終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~

桜葉

第四章27 【帝国終結編】決意と覚悟

「……航大とユイ。二人を助ける手助けを私がする」

 ライガ、リエル、シルヴィア、エレスの四人はマガン大陸に上陸を果たし、軍港の街・ズイガン、灼熱と氷獄の大地を切り抜けた結果に帝国ガリアへと到達した。しかし、そこで待ち受けていたものは帝国ガリアの騎士である少女だった。

 ――漆黒の髪に褐色の肌。

 まだ年若い少女が帝国騎士である事実に驚きを隠せないライガたちであったが、帝国兵士を自由に使うことができる権限と、少女から発せられる異様な雰囲気に、ライガたちは彼女が帝国の人間であることを無理矢理納得させる。

「どうして帝国の騎士が私たちの手助けをするの? それってかなり怪しくない?」

「……まぁ、普通に考えるならそういうことになりますね」

 帝国ガリアの城下町。
 その隅に存在する一際大きな洋館の中にライガたちは居る。

 少女からは敵意のようなものを感じることはできない。しかし、それでも相手は帝国ガリアの騎士である。その残忍さをよく知っているからこそ、エレスとシルヴィアの二人は褐色の少女を信用することができなかった。

「俺たちだってまだ信用した訳じゃない」

「そうじゃな。結局のところ、儂たちを助けるといってもどうするつもりなのかは分からぬ」

 険しい顔をしているエレスとシルヴィアの他に、ライガとリエルもまた少女へ怪訝そうな表情を向ける。

「さて、二人が合流したら色々と話を聞かせてくれるんだよな?」

「儂たちはあまりゆっくりしている時間はない。手短に済ませてくれるかの?」

 ライガたちも帝国騎士の少女が持つ考えをまだ聞いてはおらず、エレスたちとの再会もそこそこに本題へと移っていく。

 帝国騎士である少女が何故、ライガたちを手助けするような真似をするのか。それは帝国への反逆に他ならず、そこまでのリスクを負ってまでどうして助けようと考えたのか。

「……約束だから」

「……約束?」

 少女は相変わらずの無表情、無感情な様子でライガたちの問いかけに答えていく。

 『約束』という言葉に表情を顰めたのは、ライガである。少女の言葉を理解することが出来ず、思わず表情が歪んでしまったのだが、それ以上は何も言うことはなく少女の次の言葉を待つ。

「……私はずっと、この帝国で生活を強いられていた。だから、ずっと外の世界を知りたいって思った。まだ、直接見ることは叶わないけど、それでも私に希望を持たせてくれた」

 洋館の部屋を静寂が支配する中、少女の淡々とした言葉だけがライガたちの鼓膜を震わせた。

「……外の世界を教えてくれたら、脱獄のお手伝いをしてあげるって話だったから」

「ふーむ、よく分かんない奴だな。脱獄を手伝ったら、お前の立場はどうなる?」

「……立場?」

「…………お主は帝国騎士なのだろう?」

「そんな立場の人間が脱獄の手伝いって……もしバレたら、貴方もタダでは済まないはず」

 少女の言葉に、ライガたちがそれぞれ反応を見せる。
 帝国騎士という立場の人間が帝国に反逆することの意味。

 それを問いかけるも、帝国騎士である褐色の少女は目を丸くして首を傾げるだけ。

「……確かに、私は帝国騎士。だから直接的に手助けはできない」

「まぁ、そうでしょうね」

 エレスは顎に手を当てて、何やら思案顔を浮かべている。

「……私が出来る限りの手助けはする。だから、そこから先は貴方たちの実力と……運次第」

「ふむ、運か……」

「……貴方たちがこれから向かう先。そこは帝国ガリアの中枢。更に、今は帝国騎士の全員が帰還している」

「マジかよ。全員、居るのか……」

 少女の言葉にリエルとライガの表情が曇る。エレスとシルヴィア二人も険しい表情を浮かべており、航大たちの奪還作戦を前にして立ち込める暗雲に空気が重くなる。

「……航大は毎日のように拷問を受けてた」

「ご、拷問ッ!?」

 少女の言葉にシルヴィアが目を見開く。

 他の面々も同じであり、数日という時の中で航大が受けた苦しみに思いを馳せると、苦々しい表情を禁じ得ない。

「……それでも、彼は希望を失わなかった。消耗する日々の中で、貴方たちを待っていたからかもしれない」

「…………」

 少女が話す航大と姿に、ライガたちは沈黙を持って思案する。

 そんな沈黙を打ち破るのは、ハイラント王国に伝わる伝説の英雄・グレオの息子であるライガ・ガーランドだった。

「運なんか関係ねぇ。俺たちは航大と嬢ちゃんを助ける。そのためにここまで来たんだ」

「うむ。本来、帝国騎士の力も借りる予定ではなかったしの」

「どんな壁があっても、私たちがやることは変わらないしね」

「私もレイナ王女からの任務ですからね。どこまでも付いていきますよ」

 ライガたちの覚悟は決まった。
 その様子を見て帝国騎士の少女は頷き、再び口を開く。

「……さっきも言ったように、私は帝国騎士だけど動ける範囲は限られる」

「助けれくれるだけ、有り難いって話だ」

「……私が出来ること、それは航大を牢獄から連れ出すことと、貴方たちを帝国ガリアの王城に入れてあげることくらい」

「……え、そこまでしてくれるの?」

 少女の言葉に思わずシルヴィアが目を丸くする。

「……王城に入ったら、周りには敵しかいない。帝国騎士だって遭遇するかもしれない」

「そこまでしてもらえるなら、願ったり叶ったりって奴じゃな」

「その後は俺たちの判断で動く。あんたには迷惑かけないようにする」

「……分かった。それじゃ、作戦の決行は明日の早朝……大丈夫?」

 全員の視線が交錯する。
 それは覚悟の確認である。

 これまで、悪の限りを尽くしてきた帝国ガリアの中枢。異形の力を持った帝国騎士たち。
 その全てが集結する場所での戦いは、激戦必至である。

「全員、それでいいか?」

「うむ。問題ない」
「私も大丈夫ッ!」
「はい。私の方も問題はありません」

 ライガの問いかけに全員が強い決意を浮かべた表情で頷く。
 いよいよ、帝国ガリアへ捕らわれた航大たちの奪還作戦も終局へ差し掛かろうとしていた。

 異なる視点で描かれた物語は再び一つへと合流し、壮絶なる戦いへと身を投じることになるのであった。

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