終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章17 【帝国奪還編】灼熱の死闘
「――ならば、死ぬがいい」
「――はいっ?」
全身は炎に包んでいるのに、全くといって感情の篭もらない凍てつく声を漏らすのは、灼熱の大地の主である炎を纏った獣。
それは現実世界での『虎』に似た姿をしており、圧倒的な威圧感を持って帝国ガリアへと向かおうとするライガとリエルの前に立ち塞がった。
「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!?」
炎虎は実体を持っていなかった。
あらゆる手を尽くして獣の身体を切り裂こうしたライガであったのだが、彼が持つ大剣が切り裂いたのはただの炎であった。炎が虎の形を形成しただけであり、いよいよ手詰まりといった空気が漂った瞬間だった。
ライガの足元に存在していたはずの大地が消失し、眼下には赤く燃え滾るマグマが存在していた。基本的にただの人間であるライガは浮遊する術を持たず、突如として出現した穴を落下する。
「え、コレッ……マジで死ぬやつじゃんかッ!?」
重力に従って落下を始める中、ライガは眼前に迫ってくるマグマに目を丸くする。
一秒。また一秒と時間が過ぎる度に全身を包む熱は確実に増しており、あと数秒もすればライガの身体はマグマの中にあって、あらゆる抵抗すら虚しく瞬く間の内に命を落とすことは必至だった。
あまりにも呆気ない結末。
あれだけ豪語していた言葉も、あと数秒後には全てが無駄になってしまう。
唐突に訪れた終わりの瞬間を前にして、ライガは走馬灯のようなものすら見ることなく命を落とす――ところだった。
「――そうか。お主はただの人間じゃったな」
「おわッ!?」
もう少しでライガの身体がマグマに沈もうかという瞬間。
突如、目の前に『氷』が出現してライガの身体を受け止めていた。
それはリエルが発生させたものであり、彼女もまた自分の足元に氷を生成することで、マグマへの落下を防いでいた。
「ふん。一緒に居るのが儂じゃなかったら、今のでお主は死んでいたぞ?」
「はぁ、はあぁ……マ、マジで助かった……」
「いや、安心するのはまだ早い」
「……え?」
「儂が立っている場所と、お主が立っている場所。どちらがよりマグマに近いか……さすがの氷もそこまでマグマに近いと長くは保たんぞ?」
「マジじゃねぇかッ、解けてるッ!?」
ぐつぐつと音を立てて存在するマグマとライガの距離は数メートルといったほど。時間が経つほどにリエルが生成した氷は解けはじめており、このままでは数秒もしない内に瓦解してしまう。
「ど、どうすればいいんだよッ!?」
「全く世話が掛かる奴じゃな。ほれ、氷の階段を作ってやる。これで登ってこい」
「た、助かるぜッ!」
やれやれといった様子でリエルは溜息を漏らすと、ライガの眼前に氷で作られた階段を作ってくれる。必死な様子でそれを登っていくことで、ライガの命は救われるのであった。
「間違いなく、今の瞬間が一番死んだと思ったぜ……」
「まぁ、生きているのだからいいじゃろう。それよりも、この状況をどうするかを考えるのが優先じゃな」
「おいおい……なんだよ、コレ……」
ようやくリエルと同じ位置まで戻ってきたライガの眼前に広がるのは、灼熱の大地ではなく灼熱の渓谷とも言える光景であった。しかもゴツゴツとした岩の下には燃え滾るマグマがどこまでも広がっており、浮遊することが出来るリエルはまだしも、ただの人間であるライガはリエルが生成する氷の床が無ければ落下して死んでしまう。
そんな渓谷の中で、炎虎もまたリエルと同じように空中で浮遊していた。
しぶとくも生き延びているライガたちに言葉はなく、どこまでも無表情に空中で存在し続けている。
「儂が一人だけなら問題はないのじゃがな、お主の世話をしながら戦うのは、相当にしんどい」
「……すまねぇ」
「謝るのではなく、儂の分まで仕事をするがいい」
状況は確実に悪くなっていた。
ライガは足場を制限されている状況での戦いを余儀なくされ、リエルはライガの動きを常にウォッチして支援しなければならない。しかし、敵対する炎虎は自由に動けることに変わりはなく、ハンデを負った分だけライガたちに不利であることは明白だった。
「あやつの弱点……お主が探るんじゃ」
「まぁ、そうしろってんならするんだけどな……」
