終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章4 【帝国脱出編】ガリア・グリシャバル
「んッ……」
帝国ガリアの城下町へ足を踏み入れた航大は、そこで一人の少年と出会った。
まだ年若い少年はこの狂った国について疑問と怒りを持ち、能天気に城下町を歩く帝国騎士のアリアに罵詈雑言を浴びせたのであった。そんな少年の言葉にアリアは笑みを浮かべ、誰もが少年は許されたのだと理解しようとしていた。
――しかし、冷酷で冷淡な帝国騎士は少年の愚行を許すことはなかった。
大罪のグリモワールが持つ権能を使い、少年を『夢の世界』へと誘うことで、帝国に楯突く少年を抹殺しようとしたのだ。
少年がどうなったのかを、航大は知らない。
ただ脳裏には薄れ行く意識の中で、鼓膜を震わせる少年の断末魔の叫びだけなのであった。
「アハッ、ようやく目を覚ましたカナ?」
「お前ッ……くッ……」
目を覚ますとそこは薄暗い空間だった。
円形に広がる空間は、窓から差し込む太陽の光が極端に少なく、どこかどんよりとした空気が覆う場所だった。
上半身を起こし、隣に立つ帝国騎士のアリアを見つけると、航大は瞬時に感情を爆発させ憎悪の言葉を吐き捨てる。
「男の子はどうしたッ!?」
「男の子? 誰のことカナ?」
「とぼけるなッ!」
帝国ガリアの城下町で出会った少年の顛末を問いかけるも、アリアはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて素直に答えようとしない。その態度が航大の怒りに更なる火をつける結果となり、航大は自分の両手が拘束されていながらも身体を暴れさせる。
「お前、まさかッ……」
「さぁーね。あの後、私は君を連れて王城までやってきちゃったし、あの後にどうなったかまでは知らないヨ」
「くそッ……!」
身体が自由であるなら、航大は間違いなく卑しい笑みを浮かべるアリアに飛びかかっていただろう。しかしそれが出来ない事実に、航大は悔しげに表情を歪めることしかできないのであった。
「グダグダうるせーな。少しは静かにしろッ」
「――ッ!?」
航大が連れてこられた狭い空間の中。
ここには航大とアリアの二人しか存在しないと思っていが、実際のところは違っていて、アリアに喚き散らす航大を一括する声が空間に響き渡った。
その声に驚き、航大が視線を彷徨わせた先、そこには帝国騎士が身に纏う純白の衣服に身を包んだ青年が立っていた。その姿を視界に捉え、航大は忘れもしないその姿に絶句する。
「お前はッ……ミノルアで……」
「ふん、俺のことは忘れてないみたいだな」
航大を叱責した声の持ち主、それは怠惰のグリモワールを所有し、氷都市・ミノルアを襲撃した帝国騎士の一人であるアワリティア・ネッツだった。乱雑に伸ばされた金髪と、その奥に垣間見える真紅の瞳が印象的な青年であり、所有するグリモワールの力によって、現実世界に存在するあらゆる魔物を召喚することができる。
「……全く、自分の状況が理解できていないみたいだね」
「……ッ!?」
ネッツの隣。そこにも人影を確認することができた。
その顔も航大は忘れることが出来ないでいた。
「あぁいいよ。僕のことは思い出さなくても。僕だって君のことは覚えてないし、それでお互い様だ」
無気力な瞳と声が印象的な青年。
それはネッツと同じように氷都市・ミノルアを襲った帝国騎士の一人であり、炎を自在に操るグリモワールを所有するルクスリア・ランズ。薄紫の髪を肩上まで伸ばし、帝国騎士の中で最も整った顔立ちをした彼もまた、航大の心に強烈な負の感情と共に存在する者であり、氷都市・ミノルアを業炎の中に沈めた張本人である。
