終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第三章24 世界創生の魔法
「相変わらず、しぶとい奴だぜ」
「まだまだ、戦いはこれからですよ」
神谷航大という少年の中に広がる深層世界での壮絶な戦いは、時間が経つごとに激しさを増していく。北方の女神・シュナと深層世界を支配する影の王たるもう一人の神谷航大はそれぞれが全力で力を出し合っていた。
「――氷連剣ッ!」
「んなッ!?」
女神シュナの鋭い声が響くと、深層世界の虚空に無数の氷剣が生成される。音もなく生まれた氷剣たちは、女神シュナの周囲を取り囲むようにして存在し、主の命令を待っているように制止する。
「いきなさいッ!」
「――ッ!?」
女神シュナが影の王に向けて手を突き出すと、虚空に制止していた氷剣たちが飛翔を開始する。それは直線的な動きであり、鈍色に光る刀身が影の王の身体を貫こうと瞬く間の内に零距離への接近を果たす。
「ちッ……効かねぇって言ってんだろッ――創世魔法・絶魔封陣ッ!」
接近してくる無数の氷剣に対して、影の王は片手を突き出し全ての魔法を無力化する創世魔法を繰り出していく。
かつて世界を滅ぼした魔竜が使ったとされる伝説の創世魔法。その威力は絶大であり、影の王が突き出す手の先には幾何学的な模様が刻まれた魔法陣が出現し、それに触れた氷剣は一瞬にして跡形もなく霧散していく。
「やっぱりダメかッ……!?」
「いえ、まだですッ!」
「――ッ!?」
女神シュナが繰り出す氷剣は影の王が使役する創世魔法の前に無残にも消失していく。しかし、次から次へと無限に生成される氷剣を相手に、影の王が苦しげな声を漏らす。
「クソがッ……!」
大きな舌打ちを漏らし、あちこちに視線を向けては自分の身体へ接近を果たす氷剣を創世魔法で打ち消していく。
最初に放った追尾系の氷魔法・グラン・ブリザードよりも氷剣の数は多く、その絶え間ない連撃を前にして、影の王は異形の力を持ってしても対応が後手に回ってしまう。
「その魔法の弱点……それは、打ち消したい魔法を全て視認しなければならない点にあります」
「……視認?」
「そうです。何でも無条件に魔法を打ち消せる訳ではないんです。だから、彼が気付かぬ内に氷剣で身体を貫くことができれば良いのです」
眼前には想像を絶する光景が広がっていた。
嵐のように氷剣が無数に降り注ぐ中、魔竜の翼で飛翔しながら苦しげに影の王は創世魔法を連発していく。
「はぁっ、はあぁッ……」
女神シュナが放つ氷魔法。
それは今までに見たことがないレベルに強い魔法だと言うことは、一秒と時間が経つにつれて彼女の顔が険しくなっているのを見て理解することができた。
強い魔法は術者に多大な負担を強いる。
世界を守護する北方の女神であっても限界があるのだと航大は理解し、強く唇を噛み締めてこの戦いが早期に決着が着くことを祈るしかできない。
「――くッ!?」
「シュナッ!?」
もう少しで影の王に攻撃が届く。
確かな手応えを感じ始めた瞬間だった。
隣に立っているシュナが苦しげな声と共に片膝を付き、それと同時にあれだけの猛威を振るっていた氷魔法が消失してしまう。
「全く、手こずらせやがって……」
「はぁっ、はあぁっ……ぐッ……はぁ……これでも、ダメだなんて……」
ようやく攻撃の手が止まったのを確認すると、影の王は大きく翼を広げて小さくため息を漏らした。
「シュナ、どうしたんだよッ……」
「……生身の身体を失い、魂だけの存在となった時から危惧していましたが……やはり、全盛期の力を使うことは出来ないようですね」
自分の現状を冷静に分析しながら、女神シュナは悔しげに唇を噛みしめると眼前に立ち塞がる影の王を睨みつける。
彼女の戦闘継続が不可能になる……それは、航大たちの敗北を意味していることは間違いない。
「さて、それじゃ……そろそろ、こっちの反撃といこうか?」
「……マズイですね、これは」
「まぁ、そうなるよな……」
影の王が使役する創世魔法。それが尋常ではない力を持っていることは航大も女神シュナもよく理解している。
「――創世魔法・神樹螺旋連撃」
影の王が新たな創世魔法の名を呟くと、深層世界全体が激しく揺れ始める。
「――お前らに絶望をくれてやるよ」
激しく揺れる世界の中、片手を天に突き上げる影の王。