「足場なら安心しろ、お主の動きに合わせて氷の足場を作ってやる」
「……それが分かってんなら、こっちも安心して動けるってもんだ」
ライガは気合を入れる意味も込めて、足場を確認するかのようにその場で足踏みをしてみる。すると、ズボッという音と共に足場が抜けて片足が思い切り沈んでしまう。
「うおおおぉッ!?」
「あぁ、そうじゃった。言い忘れておったが、儂が作るのはただの氷じゃ。こんな環境では長時間、同じ場所に氷を作り続けることは難しいので、気をつけるように」
「ぜぇ、はあぁッ……も、もっと早く言えよッ!」
またマグマへと落下を始めようとした瞬間、新たな氷が生成されてライガは一命を取り留める。
「しんどいな、コレ……」
「――話は終わったか?」
ライガとリエルがてんやわんやしていると、そんな重低音な声がライガたちの鼓膜を震わせた。
それは眼前で律儀に落ち着くのを待っていた炎虎によるものであり、その声と共にライガはこれから始まる戦いに意識を集中させていく。
「あぁ、待たせたな」
しっかりと足場を確認して、ライガは炎虎と向き合う形で片手に持った大剣を構える。
「とにかく、奴の弱点を見つける。それが第一じゃ」
「……あいよ。俺だって、ただやられるだけじゃねぇぜ」
「……?」
「――武装魔法・風装神鬼ッ!」
目を閉じ、精神を統一させるライガは微力ながらも自分の体内に流れる魔力を一気に解放させる。すると、周囲に暴風が発生し、それがライガの身体に纏わりついていく。
「……なるほど。自分の剣に風を纏わせるように、今度は自分の身体へその風を移した訳か」
「あぁ。リエルの魔法を見て気づいたんだ」
「ふん。期待しているぞ?」
「――任せとけってッ!」
ライガはニヤリと笑みを浮かべると――一歩を踏み出して炎虎の眼前まで接近を果たす。
「――ッ!?」
突然、眼前にライガの姿が接近しており、炎虎は僅かに動揺した様子を見せる。
武装魔法により、風を身に纏ったライガは自分の背丈ほどある大剣を持っていても尚、瞬速を見せることができた。
ライガは大剣を大きく振り上げると、炎虎の顔面を真っ二つに切り裂こうとする。
「――――」
炎虎はそれをギリギリのところで回避すると、ライガから距離を取ろうと後退する。しかしそれを、ライガは許すことなくリエルが生成した足場を使って再び跳躍すると、炎虎が逃げる先に――先回りしていく。
「遅いぜ、魔獣さんよぉ」
「――ッ!?」
さっきまで眼前に存在していたライガが、自分の真後ろにいる。
それは炎虎に少なからずの驚きと動揺を与え、それでも瞬時に頭を切り替える炎虎は後ろ足でライガの身体を切り裂こうと試みる。
「甘いんだよッ!」
猛烈な勢いで迫ってくる炎虎の後ろ足。
しかしそれも、ライガは大剣で難なく切り伏せていく。
「ちッ……やっぱり、手応えがねぇッ……」
「ライガ、次が来るぞッ!」
「おっとッ!?」
後ろ足を切り落とされても、炎虎はそんなことを気にすることもなく体勢を立て直すと、ライガの身体を噛み砕こうと牙を剥く。
「おらああああぁぁぁッ!」
「――ッ!?」
炎虎の牙がライガの身体に届く寸前のところで、ライガが放つ斬撃が炎虎の首を両断する。ずるっと視界がずれて、炎虎の首がマグマの中に落下していく。
「おッ、やったかッ!?」
「…………」
首を両断すると、炎虎の身体が炎に包まれて消失していく。そして首だけとなった炎虎の一部はマグマの中に落ちて姿を消してしまう。
「おいおい……なんか、呆気なかったぞ……?」
「…………」
先ほどまでの戦いとは打って変わり静寂に包まれる灼熱の大地。
武装魔法を使役することで、ライガは確実に強くなった。しかしそれでも、あれだけの力を誇っていた炎虎がこれくらいで倒れるとは思えない。
「マジで終わったのか……?」
「いや、そう簡単には終わらないじゃろうな」
「――ここまで私を苦しませたのは、とても久しいことだ」
その声は煮えたぎるマグマの中から聞こえてきていた。
ライガとリエルの視線が遥か下のマグマへ向けられるのと同時に、紅蓮のマグマから一匹の巨大な魔獣が姿を現す。
「今度は炎じゃなくて、マグマを身に纏った……てか?」
「ふむ……より厄介になったの……」
マグマから姿を現したのは、全身をマグマで覆った炎虎であり、先ほどとは比べ物にならない殺気と威圧感を持って、再びライガたちの前に立ち塞がる。
