終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章63 砂塵の試練ⅩⅩⅩⅩⅩⅠ:入隊試験の日
「つ、ついにこの日が……」
「そうですね。まぁ、リエルさんなら大丈夫ですよッ!」
「ほ、本当ですかね……私、ちょっと前まで魔法すら上手く使えなかったのに……」
「リエルさんを鍛えたのは私なんですから、少しは自信をもっていいんですよ?」
「うぅ……」
魔導書店の地下でリエルが気を失ってから数日。
二人の姿はハイラント王国のほど近くに存在している、広大な草原にあった。草原の向こうにはハイラント王国の王城と、青々とした葉を風に揺らした森林が広がっている。
「まぁ、緊張するのも無理はないですけどね。リエルさんくらいの年齢の人は少ないですし……」
「大人ばかりの中で……うまくできるのでしょうか……」
「でも……大人ばかりって訳でもなさそうですよ?」
「……え?」
ユピルが指差す先。
そこには確かにリエルと同じくらいの背丈をした少女の姿があった。
茶髪の髪をサイドテールの形で結び、肩から先と、太腿から先を大胆に露出した格好は、この場に集まる人々の中でも特に異質であった。茶髪の少女はニコニコと笑みを浮かべて誰かと話をしていた。
リエルの位置からでは少女が誰と話しているのかを見ることはできないが、快晴の空で咲き誇る向日葵のような屈託のない笑みを浮かべる少女に、リエルの目はいつしか釘付けとなっていた。
「あの人……なんか、知ってるような……?」
遠くに存在する少女に目を奪われていたリエル。
頭の片隅を違和感が支配するのだが、その正体を知ることはできない。何かを思い出そうとする度に、頭の中には濃い霧が掛かる。
「うわぁ……あの人なんて、すっごく綺麗ですよー」
「……あの人?」
隣に経つユピルの言葉に、リエルは茶髪の少女から視線を外す。
周囲を確認するリエルの眼前を、瑠璃色をした一本の髪が通り過ぎる。
「――――ッ!?」
その瞬間、リエルの目がこれ以上ないほどに見開かれる。
自分と同じ髪をもった人間。その存在を、リエルはたった一人しか知らない。
今はこの場に存在するはずのない、ずっと背中を置い続けたただ一人の家族。
「……お姉ちゃん?」
キョロキョロと周囲を見渡すリエル。
しかし、彼女が探す人物の姿はない。
「あららー、どっかに行っちゃいましたねー。まぁ、この人混みだったら仕方ないですかね」
「……そう、ですね」
視線を戻すと、ちょっと先に居たはずの茶髪が印象的な少女の姿もなくなっている。
「ハイラント騎士隊・入隊試験の参加者は集まるようにッ!」
ざわざわと人混みが激しい草原に、そんな声音が響き渡った。
リエルを始めとする周囲の人間全員の視線がある一点へと集中していく。
「今、世界は安寧の中にあると思われているが、しかしそれは大きな間違いである」
大きな声を発するのは、ハイラント王国の騎士服に身を包んだ男だった。
一目で分かる巨体と、太陽の光を浴びて綺羅びやかに輝く甲冑鎧。その腰には剣がぶら下がっていて、彼がこの試験を司る人物であることは間違いなかった。
「魔獣はもちろん、世界を震撼させた魔竜の討伐も正式には発表されてはいない。我々、ハイラント王国騎士隊は自国を守るだけではなく、世界を守るために戦わなければならない」
「…………」
「この場に集ってくれた諸君らならば、この程度のことは理解しているとは思うがな。そんな強い志を持っている諸君らならば、我々が課す試験を突破することも難しくはないだろう」
ハイラント王国の騎士が語る言葉に、集まったリエルたちの緊張感も否応に高まっていく。
「早速ではあるがハイラント王国・騎士隊の入隊試験について説明しよう。試験は二次まで存在している。一次試験では二人一組で行動してもらう。個人の能力はもちろん、仲間との連携も確かめさせてもらう」
「二人一組……」
「一次試験の間、他者への攻撃を許可する。明日の同じ時間までパートナーと共に生き残ることができたのならば、一次試験は合格とする」
「攻撃の許可……」
試験管である騎士の言葉に周囲の人間がざわめき出す。リエルのように不安げな表情を浮かべる者もいれば、その顔に笑みを浮かべそわそわとする者、その様子は様々である。
「攻撃を許可するとは言ったが、安心して欲しい。試験参加者にはこの後、我がハイラント王国の魔法騎士による守護魔法を展開させてもらう。この守護魔法がある限り、参加者はどれだけの戦いを行ったとしても、命に別状はない」
「うぅ……大丈夫、かな……」
「きっと大丈夫ですよ、リエルさん」
不安げに言葉を震わせるリエルに、ユピルはいつもと変わらないニコニコと笑みを浮かべるだけ。
「それでは各自、集合場所へと移動し、パートナーと合流を果たしたのならば、その時点で試験開始である。説明は以上、全員解散ッ!」
試験管の声が響き渡るのと同時に、リエルの周囲にいた試験参加者たちがぞろぞろと歩き出す。それぞれ片手に地図を持っており、そこには一次試験に参加するための集合場所が記されていた。
「それじゃリエルさん。試験頑張ってください。ここ数日間の鍛錬を思い出して、冷静に戦うことができたのならば、きっと貴方は試験を合格することができるはずです」
「……はいッ」
ユピルの言葉を後押しに、リエルもまた受け取った地図を頼りに歩き出す。
