここに来るまでの間、たくさん失敗をしてきた……たくさん、迷惑をかけてきた。でも、どんな時でも傍に居てくれた人がいた……」
ユイが向ける視線の先。そこには深い眠りにつく少年の姿があった。
「自分の名前も知らない、自分が何者なのかも知らない。そんな私が唯一知っているもの……それは航大の傍に在り続け、彼を守ってあげるということだけ」
「へぇ……」
「大切な人がそこに居る。守りたい人がそこに居る。私は逃げない。どんなに邪魔をしても、私は航大を守るために死ぬ気で戦う――」
強い決意を秘めた言葉を言い放つなり、ユイは再び英霊アーサー王とシンクロを果たす。白髪に金色が混じり、自分が果たすべき使命を果たすという光がその瞳に宿る。
「これは手強いかもしれないね」
「……どんな相手であっても、全力を出すだけ」
その身に圧倒的な魔力を纏うアーサー王を前にして、フードマントの少女とアリーシャは表情を険しくする。
砂塵を抜けた先に待つのは、新たな試練。
バルベット大陸西方を目指す戦いは、ついに最終局面を迎えようとしているのであった。
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