終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第二章3 悪夢の果てにあるもの
第二章3 悪夢の果てにあるもの
その光景は悪夢という他に形容できる表現が見当たらなかった。
魔獣が遭遇するという話を聞き、ハイライト王国の騎士隊で二百人規模の小隊を組んで出発した航大たち。
雪と氷に包まれた北方の大都市・ミノルアを目指した一行は、途中の休憩地点として宿の村・ヨムドンへ立ち寄ろうとしていた。しかし、航大たちがたどり着いた時には全てが手遅れだった。
「なんでこんなことが……」
目の当たりにする現実な地獄。
断末魔の叫び声が遠くから木霊する悪夢。
人間だったモノが散乱するカオスな世界。
そんなあまりにも非現実的な光景が、しっかりとした現実感として航大の視界を埋め尽くしていた。これが何かの悪い夢ならまだよかった。しかし、いくら頬を抓って見てもヒリヒリとした痛みは消えず、現実から逃避しようとする航大に、これでもかと今いるこの場所が現実での光景であることを伝えてくる。
「……航大」
「あ、あぁ……」
ギュッと隣に立つユイが袖を摘んでくる。
指に込められた力は弱く、それだけで無表情で感情が読めないユイにとってもこの光景が異常であり、強いショックを受けていることを如実に伝えている。
「本当にみんなやられちまってるのか……?」
「……分からない。でも、少ないけど……まだ生きてる鼓動は感じる」
「そんなのが分かるのか?」
「……なんとなくだけど、誰かの声が聞こえる」
表情を引き締め、目を閉じて感覚を聴覚に集中させるユイ。
彼女が言うには、この絶望的な状況の中でも命の灯火を消さない存在があるとのことだった。
「……ここで、逃げてちゃダメだよな」
「……航大?」
「ここで逃げたら……今までと何も変わらない。こんな世界に来て、現実から目を背けたら……俺は何も変われない」
異世界に来て、航大は自分の無力さを何度も痛感していた。
異世界にやってきて、魔獣との戦闘で何もできなかったこと。
目の前でシャーリーを攫われて為す術もなかったこと。
ならず者たちに囲まれて、自分は何もしなかったこと。
助け出したい人が目の前にいるのに、身動きすら取れなかったこと。
後方の安全な場所で本を開いていることしかできなかった航大は、これまでの様々な場面で自分の無力さを痛感してきた。所詮、異世界に来ても自分は何も出来ない人間である。この見知らぬ世界で、航大はまざまざとその現実を見せつけられてきた。
「ユイ、行くぞ……」
「……大丈夫?」
「あぁ、ここでじっとはしてられねぇよッ!」
くよくよと立ち止まってはいられない。
ユイの言葉が正しいのなら、この地獄の中でまだ生きることを諦めてない人がいる。
そんな人を一人でも多く救いたい。無意識の内に足は力強く一歩を踏み出し、全てを焦がす炎と人間の死が満ちた地獄へと向かっていくのであった。
◆◆◆◆◆
「くそッ……マジで熱いなこれ……」
「……どうしてこんなに燃えてるの?」
「えっ? なにか言ったか、ユイッ!」
「……この炎、何かおかしい」
四方八方を炎に包まれた空間を歩く航大。周囲に視線を凝らせば、かろうじて民家だったと思われる建造物が見えるのだが、今ではそれら全てが灼熱の炎に焼かれている。
炎の勢いが衰えることはなく、常に一定の火力で火の粉を撒き散らせていた。
「おかしいって何がッ!」
「……この炎からは変な力を感じる」
「変な力……?」
「……ただの自然現象で発生したものじゃない。何か魔法のようなものがこの炎には感じる」
走る速度は緩めず、それでもしっかりと通り過ぎる光景に目を凝らすユイ。そこそこの距離を走ってきたが、息一つ切れていないユイは周囲の異変を一つも見逃さないと表情を引き締める。
「魔法って……魔獣って魔法も使うのか……?」
「……それはないはず」
「それじゃ……これは人間がやったってのか?」
「……可能性としては十分に有り得る。こんな強い魔力……今まで見たことはないけど」
ユイが一つの可能性を口にした。
それは現実世界の住人である航大にとってはにわかに信じられない話ではあったが、ここは異世界である。魔法という単語によって現実世界では起こり得ない現実をこうして起こすことが出来る。
「…………もし、誰かがこんなひでぇことを意図的に起こしてるんだとしたら……許せねぇ……」
「……私も一緒」
断定的な話である。魔力を感じるといっても、何かの勘違いかもしれないし、誰かが魔法をかけて、こんな小さな村を焼き払ったという事実は見当たっていない。
