終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章29 【帝国終結編】帝国ガリア第二層・攻略戦
「こうして、帝国ガリアへ招かれざる客が来るのは、いつ振りだろうな?」
「…………」
「これまでも、数え切れない輩が命を狙って来たものだ。しかし、第二層を通過した者は居ないがな」
「…………」
「どうした、ナタリよ。浮かない顔だ」
「……ううん、そんなことはない」
「……私に嘘は通じないぞ?」
「…………」
「どれだけの時間、お前を見ていたと思う?」
「…………」
「まぁいい。私はお前の全てを許そう。お前は世界を手中に収めるために、最も必要なピースなのだからな」
――場所は帝国ガリアの王城。
ネッツと別れ、ガリアとナタリの二人は静かな王城の廊下を歩いている。ガリアの言葉にナタリは言葉少なく反応を返すだけ。そんな様子も気にしたことではないと、ガリアはやはりその顔に笑みを浮かべ続けている。
「……ガリア様、私は少し別件があるので」
「……そうか。ならば行ってくるがいい」
――ナタリの言葉を、ガリアは決して拒絶しない。
仮に全てを見透かしていたとしても、それが自分に対して不利益に働くものであったとしても、帝国ガリアを統べる男は、褐色の少女が起こす行動、願いを拒絶しない。
「……それじゃ、失礼します」
一秒でも早くこの場から立ち去りたいと願うナタリの様子を、ガリアは咎めることはない。遠くなる少女の背中を見て、ガリアは再び笑みを浮かべている。
「親の気持ちというものは、中々理解されぬものだな」
その呟きを聞く者はいない。
ガリアは小さく溜息を漏らすと、再び歩き出す。
彼は帝国ガリアにおいて絶対の存在である。
そんな男でも思うようにならないものは存在するのであった。
◆◆◆◆◆
「……なんか、異様に人が少ないな」
「帝国ガリアって聞いて警戒してたけど、実際はそうでもない感じだよね」
「……このまま、行ってくれればいいですけどね」
「はぁ……すぐに油断するのは、このパーティの悪いところじゃな」
――帝国ガリア・第二層。
そこはちょっとした住宅街となっており、帝国において中流以上の人間だけが住まうことを許された場所であった。一番最初に足を踏み入れた区画。それはガリアにおいて最下層と呼ばれる場所であり、肉体労働を強制される貧民が住まう区画だった。
「ここに住んでる人は裕福な感じなんだね」
「この時代にここまで露骨な階級制度が存在しているとは……全く、嘆かわしい限りじゃ」
ナタリが残した認識阻害のマントに身を包み、第二層の住宅街を進むライガたち一行。
第二層では帝国兵士たちの姿を見かけるようになったが、マントの効果があるおかげで気付かれることはない。第三層へ通じる城門はすぐそこにまで迫っており、ちょっとしたトラブルはあったものの、全体的に見れば順調であると言えた。
「それにしても、人が少ないってのもあるけど……王城が近いのに兵士の数も少なくない?」
「まぁ、言われてみれば……」
注意深く周囲を観察するシルヴィアの言葉に、一同も抱えていた違和感から首を縦に振って賛同する。ガリアの第一層を通過する際、周囲には多数の帝国兵士が存在していた。しかしそれも、第二層に来てからは一変して一般人の姿がメインとなっていた。
本来であるならば、王城へ近づく度に兵士の数が増えていくのが当然であると言えるのだが、それが今では違っていた。
「うーん、やっぱりなんか嫌な予感がするんだよねー」
「はい。私もそれは薄々感じていました」
得体の知れない違和感に首を傾げるシルヴィアに、エレスもまた顎に手を当てて賛同してくる。それは先ほどの客車の中でも見られた光景だった。
「おい、だから……そんな縁起の悪いことは――」
