終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第三章41 非情ノ選択
「アハッ、本当に……君には驚かされるヨ」
「ぐッ……はぁッ、はあぁッ……」
目を覚ますと、そこは瓦礫が散乱したアステナ王城だった。
全身が激しい倦怠感に苛まれる中、航大は乱れる呼吸を落ち着かせ状況確認に務める。記憶が混濁としており、どうして自分がこのような状況に立たされているのかを必死に理解しようとする。
「私の幻術を自分の力で解いたのは、君が初めてだヨ。やっぱり、君には何か特別な力があるみたいだね」
「幻術……そうか、俺は……」
少しずつ、『夢』を見る前に繰り広げられた戦いの記憶が蘇ってくる。
まず先陣を切ったのは伝説の王・アーサーとシンクロを果たしたユイだった。
圧倒的な力を持って魔竜・ギヌスと戦った彼女は、帝国騎士の卑劣な手によって重傷を負い倒れ伏した。
眼前で傷つき、鮮血を溢れさせて倒れるアーサーを前にして、怒りと憎しみに感情を支配された航大は冷静さを失い北方の女神・シュナと融合を果たすと、異形の力を持ってして魔竜・ギヌスを討滅すことに成功した。
魔竜を討つことに成功したものの、冷静さを欠いていた航大は一瞬の隙を突かれた結果、帝国騎士の女が使役する異形の力に飲み込まれてしまったのだ。
「魔竜ちゃんを倒した力……あれは、自由に使うことが出来ないみたいだネ?」
「くッ……」
その言葉に自分の身体を確認する航大は、女神・シュナと影の王が使役した力が消失していることに気付く。髪も服装も全てが憑依前のものへと戻っており、全身を包み込む強い倦怠感からあの力を再度使うことは不可能であると理解した。
「まさか自分で幻術を解くとは思ってなかったけど……これでもう終わりかな?」
「…………」
アステナ王国は異様な静寂に包まれていた。
周囲を見渡せば、魔竜・ギヌスとの壮絶な戦いの痕が見て取れる。
アステナ王城に聳え立つ『封印の塔』は跡形もなく瓦解しており、航大たちは今その瓦礫の上に立っている。
「……ユイ、リエル」
彷徨う視線が捉えるのは、目も当てられない傷だらけの様子を見せるリエルとユイの姿。彼女たちは苦しげな様子で横たわっており、もちろんこれ以上の継戦は不可能であると言わざるを得ない。
更に航大たちから離れた場所にはアステナ王国の王女・レイナと近衛騎士であるエレスの姿もある。彼女たちに大きな外傷は無いようだが、意識は戻りそうにない。
「いやー、君はよくやった方だと思うよ? でも、それ以上に私の方が強かっただけ。うんうん、仕方のないことだヨ」
「…………」
どこまでも残酷に広がる絶望。
この状況を覆すことはあまりにも難しく、眼前でニヤニヤと勝利を確信する帝国騎士の女を前にして航大は拳を握りしめ、唇を噛むことしか出来ない。
「アハッ、絶望してるところ悪いんだけど、私と交渉しない?」
「……交渉?」
女神の力が消失した今の航大に、帝国騎士に抗う力は残されていない。
楽しげな笑みを浮かべる帝国騎士の女がどのような交渉をしようというのか、航大は表情を険しくさせると全身を緊張させる。
「そんなに固くならなくてもいーよー、さっきも言ったと思うけど君には帝国ガリアまで付いてきて欲しいんだよネ」
「――帝国、ガリアへ?」
「そうそう。我が帝国ガリアの総統が、君に会いたがってるんだよネ」
戦いの最中にも女が漏らしていた言葉だった。何の冗談だと真に受けていなかった航大だが、改めて言葉にされることで全身に緊張が走り抜けていく。
――帝国ガリア。
それは航大が異世界で生活を続ける中で幾度となく聞いた名前である。
帝国ガリアとはあらゆる諸悪の根源として存在している。航大がガリアに抱く印象としてはそういった内容となっており、いずれは氷都市・ミノルアでの卑劣な行いに対して報復しようと考えていたのだが、想像以上に早いタイミングで帝国に、それも単身で乗り込む可能性を前に驚きを隠せない。
