終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章38 【帝国終結編】救いを望む少女
「……お前、どういうつもりだ?」
「ふむ、いくら帝国騎士といえど……戦士の戦いを邪魔するのは許されることではない」
航大とユイを助けに帝国ガリアへと侵入を果たしたライガたち一行。
数多の激闘を経て、いよいよライガたちは帝国ガリアの王城が存在する、第三層へと到達を果たしていた。目的を果たすまでもう少し……といったところで、ライガたちの前に姿を現したのが、ガリアでは帝国騎士の次に高い位にある王城騎士団の人間たちだった。
ライガと対峙するのは巨大なランスを装備し、全身を分厚い鎧で纏った老兵・ライアン・グレイ。
エレスとシルヴィアが対峙するのは、あらゆる魔法を模倣する力を持つ騎士・カルロ・リック。
そして北方の賢者・リエルが対峙するのは、猛毒を操る弱気な魔法少女・アリシア・シイナ。
それぞれと激しい戦闘を繰り広げるライガたちであったが、その戦いは予期しない形で終焉を迎えた。王城の方向から響いた声音。それはライガもよく知るものであり、互いの武器を交わしていた老兵・グレイも身体を痙攣させると険しい表情を浮かべて動きを止めた。
「……今はこんなところで戦っている場合じゃない」
「なんだよそれ、どういうことだ……」
「……今すぐに行かなくちゃいけない」
「行かなくちゃって……どこに……」
ライガと老兵・グレイの戦いを止めた帝国騎士。それはガリアへの侵入を助けてくれた褐色の少女・ナタリだった。帝国総統と共に姿を消したはずの少女は、その表情を険しく歪ませながら再びライガの前に姿を現したのだった。
「……行くのは帝国ガリアの闘技場。そこにお兄さんたちが居る」
「航大が……?」
「……とにかく急いで。急がないと手遅れになる」
「手遅れって――ッ!?」
――その瞬間だった。
帝国全土に今までに感じたことのない、強烈な衝撃波がライガたちの身体を貫き広がっていく。帝国に広がっていく力。それはライガもよく知っているものであり、間近で何度も感じてきたものだった。
「……航大?」
強大な力が走ってきた方向に視線を向け、ライガは小さくその名を呟いた。
尋常ではない感覚に、ライガの額に冷や汗が流れる。眼前に立つ少女・ナタリの警告も相まって、ライガは全身を駆け巡る嫌な予感を感じずにはいられない。
「航大と嬢ちゃんに何かあったのか……」
「…………」
ライガの言葉に帝国騎士の少女は何も答えない。
その反応がライガの焦燥感をより煽ることになり、大剣を片手に持った青年は王城騎士団との戦いすらも忘却すると、その場から一歩を踏み出していく。
「……ライガッ!」
「ライガさんッ!」
今、まさにライガが走り出そうとした瞬間だった。
帝国ガリア第三層で別の王城騎士と戦っていたはずの、エレスとシルヴィアが必死の形相で走ってくる。エレスの片腕には、四肢をぐったりさせている北方の賢者・リエルの姿もあり、三人の姿を見てライガは安堵する。
「みんな無事だったかッ!?」
「うん。リエルはちょっと大丈夫そうじゃないけど、こっちはなんとか無事」
「それよりも、ライガさん……さっきのは感じましたね?」
互いの無事を確認するのもそこそこに、この中で一際魔法に関して敏感であるエレスが険しい表情でライガに帝国を襲った衝撃について確認してくる。
「はぁ、はあぁッ……くッ……あ、あれは……主様のもので間違いない……」
「リエル……お前、意識あったのか……」
「……当たり前じゃ。あれくらいでは儂は死なん」
「そんなことは後でいいのッ! ライガ、早く行かないとッ!」
苦しげなリエルの身を案じるよりも先に、シルヴィアはその表情を痛いくらいに歪ませると息を切らしながら次の行動を急かしてくる。
「……何か嫌な予感がします。急ぎましょう」
エレスの言葉にシルヴィアとリエルが頷く。