その動きに導かれるようにして、深層世界の青空が映し出された大地に切れ目が生まれる。一度出来た切れ目は拡大を続け、気付けば大地の裂け目と化していて、その中から巨大な大樹が何本も具現化されていく。
「何が始まるんだよ、これ……」
「はぁ、はあぁ……航大、下がっていてください」
「……はっ?」
今までの魔法を無に帰すような壮絶たる光景が眼前に広がっていく。
圧倒的な絶望感が襲い掛かってくる中、女神シュナは小さな声で航大に下がるように懇願してくる。
「……この魔法、全盛期だったらまだしも……今の私には防ぎきれるか分かりません」
「それって……」
「少しでも勝つ可能性を残すために、お願いです……ここは下がっていてください」
膨大な魔力の本流を前にして、シュナは自分の身を守ることに全身全霊を投じる考えを持っていた。すでに航大を守るための余力は持ち合わせていないことを告げるものであり、その言葉を前にして航大は悔しげに拳を握りしめながら頷くことしかできない。
「……分かった。絶対にここを切り抜けるぞ」
「……もちろんです」
航大の言葉にシュナが力強く頷く。
それを確認して、航大はゆっくりと一歩ずつ後退していく。
自分の中に広がる深層世界。その中でも自分が無力であることを痛感する航大だが、決して負の感情を持つことはしない。
航大が負の感情を持てば、それは眼前で魔竜と融合を果たしたもう一人の自分である影の王に力を与えることとなるからである。
「――散れ」
航大たちが会話をする中、静かに魔法の行使を続けていた影の王。
天に突き出す右手の先、そこには巨大な螺旋の玉を形成する大樹の姿があった。
「……なんだよ、あれ」
「この世界に自然を作り出した魔竜・ギヌスが使う創世魔法の中でも、最上位に位置する魔法ですね……」
眼前に広がる異様な光景を前にして、女神シュナは額に汗を浮かばせながら小さく呟く。
天に形成された大樹の螺旋は、太陽かなにかと見間違うほどにまで巨大に成長しており、それが落下してくる未来を想像すると身体の震えが止まらない。
「これが創世魔法・神樹螺旋連撃だッ!」
影の王が強く言い放つのと同時に、天に掲げていた右手を振り下ろしていく。
その動きを合図に巨大な大樹の螺旋が航大たち目掛けて落下を開始する。
「――氷魔法・氷輪魔防壁」
接近してくる大樹を前にして、女神シュナが自身の身体に残る全ての魔力を費やして魔法による防壁を形成していく。何もない場所に突如として分厚い氷の壁が幾重にも重なるように出現する。
氷系魔法の中でも最強クラスの防御効果を持つ魔法であり、聳え立つ氷の壁は並大抵の魔法では打ち破ることが出来ない。
「ふんッ……無駄だ……」
悪足掻きをするシュナに影の王は無情にも冷酷な言葉を言い放つ。
それを証明するかのように螺旋の大樹は氷の壁に触れた瞬間、その中に溜め込んでいた膨大な魔力を一気に放出していく。目を開けていることすら困難な暴風が吹き荒れる中、螺旋と化した大樹は氷の壁を一瞬にして打ち消していく。
「シュナああああああああぁぁぁぁぁッ!」
暴風が吹き荒れる中、航大の小さな身体は後方へと吹き飛ばされていく。
螺旋の大樹に飲み込まれていく女神シュナの姿を見て、航大は思わずその名を叫んでいた。そして、それと同時に自分の身体が異様な熱を持ち始めていることに気付く。
それは氷都市・ミノルアで二人の帝国騎士と相対した時と似ている感覚。
「――英霊憑依」
右も左も、上も下も分からない感覚が支配する中、航大は思わずその単語を口にしていた。その瞬間、無力だった少年の身体を淡い光が包み込んでいく。
「――これはッ?」
確かな手応えを影の王は感じていた。
しかしそれも、膨大な魔力が一点に集中していく様を感じて一変していく。
「――勝負はこれからだ」
膨大な魔力が螺旋状に広がり猛威を振るう中、一人の少年が静かに言葉を放つ。
周囲に絶対零度の魔力を纏った少年は、再び女神の力をその身に取り込んでいた。
「おいおいおい、聞いてないぜ……これはよ……」
全てを察した影の王はその表情に笑みを浮かべながら、魔竜と融合を果たした自分と同等かそれ以上の魔力を放つ存在に視線を向ける。
暴風の中心。
そこに少年は存在していた。
「――英霊憑依・氷神」
その言葉と共に深層世界に吹き荒れていた暴風が一瞬にして消失していく。