「ライガよ、どうやら嫌な予感というのは当たっていたらしいぞ」
「……マジか?」
ライガたちの向かう先、王城へ通じる第二層と第三層を隔てる城門。
そこには数えるのも億劫になる数の帝国兵士たちが存在していた。その視線はバッチリとライガたちを捉えており、認識阻害のマントが持つ効能が効いていないことを如実に物語っていた。
「招かれざる客人よ、大人しく拘束されてもらおう。抵抗するというのなら、こちらも武力を持って君たちを制圧する」
「……だって、ライガ」
「らしいぞ、ライガ」
「周囲を囲まれてるようです、ライガさん」
「…………お前らなぁ」
第二層に兵士の数が少なかったのは、ライガたちをこの場におびき寄せる罠だった。そんなことを露ほども知らず、ライガたちは見事に罠へと嵌ってしまった訳である。
「しょうがねぇな。ちょいと予定よりは早いけど……暴れるぜ」
「ふん、こっちはいつでも準備万端じゃ」
「うん。私の方もいつでもおーけーって感じ」
「良い準備運動にはなりそうですね」
マントを脱ぎ、それぞれ武器を手にするライガたち一行。
対する帝国兵士は数百を越える数の編成である。
「うーん、あの数……一人、百人くらいはノルマだな」
「ふん、百程度の雑魚……問題にはならぬ」
「さっさと片付けちゃお」
「……貴方たちと居ると飽きませんね、色々と」
無数に存在する帝国兵士たちを前にしても、ライガたちは一切の気後れを見せることはない。
「よーし、それじゃ行くぜッ!」
ライガの声を合図にリエル、シルヴィア、エレスの三人は一斉に散開する。
それに少し遅れる形でライガも飛ぶ。向かう先には無数の帝国兵士。
帝国ガリア王城を目指す最初で最大の戦いは、静かに火蓋を切るのであった。
◆◆◆◆◆
「おらあああああああぁぁぁぁッ!」
「――武装魔法・氷拳剛打ッ」
「――剣姫覚醒ッ!」
「輝け宝石・水流鞭剣ッ」
帝国ガリアの第二層。
王城が存在する第三層への最後の砦であるこの場所で、ライガたち一行は無数の帝国兵士たちと激闘を繰り広げていた。
順調に進むライガたちは罠に嵌り、数百を越える兵士たちとの戦いを余儀なくされていた。しかし、ライガたちは無数の兵士たちを前にしても、臆することなく正面から戦いを挑んでいる。
「次々ぃッ!」
「ライガッ、あまり考えなしに攻撃するんじゃないッ!」
「えっ、なんで……?」
「お主の風がこっちまで吹いてきて、戦いの邪魔じゃッ……!」
大剣が纏う暴風を力任せにぶつけていくライガ。
両腕に氷の腕を装備して、賢者としての力をいかんなく発揮していくリエル。
二人が攻撃を仕掛ける度に、十人単位で兵士たちが吹き飛んでいく。
「えいッ、やぁッ、とぉッ……!」
「まとめて、眠っててもらえますか?」
派手な攻撃を振るうライガとリエルとは違い、地味ながらも着実に兵士を倒していくのがシルヴィアとエレスの二人だった。
戦場を踊るようにして宙を舞うと、その手に持った武器で次々に兵士たちを倒していく。
圧倒的な数の不利な戦いにおいても、ライガたちはこれまで積み重ねてきた経験を糧にして圧巻のパフォーマンスを見せていく。
「がっはっはッ、これなら余裕だなッ!」
「確かにッ、やっぱり帝国ガリアって名前にビビってただけなんだってッ!」
ノリノリな様子で攻撃を続けるライガとシルヴィア。
「うむ……」
「些か、順調過ぎる気がしますね」
そんな二人と相反して、リエルとエレスの表情は冴えない。
「どうしたんだよ?」
「やはり、なんか順調過ぎる気がしてるのじゃ」
「いや、こんなもんだろ?」
「儂たちの存在に気付き、こうして罠を仕掛けた……ここまではいいんじゃが、この程度の兵士しか用意していないのが気になる」
「そうですね。本気で侵入者を仕留めるつもりなら、もっと実力者を寄こしても良い気がしますね」