「……俺たちは先を行く。お前との決着はまた今度だ」
「ふん、どちらにしろ帝国騎士の命令では、逆らうことは出来ない。勝手にするがいい」
ライガの視線の先。
そこにはつい先程まで生死を賭けた戦いを演じた老兵の姿がある。
納得はしていない様子であったが、老兵・グレイは己が持っていた武器を下ろすとつまらなさそうに一言呟く。
「……すまねぇ」
最後にそんな一言を残し、ライガたちは帝国ガリアの王城ではなく、そのすぐ近くに存在する闘技場へと走り出す。その先に何が待ち受けているのか、息を切らして走るライガたちはまだその全容を知らない。
心臓が早鐘を打つ焦燥感の中、とにかく一秒でも早く現場へ駆けつけようと走り続けるのであった。
◆◆◆◆◆
「……どういうおつもりですかな?」
「…………」
「彼らは侵入者。帝国ガリアの人間として、始末しなければならない存在であるはず」
「…………」
「我々は持てる力を出し、彼らを抹殺しようとした。しかしそれを、この国において総統の次に権力を持つ貴方が制止した。この行動が持つ意味を、貴方は理解しておられるのか?」
「……今回の失態。それは全て私の責任にしていい」
「…………」
ライガたちが去った後、帝国ガリア第三層に残ったのは帝国騎士の少女・ナタリと、王城騎士団の老兵・グレイの二人だった。
異様な静寂が包む場において、老兵・グレイは険しい目つきで上級の人間である帝国騎士の少女・ナタリを睨みつけていた。それは、彼女が帝国の人間としてあるまじき行動に出た事実を追求するものであり、老兵が放つ言葉にナタリは返す言葉もない。
「ふぅ……やはり、帝国騎士の人間が考えることは理解に苦しむ。何故、貴方のような絶対の力を持つ人間が、敵国の人間に力を貸そうとするのか……」
「…………」
「……この期に及んで沈黙を選ぶということか。もういい、私はこれで失礼する」
苦しげな表情を浮かべて沈黙を選ぶナタリとこれ以上の会話は無駄であると判断した老兵・グレイは、最後にため息を漏らすとガリア王城へ向けて歩き出す。
その後ろ姿をナタリは見送ることしか出来ない。
グレイの姿が完全に視界から消えると、ナタリはその表情を苦しげに歪ませてある方向に意識を向ける。それはライガたちが走っていった方向であり、その先には彼女が助けると約束した少年少女が居る。
「……ごめんなさい。私に出来るのはここまで」
少女が呟く謝罪の言葉。
しかしそれは、誰にも届くことなく虚空へと消えていく。
――帝国騎士の少女。
これが彼女が人間らしい感情を見せる最後の瞬間。
しばらくの間、少女は目を閉じ祈る。
――どうか、彼らに救いと希望がありますように。
◆◆◆◆◆
「はぁッ、はあぁッ……」
「本当にこっちで合ってるのッ!?」
「主様の気配がする……間違いないッ!」
「ライガさん、もう少しだけ急ぎましょう」
帝国騎士・ナタリの助けにより、王城騎士団との戦いを終えたライガ、リエル、シルヴィア、エレスの四人は、帝国ガリア第三層をひたすらに疾走していた。ライガたちが向かうのは、異常な魔力の衝突が見られたポイント。ナタリの言葉によれば、そこは帝国ガリアに存在する闘技場とのことであり、よく見知った力がぶつかり合っている瞬間を肌に感じながら、ライガたちの足は無意識の内に早くなっていく。
「くそッ……何がどうなってんだよッ……」
「この感じ……最悪な予感があるのだとすれば、あの二人が戦っている……ということになりますかね」
「だから、どうしてそんなことになってるのかって聞いてんだよッ!」
「ライガッ、そんなのみんなが知ってる訳ないでしょ。今はとにかく急ぐのッ!」
「くそがッ……!」
歩を進めれば進めるほどに全身を包み込む異様な魔力が濃くなっていく。
肌に感じる空気が急激に冷え込んでいて、気付けば吐き出される吐息も白く濁るようになっていた。
「見えてきましたよ。あれが闘技場でしょう」
「魔力がすごく濃い……間違いないよ、あそこに二人が居るッ!」
