終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章24 【帝国奪還編】褐色の帝国騎士
「……油断、よくない」
灼熱の炎が支配する異形の大地を抜け、いよいよライガとリエルの二人は帝国ガリアをその視界に収めた。
――時刻は真夜中。
敵の本丸が眼前に存在する中、慎重な行動を求めたライガであったが、北方の賢者であるリエルは賛同しようとしなかった。むしろ、今がチャンスであると正面を切っての侵入作戦を考案し、無謀だと思われたその作戦も結果的には成功するのであった。
「待ち構えてた……ってか?」
「……さすがに、この状況は予想外と言わざるを得んな」
寝静まった深夜の帝国ガリア城下町。
夜でも白煙が町を覆う中、外を出歩く人影は皆無だった。そこまではライガたちにとって願ったり叶ったりな状況であると言えた。
しかし、問題はその直後に確かな形を伴って眼前に現れたのだ。
「……貴方たちは侵入者?」
絶句するライガたちの前に立つのは、小柄な体躯をした少女だった。
純白の生地に金の装飾を散りばめた軍服に身を包んだ少女は、まだ幼い容姿をしており、その身長はライガの胸ほどまでしかない。そんな少女が帝国騎士の衣服に身を包んでいることも驚きだが、ライガとリエルの二人が絶句した本当の意味は、その少女が『ユイ』と瓜二つだったからである。
「なんだこれ、嬢ちゃんとは関係ない……んだよな?」
「そんなこと儂に聞かれても知らぬ。しかし、似すぎているのは間違いない……」
月明かりを浴びて輝く黒髪、褐色の肌など白髪の少女・ユイとは似てない部分も多い。しかし、その整った顔立ちや無表情な顔などで直感的に似ていると感じることが多いのも事実だった。
「……私の質問に答えてくれる?」
「――ッ!?」
ライガたちの前に立ち塞がる少女は、どこまでも無表情に首を傾げると、凍てつく無感情な声音で再度問いかけてくる。
「……俺たちは仲間を助けにきた」
「…………」
「目的を果たせれば、儂たちは暴れることもなく出て行く」
眼前に立つ帝国騎士の少女は今までに見てきたどの騎士よりも――強い。
ここで戦ってはいけない、と本能的に察したライガたちは時間を稼ぎつつ、この状況を打破する術を模索する。しかし、いくら考えたところで有効な手段というのは思い浮かばない。
「……貴方たちを通す訳にはいかない」
「――――ッ!?」
感情が篭っていない少女の声音が響き渡った瞬間、ライガたちを強烈な威圧感が駆け抜けていく。特別、威圧された訳でもないというのに、ライガたちは蛇に睨まれた蛙の如く身動きを取ることができなくなってしまう。
全身から汗が噴き出し、少しでも油断すれば気を失ってしまいそうな感覚に陥る。
それほどにまで、少女とライガたちの間には埋めようのない力量差が存在していることの証明である。
「どうする、リエル……?」
「簡単に逃がしてはくれなさそうじゃ……戦うしかあるまい……」
「戦うって言っても…………俺たちが敵う相手じゃ……」
「それでもじゃ。それでも、戦って勝たなければならぬ」
リエルは自分自身を鼓舞するかのように力強く言葉を発すると、その瞳に強い意志を宿していく。
「確かに、その通りだな……」
隣に立つ少女が戦うというのに、自分だけが逃げることなど出来るはずがない。
ライガもまたその表情に笑みを浮かべると、右手に大剣を握ると、剣先を少女に突きつけていく。
「……私と戦うの?」
覚悟を決め、強い決意を瞳に宿したライガとリエルを前にして、少女はやはり無表情なままで二人の行動が理解できないと首を傾げた。
「……最初から全力で行くぞ、ライガ」
「当たり前だ。手加減して勝てるような相手じゃねぇぜ……」
それぞれの覚悟を胸に、異様な静寂に包まれる帝国ガリアの城下町。
まず最初に動きを見せたのは、北方の賢者・リエルだった。
「――氷槍龍牙ッ!」
自分自身が持ち得る全ての魔力を放出することで、生成されるのは見上げるほど巨大な氷槍。闇夜の中を跳躍し、素早い動きでそれを帝国騎士の少女へ向けて投擲していく。