灼熱の大陸での戦いは、より激しさを増して終盤へと突き進む。
「――はいっ?」
全身は炎に包んでいるのに、全くといって感情の篭もらない凍てつく声を漏らすのは、灼熱の大地の主である炎を纏った獣。
それは現実世界での『虎』に似た姿をしており、圧倒的な威圧感を持って帝国ガリアへと向かおうとするライガとリエルの前に立ち塞がった。
「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!?」
炎虎は実体を持っていなかった。
あらゆる手を尽くして獣の身体を切り裂こうしたライガであったのだが、彼が持つ大剣が切り裂いたのはただの炎であった。炎が虎の形を形成しただけであり、いよいよ手詰まりといった空気が漂った瞬間だった。
ライガの足元に存在していたはずの大地が消失し、眼下には赤く燃え滾るマグマが存在していた。基本的にただの人間であるライガは浮遊する術を持たず、突如として出現した穴を落下する。
「え、コレッ……マジで死ぬやつじゃんかッ!?」
重力に従って落下を始める中、ライガは眼前に迫ってくるマグマに目を丸くする。
一秒。また一秒と時間が過ぎる度に全身を包む熱は確実に増しており、あと数秒もすればライガの身体はマグマの中にあって、あらゆる抵抗すら虚しく瞬く間の内に命を落とすことは必至だった。
あまりにも呆気ない結末。
あれだけ豪語していた言葉も、あと数秒後には全てが無駄になってしまう。
唐突に訪れた終わりの瞬間を前にして、ライガは走馬灯のようなものすら見ることなく命を落とす――ところだった。
「――そうか。お主はただの人間じゃったな」
「おわッ!?」
もう少しでライガの身体がマグマに沈もうかという瞬間。
突如、目の前に『氷』が出現してライガの身体を受け止めていた。
それはリエルが発生させたものであり、彼女もまた自分の足元に氷を生成することで、マグマへの落下を防いでいた。
「ふん。一緒に居るのが儂じゃなかったら、今のでお主は死んでいたぞ?」
「はぁ、はあぁ……マ、マジで助かった……」
「いや、安心するのはまだ早い」
「……え?」
「儂が立っている場所と、お主が立っている場所。どちらがよりマグマに近いか……さすがの氷もそこまでマグマに近いと長くは保たんぞ?」
「マジじゃねぇかッ、解けてるッ!?」
ぐつぐつと音を立てて存在するマグマとライガの距離は数メートルといったほど。時間が経つほどにリエルが生成した氷は解けはじめており、このままでは数秒もしない内に瓦解してしまう。
「ど、どうすればいいんだよッ!?」
「全く世話が掛かる奴じゃな。ほれ、氷の階段を作ってやる。これで登ってこい」
「た、助かるぜッ!」
やれやれといった様子でリエルは溜息を漏らすと、ライガの眼前に氷で作られた階段を作ってくれる。必死な様子でそれを登っていくことで、ライガの命は救われるのであった。
「間違いなく、今の瞬間が一番死んだと思ったぜ……」
「まぁ、生きているのだからいいじゃろう。それよりも、この状況をどうするかを考えるのが優先じゃな」
「おいおい……なんだよ、コレ……」
ようやくリエルと同じ位置まで戻ってきたライガの眼前に広がるのは、灼熱の大地ではなく灼熱の渓谷とも言える光景であった。しかもゴツゴツとした岩の下には燃え滾るマグマがどこまでも広がっており、浮遊することが出来るリエルはまだしも、ただの人間であるライガはリエルが生成する氷の床が無ければ落下して死んでしまう。
そんな渓谷の中で、炎虎もまたリエルと同じように空中で浮遊していた。
しぶとくも生き延びているライガたちに言葉はなく、どこまでも無表情に空中で存在し続けている。
「儂が一人だけなら問題はないのじゃがな、お主の世話をしながら戦うのは、相当にしんどい」
「……すまねぇ」
「謝るのではなく、儂の分まで仕事をするがいい」
状況は確実に悪くなっていた。
ライガは足場を制限されている状況での戦いを余儀なくされ、リエルはライガの動きを常にウォッチして支援しなければならない。しかし、敵対する炎虎は自由に動けることに変わりはなく、ハンデを負った分だけライガたちに不利であることは明白だった。
「あやつの弱点……お主が探るんじゃ」
「まぁ、そうしろってんならするんだけどな……」
「足場なら安心しろ、お主の動きに合わせて氷の足場を作ってやる」
「……それが分かってんなら、こっちも安心して動けるってもんだ」