一度、感じてしまった違和感は徐々に余波を大きくしていく。
「ってことは、この場所には要らない兵士しか居ないってことか?」
「そんなこと――ッ」
「――ッ!?」
シルヴィアが声を漏らした瞬間だった。
突如として、ライガたちが存在する第三層の城門周辺を異様な『重力』が襲い掛かってきた。
それは一瞬にしてライガたちの身体を地面に張り付かせ、身動きを取れなくしていく。
「なんだよ、コレッ!?」
「上じゃッ!」
リエルが見上げる先、そこには紫色をした巨大な光球が浮遊していた。
「なに、あれ……?」
「見たことのない魔法ですね……」
「アレが異常な重力を発している正体じゃ。全員、いいから全力でこの場から離れるんじゃッ!」
「んなこと言われてもッ……動けねぇぞッ……」
「それでも動くんじゃッ……じゃなければ、儂たちは即死だぞッ!?」
リエルの言葉にライガたちの表情が一変する。
周囲を見渡せば、そこにはライガたちの同じように地面に倒れ伏している帝国兵士たちの姿があった。
「まさか、自分たちの兵士たちを犠牲にしてまで……?」
「ライガッ、お主の風……使えぬかッ!?」
「あ、あぁッ……」
頭上に浮遊している紫の光球が少しずつ落下を始める。
光球が近づく度にライガたちを襲う超重力は強くなるばかりであり、アレと接触したらヤバイと脳が危険信号を鳴らしている。
「風牙あああああぁぁぁぁッ!」
地面に叩きつけるようにして、ライガが暴風を発生させる。
すると、強くなる重力の中においてもライガの身体が移動を始め、器用に攻撃を繰り返すことで向きを変えると、近くに転がっていたリエルたち全員をなんとか回収する。
「ま、間に合うのかッ……コレッ……!?」
「間に合わせるんじゃッ、ライガッ!」
「ひ、ひえええぇー、どんどん近づいてくるうぅッ!?」
「くッ……コレほどまでの重力ッ……息をすることもッ……」
第二層の一部を丸々と飲み込むほどに成長した光球は、あらゆるものを破壊しながら落下を続ける。地面が抉れ、周囲に存在しているあらゆる物体が圧縮されていく。
「クソ野郎がああああああああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!」
ライガは最後の力を振り絞り、ありったけの暴風を発生させる。
その結果、ライガたちはなんとか光球との接触を避けることに成功し、その身体を第三層へと滑り込ませていく。
「――――――」
その直後、ライガたちが戦っていた第二層の一部に光球が着弾し、次の瞬間に爆ぜる。
数百を越える帝国兵士たちは、人智を超える重力を前にして跡形もなく消失した。
断末魔の声を上げることも許されず、兵士たちは瞬く間の内に絶命する。
「なんだよ、コレ……」
「…………」
「自分たちの兵士だろ……? 自分たちの国民だろ……?」
「……こんなことが出来るのは、帝国ガリアの総統……くらいじゃろうな」
「ふざけんなよ、クソがッ」
「怒る気持ちも分かる。しかし、まだまだ戦いは続くようじゃぞ?」
「うひゃー、明らかにさっきよりも――強そう」
自分たちの国を守る兵士をゴミ同然に扱った帝国ガリアへの怒りもそこそこに、第三層・王城前へと辿り着いたライガたちを待ち受けていたのは、将校を始めとする役職付きの兵士たちだった。
「絶対に許さねぇ……帝国ガリアあああああああああああぁぁぁぁぁッ!」
目の前で無残にも命を散らした帝国兵士たちの姿はどこにもない。
彼らにも『家族』が居たはずである。自分が生まれ育った帝国に仕えた結果がこれでは、あまりにも兵士たちが報われない。
溢れ出る怒りを力に変え、ライガは吠える。
帝国ガリア第二層攻略戦。
それはあまりにも予想外な、そして残酷な形で幕を閉じた。
そして新たに始まる第三層攻略戦。
