終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章17 砂塵の試練Ⅵ:少女と白銀の竜
「…………」
ハイラント王国の騎士・ライガが試練を受けている最中、砂塵に倒れる一人の少女もまた同じように試練を受けようとしていた。
王国の騎士にしては軽装が印象的な少女は砂の上で目を覚ますと、朧気な意識のまま身体を起こす。長い睡眠から覚めた時のように頭が働かず、ハイラント王国の騎士・シルヴィアは呆けた表情で周囲をキョロキョロと見渡す。
「あれ……えっと……私はどうしてここに……?」
周囲を見渡せばそこは砂嵐が吹き荒れる砂塵の中であって、何者かの襲撃に遭ったシルヴィアたち一行は砂塵の防壁内部でバラバラに孤立してしまっていた。
その事実をすぐには理解できないシルヴィアは、周囲に誰か人影を探すのだが見える範囲では誰の姿も確認することが出来ない。ただ砂嵐が吹き荒れる音だけが鼓膜を震わせていて、少しずつ状況を理解できたシルヴィアの心臓が早鐘を打ち始めていく。
「うそっ……みんなとはぐれちゃった……?」
慌てて立ち上がり、逸る鼓動を抑えて努めて冷静に状況把握を続ける。
意識を失う前のことを思い返し、どのようにしてこの状況へ行き着いたのかを分析する。そして辿り着いた答えにシルヴィアは絶望感を覚えることを禁じ得ず、すぐさま思考を切り替えると仲間たちとの合流方法について模索する。
「ここはまだ砂塵の中……外に吹き飛ばされなかったことを良しとするべきなのかな……」
立ち上がり、顎に手を当てて冷静に分析を続けるシルヴィア。
「……とにかく早くみんなと合流しなくちゃ」
砂嵐は常に吹き荒れ続けており、方向感覚さえ失われる砂塵の防壁。しかしそれでも、シルヴィアは黙って立ち尽くすことなんて出来ない。一刻も早く誰かと合流すべきであると判断するなり、シルヴィアは自分の直感を信じて一歩を踏み出していく。
その先に何が待つのか。
どんな試練が待ち受けているのか。
緊張感を表情に滲ませる少女にはまだ知る由もないことなのである。
◆◆◆◆◆
「うぅ……進み辛い……」
砂塵の中で目を覚ましてからしばらくの時間が経過した。どれだけ歩いても景色が変わることはなく、悪戯に過ぎていく時間に焦燥感を禁じ得ない。
自分が正しい方向に進んでいることすら分からず、もしかしたら仲間たちから離れるルートを歩いているのかもしれない。そうしたら合流は絶望的であり、自分は永遠にこの砂塵の中で彷徨うこととなるのかもしれない。
「よ、弱気になっちゃダメだ……」
気を抜けばネガティブな思考が頭の中を駆け巡り、シルヴィアは頭を乱暴に振ると弱気になる心を奮い立たせようとする。
「あ、あれっ……ここは……?」
どれだけ歩いたのかは不明だが、シルヴィアは気付けば不思議な空間に辿り着いていた。そこは半ドーム状の空間であり、吹き荒れる砂塵の嵐による影響を全く受けない場所だった。
突如として出現した謎の空間に驚きを隠せないシルヴィアだが、それ以上の驚きを目の当たりにしていた。
『――待ちくたびれたぞ、我が主』
「…………」
『どうした、久方ぶりの再会ではないか。もっと喜びを表現するなどは無いのか?』
「わ、私……アンタなんか知らない……」
『知らないということはないはずだ。主は覚えていないだけだ、私との出会いを――』
砂塵の防壁を進んでやってきた謎の空間。
そこには人間が遥か頭上を見上げるほどの巨体を持った『白銀の竜』が存在しているのであった。竜はまっすぐにシルヴィアを見つめ、そして彼女の脳に直接言葉を投げかけていく。
砂塵の中でも白く輝く竜を前にして、シルヴィアはどこか脳内で引っかかる感覚を覚えていた。竜が言うようにシルヴィアは過去に遭遇していたのか、しかし自分の記憶にはない。
これだけの存在を忘却することなど考え難く、圧倒的な矛盾を前にしてシルヴィアは動揺を隠すことが出来ない。
「そんなこと言われても、覚えてないのは覚えてないッ……」
『……まぁいい。この試練にて思い出すこととなるだろう』
「し、試練……?」
『この砂塵を突破したくば、この私を倒してゆけ』
砂塵がシルヴィアへ突きつける試練。
それは白銀の龍を討ち倒すことなのであった。
「倒す……アンタを……?」
『そうだ。そうすれば、この砂塵から抜け出すことが出来る』
「…………」
白銀の龍を倒す。
それが容易なことではないことは誰が見ても想像がつくことだった。
誰がどんな目的で試練を与えようとしているのかは不明だが、シルヴィアは眼前に突き付けられた試練を前に逃げ出すことは考えていなかった。このまま砂の中を彷徨って歩き続けるよりも、竜の言葉を信じて戦い、討ち倒すことが出来るのなら仲間たちとの合流も容易かもしれない。
『……試練を受けるか?』
「……分かった。アンタを倒せばいいんでしょ?」
シルヴィアは目を閉じると、自身の魔力を極限にまで高めていく。
そしてシルヴィアが目を開いた次の瞬間、彼女の身体は美しい甲冑ドレスに身を包んでいた。
――白銀の剣姫。
両手に『緋の剣』と『蒼の剣』を持ち、剣姫となったシルヴィアは臆することなく白銀の竜と対峙するのであった。