それでも、もしユイの言葉が真実なのだとしたら、航大は魔法を放った人間のことを許すことはできないだろう。燃え盛る紅蓮の炎は、今の航大の気持ちを表しているかのように、その勢いを増していくばかり。
「うわぁッ!?」
怒りに視界が狭くなっているところに、航大は足元に転がっていた『何か』に足を躓かせてしまう。重心が前掛かりになり、バランスを大きく崩す。
「……航大ッ!」
バランスを崩した航大を見て、慌てた様子でユイが手を伸ばすが勢い余った航大の身体はユイの指をすり抜けて地面を派手に滑っていく。
地面が分厚い雪で覆われていた助かった。そうでなかったのなら、航大の身体は泥だらけになっていたし、戦ってもいないのに身体に擦り傷をたくさん作っていたかもしれない。
「いってぇ……何に躓いて――ッ!?」
雪の上に倒れ伏した航大は、すぐさま上半身を起こして自分が躓いたポイントへと視線を送る。炎の影響から外れた小さな道路の中心、そこには小さなボールのようなものが転がっていた。それはサッカーボールくらいの大きさにも見えたし、人間の頭くらいの大きさにも見えた。
躓いたものの正体を把握しようとした航大は、『それ』に気付き絶句する。
航大が躓いたもの――それは人間の頭だった。
「ひっ……」
思わず小さな悲鳴が漏れた。
胴体が存在しない、確かな人間の頭が転がっていたのだ。
年齢は分からない。現実世界で言うなら中年くらいの印象を最初に持った生首は、想像を絶する絶望の表情を浮かべて絶命し、胴体と切り離されてそこら辺に放置されていた。
「……航大、見ちゃダメ」
「で、でもっ……」
「……今は生きてる人を探さないと」
航大が強い衝撃を受けていることを察したユイは、生首と航大の間に立ち塞がって必死な様子で声をかけてくる。実際、ユイの行動は正しかった。あと数秒でも人間の酷い死に対面する心の準備が出来ない航大が見続けていたら、彼の心は間違いなく壊れてしまっていた。
そんな未熟な少年の心に逸早く気づき、ユイは素早い行動に出たのだ。
「……早くしないと、間に合わなくなる」
「わ、わかった……」
「……こっちの方から人間の気配がする」
「本当かっ……い、急ごう……」
後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、航大は後ろを振り返らず再び走り出す。
脳裏には断末魔の表情を浮かべて転がる人間の頭部が何度も蘇ってきて、航大は今までに感じたことのない嘔吐感を覚える。込み上げてくる胃液を何とか飲み込み、歯を食いしばって航大は走り続ける。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
どうしてこんな地獄が許されるのだろう。
どうして悪夢は覚めてくれないのだろう。
揺れる航大の心はどこにもぶつけることが出来ない激情に飲まれていく。
それは悲しみ。
それは怒り。
それは純粋な疑問。
あらゆる感情がごちゃ混ぜになって大きな波となって、人間として未熟である航大に襲い掛かってくる。
この悪夢を作り出した張本人が、まだこの場所に居るのなら……と、航大は願う。
そうすれば、この劇場に飲まれる感情を吐き出すことが出来るのに。
「……誰かいる」
得体の知れない形となって航大の心を掻き回す激情に四苦八苦していると、そんなユイの言葉が鼓膜を震わせた。
生き残りがいる。
その事実を真っ先に思い浮かべた航大は幾分、心が救われたような気持ちを覚えた。
この地獄の中で、誰か一人でも自分の手によって救い出すことができるのなら、それは航大にとって紛れもない救いであった。あらゆる悪夢を無かったことにして、助けたという事実に酔いしれることが出来る。
傍から見ればあまりにも浅ましい考えだった。
しかし、不安定な今の航大にとってはそれだけが唯一の希望であり、救いであることも間違いではなかった。
炎を掻き分けるようにして進むと、一際開けた場所に飛び出していた。
そこは小さな広場であるように思えた。円形に広がる広場の中心には木で出来たベンチと噴水が備え付けられていて、普段であるならここは村民の憩いの場だったのだろうと、推測できるような場所だった。
「ここには手掛かりは無しか……」
そんな広場の中心。
そこには一人の青年が黒煙の隙間から覗き見える夜空に視線を向けて立ち尽くしていた。
純白の生地に金の装飾を散りばめた軍服のような衣服に身を包んだ青年は、航大よりもいくつか年上の印象を受けた。
これだけ火の粉が舞う世界の中、青年の存在は一際特異に見えた。なにせ、その服には一切の汚れが見えず、方の少し上で切り揃えられた薄紫の髪にも汚れなどは見られない。
