終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章6 深層世界への客人
「……航大さん、警戒してください」
その言葉を放ったのは、ここまで試練に苦しむ航大を見ても無言を貫いていた、北方の女神・シュナだった。彼女は真相世界に広がる虚空を見つめると、その表情を険しく歪ませて静かに声を発する。
「え、警戒って……?」
そんなシュナの言葉に状況が理解できない航大は呆然とした様子で立ち尽くすことしかできない。
航大と共に戦いの時間を過ごしていた『影の王』も、シュナと同じように顔を上に向けると、何やら近づいてくる気配を敏感に察している。
「……来ます」
女神・シュナが漏らしたその言葉を合図に、神谷航大の内に広がる深層世界の虚空に突如として亀裂が生じる。今までに見たことのない世界の変化に対して、航大は目を見開き驚きを禁じ得ず、女神・シュナはどんな不測の事態が起こっても対応できるように身体を身構える。
「へぇ……何か変な力を感じると思ったら、こんな場所があったんだ」
「……誰?」
深層世界に発生した亀裂。
それは音もなく肥大化していくと、亀裂の中から一人の人間が姿を現した。
亀裂から軽快な声音と共に姿を現したその人物は、全身をローブマントで覆い、極端に肌の露出を避ける異様な姿をしていた。声の質から少女であることのみが判断できる状態であり、その異様な姿を前にして女神・シュナ、影の王と共に航大も警戒せざるを得ない状態だった。
「もしかして、シュナの知り合いだったりする?」
「残念ですが、あのような姿をした知り合いは存在しませんね。そもそも、私は女神として数百年という時を眠りについていました。なので、知り合いと言えば他の女神くらいしか心当たりはありません」
「えっ、女神なの……ッ!?」
「……それに近い何かであることは感じますが。女神の誰かではないと思います」
亀裂から姿を現した少女を睨むようにして観察を続ける女神・シュナ。
その姿に気付いたのか、全身をローブマントで覆った少女はシュナの方に顔を向けると小さな口を開いていく。
「北方の女神・シュナ……どうして貴方がこんなところに?」
「おい、シュナ……やっぱり、お前のこと知ってるみたいだぞ?」
少女はシュナを見て、確かに『女神』という言葉を発した。
自分が女神であることを言い当てられ、シュナの表情が僅かに驚きに変わる。
その動揺を察したのか、ローブマントを被った少女は楽しげに言葉を続ける。
「世界を守護すべき存在が、こんな得体の知れない少年の中で息づいている……これはどういうことなのか、説明を求めることはできるのかな?」
「……不審な様子を隠そうともしない相手に名乗る名前はありませんね」
「ふーん、まぁそれならいいんだけど。とりあえず、近くまでやってきたみたいだから挨拶でもしようかなってね」
「挨拶ってんなら、お前が誰なのか教えろって話だよ。ここは俺の中にある世界なんだろ? どうして入ってくることができる?」
飄々とした様子の少女に対して、次に声を挟んだのが深層世界の主である航大だった。
少女の様子を見て航大もまた警戒心を高めると、険しい表情で問いかけを投げかける。彼もまた、何か不測の事態が発生した際、即座に行動できるように身構えている。
「……君がどういう手を使って女神をその体内に宿したのか……それは気になるところなんだけど、今、私が話をしたいのは君じゃなくて、北方の女神なんだよね」
航大には用がないと言わんばかりの様子を見せる少女は、再び身体をシュナの方に向ける。
「私は自分の意思で航大さんの中に存在しています。彼を助け、そして再び世界を守護する女神としての力を得るために日々を過ごしています」
「ふーん……なんか偉そうなことを言ってるけど、実際のところ、今は女神としての役割を果たしていない訳で、その時点で女神としては失格だし、他の女神たちにも負担を掛けてる自覚はある?」
「…………」
少女の指摘は必ずしも間違っているものではなく、彼女の言う通りで今のシュナは世界を守護するべき女神としての使命を果たすことができていない。
痛いところを突かれたシュナは、表情を僅かに歪ませるも無言を貫く。
「……まぁ、今のところは何とかなってるから別にいいけど……君たちの仲間が砂漠へと足を踏み入れようとしてるみたいだから、どんな命知らずか見に来ただけなんだけどね」
「ライガたちに何かしたのかッ!?」
「まぁまぁ、今のところは全員無事だから安心していいよ。この後のことは知らないけど」
「てめぇッ……ライガたちに何かしたら許さねぇぞッ!」
「威勢が良いのは結構なんだけど、君は自分が置かれている状況ってのを少しは理解した方がいいと思うよ?」
「…………」
航大が対峙する少女は、深層世界と現実世界を行き来できる存在である。
彼女がその気になれば、瀕死の状態で眠る航大の息の根を止めることは容易であることは間違いない。脅しとも取れる言葉に航大は悔しげに口を閉ざすことしか出来ず、静かになった航大を見て、少女は小さく笑みを浮かべる。
「今回は挨拶だけだから、これくらいにしておくけど、君たちの仲間の安全は保障できないってことだけは覚えておいてね」
「くッ……」
「それじゃ、また会おうね」
「おい、待てッ!」
突如として現れた少女は一方的に話を打ち切ると、踵を返して亀裂の中を歩き始める。
姿を消そうとする少女を追いかけることもできず悔しげに唇を噛むことしか出来ない。
「…………」