「誰のためにこんな明るい時間から集まってあげてると思ってんのかしら……はぁ、憂鬱……」
そんなランズの隣に立つのは小柄な少女だった。
彼女もまた帝国騎士の衣服に身を包んでおり、背中まで伸びる薄青の髪をツインテールに結んでいる。ランズ以上に無気力な態度を隠すこともせず、ジト目で航大を睨みつけている。
ネッツ、ランズと共に氷都市・ミノルアを襲った帝国騎士であり、憂鬱のグリモワールを使役することで、ミノルアを死の街へと豹変させた。
「…………」
航大が連れられた狭い空間に、既に四人の帝国騎士が存在しており、正面に佇む玉座を中心に帝国騎士たちは整列していた。
一人一人が異形の力を持ち得ており、それが一つの空間に存在している事実に航大は戦慄を禁じえ得ず、改めて自分が敵地に乗り込んだのだと実感する。
「おい、アリア。ハイネの野郎はどうした?」
「そういえば姿が見えないね。一緒に任務へ出たはずだけど?」
単身で帰還したアリアに、ネッツとランズがそれぞれ問いかける。
ハイネと呼ばれる人物は、アステナ王国での戦いで最後に姿を現した少年のことを指しているのは航大にも理解することが出来た。最後にどこか一人で姿をくらました少年はまだ、帝国へと戻ってはいないらしい。
「知らなーい。アイツ、いつも勝手に行動するし」
ネッツとランズの問いかけに、アリアはどこまでもマイペースといった返答をするばかり。その様子に苛立ちを見せるのはネッツだ。
「知らないじゃねぇんだよ、しっかりと管理しろよッ……くそがッ」
「はぁ、騎士の中で上に立つ者がみんなこれだ……帝国騎士ってのも呆れちゃうね」
アリアの返答に舌打ちを漏らして怒りを露わにするネッツ。
ネッツほどに怒りは見せてはいないが、深い溜息を漏らすのはランズだった。
「なんでいつもアンタたちって喧嘩してるのかしらね、マジで憂鬱なんだけど……」
アリアたちの会話を聞いて誰よりも深く重い溜息を漏らすのはルイラだった。
ツインテールの髪を左右に揺らしながら、一秒でも長くこの場所に居たくないと表情、態度で表現している。
「ハイネはしょうがないとして、あの子は今回も来てないワケ?」
「あの子? あぁ、アイツのことか……また、いつも通りどっかでフラフラしてんだろ」
アリアの問いかけに答えたのはネッツであり、航大の知らない誰かの存在について言及している。
「…………」
帝国へやってくる前にアリアから聞いた。帝国騎士は全員で六人いると。
ネッツ、ランズ、ルイラ、そしてアリア。
今、この場に揃っている帝国騎士は全部で四人。
この他にアステナ王国を襲撃したハイネと呼ばれる少年と、もう一人姿を見せない帝国騎士が存在している。
この六人の全てを倒さなければ、帝国からの脱出など不可能である。
頭がそう理解する度に、航大の心内には強い絶望が満ちていくのを感じるのであった。
「――ッ!?」
航大の心を絶望が覆い尽くしていく中、背後から圧倒的な存在が近づいていることに気付く航大。それは今までに感じたことのない存在感であり、姿を見せない力を感じながら航大の視線は背後へと向けられる。
「――ようこそ、帝国ガリアへ。私は君と会える日を心待ちにしていたよ」
「――ッ!?」
航大の背後。そこには大きな扉が存在していて、それがゆっくりと開かれていく。
すると、眩い光を背に受け立ち尽くす存在があって、航大を見るなりその巨大な体躯をした男は唇を歪ませて笑みを作る。
短く金色に輝く髪を剣山のように立たせ、皺の目立つ顔の頬には一筋の切り傷が刻まれている。航大が見上げるほどの背丈をした男こそが、帝国ガリアの総統である――ガリア・グリシャバルなのであった。
帝国騎士たちが放つ威圧感でも圧倒された航大だったが、総統ガリアが放つ異形の力を前に驚愕に立ち尽くすことしかできないのであった。