「――ライガッ、奴に考える暇を与えるなッ!」
「分かって――なッ!?」
城下町に響く声。
リエルは自分の攻撃が当たるとは微塵も思ってはいなかった。それほどまでの劣等感を覚えてしまうほどに、少女が持つ力は強いものであったからだ。
だからこそ、躱されることは織り込み済みでライガも動きを見せていた。
しかし、そんな二人の予測は簡単に裏切られる結果となり、リエルが放った氷系最強魔法の一つである氷槍は、その場に立ち尽くす少女の身体を貫くのであった。
「なんじゃとッ……」
「どんな考えがあるのかは知らねぇけどッ――武装魔法・風装神鬼ッ!」
動揺が走ったのも一瞬であり、少女の身体が瞬時に凍結していく瞬間を見ながらも、ライガは即座に動き出す。その身体に暴風の魔力を纏っていくと、ライガは地面が抉れるほどの速度で飛翔する。
「――烈風風牙ッ!」
右手に握った大剣にありったけの魔力を込めると、それを凍結した少女の身体へと振り下ろしていく。
次の瞬間、城下町に轟音が響き渡るのと同時に大地が大きく揺れ動いた。
目も開けていられない強烈な衝撃が場を支配する中、ライガとリエルは呆気ないほどまでに手応えを感じていた。少女が無意識の内に放っていた威圧感。あれは紛い物だったのではないかと勘ぐってしまうくらいに、帝国騎士との戦いは一瞬の内に終結した――かに思えた。
「やったかッ!?」
「…………」
粉塵が視界を覆う中、ライガは確かな手応えを感じていた。しかし、隣に立つ賢者・リエルの表情だけは冴えない。
「――貴方たちは弱い」
一瞬の静寂が場を支配する中、そんな声音がライガたちの鼓膜を震わせた。
「――ごふッ!?」
瞬間的に『逃げろ』と叫ぼうとしたライガであったが、その言葉が口をついて表に出ることはなかった。それよりも早く、青年の胸を何かが貫いており、ライガは込み上げてくる血液に咳き込みながら――自分の心臓を見つめていた。
「なんだよ、これ……」
「少し、眠ってて……」
ライガの胸を貫いたもの、それは帝国騎士の衣服に身を包む褐色の少女が持つ細い腕だった。少女はライガの胸をいとも容易く貫くと、彼の心臓を握りしめていた。
そして無慈悲なまでに冷酷な声を漏らすと、その心臓を握り潰したのであった。
グチャッと生々しい音が響くのと同時に、ライガの巨体は帝国の大地に倒れていく。その様子をリエルは呆然とした表情で見つめていることしか出来ない。
脳が警告を鳴らしている。今すぐ、この場から逃げろと――しかし、リエルの足は地面に縫い付けられているかのように、一歩も動くことはできない。
「……次は貴方」
「…………」
ライガの体内を流れていた鮮血で右腕を汚した褐色の少女が次に狙うのは、同じくらいの体躯をした北方の賢者・リエル。鮮血の水溜りを踏みしめ、一歩ずつ近づいてくる異形の存在を前にして、彼女の足は竦んで固まってしまう。
「……少しだけ眠っててもらうだけだから」
「――ッ!?」
帝国騎士の少女との距離はまだあったはずだった。
しかし、リエルが瞬きをした次の瞬間――帝国騎士の衣服に身を包んだ褐色の少女が眼前に存在していて、無情にもリエルの首を吹き飛ばしていたのであった。
こうして、ライガとリエルが決死の思いで侵入を果たした帝国ガリアでの時間は、あまりにも呆気なく終焉を迎えるのであった。
◆◆◆◆◆
「――うわあああああああぁぁぁッ!?」
叫び声と共にライガは目を覚ます。そしてすぐさま上半身を起こすと、自分の身体を入念に確認する。ライガが持つ最後の記憶。それは帝国騎士の少女に胸を貫かれた城下町での光景だった。
「はぁ、はあぁ、はぁ……俺、生きてるのか……?」
全身にビッシリと汗をかいたライガは、自分の身体が無事であることを確認すると、ほっと安堵のため息を漏らす。それと同時に、脳裏へ蘇ってくるのは城下町での出来事だった。
――あの瞬間、ライガは確かに死んでいた。
全身からあらゆるものが喪失していく感覚。あれが夢であったと断言するのは難しい。
