終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章19 砂塵の試練Ⅷ:二人の剣姫
「はあぁ、はぁ、はぁッ……くっそッ……」
『どうした、もう終わりか?』
「ま、まだまだ……」
砂塵で試練が始まってからしばらくの時間が経過した。
立ち塞がる白銀の竜はシルヴィアに一切の攻撃を仕掛けては来ない。攻撃してこないだけではなく、シルヴィアの出方を伺うかのようにその場で制止しているだけであり、竜を討ち倒すためにシルヴィアは様々な攻撃を繰り出していく。
しかし、その全てが白銀の竜へ届くことはなかった。
「次こそッ……」
息を乱し、次なる攻撃の準備を整えていくシルヴィア。
精神を集中させて魔力を充填していく。
『…………』
尋常ではない魔力がシルヴィアの身体へと集中していく中でも、白銀の竜はただ黙ってその場に制止している。その状況がシルヴィアにとっては何物にも代えがたい屈辱であり、唇を強く噛みしめるとシルヴィアは強力な技の準備を整えていく。
「今までの攻撃だと思ってたら痛い目みるから……」
小さく声音を漏らし、シルヴィアは地面を蹴って竜へと突進していく。
両手に持った二対の剣に眩い輝きを灯しながら、シルヴィアは険しい顔つきのまま跳躍する。
「――聖なる剣輝ッ!」
二対の剣を重ね合わせることで、聖なる輝きを放つ一本の剣を生成する。
『――――』
暴力的なまでに荒削りな魔力を剣の刀身へと集めていく。
シルヴィアが放つ一撃は眼前に立ち塞がるあらゆる物を破壊する超強力な一撃。
己の背丈を容易に越えていく巨大な聖剣を、シルヴィアは白銀の竜へと振り下ろしていく。
「これでッ……終わりッ……!」
砂塵全体を揺さぶる強烈な地震が発生する。それと併せて鼓膜を突き破らんばかりの轟音が襲いかかる。
大地に亀裂が走り、底の見えない溝へ砂塵の砂が滝のようにして流れ落ちていく。
強烈な轟音の後には異様な静寂が場を支配する。
「はあぁ、はぁ……くッ……はあぁッ……」
遥か上空から砂塵へと着地するシルヴィア。
ありったけの魔力を放出した後であり、シルヴィアは全身を襲う倦怠感に片膝をついて呼吸を乱す。白銀の竜が存在していた前方は今も巨大な粉塵が込み上げている。
竜の生存はまだ確認することが出来ないが、シルヴィアの表情は晴れることはなく、ゆっくりと晴れていく粉塵の中に巨大な影が見え隠れしている。
『――今のは悪くなかった。しかし、私を倒すまでには至らない』
「…………」
粉塵が晴れる。
するとそこには一切のダメージを負っていない竜の姿があった。
「……あれでも、ダメっての」
今のシルヴィアが持てる全ての力を放ったとしても、白銀の竜を倒すことは出来ず、眼前に聳え立つ絶望を前にしてシルヴィアの口からは乾いた笑みが漏れるのであった。
『やはり、剣姫の力を解放していなければ、所詮はこの程度か……』
「…………」
『試練を受けよ、主』
「……試練? 試練なら今、受けてるじゃない」
『私を倒す試練ではない。己の全てと向き合う試練だ』
「……意味が分からない。アンタは私に何をさせたいの……目的はなにッ!?」
『私は主に試練を与える存在。ただ、それだけのために造られた』
「なによ、それ……一体、誰がッ……」
『それは私にも分からない。さぁ、主よ……試練を受けるか、受けないか。答えはどちらかだ』
白銀の竜が突きつける試練。
それが何なのかは分からない。
しかし、ここで逃げ出しても砂塵から抜け出すことは出来ず、シルヴィアが出せる答えはたった一つなのであった。
「……分かった。試練でもなんでも、私は逃げない」
『その言葉を待っていた。主よ、己の過去と向き合い……全てを理解せよ』
「――くッ!?」
白銀の竜は重苦しい声音を漏らすと、自らの身体を眩い光に包んでいく。
あまりの眩しさに目を閉じるシルヴィア。その光が徐々に力を失うと、シルヴィアは閉じていた目を再び開いていく。
「うーーーーん……なんだろ、コレ……外の空気を吸うのって何年ぶりなんだろう」