ライガたちはそれぞれが抱える怒りを胸に一歩を踏み出すのであった。
「…………」
「これまでも、数え切れない輩が命を狙って来たものだ。しかし、第二層を通過した者は居ないがな」
「…………」
「どうした、ナタリよ。浮かない顔だ」
「……ううん、そんなことはない」
「……私に嘘は通じないぞ?」
「…………」
「どれだけの時間、お前を見ていたと思う?」
「…………」
「まぁいい。私はお前の全てを許そう。お前は世界を手中に収めるために、最も必要なピースなのだからな」
――場所は帝国ガリアの王城。
ネッツと別れ、ガリアとナタリの二人は静かな王城の廊下を歩いている。ガリアの言葉にナタリは言葉少なく反応を返すだけ。そんな様子も気にしたことではないと、ガリアはやはりその顔に笑みを浮かべ続けている。
「……ガリア様、私は少し別件があるので」
「……そうか。ならば行ってくるがいい」
――ナタリの言葉を、ガリアは決して拒絶しない。
仮に全てを見透かしていたとしても、それが自分に対して不利益に働くものであったとしても、帝国ガリアを統べる男は、褐色の少女が起こす行動、願いを拒絶しない。
「……それじゃ、失礼します」
一秒でも早くこの場から立ち去りたいと願うナタリの様子を、ガリアは咎めることはない。遠くなる少女の背中を見て、ガリアは再び笑みを浮かべている。
「親の気持ちというものは、中々理解されぬものだな」
その呟きを聞く者はいない。
ガリアは小さく溜息を漏らすと、再び歩き出す。
彼は帝国ガリアにおいて絶対の存在である。
そんな男でも思うようにならないものは存在するのであった。
◆◆◆◆◆
「……なんか、異様に人が少ないな」
「帝国ガリアって聞いて警戒してたけど、実際はそうでもない感じだよね」
「……このまま、行ってくれればいいですけどね」
「はぁ……すぐに油断するのは、このパーティの悪いところじゃな」
――帝国ガリア・第二層。
そこはちょっとした住宅街となっており、帝国において中流以上の人間だけが住まうことを許された場所であった。一番最初に足を踏み入れた区画。それはガリアにおいて最下層と呼ばれる場所であり、肉体労働を強制される貧民が住まう区画だった。
「ここに住んでる人は裕福な感じなんだね」
「この時代にここまで露骨な階級制度が存在しているとは……全く、嘆かわしい限りじゃ」
ナタリが残した認識阻害のマントに身を包み、第二層の住宅街を進むライガたち一行。
第二層では帝国兵士たちの姿を見かけるようになったが、マントの効果があるおかげで気付かれることはない。第三層へ通じる城門はすぐそこにまで迫っており、ちょっとしたトラブルはあったものの、全体的に見れば順調であると言えた。
「それにしても、人が少ないってのもあるけど……王城が近いのに兵士の数も少なくない?」
「まぁ、言われてみれば……」
注意深く周囲を観察するシルヴィアの言葉に、一同も抱えていた違和感から首を縦に振って賛同する。ガリアの第一層を通過する際、周囲には多数の帝国兵士が存在していた。しかしそれも、第二層に来てからは一変して一般人の姿がメインとなっていた。
本来であるならば、王城へ近づく度に兵士の数が増えていくのが当然であると言えるのだが、それが今では違っていた。
「うーん、やっぱりなんか嫌な予感がするんだよねー」
「はい。私もそれは薄々感じていました」
得体の知れない違和感に首を傾げるシルヴィアに、エレスもまた顎に手を当てて賛同してくる。それは先ほどの客車の中でも見られた光景だった。
「おい、だから……そんな縁起の悪いことは――」
「ライガよ、どうやら嫌な予感というのは当たっていたらしいぞ」
「……マジか?」
ライガたちの向かう先、王城へ通じる第二層と第三層を隔てる城門。