「ここはどこだ……ったく、一体全体どうなってんだよ……」
ライガは自分がどこかの部屋で眠っていたことを理解する。
周囲を見渡すと、そこは豪華な装飾が施された洋風の部屋であった。
全く見覚えのない部屋で寝かされていたライガ。どうしてこんなことになっているのか、ライガは全く理解することが出来ずに首を傾げることしか出来ない。
「変な声がしたかと思えば、ようやく起きたか」
「あッ、リエルッ!?」
一人で混乱していると、小柄な少女が部屋に入ってくるのが分かった。
それはライガと共に城下町で戦っていた賢者・リエルであって、少女はその表情に笑みを浮かべると、ゆっくりとした動きで足を踏み出していく。
「リエルッ、これはどういうことなんだよッ……どうして俺たちは生きてるんだ?」
「……ふむ、そこに関しては儂もまだ詳しくは聞いていないのじゃ」
「聞いてないってどういうこと――ッ!?」
部屋に入ってくるリエルのすぐ後、部屋に入ってくるもう一つの人影があった。
それはリエルと同じくらいの体躯をしていて、漆黒の髪に褐色の肌が印象的な帝国騎士の少女だった。
城下町へ侵入したライガたちをあっさりと撃退した少女の姿を見て、ライガの警戒心が一気に最高潮まで高まっていく。
「なんでコイツがッ!?」
「……ここは私の家だから」
「家ッ!? なんで、俺たちがお前の家で寝てるんだよッ!」
「……それは貴方たちがお兄さんとお姉さんの仲間だと思ったから、連れてきた」
「お兄さん、お姉さん?」
「そう。航大とユイ……こう呼べば分かる?」
「――ッ!?」
少女がその名前を口にした瞬間、ライガとリエルの表情が驚愕に染まる。
「……あの二人を助けるなら、それに私は協力する」
「はッ、えっ…………あっ?」
「なんで、帝国騎士であるお主がそんなことをする?」
褐色の少女が漏らした言葉をにわかに信じられないライガとリエルは、疑惑の表情を浮かべざるを得ない。
「……あの二人を助ける。それが約束だから」
どこまでも無表情に、無感情に……帝国騎士の少女は確かにそう呟くのであった。
灼熱の炎が支配する異形の大地を抜け、いよいよライガとリエルの二人は帝国ガリアをその視界に収めた。
――時刻は真夜中。
敵の本丸が眼前に存在する中、慎重な行動を求めたライガであったが、北方の賢者であるリエルは賛同しようとしなかった。むしろ、今がチャンスであると正面を切っての侵入作戦を考案し、無謀だと思われたその作戦も結果的には成功するのであった。
「待ち構えてた……ってか?」
「……さすがに、この状況は予想外と言わざるを得んな」
寝静まった深夜の帝国ガリア城下町。
夜でも白煙が町を覆う中、外を出歩く人影は皆無だった。そこまではライガたちにとって願ったり叶ったりな状況であると言えた。
しかし、問題はその直後に確かな形を伴って眼前に現れたのだ。
「……貴方たちは侵入者?」
絶句するライガたちの前に立つのは、小柄な体躯をした少女だった。
純白の生地に金の装飾を散りばめた軍服に身を包んだ少女は、まだ幼い容姿をしており、その身長はライガの胸ほどまでしかない。そんな少女が帝国騎士の衣服に身を包んでいることも驚きだが、ライガとリエルの二人が絶句した本当の意味は、その少女が『ユイ』と瓜二つだったからである。
「なんだこれ、嬢ちゃんとは関係ない……んだよな?」
「そんなこと儂に聞かれても知らぬ。しかし、似すぎているのは間違いない……」
月明かりを浴びて輝く黒髪、褐色の肌など白髪の少女・ユイとは似てない部分も多い。しかし、その整った顔立ちや無表情な顔などで直感的に似ていると感じることが多いのも事実だった。
「……私の質問に答えてくれる?」
「――ッ!?」
ライガたちの前に立ち塞がる少女は、どこまでも無表情に首を傾げると、凍てつく無感情な声音で再度問いかけてくる。
「……俺たちは仲間を助けにきた」
「…………」
「目的を果たせれば、儂たちは暴れることもなく出て行く」
眼前に立つ帝国騎士の少女は今までに見てきたどの騎士よりも――強い。