帝国ガリアの城下町へ足を踏み入れた航大は、そこで一人の少年と出会った。
まだ年若い少年はこの狂った国について疑問と怒りを持ち、能天気に城下町を歩く帝国騎士のアリアに罵詈雑言を浴びせたのであった。そんな少年の言葉にアリアは笑みを浮かべ、誰もが少年は許されたのだと理解しようとしていた。
――しかし、冷酷で冷淡な帝国騎士は少年の愚行を許すことはなかった。
大罪のグリモワールが持つ権能を使い、少年を『夢の世界』へと誘うことで、帝国に楯突く少年を抹殺しようとしたのだ。
少年がどうなったのかを、航大は知らない。
ただ脳裏には薄れ行く意識の中で、鼓膜を震わせる少年の断末魔の叫びだけなのであった。
「アハッ、ようやく目を覚ましたカナ?」
「お前ッ……くッ……」
目を覚ますとそこは薄暗い空間だった。
円形に広がる空間は、窓から差し込む太陽の光が極端に少なく、どこかどんよりとした空気が覆う場所だった。
上半身を起こし、隣に立つ帝国騎士のアリアを見つけると、航大は瞬時に感情を爆発させ憎悪の言葉を吐き捨てる。
「男の子はどうしたッ!?」
「男の子? 誰のことカナ?」
「とぼけるなッ!」
帝国ガリアの城下町で出会った少年の顛末を問いかけるも、アリアはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて素直に答えようとしない。その態度が航大の怒りに更なる火をつける結果となり、航大は自分の両手が拘束されていながらも身体を暴れさせる。
「お前、まさかッ……」
「さぁーね。あの後、私は君を連れて王城までやってきちゃったし、あの後にどうなったかまでは知らないヨ」
「くそッ……!」
身体が自由であるなら、航大は間違いなく卑しい笑みを浮かべるアリアに飛びかかっていただろう。しかしそれが出来ない事実に、航大は悔しげに表情を歪めることしかできないのであった。
「グダグダうるせーな。少しは静かにしろッ」
「――ッ!?」
航大が連れてこられた狭い空間の中。
ここには航大とアリアの二人しか存在しないと思っていが、実際のところは違っていて、アリアに喚き散らす航大を一括する声が空間に響き渡った。
その声に驚き、航大が視線を彷徨わせた先、そこには帝国騎士が身に纏う純白の衣服に身を包んだ青年が立っていた。その姿を視界に捉え、航大は忘れもしないその姿に絶句する。
「お前はッ……ミノルアで……」
「ふん、俺のことは忘れてないみたいだな」
航大を叱責した声の持ち主、それは怠惰のグリモワールを所有し、氷都市・ミノルアを襲撃した帝国騎士の一人であるアワリティア・ネッツだった。乱雑に伸ばされた金髪と、その奥に垣間見える真紅の瞳が印象的な青年であり、所有するグリモワールの力によって、現実世界に存在するあらゆる魔物を召喚することができる。
「……全く、自分の状況が理解できていないみたいだね」
「……ッ!?」
ネッツの隣。そこにも人影を確認することができた。
その顔も航大は忘れることが出来ないでいた。
「あぁいいよ。僕のことは思い出さなくても。僕だって君のことは覚えてないし、それでお互い様だ」
無気力な瞳と声が印象的な青年。
それはネッツと同じように氷都市・ミノルアを襲った帝国騎士の一人であり、炎を自在に操るグリモワールを所有するルクスリア・ランズ。薄紫の髪を肩上まで伸ばし、帝国騎士の中で最も整った顔立ちをした彼もまた、航大の心に強烈な負の感情と共に存在する者であり、氷都市・ミノルアを業炎の中に沈めた張本人である。
「誰のためにこんな明るい時間から集まってあげてると思ってんのかしら……はぁ、憂鬱……」
そんなランズの隣に立つのは小柄な少女だった。