「……誰?」
光が消えた後、シルヴィアの眼前には白銀の竜は居なかった。まるで、最初からそこに存在しなかったかのように跡形もなく姿を消していたのだ。
しかし、その代わりに姿を現したのは一人の女性だった。
外見はシルヴィアよりも大人びており、金色と白銀が半々に混じり合った髪が印象的だった。スラッと伸びた四肢を包むのは純白の甲冑ドレスであり、その姿は『剣姫』としての力を発動した際のシルヴィアと酷似しているのであった。
「………………」
女性は何度か深呼吸を繰り返すと、その顔に笑みを浮かべる。体つきは大人びているのだが、笑うとその顔つきは途端に子供っぽくなる。
「……念のために聞くんだけどさ、貴方のお名前……教えて貰ってもいいかな?」
「…………シルヴィア。シルヴィア・アセンコット」
「――――」
シルヴィアの存在に気付いた甲冑ドレスを着た女性は、彼女に名前を問いかけ、そしてその顔を僅かに驚きに変えた。それは注意深く観察していなければ気付かないレベルの変化なのであったが、シルヴィアはその一瞬を見逃すことはなかった。
「……そうか。そうなんだ。シルヴィア…………シルヴィア・アセンコット」
「な、なによ……」
「ううん。なんでもない。あの子は元気?」
「あの子って誰……?」
「シャーリーって子、知らない?」
彼女の口から漏れた名前。
それはハイラント王国の王女である白銀の髪が印象的な少女の名前だった。
シルヴィアにとって、シャーリーは遥か雲の上の存在であり、彼女の近況を知っているような仲でもなければ、そんな立場にすらない。
「……知らない」
「……そっか。それなら、しょうがないね」
シルヴィアの返答を聞いて、女性は困ったような悲しいような複雑な笑みを浮かべると、再びその身体を解し始める。
「色々と話したいことはあるけど……それはこの試練が終わってからにしよっかな」
「……試練」
「さぁ、剣を構えなさい。剣姫たる者、剣を持って己を示しなさい」
静寂が支配する砂塵の防壁。
今、この場所で二人の剣姫による戦いが始まろうとしているのであった。
『どうした、もう終わりか?』
「ま、まだまだ……」
砂塵で試練が始まってからしばらくの時間が経過した。
立ち塞がる白銀の竜はシルヴィアに一切の攻撃を仕掛けては来ない。攻撃してこないだけではなく、シルヴィアの出方を伺うかのようにその場で制止しているだけであり、竜を討ち倒すためにシルヴィアは様々な攻撃を繰り出していく。
しかし、その全てが白銀の竜へ届くことはなかった。
「次こそッ……」
息を乱し、次なる攻撃の準備を整えていくシルヴィア。
精神を集中させて魔力を充填していく。
『…………』
尋常ではない魔力がシルヴィアの身体へと集中していく中でも、白銀の竜はただ黙ってその場に制止している。その状況がシルヴィアにとっては何物にも代えがたい屈辱であり、唇を強く噛みしめるとシルヴィアは強力な技の準備を整えていく。
「今までの攻撃だと思ってたら痛い目みるから……」
小さく声音を漏らし、シルヴィアは地面を蹴って竜へと突進していく。
両手に持った二対の剣に眩い輝きを灯しながら、シルヴィアは険しい顔つきのまま跳躍する。
「――聖なる剣輝ッ!」
二対の剣を重ね合わせることで、聖なる輝きを放つ一本の剣を生成する。
『――――』
暴力的なまでに荒削りな魔力を剣の刀身へと集めていく。
シルヴィアが放つ一撃は眼前に立ち塞がるあらゆる物を破壊する超強力な一撃。
己の背丈を容易に越えていく巨大な聖剣を、シルヴィアは白銀の竜へと振り下ろしていく。
「これでッ……終わりッ……!」
砂塵全体を揺さぶる強烈な地震が発生する。それと併せて鼓膜を突き破らんばかりの轟音が襲いかかる。
大地に亀裂が走り、底の見えない溝へ砂塵の砂が滝のようにして流れ落ちていく。
強烈な轟音の後には異様な静寂が場を支配する。
「はあぁ、はぁ……くッ……はあぁッ……」
遥か上空から砂塵へと着地するシルヴィア。