ここで戦ってはいけない、と本能的に察したライガたちは時間を稼ぎつつ、この状況を打破する術を模索する。しかし、いくら考えたところで有効な手段というのは思い浮かばない。
「……貴方たちを通す訳にはいかない」
「――――ッ!?」
感情が篭っていない少女の声音が響き渡った瞬間、ライガたちを強烈な威圧感が駆け抜けていく。特別、威圧された訳でもないというのに、ライガたちは蛇に睨まれた蛙の如く身動きを取ることができなくなってしまう。
全身から汗が噴き出し、少しでも油断すれば気を失ってしまいそうな感覚に陥る。
それほどにまで、少女とライガたちの間には埋めようのない力量差が存在していることの証明である。
「どうする、リエル……?」
「簡単に逃がしてはくれなさそうじゃ……戦うしかあるまい……」
「戦うって言っても…………俺たちが敵う相手じゃ……」
「それでもじゃ。それでも、戦って勝たなければならぬ」
リエルは自分自身を鼓舞するかのように力強く言葉を発すると、その瞳に強い意志を宿していく。
「確かに、その通りだな……」
隣に立つ少女が戦うというのに、自分だけが逃げることなど出来るはずがない。
ライガもまたその表情に笑みを浮かべると、右手に大剣を握ると、剣先を少女に突きつけていく。
「……私と戦うの?」
覚悟を決め、強い決意を瞳に宿したライガとリエルを前にして、少女はやはり無表情なままで二人の行動が理解できないと首を傾げた。
「……最初から全力で行くぞ、ライガ」
「当たり前だ。手加減して勝てるような相手じゃねぇぜ……」
それぞれの覚悟を胸に、異様な静寂に包まれる帝国ガリアの城下町。
まず最初に動きを見せたのは、北方の賢者・リエルだった。
「――氷槍龍牙ッ!」
自分自身が持ち得る全ての魔力を放出することで、生成されるのは見上げるほど巨大な氷槍。闇夜の中を跳躍し、素早い動きでそれを帝国騎士の少女へ向けて投擲していく。
「――ライガッ、奴に考える暇を与えるなッ!」
「分かって――なッ!?」
城下町に響く声。
リエルは自分の攻撃が当たるとは微塵も思ってはいなかった。それほどまでの劣等感を覚えてしまうほどに、少女が持つ力は強いものであったからだ。
だからこそ、躱されることは織り込み済みでライガも動きを見せていた。
しかし、そんな二人の予測は簡単に裏切られる結果となり、リエルが放った氷系最強魔法の一つである氷槍は、その場に立ち尽くす少女の身体を貫くのであった。
「なんじゃとッ……」
「どんな考えがあるのかは知らねぇけどッ――武装魔法・風装神鬼ッ!」
動揺が走ったのも一瞬であり、少女の身体が瞬時に凍結していく瞬間を見ながらも、ライガは即座に動き出す。その身体に暴風の魔力を纏っていくと、ライガは地面が抉れるほどの速度で飛翔する。
「――烈風風牙ッ!」
右手に握った大剣にありったけの魔力を込めると、それを凍結した少女の身体へと振り下ろしていく。
次の瞬間、城下町に轟音が響き渡るのと同時に大地が大きく揺れ動いた。
目も開けていられない強烈な衝撃が場を支配する中、ライガとリエルは呆気ないほどまでに手応えを感じていた。少女が無意識の内に放っていた威圧感。あれは紛い物だったのではないかと勘ぐってしまうくらいに、帝国騎士との戦いは一瞬の内に終結した――かに思えた。
「やったかッ!?」
「…………」
粉塵が視界を覆う中、ライガは確かな手応えを感じていた。しかし、隣に立つ賢者・リエルの表情だけは冴えない。
「――貴方たちは弱い」
一瞬の静寂が場を支配する中、そんな声音がライガたちの鼓膜を震わせた。
「――ごふッ!?」
瞬間的に『逃げろ』と叫ぼうとしたライガであったが、その言葉が口をついて表に出ることはなかった。それよりも早く、青年の胸を何かが貫いており、ライガは込み上げてくる血液に咳き込みながら――自分の心臓を見つめていた。
「なんだよ、これ……」
「少し、眠ってて……」
ライガの胸を貫いたもの、それは帝国騎士の衣服に身を包む褐色の少女が持つ細い腕だった。少女はライガの胸をいとも容易く貫くと、彼の心臓を握りしめていた。