ハイラント王国の騎士・ライガが試練を受けている最中、砂塵に倒れる一人の少女もまた同じように試練を受けようとしていた。
王国の騎士にしては軽装が印象的な少女は砂の上で目を覚ますと、朧気な意識のまま身体を起こす。長い睡眠から覚めた時のように頭が働かず、ハイラント王国の騎士・シルヴィアは呆けた表情で周囲をキョロキョロと見渡す。
「あれ……えっと……私はどうしてここに……?」
周囲を見渡せばそこは砂嵐が吹き荒れる砂塵の中であって、何者かの襲撃に遭ったシルヴィアたち一行は砂塵の防壁内部でバラバラに孤立してしまっていた。
その事実をすぐには理解できないシルヴィアは、周囲に誰か人影を探すのだが見える範囲では誰の姿も確認することが出来ない。ただ砂嵐が吹き荒れる音だけが鼓膜を震わせていて、少しずつ状況を理解できたシルヴィアの心臓が早鐘を打ち始めていく。
「うそっ……みんなとはぐれちゃった……?」
慌てて立ち上がり、逸る鼓動を抑えて努めて冷静に状況把握を続ける。
意識を失う前のことを思い返し、どのようにしてこの状況へ行き着いたのかを分析する。そして辿り着いた答えにシルヴィアは絶望感を覚えることを禁じ得ず、すぐさま思考を切り替えると仲間たちとの合流方法について模索する。
「ここはまだ砂塵の中……外に吹き飛ばされなかったことを良しとするべきなのかな……」
立ち上がり、顎に手を当てて冷静に分析を続けるシルヴィア。
「……とにかく早くみんなと合流しなくちゃ」
砂嵐は常に吹き荒れ続けており、方向感覚さえ失われる砂塵の防壁。しかしそれでも、シルヴィアは黙って立ち尽くすことなんて出来ない。一刻も早く誰かと合流すべきであると判断するなり、シルヴィアは自分の直感を信じて一歩を踏み出していく。
その先に何が待つのか。
どんな試練が待ち受けているのか。
緊張感を表情に滲ませる少女にはまだ知る由もないことなのである。
◆◆◆◆◆
「うぅ……進み辛い……」
砂塵の中で目を覚ましてからしばらくの時間が経過した。どれだけ歩いても景色が変わることはなく、悪戯に過ぎていく時間に焦燥感を禁じ得ない。
自分が正しい方向に進んでいることすら分からず、もしかしたら仲間たちから離れるルートを歩いているのかもしれない。そうしたら合流は絶望的であり、自分は永遠にこの砂塵の中で彷徨うこととなるのかもしれない。
「よ、弱気になっちゃダメだ……」
気を抜けばネガティブな思考が頭の中を駆け巡り、シルヴィアは頭を乱暴に振ると弱気になる心を奮い立たせようとする。
「あ、あれっ……ここは……?」
どれだけ歩いたのかは不明だが、シルヴィアは気付けば不思議な空間に辿り着いていた。そこは半ドーム状の空間であり、吹き荒れる砂塵の嵐による影響を全く受けない場所だった。
突如として出現した謎の空間に驚きを隠せないシルヴィアだが、それ以上の驚きを目の当たりにしていた。
『――待ちくたびれたぞ、我が主』
「…………」
『どうした、久方ぶりの再会ではないか。もっと喜びを表現するなどは無いのか?』
「わ、私……アンタなんか知らない……」
『知らないということはないはずだ。主は覚えていないだけだ、私との出会いを――』
砂塵の防壁を進んでやってきた謎の空間。
そこには人間が遥か頭上を見上げるほどの巨体を持った『白銀の竜』が存在しているのであった。竜はまっすぐにシルヴィアを見つめ、そして彼女の脳に直接言葉を投げかけていく。
砂塵の中でも白く輝く竜を前にして、シルヴィアはどこか脳内で引っかかる感覚を覚えていた。竜が言うようにシルヴィアは過去に遭遇していたのか、しかし自分の記憶にはない。
これだけの存在を忘却することなど考え難く、圧倒的な矛盾を前にしてシルヴィアは動揺を隠すことが出来ない。
「そんなこと言われても、覚えてないのは覚えてないッ……」
『……まぁいい。この試練にて思い出すこととなるだろう』
「し、試練……?」
『この砂塵を突破したくば、この私を倒してゆけ』
砂塵がシルヴィアへ突きつける試練。
それは白銀の龍を討ち倒すことなのであった。
「倒す……アンタを……?」
『そうだ。そうすれば、この砂塵から抜け出すことが出来る』
「…………」
白銀の龍を倒す。
それが容易なことではないことは誰が見ても想像がつくことだった。
誰がどんな目的で試練を与えようとしているのかは不明だが、シルヴィアは眼前に突き付けられた試練を前に逃げ出すことは考えていなかった。このまま砂の中を彷徨って歩き続けるよりも、竜の言葉を信じて戦い、討ち倒すことが出来るのなら仲間たちとの合流も容易かもしれない。
『……試練を受けるか?』
「……分かった。アンタを倒せばいいんでしょ?」
シルヴィアは目を閉じると、自身の魔力を極限にまで高めていく。
そしてシルヴィアが目を開いた次の瞬間、彼女の身体は美しい甲冑ドレスに身を包んでいた。
――白銀の剣姫。
両手に『緋の剣』と『蒼の剣』を持ち、剣姫となったシルヴィアは臆することなく白銀の竜と対峙するのであった。
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