終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章24 砂塵の試練XIII:鳥籠から放たれた小鳥
「――行かなくちゃッ!」
金色と白銀の髪を持つ少女は、生まれながらにして過酷な運命を背負っていた。
そんな少女の運命を変えたのは、たった一度のチャンスとちょっとした好奇心なのであった。世話係のメイド長であるルイーズ・ウィリアが席を外したその瞬間を狙ったリーシアは、生まれて初めて自由を手に入れた。
ハイラント王国の王城を初めて一人で歩くリーシアは、城内の地下に広がっていた謎の空間へと迷いこんでしまう。その場所はかつて世界を救った白銀の竜が封印されている場所であり、迷い込んだ少女・リーシアとコンタクトを取った白銀の竜は、己が持つ力の一部を彼女へと分け与えた。
「何か嫌な予感がするッ……」
神竜が与えし力を得た少女は『剣姫』となった。
剣を愛し、剣に愛された者が与えられる称号『剣姫』。
あまりにも唐突に力を手に入れたリーシアは、その余韻に浸る暇すら与えられず、ハイラント王国を襲う異変に声を荒らげる。突如として王国を襲ったのは巨大な地震であり、立っていることすら困難な揺れを前に、リーシアの身体は無意識の内に動き出していた。
『主に過酷な運命を背負わせた国でも、守るのか?』
「…………」
『このような国、守らずに出ていってしまってもいいのだぞ?』
「確かにこの国は、私に酷いことをしたよ。でも、私はそれでも人が好きだから。守りたい人が居るから……この国を守るために戦うッ!」
リーシアの脳裏に浮かぶ人影。
その女性はいつでも彼女の事を見守ってくれていた。どれだけの人が自分を見て苦い顔をしても、その女性だけはいつでも自分の味方だった。
「必ず、守るッ……」
彼女がこの国に居続ける限り、リーシアもまたハイラントという名の国に留まることになるであろう。人々が自分のことを嫌ってもいい。彼女が自分を見ててくれるのなら、それだけで少女は満足なのだ。
「なに、コレ……?」
地下空間から王城へと通じる螺旋階段を登りきったリーシアは、ハイラント王国の城内へと戻るなり、騒然とした周囲に戸惑いを隠すことができなかった。
巨大な地震がハイラントを襲ってしばらくの時間が経過している。王国城内はあっという間に城下町から逃げてきた人々でごった返しており、あちこちから怒号が響き渡る有様であった。
逃げ惑う人々は金色の髪を持つリーシアに気付くことなく、身の安全を求めて殺到する。リーシアが生まれてから十数年。ハイラント王国がこのような状況になったことなど一度もなく、だからこそリーシアは眼前に迫る戦いを前に足が竦んでしまいそうになる。
「お嬢様ッ!?」
一人、城内で立ち尽くすリーシアへ唯一声を掛けてくる存在があった。
それはリーシアが今、最も会いたいと切望する存在であり、彼女のことをこの国で最もよく知る人物なのであった。
「ル、ルイーズッ!?」
リーシアが視線を向ける先。そこには息を荒げて髪を乱し、普段は無表情である顔には心配と安堵の複雑な色を浮かべたメイド長・ルイーズの姿があった。彼女が見せる様子から、今のこの瞬間までルイーズはリーシアを探し続けていたことは容易に想像することが出来て、リーシアは自分の軽率な行動のせいでルイーズに迷惑を掛けてしまったと胸を痛める。
「お嬢様ッ、早く逃げましょうッ!」
「…………」
「今、王国は危険な状態です。早く安全なところへ……」
「…………」
逃げてきた人々でごった返すハイラント王国の城内。
そこでルイーズはリーシアだけを見つめて声を上げ、その手を伸ばしてくる。
「…………」
その手を取ればどれだけ楽なのだろうか。
人の流れを挟んだ対岸に立つルイーズを見つめながら、リーシアはそんなことを考えていた。
人混みを掻き分け、自分にだけ差し伸べられている手を取ることが出来れば、自分はまた何も変わらない日常へと戻ることが出来るのだろう。
「……ごめん、ルイーズ」
「お、お嬢様……?」
しかし、今のリーシアは彼女が差し伸べる手を取ることは出来なかった。
いつまでも守られている少女で居る訳にはいかなかった。今度は自分が彼女を助ける番なのである。そんな強い想いがルイーズの手を拒む。そして自分にはすることがあると脳内で蠢く力が叫ぶ。
「お嬢様、何を言っているのですか……さぁ、早くッ……」
「ダメだよ、ルイーズ。私はもう、守られるだけの存在じゃない」
「な、なにを……?」
「今度は私がルイーズを守る…………だから、そこで見ててッ!」
「お嬢様ッ!?」
ルイーズの怒号が響く中、リーシアは踵を返して走り出す。彼女が向かうはハイラント王国の城下町。今でも城下町の方向からは大地を揺らす轟音と人々の叫び声が木霊している。
「急がなきゃッ……」
鼓膜を震わせる叫び声を聞いて、リーシアの足が一段と早くなる。流れてくる人々の源泉を目指して歩を進めるリーシアを止める者は誰も居ない。ハイラント王国の国民全てが自分の命を守ることに精一杯であり、リーシアのような少女を誰も気にしない。
逃げ惑う人々の間を縫うようにして走り続けるリーシアは、王城の正門から城下町へと飛び出していく。
「ウソ……」