溢れ出す膨大な魔力は、周囲の環境を劇的に変化させていた。
帝国ガリアは温暖な気候にある国であるというのに、闘技場周辺は真冬並の気温に支配されている。周囲に生い茂る木々は凍りついており、その事実が闘技場で起きている異変の大きさを如実に物語っていた。
「急ぐぞッ!」
ライガの言葉に全員が頷く。
闘技場までの距離は短い。
その先にどんな光景が待ち受けているかも知らず、ライガたちはただひたすらに走り続けるのであった。
◆◆◆◆◆
「――――」
あまりにも長かった旅が終わりを迎えようとしていた。
アステナ王国での死闘から続く形で、帝国ガリアへとやってきたライガ、リエル、シルヴィア、エレスの四人。彼らの目的はガリアへ拉致された、神谷航大と白髪の少女・ユイを救出することにあった。
様々な戦いを経たライガたちの眼前に、その姿は確かに存在していた。
「なんだよ、あれ……」
闘技場の中に広がる光景を見て、ライガが呆然とした様子で一言呟く。
しかし、その言葉に反応を示す者はいない。
全員が眼前に広がる光景を信じることが出来ず、目を見開かせて絶句している。
「どうして……どうして、あいつらが……戦ってるんだよ……」
闘技場の中心。
そこには二つの人影が存在していて、その姿はライガたちがよく知るものだった。
二つの影はそれぞれが一つに融合を果たそうとしているかのように、接近しており片方の腕が対峙する相手の身体を貫いていた。
水色の髪を風に靡かせるのは、異世界へと召喚された少年・航大。
そして、航大と対峙しているのは純白の白髪に黒髪を混じらせた少女・ユイ。
どんな時でも共に時間を過ごしてきた二人が、帝国ガリアの大地で対峙する。
この場所で壮絶な戦いがあったことは、周囲を観察すれば誰にでも理解することができた。ライガたちが辿り着いた時、その戦いは最悪の形で決着を迎えていたのだ。
――ユイのか細い腕が航大の胸を貫いていた。
あまりにも酷な現実を前に、ライガたちは言葉を失い、その場に立ち尽くすことしか出来ないのであった。
「ふむ、いくら帝国騎士といえど……戦士の戦いを邪魔するのは許されることではない」
航大とユイを助けに帝国ガリアへと侵入を果たしたライガたち一行。
数多の激闘を経て、いよいよライガたちは帝国ガリアの王城が存在する、第三層へと到達を果たしていた。目的を果たすまでもう少し……といったところで、ライガたちの前に姿を現したのが、ガリアでは帝国騎士の次に高い位にある王城騎士団の人間たちだった。
ライガと対峙するのは巨大なランスを装備し、全身を分厚い鎧で纏った老兵・ライアン・グレイ。
エレスとシルヴィアが対峙するのは、あらゆる魔法を模倣する力を持つ騎士・カルロ・リック。
そして北方の賢者・リエルが対峙するのは、猛毒を操る弱気な魔法少女・アリシア・シイナ。
それぞれと激しい戦闘を繰り広げるライガたちであったが、その戦いは予期しない形で終焉を迎えた。王城の方向から響いた声音。それはライガもよく知るものであり、互いの武器を交わしていた老兵・グレイも身体を痙攣させると険しい表情を浮かべて動きを止めた。
「……今はこんなところで戦っている場合じゃない」
「なんだよそれ、どういうことだ……」
「……今すぐに行かなくちゃいけない」
「行かなくちゃって……どこに……」
ライガと老兵・グレイの戦いを止めた帝国騎士。それはガリアへの侵入を助けてくれた褐色の少女・ナタリだった。帝国総統と共に姿を消したはずの少女は、その表情を険しく歪ませながら再びライガの前に姿を現したのだった。
「……行くのは帝国ガリアの闘技場。そこにお兄さんたちが居る」
「航大が……?」
「……とにかく急いで。急がないと手遅れになる」
「手遅れって――ッ!?」
――その瞬間だった。
帝国全土に今までに感じたことのない、強烈な衝撃波がライガたちの身体を貫き広がっていく。帝国に広がっていく力。それはライガもよく知っているものであり、間近で何度も感じてきたものだった。