ライガは気合を入れる意味も込めて、足場を確認するかのようにその場で足踏みをしてみる。すると、ズボッという音と共に足場が抜けて片足が思い切り沈んでしまう。
「うおおおぉッ!?」
「あぁ、そうじゃった。言い忘れておったが、儂が作るのはただの氷じゃ。こんな環境では長時間、同じ場所に氷を作り続けることは難しいので、気をつけるように」
「ぜぇ、はあぁッ……も、もっと早く言えよッ!」
またマグマへと落下を始めようとした瞬間、新たな氷が生成されてライガは一命を取り留める。
「しんどいな、コレ……」
「――話は終わったか?」
ライガとリエルがてんやわんやしていると、そんな重低音な声がライガたちの鼓膜を震わせた。
それは眼前で律儀に落ち着くのを待っていた炎虎によるものであり、その声と共にライガはこれから始まる戦いに意識を集中させていく。
「あぁ、待たせたな」
しっかりと足場を確認して、ライガは炎虎と向き合う形で片手に持った大剣を構える。
「とにかく、奴の弱点を見つける。それが第一じゃ」
「……あいよ。俺だって、ただやられるだけじゃねぇぜ」
「……?」
「――武装魔法・風装神鬼ッ!」
目を閉じ、精神を統一させるライガは微力ながらも自分の体内に流れる魔力を一気に解放させる。すると、周囲に暴風が発生し、それがライガの身体に纏わりついていく。
「……なるほど。自分の剣に風を纏わせるように、今度は自分の身体へその風を移した訳か」
「あぁ。リエルの魔法を見て気づいたんだ」
「ふん。期待しているぞ?」
「――任せとけってッ!」
ライガはニヤリと笑みを浮かべると――一歩を踏み出して炎虎の眼前まで接近を果たす。
「――ッ!?」
突然、眼前にライガの姿が接近しており、炎虎は僅かに動揺した様子を見せる。
武装魔法により、風を身に纏ったライガは自分の背丈ほどある大剣を持っていても尚、瞬速を見せることができた。
ライガは大剣を大きく振り上げると、炎虎の顔面を真っ二つに切り裂こうとする。
「――――」
炎虎はそれをギリギリのところで回避すると、ライガから距離を取ろうと後退する。しかしそれを、ライガは許すことなくリエルが生成した足場を使って再び跳躍すると、炎虎が逃げる先に――先回りしていく。
「遅いぜ、魔獣さんよぉ」
「――ッ!?」
さっきまで眼前に存在していたライガが、自分の真後ろにいる。
それは炎虎に少なからずの驚きと動揺を与え、それでも瞬時に頭を切り替える炎虎は後ろ足でライガの身体を切り裂こうと試みる。
「甘いんだよッ!」
猛烈な勢いで迫ってくる炎虎の後ろ足。
しかしそれも、ライガは大剣で難なく切り伏せていく。
「ちッ……やっぱり、手応えがねぇッ……」
「ライガ、次が来るぞッ!」
「おっとッ!?」
後ろ足を切り落とされても、炎虎はそんなことを気にすることもなく体勢を立て直すと、ライガの身体を噛み砕こうと牙を剥く。
「おらああああぁぁぁッ!」
「――ッ!?」
炎虎の牙がライガの身体に届く寸前のところで、ライガが放つ斬撃が炎虎の首を両断する。ずるっと視界がずれて、炎虎の首がマグマの中に落下していく。
「おッ、やったかッ!?」
「…………」
首を両断すると、炎虎の身体が炎に包まれて消失していく。そして首だけとなった炎虎の一部はマグマの中に落ちて姿を消してしまう。
「おいおい……なんか、呆気なかったぞ……?」
「…………」
先ほどまでの戦いとは打って変わり静寂に包まれる灼熱の大地。
武装魔法を使役することで、ライガは確実に強くなった。しかしそれでも、あれだけの力を誇っていた炎虎がこれくらいで倒れるとは思えない。
「マジで終わったのか……?」
「いや、そう簡単には終わらないじゃろうな」
「――ここまで私を苦しませたのは、とても久しいことだ」
その声は煮えたぎるマグマの中から聞こえてきていた。
ライガとリエルの視線が遥か下のマグマへ向けられるのと同時に、紅蓮のマグマから一匹の巨大な魔獣が姿を現す。
「今度は炎じゃなくて、マグマを身に纏った……てか?」
「ふむ……より厄介になったの……」
マグマから姿を現したのは、全身をマグマで覆った炎虎であり、先ほどとは比べ物にならない殺気と威圧感を持って、再びライガたちの前に立ち塞がる。
灼熱の大陸での戦いは、より激しさを増して終盤へと突き進む。
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