世界の中心。そこには北方の女神・シュナと融合を果たした神谷航大が立ち尽くしているのであった。
「まだまだ、戦いはこれからですよ」
神谷航大という少年の中に広がる深層世界での壮絶な戦いは、時間が経つごとに激しさを増していく。北方の女神・シュナと深層世界を支配する影の王たるもう一人の神谷航大はそれぞれが全力で力を出し合っていた。
「――氷連剣ッ!」
「んなッ!?」
女神シュナの鋭い声が響くと、深層世界の虚空に無数の氷剣が生成される。音もなく生まれた氷剣たちは、女神シュナの周囲を取り囲むようにして存在し、主の命令を待っているように制止する。
「いきなさいッ!」
「――ッ!?」
女神シュナが影の王に向けて手を突き出すと、虚空に制止していた氷剣たちが飛翔を開始する。それは直線的な動きであり、鈍色に光る刀身が影の王の身体を貫こうと瞬く間の内に零距離への接近を果たす。
「ちッ……効かねぇって言ってんだろッ――創世魔法・絶魔封陣ッ!」
接近してくる無数の氷剣に対して、影の王は片手を突き出し全ての魔法を無力化する創世魔法を繰り出していく。
かつて世界を滅ぼした魔竜が使ったとされる伝説の創世魔法。その威力は絶大であり、影の王が突き出す手の先には幾何学的な模様が刻まれた魔法陣が出現し、それに触れた氷剣は一瞬にして跡形もなく霧散していく。
「やっぱりダメかッ……!?」
「いえ、まだですッ!」
「――ッ!?」
女神シュナが繰り出す氷剣は影の王が使役する創世魔法の前に無残にも消失していく。しかし、次から次へと無限に生成される氷剣を相手に、影の王が苦しげな声を漏らす。
「クソがッ……!」
大きな舌打ちを漏らし、あちこちに視線を向けては自分の身体へ接近を果たす氷剣を創世魔法で打ち消していく。
最初に放った追尾系の氷魔法・グラン・ブリザードよりも氷剣の数は多く、その絶え間ない連撃を前にして、影の王は異形の力を持ってしても対応が後手に回ってしまう。
「その魔法の弱点……それは、打ち消したい魔法を全て視認しなければならない点にあります」
「……視認?」
「そうです。何でも無条件に魔法を打ち消せる訳ではないんです。だから、彼が気付かぬ内に氷剣で身体を貫くことができれば良いのです」
眼前には想像を絶する光景が広がっていた。
嵐のように氷剣が無数に降り注ぐ中、魔竜の翼で飛翔しながら苦しげに影の王は創世魔法を連発していく。
「はぁっ、はあぁッ……」
女神シュナが放つ氷魔法。
それは今までに見たことがないレベルに強い魔法だと言うことは、一秒と時間が経つにつれて彼女の顔が険しくなっているのを見て理解することができた。
強い魔法は術者に多大な負担を強いる。
世界を守護する北方の女神であっても限界があるのだと航大は理解し、強く唇を噛み締めてこの戦いが早期に決着が着くことを祈るしかできない。
「――くッ!?」
「シュナッ!?」
もう少しで影の王に攻撃が届く。
確かな手応えを感じ始めた瞬間だった。
隣に立っているシュナが苦しげな声と共に片膝を付き、それと同時にあれだけの猛威を振るっていた氷魔法が消失してしまう。
「全く、手こずらせやがって……」
「はぁっ、はあぁっ……ぐッ……はぁ……これでも、ダメだなんて……」
ようやく攻撃の手が止まったのを確認すると、影の王は大きく翼を広げて小さくため息を漏らした。
「シュナ、どうしたんだよッ……」
「……生身の身体を失い、魂だけの存在となった時から危惧していましたが……やはり、全盛期の力を使うことは出来ないようですね」
自分の現状を冷静に分析しながら、女神シュナは悔しげに唇を噛みしめると眼前に立ち塞がる影の王を睨みつける。
彼女の戦闘継続が不可能になる……それは、航大たちの敗北を意味していることは間違いない。
「さて、それじゃ……そろそろ、こっちの反撃といこうか?」
「……マズイですね、これは」
「まぁ、そうなるよな……」
影の王が使役する創世魔法。それが尋常ではない力を持っていることは航大も女神シュナもよく理解している。
「――創世魔法・神樹螺旋連撃」
影の王が新たな創世魔法の名を呟くと、深層世界全体が激しく揺れ始める。
「――お前らに絶望をくれてやるよ」
激しく揺れる世界の中、片手を天に突き上げる影の王。
その動きに導かれるようにして、深層世界の青空が映し出された大地に切れ目が生まれる。一度出来た切れ目は拡大を続け、気付けば大地の裂け目と化していて、その中から巨大な大樹が何本も具現化されていく。