そこには数えるのも億劫になる数の帝国兵士たちが存在していた。その視線はバッチリとライガたちを捉えており、認識阻害のマントが持つ効能が効いていないことを如実に物語っていた。
「招かれざる客人よ、大人しく拘束されてもらおう。抵抗するというのなら、こちらも武力を持って君たちを制圧する」
「……だって、ライガ」
「らしいぞ、ライガ」
「周囲を囲まれてるようです、ライガさん」
「…………お前らなぁ」
第二層に兵士の数が少なかったのは、ライガたちをこの場におびき寄せる罠だった。そんなことを露ほども知らず、ライガたちは見事に罠へと嵌ってしまった訳である。
「しょうがねぇな。ちょいと予定よりは早いけど……暴れるぜ」
「ふん、こっちはいつでも準備万端じゃ」
「うん。私の方もいつでもおーけーって感じ」
「良い準備運動にはなりそうですね」
マントを脱ぎ、それぞれ武器を手にするライガたち一行。
対する帝国兵士は数百を越える数の編成である。
「うーん、あの数……一人、百人くらいはノルマだな」
「ふん、百程度の雑魚……問題にはならぬ」
「さっさと片付けちゃお」
「……貴方たちと居ると飽きませんね、色々と」
無数に存在する帝国兵士たちを前にしても、ライガたちは一切の気後れを見せることはない。
「よーし、それじゃ行くぜッ!」
ライガの声を合図にリエル、シルヴィア、エレスの三人は一斉に散開する。
それに少し遅れる形でライガも飛ぶ。向かう先には無数の帝国兵士。
帝国ガリア王城を目指す最初で最大の戦いは、静かに火蓋を切るのであった。
◆◆◆◆◆
「おらあああああああぁぁぁぁッ!」
「――武装魔法・氷拳剛打ッ」
「――剣姫覚醒ッ!」
「輝け宝石・水流鞭剣ッ」
帝国ガリアの第二層。
王城が存在する第三層への最後の砦であるこの場所で、ライガたち一行は無数の帝国兵士たちと激闘を繰り広げていた。
順調に進むライガたちは罠に嵌り、数百を越える兵士たちとの戦いを余儀なくされていた。しかし、ライガたちは無数の兵士たちを前にしても、臆することなく正面から戦いを挑んでいる。
「次々ぃッ!」
「ライガッ、あまり考えなしに攻撃するんじゃないッ!」
「えっ、なんで……?」
「お主の風がこっちまで吹いてきて、戦いの邪魔じゃッ……!」
大剣が纏う暴風を力任せにぶつけていくライガ。
両腕に氷の腕を装備して、賢者としての力をいかんなく発揮していくリエル。
二人が攻撃を仕掛ける度に、十人単位で兵士たちが吹き飛んでいく。
「えいッ、やぁッ、とぉッ……!」
「まとめて、眠っててもらえますか?」
派手な攻撃を振るうライガとリエルとは違い、地味ながらも着実に兵士を倒していくのがシルヴィアとエレスの二人だった。
戦場を踊るようにして宙を舞うと、その手に持った武器で次々に兵士たちを倒していく。
圧倒的な数の不利な戦いにおいても、ライガたちはこれまで積み重ねてきた経験を糧にして圧巻のパフォーマンスを見せていく。
「がっはっはッ、これなら余裕だなッ!」
「確かにッ、やっぱり帝国ガリアって名前にビビってただけなんだってッ!」
ノリノリな様子で攻撃を続けるライガとシルヴィア。
「うむ……」
「些か、順調過ぎる気がしますね」
そんな二人と相反して、リエルとエレスの表情は冴えない。
「どうしたんだよ?」
「やはり、なんか順調過ぎる気がしてるのじゃ」
「いや、こんなもんだろ?」
「儂たちの存在に気付き、こうして罠を仕掛けた……ここまではいいんじゃが、この程度の兵士しか用意していないのが気になる」
「そうですね。本気で侵入者を仕留めるつもりなら、もっと実力者を寄こしても良い気がしますね」
一度、感じてしまった違和感は徐々に余波を大きくしていく。
「ってことは、この場所には要らない兵士しか居ないってことか?」
「そんなこと――ッ」
「――ッ!?」