生まれて初めて王城から外に出たリーシアを待っていたのは、凄惨たる光景が広がる城下町なのであった。
金色と白銀の髪を持つ少女は、生まれながらにして過酷な運命を背負っていた。
そんな少女の運命を変えたのは、たった一度のチャンスとちょっとした好奇心なのであった。世話係のメイド長であるルイーズ・ウィリアが席を外したその瞬間を狙ったリーシアは、生まれて初めて自由を手に入れた。
ハイラント王国の王城を初めて一人で歩くリーシアは、城内の地下に広がっていた謎の空間へと迷いこんでしまう。その場所はかつて世界を救った白銀の竜が封印されている場所であり、迷い込んだ少女・リーシアとコンタクトを取った白銀の竜は、己が持つ力の一部を彼女へと分け与えた。
「何か嫌な予感がするッ……」
神竜が与えし力を得た少女は『剣姫』となった。
剣を愛し、剣に愛された者が与えられる称号『剣姫』。
あまりにも唐突に力を手に入れたリーシアは、その余韻に浸る暇すら与えられず、ハイラント王国を襲う異変に声を荒らげる。突如として王国を襲ったのは巨大な地震であり、立っていることすら困難な揺れを前に、リーシアの身体は無意識の内に動き出していた。
『主に過酷な運命を背負わせた国でも、守るのか?』
「…………」
『このような国、守らずに出ていってしまってもいいのだぞ?』
「確かにこの国は、私に酷いことをしたよ。でも、私はそれでも人が好きだから。守りたい人が居るから……この国を守るために戦うッ!」
リーシアの脳裏に浮かぶ人影。
その女性はいつでも彼女の事を見守ってくれていた。どれだけの人が自分を見て苦い顔をしても、その女性だけはいつでも自分の味方だった。
「必ず、守るッ……」
彼女がこの国に居続ける限り、リーシアもまたハイラントという名の国に留まることになるであろう。人々が自分のことを嫌ってもいい。彼女が自分を見ててくれるのなら、それだけで少女は満足なのだ。
「なに、コレ……?」
地下空間から王城へと通じる螺旋階段を登りきったリーシアは、ハイラント王国の城内へと戻るなり、騒然とした周囲に戸惑いを隠すことができなかった。
巨大な地震がハイラントを襲ってしばらくの時間が経過している。王国城内はあっという間に城下町から逃げてきた人々でごった返しており、あちこちから怒号が響き渡る有様であった。
逃げ惑う人々は金色の髪を持つリーシアに気付くことなく、身の安全を求めて殺到する。リーシアが生まれてから十数年。ハイラント王国がこのような状況になったことなど一度もなく、だからこそリーシアは眼前に迫る戦いを前に足が竦んでしまいそうになる。
「お嬢様ッ!?」
一人、城内で立ち尽くすリーシアへ唯一声を掛けてくる存在があった。
それはリーシアが今、最も会いたいと切望する存在であり、彼女のことをこの国で最もよく知る人物なのであった。
「ル、ルイーズッ!?」
リーシアが視線を向ける先。そこには息を荒げて髪を乱し、普段は無表情である顔には心配と安堵の複雑な色を浮かべたメイド長・ルイーズの姿があった。彼女が見せる様子から、今のこの瞬間までルイーズはリーシアを探し続けていたことは容易に想像することが出来て、リーシアは自分の軽率な行動のせいでルイーズに迷惑を掛けてしまったと胸を痛める。
「お嬢様ッ、早く逃げましょうッ!」
「…………」
「今、王国は危険な状態です。早く安全なところへ……」
「…………」
逃げてきた人々でごった返すハイラント王国の城内。
そこでルイーズはリーシアだけを見つめて声を上げ、その手を伸ばしてくる。
「…………」
その手を取ればどれだけ楽なのだろうか。
人の流れを挟んだ対岸に立つルイーズを見つめながら、リーシアはそんなことを考えていた。
人混みを掻き分け、自分にだけ差し伸べられている手を取ることが出来れば、自分はまた何も変わらない日常へと戻ることが出来るのだろう。
「……ごめん、ルイーズ」
「お、お嬢様……?」
しかし、今のリーシアは彼女が差し伸べる手を取ることは出来なかった。
いつまでも守られている少女で居る訳にはいかなかった。今度は自分が彼女を助ける番なのである。そんな強い想いがルイーズの手を拒む。そして自分にはすることがあると脳内で蠢く力が叫ぶ。
「お嬢様、何を言っているのですか……さぁ、早くッ……」
「ダメだよ、ルイーズ。私はもう、守られるだけの存在じゃない」
「な、なにを……?」
「今度は私がルイーズを守る…………だから、そこで見ててッ!」
「お嬢様ッ!?」
ルイーズの怒号が響く中、リーシアは踵を返して走り出す。彼女が向かうはハイラント王国の城下町。今でも城下町の方向からは大地を揺らす轟音と人々の叫び声が木霊している。
「急がなきゃッ……」
鼓膜を震わせる叫び声を聞いて、リーシアの足が一段と早くなる。流れてくる人々の源泉を目指して歩を進めるリーシアを止める者は誰も居ない。ハイラント王国の国民全てが自分の命を守ることに精一杯であり、リーシアのような少女を誰も気にしない。
逃げ惑う人々の間を縫うようにして走り続けるリーシアは、王城の正門から城下町へと飛び出していく。
「ウソ……」
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