「何が始まるんだよ、これ……」
「はぁ、はあぁ……航大、下がっていてください」
「……はっ?」
今までの魔法を無に帰すような壮絶たる光景が眼前に広がっていく。
圧倒的な絶望感が襲い掛かってくる中、女神シュナは小さな声で航大に下がるように懇願してくる。
「……この魔法、全盛期だったらまだしも……今の私には防ぎきれるか分かりません」
「それって……」
「少しでも勝つ可能性を残すために、お願いです……ここは下がっていてください」
膨大な魔力の本流を前にして、シュナは自分の身を守ることに全身全霊を投じる考えを持っていた。すでに航大を守るための余力は持ち合わせていないことを告げるものであり、その言葉を前にして航大は悔しげに拳を握りしめながら頷くことしかできない。
「……分かった。絶対にここを切り抜けるぞ」
「……もちろんです」
航大の言葉にシュナが力強く頷く。
それを確認して、航大はゆっくりと一歩ずつ後退していく。
自分の中に広がる深層世界。その中でも自分が無力であることを痛感する航大だが、決して負の感情を持つことはしない。
航大が負の感情を持てば、それは眼前で魔竜と融合を果たしたもう一人の自分である影の王に力を与えることとなるからである。
「――散れ」
航大たちが会話をする中、静かに魔法の行使を続けていた影の王。
天に突き出す右手の先、そこには巨大な螺旋の玉を形成する大樹の姿があった。
「……なんだよ、あれ」
「この世界に自然を作り出した魔竜・ギヌスが使う創世魔法の中でも、最上位に位置する魔法ですね……」
眼前に広がる異様な光景を前にして、女神シュナは額に汗を浮かばせながら小さく呟く。
天に形成された大樹の螺旋は、太陽かなにかと見間違うほどにまで巨大に成長しており、それが落下してくる未来を想像すると身体の震えが止まらない。
「これが創世魔法・神樹螺旋連撃だッ!」
影の王が強く言い放つのと同時に、天に掲げていた右手を振り下ろしていく。
その動きを合図に巨大な大樹の螺旋が航大たち目掛けて落下を開始する。
「――氷魔法・氷輪魔防壁」
接近してくる大樹を前にして、女神シュナが自身の身体に残る全ての魔力を費やして魔法による防壁を形成していく。何もない場所に突如として分厚い氷の壁が幾重にも重なるように出現する。
氷系魔法の中でも最強クラスの防御効果を持つ魔法であり、聳え立つ氷の壁は並大抵の魔法では打ち破ることが出来ない。
「ふんッ……無駄だ……」
悪足掻きをするシュナに影の王は無情にも冷酷な言葉を言い放つ。
それを証明するかのように螺旋の大樹は氷の壁に触れた瞬間、その中に溜め込んでいた膨大な魔力を一気に放出していく。目を開けていることすら困難な暴風が吹き荒れる中、螺旋と化した大樹は氷の壁を一瞬にして打ち消していく。
「シュナああああああああぁぁぁぁぁッ!」
暴風が吹き荒れる中、航大の小さな身体は後方へと吹き飛ばされていく。
螺旋の大樹に飲み込まれていく女神シュナの姿を見て、航大は思わずその名を叫んでいた。そして、それと同時に自分の身体が異様な熱を持ち始めていることに気付く。
それは氷都市・ミノルアで二人の帝国騎士と相対した時と似ている感覚。
「――英霊憑依」
右も左も、上も下も分からない感覚が支配する中、航大は思わずその単語を口にしていた。その瞬間、無力だった少年の身体を淡い光が包み込んでいく。
「――これはッ?」
確かな手応えを影の王は感じていた。
しかしそれも、膨大な魔力が一点に集中していく様を感じて一変していく。
「――勝負はこれからだ」
膨大な魔力が螺旋状に広がり猛威を振るう中、一人の少年が静かに言葉を放つ。
周囲に絶対零度の魔力を纏った少年は、再び女神の力をその身に取り込んでいた。
「おいおいおい、聞いてないぜ……これはよ……」
全てを察した影の王はその表情に笑みを浮かべながら、魔竜と融合を果たした自分と同等かそれ以上の魔力を放つ存在に視線を向ける。
暴風の中心。
そこに少年は存在していた。
「――英霊憑依・氷神」
その言葉と共に深層世界に吹き荒れていた暴風が一瞬にして消失していく。
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