炎に囲まれて夜空を見上げる青年は、それだけで絵画にもなるような美しさを持って存在しており、どこか憂いを帯びた表情は同性の航大にとっても、心から美しいと形容できるようなものであった。
「お客さんかな? この村の人間は全員殺したはずなんだけど……いや、さっきからウロウロしてるたくさんの気配の一つか」
青年は広場に足を踏み入れた航大を見て数秒の沈黙の後、そんなことを呟いた。
その言葉を航大が理解するまでに少々の時間を要した。
あまりにも無感情な様子で、危うく聞き逃すような小さな声量で発せられた言葉に、航大は呆然とする。
「本当は帰ろうと思ってたんだけど、ここで会ったのも何かの縁だよね。一変、死んでおく?」
やはりどこか感情の篭っていない声音で青年は航大に話しかける。
その青年の言葉をようやく脳が理解した瞬間、航大の怒りは最高潮にまで昂るのであった。
その光景は悪夢という他に形容できる表現が見当たらなかった。
魔獣が遭遇するという話を聞き、ハイライト王国の騎士隊で二百人規模の小隊を組んで出発した航大たち。
雪と氷に包まれた北方の大都市・ミノルアを目指した一行は、途中の休憩地点として宿の村・ヨムドンへ立ち寄ろうとしていた。しかし、航大たちがたどり着いた時には全てが手遅れだった。
「なんでこんなことが……」
目の当たりにする現実な地獄。
断末魔の叫び声が遠くから木霊する悪夢。
人間だったモノが散乱するカオスな世界。
そんなあまりにも非現実的な光景が、しっかりとした現実感として航大の視界を埋め尽くしていた。これが何かの悪い夢ならまだよかった。しかし、いくら頬を抓って見てもヒリヒリとした痛みは消えず、現実から逃避しようとする航大に、これでもかと今いるこの場所が現実での光景であることを伝えてくる。
「……航大」
「あ、あぁ……」
ギュッと隣に立つユイが袖を摘んでくる。
指に込められた力は弱く、それだけで無表情で感情が読めないユイにとってもこの光景が異常であり、強いショックを受けていることを如実に伝えている。
「本当にみんなやられちまってるのか……?」
「……分からない。でも、少ないけど……まだ生きてる鼓動は感じる」
「そんなのが分かるのか?」
「……なんとなくだけど、誰かの声が聞こえる」
表情を引き締め、目を閉じて感覚を聴覚に集中させるユイ。
彼女が言うには、この絶望的な状況の中でも命の灯火を消さない存在があるとのことだった。
「……ここで、逃げてちゃダメだよな」
「……航大?」
「ここで逃げたら……今までと何も変わらない。こんな世界に来て、現実から目を背けたら……俺は何も変われない」
異世界に来て、航大は自分の無力さを何度も痛感していた。
異世界にやってきて、魔獣との戦闘で何もできなかったこと。
目の前でシャーリーを攫われて為す術もなかったこと。
ならず者たちに囲まれて、自分は何もしなかったこと。
助け出したい人が目の前にいるのに、身動きすら取れなかったこと。
後方の安全な場所で本を開いていることしかできなかった航大は、これまでの様々な場面で自分の無力さを痛感してきた。所詮、異世界に来ても自分は何も出来ない人間である。この見知らぬ世界で、航大はまざまざとその現実を見せつけられてきた。
「ユイ、行くぞ……」
「……大丈夫?」
「あぁ、ここでじっとはしてられねぇよッ!」
くよくよと立ち止まってはいられない。
ユイの言葉が正しいのなら、この地獄の中でまだ生きることを諦めてない人がいる。
そんな人を一人でも多く救いたい。無意識の内に足は力強く一歩を踏み出し、全てを焦がす炎と人間の死が満ちた地獄へと向かっていくのであった。
◆◆◆◆◆
「くそッ……マジで熱いなこれ……」
「……どうしてこんなに燃えてるの?」
「えっ? なにか言ったか、ユイッ!」
「……この炎、何かおかしい」
四方八方を炎に包まれた空間を歩く航大。周囲に視線を凝らせば、かろうじて民家だったと思われる建造物が見えるのだが、今ではそれら全てが灼熱の炎に焼かれている。
炎の勢いが衰えることはなく、常に一定の火力で火の粉を撒き散らせていた。
「おかしいって何がッ!」
「……この炎からは変な力を感じる」
「変な力……?」
「……ただの自然現象で発生したものじゃない。何か魔法のようなものがこの炎には感じる」
走る速度は緩めず、それでもしっかりと通り過ぎる光景に目を凝らすユイ。そこそこの距離を走ってきたが、息一つ切れていないユイは周囲の異変を一つも見逃さないと表情を引き締める。
「魔法って……魔獣って魔法も使うのか……?」
「……それはないはず」