少女が姿を消した後の深層世界。
そこには重苦しい空気を伴った静寂だけが残るのであった。
その言葉を放ったのは、ここまで試練に苦しむ航大を見ても無言を貫いていた、北方の女神・シュナだった。彼女は真相世界に広がる虚空を見つめると、その表情を険しく歪ませて静かに声を発する。
「え、警戒って……?」
そんなシュナの言葉に状況が理解できない航大は呆然とした様子で立ち尽くすことしかできない。
航大と共に戦いの時間を過ごしていた『影の王』も、シュナと同じように顔を上に向けると、何やら近づいてくる気配を敏感に察している。
「……来ます」
女神・シュナが漏らしたその言葉を合図に、神谷航大の内に広がる深層世界の虚空に突如として亀裂が生じる。今までに見たことのない世界の変化に対して、航大は目を見開き驚きを禁じ得ず、女神・シュナはどんな不測の事態が起こっても対応できるように身体を身構える。
「へぇ……何か変な力を感じると思ったら、こんな場所があったんだ」
「……誰?」
深層世界に発生した亀裂。
それは音もなく肥大化していくと、亀裂の中から一人の人間が姿を現した。
亀裂から軽快な声音と共に姿を現したその人物は、全身をローブマントで覆い、極端に肌の露出を避ける異様な姿をしていた。声の質から少女であることのみが判断できる状態であり、その異様な姿を前にして女神・シュナ、影の王と共に航大も警戒せざるを得ない状態だった。
「もしかして、シュナの知り合いだったりする?」
「残念ですが、あのような姿をした知り合いは存在しませんね。そもそも、私は女神として数百年という時を眠りについていました。なので、知り合いと言えば他の女神くらいしか心当たりはありません」
「えっ、女神なの……ッ!?」
「……それに近い何かであることは感じますが。女神の誰かではないと思います」
亀裂から姿を現した少女を睨むようにして観察を続ける女神・シュナ。
その姿に気付いたのか、全身をローブマントで覆った少女はシュナの方に顔を向けると小さな口を開いていく。
「北方の女神・シュナ……どうして貴方がこんなところに?」
「おい、シュナ……やっぱり、お前のこと知ってるみたいだぞ?」
少女はシュナを見て、確かに『女神』という言葉を発した。
自分が女神であることを言い当てられ、シュナの表情が僅かに驚きに変わる。
その動揺を察したのか、ローブマントを被った少女は楽しげに言葉を続ける。
「世界を守護すべき存在が、こんな得体の知れない少年の中で息づいている……これはどういうことなのか、説明を求めることはできるのかな?」
「……不審な様子を隠そうともしない相手に名乗る名前はありませんね」
「ふーん、まぁそれならいいんだけど。とりあえず、近くまでやってきたみたいだから挨拶でもしようかなってね」
「挨拶ってんなら、お前が誰なのか教えろって話だよ。ここは俺の中にある世界なんだろ? どうして入ってくることができる?」
飄々とした様子の少女に対して、次に声を挟んだのが深層世界の主である航大だった。
少女の様子を見て航大もまた警戒心を高めると、険しい表情で問いかけを投げかける。彼もまた、何か不測の事態が発生した際、即座に行動できるように身構えている。
「……君がどういう手を使って女神をその体内に宿したのか……それは気になるところなんだけど、今、私が話をしたいのは君じゃなくて、北方の女神なんだよね」
航大には用がないと言わんばかりの様子を見せる少女は、再び身体をシュナの方に向ける。
「私は自分の意思で航大さんの中に存在しています。彼を助け、そして再び世界を守護する女神としての力を得るために日々を過ごしています」
「ふーん……なんか偉そうなことを言ってるけど、実際のところ、今は女神としての役割を果たしていない訳で、その時点で女神としては失格だし、他の女神たちにも負担を掛けてる自覚はある?」
「…………」
少女の指摘は必ずしも間違っているものではなく、彼女の言う通りで今のシュナは世界を守護するべき女神としての使命を果たすことができていない。
痛いところを突かれたシュナは、表情を僅かに歪ませるも無言を貫く。
「……まぁ、今のところは何とかなってるから別にいいけど……君たちの仲間が砂漠へと足を踏み入れようとしてるみたいだから、どんな命知らずか見に来ただけなんだけどね」
「ライガたちに何かしたのかッ!?」
「まぁまぁ、今のところは全員無事だから安心していいよ。この後のことは知らないけど」
「てめぇッ……ライガたちに何かしたら許さねぇぞッ!」
「威勢が良いのは結構なんだけど、君は自分が置かれている状況ってのを少しは理解した方がいいと思うよ?」
「…………」
航大が対峙する少女は、深層世界と現実世界を行き来できる存在である。
彼女がその気になれば、瀕死の状態で眠る航大の息の根を止めることは容易であることは間違いない。脅しとも取れる言葉に航大は悔しげに口を閉ざすことしか出来ず、静かになった航大を見て、少女は小さく笑みを浮かべる。
「今回は挨拶だけだから、これくらいにしておくけど、君たちの仲間の安全は保障できないってことだけは覚えておいてね」
「くッ……」
「それじゃ、また会おうね」
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突如として現れた少女は一方的に話を打ち切ると、踵を返して亀裂の中を歩き始める。
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