ありったけの魔力を放出した後であり、シルヴィアは全身を襲う倦怠感に片膝をついて呼吸を乱す。白銀の竜が存在していた前方は今も巨大な粉塵が込み上げている。
竜の生存はまだ確認することが出来ないが、シルヴィアの表情は晴れることはなく、ゆっくりと晴れていく粉塵の中に巨大な影が見え隠れしている。
『――今のは悪くなかった。しかし、私を倒すまでには至らない』
「…………」
粉塵が晴れる。
するとそこには一切のダメージを負っていない竜の姿があった。
「……あれでも、ダメっての」
今のシルヴィアが持てる全ての力を放ったとしても、白銀の竜を倒すことは出来ず、眼前に聳え立つ絶望を前にしてシルヴィアの口からは乾いた笑みが漏れるのであった。
『やはり、剣姫の力を解放していなければ、所詮はこの程度か……』
「…………」
『試練を受けよ、主』
「……試練? 試練なら今、受けてるじゃない」
『私を倒す試練ではない。己の全てと向き合う試練だ』
「……意味が分からない。アンタは私に何をさせたいの……目的はなにッ!?」
『私は主に試練を与える存在。ただ、それだけのために造られた』
「なによ、それ……一体、誰がッ……」
『それは私にも分からない。さぁ、主よ……試練を受けるか、受けないか。答えはどちらかだ』
白銀の竜が突きつける試練。
それが何なのかは分からない。
しかし、ここで逃げ出しても砂塵から抜け出すことは出来ず、シルヴィアが出せる答えはたった一つなのであった。
「……分かった。試練でもなんでも、私は逃げない」
『その言葉を待っていた。主よ、己の過去と向き合い……全てを理解せよ』
「――くッ!?」
白銀の竜は重苦しい声音を漏らすと、自らの身体を眩い光に包んでいく。
あまりの眩しさに目を閉じるシルヴィア。その光が徐々に力を失うと、シルヴィアは閉じていた目を再び開いていく。
「うーーーーん……なんだろ、コレ……外の空気を吸うのって何年ぶりなんだろう」
「……誰?」
光が消えた後、シルヴィアの眼前には白銀の竜は居なかった。まるで、最初からそこに存在しなかったかのように跡形もなく姿を消していたのだ。
しかし、その代わりに姿を現したのは一人の女性だった。
外見はシルヴィアよりも大人びており、金色と白銀が半々に混じり合った髪が印象的だった。スラッと伸びた四肢を包むのは純白の甲冑ドレスであり、その姿は『剣姫』としての力を発動した際のシルヴィアと酷似しているのであった。
「………………」
女性は何度か深呼吸を繰り返すと、その顔に笑みを浮かべる。体つきは大人びているのだが、笑うとその顔つきは途端に子供っぽくなる。
「……念のために聞くんだけどさ、貴方のお名前……教えて貰ってもいいかな?」
「…………シルヴィア。シルヴィア・アセンコット」
「――――」
シルヴィアの存在に気付いた甲冑ドレスを着た女性は、彼女に名前を問いかけ、そしてその顔を僅かに驚きに変えた。それは注意深く観察していなければ気付かないレベルの変化なのであったが、シルヴィアはその一瞬を見逃すことはなかった。
「……そうか。そうなんだ。シルヴィア…………シルヴィア・アセンコット」
「な、なによ……」
「ううん。なんでもない。あの子は元気?」
「あの子って誰……?」
「シャーリーって子、知らない?」
彼女の口から漏れた名前。
それはハイラント王国の王女である白銀の髪が印象的な少女の名前だった。
シルヴィアにとって、シャーリーは遥か雲の上の存在であり、彼女の近況を知っているような仲でもなければ、そんな立場にすらない。
「……知らない」
「……そっか。それなら、しょうがないね」
シルヴィアの返答を聞いて、女性は困ったような悲しいような複雑な笑みを浮かべると、再びその身体を解し始める。
「色々と話したいことはあるけど……それはこの試練が終わってからにしよっかな」
「……試練」
「さぁ、剣を構えなさい。剣姫たる者、剣を持って己を示しなさい」
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