彼女もまた帝国騎士の衣服に身を包んでおり、背中まで伸びる薄青の髪をツインテールに結んでいる。ランズ以上に無気力な態度を隠すこともせず、ジト目で航大を睨みつけている。
ネッツ、ランズと共に氷都市・ミノルアを襲った帝国騎士であり、憂鬱のグリモワールを使役することで、ミノルアを死の街へと豹変させた。
「…………」
航大が連れられた狭い空間に、既に四人の帝国騎士が存在しており、正面に佇む玉座を中心に帝国騎士たちは整列していた。
一人一人が異形の力を持ち得ており、それが一つの空間に存在している事実に航大は戦慄を禁じえ得ず、改めて自分が敵地に乗り込んだのだと実感する。
「おい、アリア。ハイネの野郎はどうした?」
「そういえば姿が見えないね。一緒に任務へ出たはずだけど?」
単身で帰還したアリアに、ネッツとランズがそれぞれ問いかける。
ハイネと呼ばれる人物は、アステナ王国での戦いで最後に姿を現した少年のことを指しているのは航大にも理解することが出来た。最後にどこか一人で姿をくらました少年はまだ、帝国へと戻ってはいないらしい。
「知らなーい。アイツ、いつも勝手に行動するし」
ネッツとランズの問いかけに、アリアはどこまでもマイペースといった返答をするばかり。その様子に苛立ちを見せるのはネッツだ。
「知らないじゃねぇんだよ、しっかりと管理しろよッ……くそがッ」
「はぁ、騎士の中で上に立つ者がみんなこれだ……帝国騎士ってのも呆れちゃうね」
アリアの返答に舌打ちを漏らして怒りを露わにするネッツ。
ネッツほどに怒りは見せてはいないが、深い溜息を漏らすのはランズだった。
「なんでいつもアンタたちって喧嘩してるのかしらね、マジで憂鬱なんだけど……」
アリアたちの会話を聞いて誰よりも深く重い溜息を漏らすのはルイラだった。
ツインテールの髪を左右に揺らしながら、一秒でも長くこの場所に居たくないと表情、態度で表現している。
「ハイネはしょうがないとして、あの子は今回も来てないワケ?」
「あの子? あぁ、アイツのことか……また、いつも通りどっかでフラフラしてんだろ」
アリアの問いかけに答えたのはネッツであり、航大の知らない誰かの存在について言及している。
「…………」
帝国へやってくる前にアリアから聞いた。帝国騎士は全員で六人いると。
ネッツ、ランズ、ルイラ、そしてアリア。
今、この場に揃っている帝国騎士は全部で四人。
この他にアステナ王国を襲撃したハイネと呼ばれる少年と、もう一人姿を見せない帝国騎士が存在している。
この六人の全てを倒さなければ、帝国からの脱出など不可能である。
頭がそう理解する度に、航大の心内には強い絶望が満ちていくのを感じるのであった。
「――ッ!?」
航大の心を絶望が覆い尽くしていく中、背後から圧倒的な存在が近づいていることに気付く航大。それは今までに感じたことのない存在感であり、姿を見せない力を感じながら航大の視線は背後へと向けられる。
「――ようこそ、帝国ガリアへ。私は君と会える日を心待ちにしていたよ」
「――ッ!?」
航大の背後。そこには大きな扉が存在していて、それがゆっくりと開かれていく。
すると、眩い光を背に受け立ち尽くす存在があって、航大を見るなりその巨大な体躯をした男は唇を歪ませて笑みを作る。
短く金色に輝く髪を剣山のように立たせ、皺の目立つ顔の頬には一筋の切り傷が刻まれている。航大が見上げるほどの背丈をした男こそが、帝国ガリアの総統である――ガリア・グリシャバルなのであった。
帝国騎士たちが放つ威圧感でも圧倒された航大だったが、総統ガリアが放つ異形の力を前に驚愕に立ち尽くすことしかできないのであった。
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