「まぁ、交渉とは言ったんだけど……君には選択権なんて無いんだよネ」
「なんだよ、それ……」
「総統が会いたいって言ったらそれは絶対。失敗したなんて言ったら、総統も怒っちゃうからネ」
「それでも行かないって言ったら……?」
「……総統からは命があれば良いって言われるからネ、まずは君の両手と両足を切断しようか?」
猟奇的な言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべる帝国騎士の手には両刃剣が握られている。今の航大には帝国騎士に抗う力は残されておらず、両刃剣に舌を這わせる女が漏らした言葉もまた嘘ではないのだと理解できる。
「抵抗するようだったら、そこら辺で転がってるお仲間を全員殺しちゃおっかな。それでも君は抵抗するのかナ?」
航大の瞳が再び倒れ伏すユイたちに向けられる。
自分の選択が仲間たちの命運を握っている。帝国騎士はどこまでも非情だった。
突き付けられた選択肢。仲間を見捨てることなど出来るはずもなく、女の言う通り航大には選択肢など存在してはいないのだ。
「……分かった。ガリアに行けばいいんだろ。抵抗はしない、だから仲間には手を出すな」
「アハッ、物分りがよくてお姉さんは嬉しいヨ」
航大が決めた答えを聞き、帝国騎士の女は満足といった笑みを浮かべると両手を大きく広げて喜びを全身で表現する。
「――行かせません」
「――ッ!?」
航大が帝国騎士の女と共に歩き出そうとした瞬間だった
そんな弱々しい震え声が背後から響いてきた。驚きに目を見開き、声が聞こえてきた方を見るとそこにはよろよろと立ち上がるユイの姿があった。まだアーサー王とのシンクロは解除されておらず、金色に輝く甲冑ドレスには鮮血が付着していた。
「――私が貴方を守ります」
誰が見ても満身創痍な様子を見せるアーサーであったが、それでも瞳には強い闘志が宿っており、片手にはこれまた金色に輝く聖剣・エクスカリバーが握られているのであった。
「ぐッ……はぁッ、はあぁッ……」
目を覚ますと、そこは瓦礫が散乱したアステナ王城だった。
全身が激しい倦怠感に苛まれる中、航大は乱れる呼吸を落ち着かせ状況確認に務める。記憶が混濁としており、どうして自分がこのような状況に立たされているのかを必死に理解しようとする。
「私の幻術を自分の力で解いたのは、君が初めてだヨ。やっぱり、君には何か特別な力があるみたいだね」
「幻術……そうか、俺は……」
少しずつ、『夢』を見る前に繰り広げられた戦いの記憶が蘇ってくる。
まず先陣を切ったのは伝説の王・アーサーとシンクロを果たしたユイだった。
圧倒的な力を持って魔竜・ギヌスと戦った彼女は、帝国騎士の卑劣な手によって重傷を負い倒れ伏した。
眼前で傷つき、鮮血を溢れさせて倒れるアーサーを前にして、怒りと憎しみに感情を支配された航大は冷静さを失い北方の女神・シュナと融合を果たすと、異形の力を持ってして魔竜・ギヌスを討滅すことに成功した。
魔竜を討つことに成功したものの、冷静さを欠いていた航大は一瞬の隙を突かれた結果、帝国騎士の女が使役する異形の力に飲み込まれてしまったのだ。
「魔竜ちゃんを倒した力……あれは、自由に使うことが出来ないみたいだネ?」
「くッ……」
その言葉に自分の身体を確認する航大は、女神・シュナと影の王が使役した力が消失していることに気付く。髪も服装も全てが憑依前のものへと戻っており、全身を包み込む強い倦怠感からあの力を再度使うことは不可能であると理解した。
「まさか自分で幻術を解くとは思ってなかったけど……これでもう終わりかな?」
「…………」
アステナ王国は異様な静寂に包まれていた。
周囲を見渡せば、魔竜・ギヌスとの壮絶な戦いの痕が見て取れる。
アステナ王城に聳え立つ『封印の塔』は跡形もなく瓦解しており、航大たちは今その瓦礫の上に立っている。
「……ユイ、リエル」