「……航大?」
強大な力が走ってきた方向に視線を向け、ライガは小さくその名を呟いた。
尋常ではない感覚に、ライガの額に冷や汗が流れる。眼前に立つ少女・ナタリの警告も相まって、ライガは全身を駆け巡る嫌な予感を感じずにはいられない。
「航大と嬢ちゃんに何かあったのか……」
「…………」
ライガの言葉に帝国騎士の少女は何も答えない。
その反応がライガの焦燥感をより煽ることになり、大剣を片手に持った青年は王城騎士団との戦いすらも忘却すると、その場から一歩を踏み出していく。
「……ライガッ!」
「ライガさんッ!」
今、まさにライガが走り出そうとした瞬間だった。
帝国ガリア第三層で別の王城騎士と戦っていたはずの、エレスとシルヴィアが必死の形相で走ってくる。エレスの片腕には、四肢をぐったりさせている北方の賢者・リエルの姿もあり、三人の姿を見てライガは安堵する。
「みんな無事だったかッ!?」
「うん。リエルはちょっと大丈夫そうじゃないけど、こっちはなんとか無事」
「それよりも、ライガさん……さっきのは感じましたね?」
互いの無事を確認するのもそこそこに、この中で一際魔法に関して敏感であるエレスが険しい表情でライガに帝国を襲った衝撃について確認してくる。
「はぁ、はあぁッ……くッ……あ、あれは……主様のもので間違いない……」
「リエル……お前、意識あったのか……」
「……当たり前じゃ。あれくらいでは儂は死なん」
「そんなことは後でいいのッ! ライガ、早く行かないとッ!」
苦しげなリエルの身を案じるよりも先に、シルヴィアはその表情を痛いくらいに歪ませると息を切らしながら次の行動を急かしてくる。
「……何か嫌な予感がします。急ぎましょう」
エレスの言葉にシルヴィアとリエルが頷く。
「……俺たちは先を行く。お前との決着はまた今度だ」
「ふん、どちらにしろ帝国騎士の命令では、逆らうことは出来ない。勝手にするがいい」
ライガの視線の先。
そこにはつい先程まで生死を賭けた戦いを演じた老兵の姿がある。
納得はしていない様子であったが、老兵・グレイは己が持っていた武器を下ろすとつまらなさそうに一言呟く。
「……すまねぇ」
最後にそんな一言を残し、ライガたちは帝国ガリアの王城ではなく、そのすぐ近くに存在する闘技場へと走り出す。その先に何が待ち受けているのか、息を切らして走るライガたちはまだその全容を知らない。
心臓が早鐘を打つ焦燥感の中、とにかく一秒でも早く現場へ駆けつけようと走り続けるのであった。
◆◆◆◆◆
「……どういうおつもりですかな?」
「…………」
「彼らは侵入者。帝国ガリアの人間として、始末しなければならない存在であるはず」
「…………」
「我々は持てる力を出し、彼らを抹殺しようとした。しかしそれを、この国において総統の次に権力を持つ貴方が制止した。この行動が持つ意味を、貴方は理解しておられるのか?」
「……今回の失態。それは全て私の責任にしていい」
「…………」
ライガたちが去った後、帝国ガリア第三層に残ったのは帝国騎士の少女・ナタリと、王城騎士団の老兵・グレイの二人だった。
異様な静寂が包む場において、老兵・グレイは険しい目つきで上級の人間である帝国騎士の少女・ナタリを睨みつけていた。それは、彼女が帝国の人間としてあるまじき行動に出た事実を追求するものであり、老兵が放つ言葉にナタリは返す言葉もない。
「ふぅ……やはり、帝国騎士の人間が考えることは理解に苦しむ。何故、貴方のような絶対の力を持つ人間が、敵国の人間に力を貸そうとするのか……」
「…………」
「……この期に及んで沈黙を選ぶということか。もういい、私はこれで失礼する」
苦しげな表情を浮かべて沈黙を選ぶナタリとこれ以上の会話は無駄であると判断した老兵・グレイは、最後にため息を漏らすとガリア王城へ向けて歩き出す。
その後ろ姿をナタリは見送ることしか出来ない。