こうしてリエルの王国騎士になるための試験が始まるのであった。
「そうですね。まぁ、リエルさんなら大丈夫ですよッ!」
「ほ、本当ですかね……私、ちょっと前まで魔法すら上手く使えなかったのに……」
「リエルさんを鍛えたのは私なんですから、少しは自信をもっていいんですよ?」
「うぅ……」
魔導書店の地下でリエルが気を失ってから数日。
二人の姿はハイラント王国のほど近くに存在している、広大な草原にあった。草原の向こうにはハイラント王国の王城と、青々とした葉を風に揺らした森林が広がっている。
「まぁ、緊張するのも無理はないですけどね。リエルさんくらいの年齢の人は少ないですし……」
「大人ばかりの中で……うまくできるのでしょうか……」
「でも……大人ばかりって訳でもなさそうですよ?」
「……え?」
ユピルが指差す先。
そこには確かにリエルと同じくらいの背丈をした少女の姿があった。
茶髪の髪をサイドテールの形で結び、肩から先と、太腿から先を大胆に露出した格好は、この場に集まる人々の中でも特に異質であった。茶髪の少女はニコニコと笑みを浮かべて誰かと話をしていた。
リエルの位置からでは少女が誰と話しているのかを見ることはできないが、快晴の空で咲き誇る向日葵のような屈託のない笑みを浮かべる少女に、リエルの目はいつしか釘付けとなっていた。
「あの人……なんか、知ってるような……?」
遠くに存在する少女に目を奪われていたリエル。
頭の片隅を違和感が支配するのだが、その正体を知ることはできない。何かを思い出そうとする度に、頭の中には濃い霧が掛かる。
「うわぁ……あの人なんて、すっごく綺麗ですよー」
「……あの人?」
隣に経つユピルの言葉に、リエルは茶髪の少女から視線を外す。
周囲を確認するリエルの眼前を、瑠璃色をした一本の髪が通り過ぎる。
「――――ッ!?」
その瞬間、リエルの目がこれ以上ないほどに見開かれる。
自分と同じ髪をもった人間。その存在を、リエルはたった一人しか知らない。
今はこの場に存在するはずのない、ずっと背中を置い続けたただ一人の家族。
「……お姉ちゃん?」
キョロキョロと周囲を見渡すリエル。
しかし、彼女が探す人物の姿はない。
「あららー、どっかに行っちゃいましたねー。まぁ、この人混みだったら仕方ないですかね」
「……そう、ですね」
視線を戻すと、ちょっと先に居たはずの茶髪が印象的な少女の姿もなくなっている。
「ハイラント騎士隊・入隊試験の参加者は集まるようにッ!」
ざわざわと人混みが激しい草原に、そんな声音が響き渡った。
リエルを始めとする周囲の人間全員の視線がある一点へと集中していく。
「今、世界は安寧の中にあると思われているが、しかしそれは大きな間違いである」
大きな声を発するのは、ハイラント王国の騎士服に身を包んだ男だった。
一目で分かる巨体と、太陽の光を浴びて綺羅びやかに輝く甲冑鎧。その腰には剣がぶら下がっていて、彼がこの試験を司る人物であることは間違いなかった。
「魔獣はもちろん、世界を震撼させた魔竜の討伐も正式には発表されてはいない。我々、ハイラント王国騎士隊は自国を守るだけではなく、世界を守るために戦わなければならない」
「…………」
「この場に集ってくれた諸君らならば、この程度のことは理解しているとは思うがな。そんな強い志を持っている諸君らならば、我々が課す試験を突破することも難しくはないだろう」
ハイラント王国の騎士が語る言葉に、集まったリエルたちの緊張感も否応に高まっていく。
「早速ではあるがハイラント王国・騎士隊の入隊試験について説明しよう。試験は二次まで存在している。一次試験では二人一組で行動してもらう。個人の能力はもちろん、仲間との連携も確かめさせてもらう」
「二人一組……」
「一次試験の間、他者への攻撃を許可する。明日の同じ時間までパートナーと共に生き残ることができたのならば、一次試験は合格とする」
「攻撃の許可……」
試験管である騎士の言葉に周囲の人間がざわめき出す。リエルのように不安げな表情を浮かべる者もいれば、その顔に笑みを浮かべそわそわとする者、その様子は様々である。
「攻撃を許可するとは言ったが、安心して欲しい。試験参加者にはこの後、我がハイラント王国の魔法騎士による守護魔法を展開させてもらう。この守護魔法がある限り、参加者はどれだけの戦いを行ったとしても、命に別状はない」
「うぅ……大丈夫、かな……」
「きっと大丈夫ですよ、リエルさん」
不安げに言葉を震わせるリエルに、ユピルはいつもと変わらないニコニコと笑みを浮かべるだけ。
「それでは各自、集合場所へと移動し、パートナーと合流を果たしたのならば、その時点で試験開始である。説明は以上、全員解散ッ!」
試験管の声が響き渡るのと同時に、リエルの周囲にいた試験参加者たちがぞろぞろと歩き出す。それぞれ片手に地図を持っており、そこには一次試験に参加するための集合場所が記されていた。
「それじゃリエルさん。試験頑張ってください。ここ数日間の鍛錬を思い出して、冷静に戦うことができたのならば、きっと貴方は試験を合格することができるはずです」
「……はいッ」
ユピルの言葉を後押しに、リエルもまた受け取った地図を頼りに歩き出す。
こうしてリエルの王国騎士になるための試験が始まるのであった。
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