そして無慈悲なまでに冷酷な声を漏らすと、その心臓を握り潰したのであった。
グチャッと生々しい音が響くのと同時に、ライガの巨体は帝国の大地に倒れていく。その様子をリエルは呆然とした表情で見つめていることしか出来ない。
脳が警告を鳴らしている。今すぐ、この場から逃げろと――しかし、リエルの足は地面に縫い付けられているかのように、一歩も動くことはできない。
「……次は貴方」
「…………」
ライガの体内を流れていた鮮血で右腕を汚した褐色の少女が次に狙うのは、同じくらいの体躯をした北方の賢者・リエル。鮮血の水溜りを踏みしめ、一歩ずつ近づいてくる異形の存在を前にして、彼女の足は竦んで固まってしまう。
「……少しだけ眠っててもらうだけだから」
「――ッ!?」
帝国騎士の少女との距離はまだあったはずだった。
しかし、リエルが瞬きをした次の瞬間――帝国騎士の衣服に身を包んだ褐色の少女が眼前に存在していて、無情にもリエルの首を吹き飛ばしていたのであった。
こうして、ライガとリエルが決死の思いで侵入を果たした帝国ガリアでの時間は、あまりにも呆気なく終焉を迎えるのであった。
◆◆◆◆◆
「――うわあああああああぁぁぁッ!?」
叫び声と共にライガは目を覚ます。そしてすぐさま上半身を起こすと、自分の身体を入念に確認する。ライガが持つ最後の記憶。それは帝国騎士の少女に胸を貫かれた城下町での光景だった。
「はぁ、はあぁ、はぁ……俺、生きてるのか……?」
全身にビッシリと汗をかいたライガは、自分の身体が無事であることを確認すると、ほっと安堵のため息を漏らす。それと同時に、脳裏へ蘇ってくるのは城下町での出来事だった。
――あの瞬間、ライガは確かに死んでいた。
全身からあらゆるものが喪失していく感覚。あれが夢であったと断言するのは難しい。
「ここはどこだ……ったく、一体全体どうなってんだよ……」
ライガは自分がどこかの部屋で眠っていたことを理解する。
周囲を見渡すと、そこは豪華な装飾が施された洋風の部屋であった。
全く見覚えのない部屋で寝かされていたライガ。どうしてこんなことになっているのか、ライガは全く理解することが出来ずに首を傾げることしか出来ない。
「変な声がしたかと思えば、ようやく起きたか」
「あッ、リエルッ!?」
一人で混乱していると、小柄な少女が部屋に入ってくるのが分かった。
それはライガと共に城下町で戦っていた賢者・リエルであって、少女はその表情に笑みを浮かべると、ゆっくりとした動きで足を踏み出していく。
「リエルッ、これはどういうことなんだよッ……どうして俺たちは生きてるんだ?」
「……ふむ、そこに関しては儂もまだ詳しくは聞いていないのじゃ」
「聞いてないってどういうこと――ッ!?」
部屋に入ってくるリエルのすぐ後、部屋に入ってくるもう一つの人影があった。
それはリエルと同じくらいの体躯をしていて、漆黒の髪に褐色の肌が印象的な帝国騎士の少女だった。
城下町へ侵入したライガたちをあっさりと撃退した少女の姿を見て、ライガの警戒心が一気に最高潮まで高まっていく。
「なんでコイツがッ!?」
「……ここは私の家だから」
「家ッ!? なんで、俺たちがお前の家で寝てるんだよッ!」
「……それは貴方たちがお兄さんとお姉さんの仲間だと思ったから、連れてきた」
「お兄さん、お姉さん?」
「そう。航大とユイ……こう呼べば分かる?」
「――ッ!?」
少女がその名前を口にした瞬間、ライガとリエルの表情が驚愕に染まる。
「……あの二人を助けるなら、それに私は協力する」
「はッ、えっ…………あっ?」
「なんで、帝国騎士であるお主がそんなことをする?」
褐色の少女が漏らした言葉をにわかに信じられないライガとリエルは、疑惑の表情を浮かべざるを得ない。
「……あの二人を助ける。それが約束だから」
どこまでも無表情に、無感情に……帝国騎士の少女は確かにそう呟くのであった。
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