シルヴィアが声を漏らした瞬間だった。
突如として、ライガたちが存在する第三層の城門周辺を異様な『重力』が襲い掛かってきた。
それは一瞬にしてライガたちの身体を地面に張り付かせ、身動きを取れなくしていく。
「なんだよ、コレッ!?」
「上じゃッ!」
リエルが見上げる先、そこには紫色をした巨大な光球が浮遊していた。
「なに、あれ……?」
「見たことのない魔法ですね……」
「アレが異常な重力を発している正体じゃ。全員、いいから全力でこの場から離れるんじゃッ!」
「んなこと言われてもッ……動けねぇぞッ……」
「それでも動くんじゃッ……じゃなければ、儂たちは即死だぞッ!?」
リエルの言葉にライガたちの表情が一変する。
周囲を見渡せば、そこにはライガたちの同じように地面に倒れ伏している帝国兵士たちの姿があった。
「まさか、自分たちの兵士たちを犠牲にしてまで……?」
「ライガッ、お主の風……使えぬかッ!?」
「あ、あぁッ……」
頭上に浮遊している紫の光球が少しずつ落下を始める。
光球が近づく度にライガたちを襲う超重力は強くなるばかりであり、アレと接触したらヤバイと脳が危険信号を鳴らしている。
「風牙あああああぁぁぁぁッ!」
地面に叩きつけるようにして、ライガが暴風を発生させる。
すると、強くなる重力の中においてもライガの身体が移動を始め、器用に攻撃を繰り返すことで向きを変えると、近くに転がっていたリエルたち全員をなんとか回収する。
「ま、間に合うのかッ……コレッ……!?」
「間に合わせるんじゃッ、ライガッ!」
「ひ、ひえええぇー、どんどん近づいてくるうぅッ!?」
「くッ……コレほどまでの重力ッ……息をすることもッ……」
第二層の一部を丸々と飲み込むほどに成長した光球は、あらゆるものを破壊しながら落下を続ける。地面が抉れ、周囲に存在しているあらゆる物体が圧縮されていく。
「クソ野郎がああああああああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!」
ライガは最後の力を振り絞り、ありったけの暴風を発生させる。
その結果、ライガたちはなんとか光球との接触を避けることに成功し、その身体を第三層へと滑り込ませていく。
「――――――」
その直後、ライガたちが戦っていた第二層の一部に光球が着弾し、次の瞬間に爆ぜる。
数百を越える帝国兵士たちは、人智を超える重力を前にして跡形もなく消失した。
断末魔の声を上げることも許されず、兵士たちは瞬く間の内に絶命する。
「なんだよ、コレ……」
「…………」
「自分たちの兵士だろ……? 自分たちの国民だろ……?」
「……こんなことが出来るのは、帝国ガリアの総統……くらいじゃろうな」
「ふざけんなよ、クソがッ」
「怒る気持ちも分かる。しかし、まだまだ戦いは続くようじゃぞ?」
「うひゃー、明らかにさっきよりも――強そう」
自分たちの国を守る兵士をゴミ同然に扱った帝国ガリアへの怒りもそこそこに、第三層・王城前へと辿り着いたライガたちを待ち受けていたのは、将校を始めとする役職付きの兵士たちだった。
「絶対に許さねぇ……帝国ガリアあああああああああああぁぁぁぁぁッ!」
目の前で無残にも命を散らした帝国兵士たちの姿はどこにもない。
彼らにも『家族』が居たはずである。自分が生まれ育った帝国に仕えた結果がこれでは、あまりにも兵士たちが報われない。
溢れ出る怒りを力に変え、ライガは吠える。
帝国ガリア第二層攻略戦。
それはあまりにも予想外な、そして残酷な形で幕を閉じた。
そして新たに始まる第三層攻略戦。
ライガたちはそれぞれが抱える怒りを胸に一歩を踏み出すのであった。
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