グレイの姿が完全に視界から消えると、ナタリはその表情を苦しげに歪ませてある方向に意識を向ける。それはライガたちが走っていった方向であり、その先には彼女が助けると約束した少年少女が居る。
「……ごめんなさい。私に出来るのはここまで」
少女が呟く謝罪の言葉。
しかしそれは、誰にも届くことなく虚空へと消えていく。
――帝国騎士の少女。
これが彼女が人間らしい感情を見せる最後の瞬間。
しばらくの間、少女は目を閉じ祈る。
――どうか、彼らに救いと希望がありますように。
◆◆◆◆◆
「はぁッ、はあぁッ……」
「本当にこっちで合ってるのッ!?」
「主様の気配がする……間違いないッ!」
「ライガさん、もう少しだけ急ぎましょう」
帝国騎士・ナタリの助けにより、王城騎士団との戦いを終えたライガ、リエル、シルヴィア、エレスの四人は、帝国ガリア第三層をひたすらに疾走していた。ライガたちが向かうのは、異常な魔力の衝突が見られたポイント。ナタリの言葉によれば、そこは帝国ガリアに存在する闘技場とのことであり、よく見知った力がぶつかり合っている瞬間を肌に感じながら、ライガたちの足は無意識の内に早くなっていく。
「くそッ……何がどうなってんだよッ……」
「この感じ……最悪な予感があるのだとすれば、あの二人が戦っている……ということになりますかね」
「だから、どうしてそんなことになってるのかって聞いてんだよッ!」
「ライガッ、そんなのみんなが知ってる訳ないでしょ。今はとにかく急ぐのッ!」
「くそがッ……!」
歩を進めれば進めるほどに全身を包み込む異様な魔力が濃くなっていく。
肌に感じる空気が急激に冷え込んでいて、気付けば吐き出される吐息も白く濁るようになっていた。
「見えてきましたよ。あれが闘技場でしょう」
「魔力がすごく濃い……間違いないよ、あそこに二人が居るッ!」
溢れ出す膨大な魔力は、周囲の環境を劇的に変化させていた。
帝国ガリアは温暖な気候にある国であるというのに、闘技場周辺は真冬並の気温に支配されている。周囲に生い茂る木々は凍りついており、その事実が闘技場で起きている異変の大きさを如実に物語っていた。
「急ぐぞッ!」
ライガの言葉に全員が頷く。
闘技場までの距離は短い。
その先にどんな光景が待ち受けているかも知らず、ライガたちはただひたすらに走り続けるのであった。
◆◆◆◆◆
「――――」
あまりにも長かった旅が終わりを迎えようとしていた。
アステナ王国での死闘から続く形で、帝国ガリアへとやってきたライガ、リエル、シルヴィア、エレスの四人。彼らの目的はガリアへ拉致された、神谷航大と白髪の少女・ユイを救出することにあった。
様々な戦いを経たライガたちの眼前に、その姿は確かに存在していた。
「なんだよ、あれ……」
闘技場の中に広がる光景を見て、ライガが呆然とした様子で一言呟く。
しかし、その言葉に反応を示す者はいない。
全員が眼前に広がる光景を信じることが出来ず、目を見開かせて絶句している。
「どうして……どうして、あいつらが……戦ってるんだよ……」
闘技場の中心。
そこには二つの人影が存在していて、その姿はライガたちがよく知るものだった。
二つの影はそれぞれが一つに融合を果たそうとしているかのように、接近しており片方の腕が対峙する相手の身体を貫いていた。
水色の髪を風に靡かせるのは、異世界へと召喚された少年・航大。
そして、航大と対峙しているのは純白の白髪に黒髪を混じらせた少女・ユイ。
どんな時でも共に時間を過ごしてきた二人が、帝国ガリアの大地で対峙する。
この場所で壮絶な戦いがあったことは、周囲を観察すれば誰にでも理解することができた。ライガたちが辿り着いた時、その戦いは最悪の形で決着を迎えていたのだ。
――ユイのか細い腕が航大の胸を貫いていた。
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