彷徨う視線が捉えるのは、目も当てられない傷だらけの様子を見せるリエルとユイの姿。彼女たちは苦しげな様子で横たわっており、もちろんこれ以上の継戦は不可能であると言わざるを得ない。
更に航大たちから離れた場所にはアステナ王国の王女・レイナと近衛騎士であるエレスの姿もある。彼女たちに大きな外傷は無いようだが、意識は戻りそうにない。
「いやー、君はよくやった方だと思うよ? でも、それ以上に私の方が強かっただけ。うんうん、仕方のないことだヨ」
「…………」
どこまでも残酷に広がる絶望。
この状況を覆すことはあまりにも難しく、眼前でニヤニヤと勝利を確信する帝国騎士の女を前にして航大は拳を握りしめ、唇を噛むことしか出来ない。
「アハッ、絶望してるところ悪いんだけど、私と交渉しない?」
「……交渉?」
女神の力が消失した今の航大に、帝国騎士に抗う力は残されていない。
楽しげな笑みを浮かべる帝国騎士の女がどのような交渉をしようというのか、航大は表情を険しくさせると全身を緊張させる。
「そんなに固くならなくてもいーよー、さっきも言ったと思うけど君には帝国ガリアまで付いてきて欲しいんだよネ」
「――帝国、ガリアへ?」
「そうそう。我が帝国ガリアの総統が、君に会いたがってるんだよネ」
戦いの最中にも女が漏らしていた言葉だった。何の冗談だと真に受けていなかった航大だが、改めて言葉にされることで全身に緊張が走り抜けていく。
――帝国ガリア。
それは航大が異世界で生活を続ける中で幾度となく聞いた名前である。
帝国ガリアとはあらゆる諸悪の根源として存在している。航大がガリアに抱く印象としてはそういった内容となっており、いずれは氷都市・ミノルアでの卑劣な行いに対して報復しようと考えていたのだが、想像以上に早いタイミングで帝国に、それも単身で乗り込む可能性を前に驚きを隠せない。
「まぁ、交渉とは言ったんだけど……君には選択権なんて無いんだよネ」
「なんだよ、それ……」
「総統が会いたいって言ったらそれは絶対。失敗したなんて言ったら、総統も怒っちゃうからネ」
「それでも行かないって言ったら……?」
「……総統からは命があれば良いって言われるからネ、まずは君の両手と両足を切断しようか?」
猟奇的な言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべる帝国騎士の手には両刃剣が握られている。今の航大には帝国騎士に抗う力は残されておらず、両刃剣に舌を這わせる女が漏らした言葉もまた嘘ではないのだと理解できる。
「抵抗するようだったら、そこら辺で転がってるお仲間を全員殺しちゃおっかな。それでも君は抵抗するのかナ?」
航大の瞳が再び倒れ伏すユイたちに向けられる。
自分の選択が仲間たちの命運を握っている。帝国騎士はどこまでも非情だった。
突き付けられた選択肢。仲間を見捨てることなど出来るはずもなく、女の言う通り航大には選択肢など存在してはいないのだ。
「……分かった。ガリアに行けばいいんだろ。抵抗はしない、だから仲間には手を出すな」
「アハッ、物分りがよくてお姉さんは嬉しいヨ」
航大が決めた答えを聞き、帝国騎士の女は満足といった笑みを浮かべると両手を大きく広げて喜びを全身で表現する。
「――行かせません」
「――ッ!?」
航大が帝国騎士の女と共に歩き出そうとした瞬間だった
そんな弱々しい震え声が背後から響いてきた。驚きに目を見開き、声が聞こえてきた方を見るとそこにはよろよろと立ち上がるユイの姿があった。まだアーサー王とのシンクロは解除されておらず、金色に輝く甲冑ドレスには鮮血が付着していた。
「――私が貴方を守ります」
誰が見ても満身創痍な様子を見せるアーサーであったが、それでも瞳には強い闘志が宿っており、片手にはこれまた金色に輝く聖剣・エクスカリバーが握られているのであった。
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