「それじゃ……これは人間がやったってのか?」
「……可能性としては十分に有り得る。こんな強い魔力……今まで見たことはないけど」
ユイが一つの可能性を口にした。
それは現実世界の住人である航大にとってはにわかに信じられない話ではあったが、ここは異世界である。魔法という単語によって現実世界では起こり得ない現実をこうして起こすことが出来る。
「…………もし、誰かがこんなひでぇことを意図的に起こしてるんだとしたら……許せねぇ……」
「……私も一緒」
断定的な話である。魔力を感じるといっても、何かの勘違いかもしれないし、誰かが魔法をかけて、こんな小さな村を焼き払ったという事実は見当たっていない。
それでも、もしユイの言葉が真実なのだとしたら、航大は魔法を放った人間のことを許すことはできないだろう。燃え盛る紅蓮の炎は、今の航大の気持ちを表しているかのように、その勢いを増していくばかり。
「うわぁッ!?」
怒りに視界が狭くなっているところに、航大は足元に転がっていた『何か』に足を躓かせてしまう。重心が前掛かりになり、バランスを大きく崩す。
「……航大ッ!」
バランスを崩した航大を見て、慌てた様子でユイが手を伸ばすが勢い余った航大の身体はユイの指をすり抜けて地面を派手に滑っていく。
地面が分厚い雪で覆われていた助かった。そうでなかったのなら、航大の身体は泥だらけになっていたし、戦ってもいないのに身体に擦り傷をたくさん作っていたかもしれない。
「いってぇ……何に躓いて――ッ!?」
雪の上に倒れ伏した航大は、すぐさま上半身を起こして自分が躓いたポイントへと視線を送る。炎の影響から外れた小さな道路の中心、そこには小さなボールのようなものが転がっていた。それはサッカーボールくらいの大きさにも見えたし、人間の頭くらいの大きさにも見えた。
躓いたものの正体を把握しようとした航大は、『それ』に気付き絶句する。
航大が躓いたもの――それは人間の頭だった。
「ひっ……」
思わず小さな悲鳴が漏れた。
胴体が存在しない、確かな人間の頭が転がっていたのだ。
年齢は分からない。現実世界で言うなら中年くらいの印象を最初に持った生首は、想像を絶する絶望の表情を浮かべて絶命し、胴体と切り離されてそこら辺に放置されていた。
「……航大、見ちゃダメ」
「で、でもっ……」
「……今は生きてる人を探さないと」
航大が強い衝撃を受けていることを察したユイは、生首と航大の間に立ち塞がって必死な様子で声をかけてくる。実際、ユイの行動は正しかった。あと数秒でも人間の酷い死に対面する心の準備が出来ない航大が見続けていたら、彼の心は間違いなく壊れてしまっていた。
そんな未熟な少年の心に逸早く気づき、ユイは素早い行動に出たのだ。
「……早くしないと、間に合わなくなる」
「わ、わかった……」
「……こっちの方から人間の気配がする」
「本当かっ……い、急ごう……」
後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、航大は後ろを振り返らず再び走り出す。
脳裏には断末魔の表情を浮かべて転がる人間の頭部が何度も蘇ってきて、航大は今までに感じたことのない嘔吐感を覚える。込み上げてくる胃液を何とか飲み込み、歯を食いしばって航大は走り続ける。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
どうしてこんな地獄が許されるのだろう。
どうして悪夢は覚めてくれないのだろう。
揺れる航大の心はどこにもぶつけることが出来ない激情に飲まれていく。
それは悲しみ。
それは怒り。
それは純粋な疑問。
あらゆる感情がごちゃ混ぜになって大きな波となって、人間として未熟である航大に襲い掛かってくる。
この悪夢を作り出した張本人が、まだこの場所に居るのなら……と、航大は願う。
そうすれば、この劇場に飲まれる感情を吐き出すことが出来るのに。
「……誰かいる」
得体の知れない形となって航大の心を掻き回す激情に四苦八苦していると、そんなユイの言葉が鼓膜を震わせた。
生き残りがいる。
その事実を真っ先に思い浮かべた航大は幾分、心が救われたような気持ちを覚えた。
この地獄の中で、誰か一人でも自分の手によって救い出すことができるのなら、それは航大にとって紛れもない救いであった。あらゆる悪夢を無かったことにして、助けたという事実に酔いしれることが出来る。
傍から見ればあまりにも浅ましい考えだった。
しかし、不安定な今の航大にとってはそれだけが唯一の希望であり、救いであることも間違いではなかった。
炎を掻き分けるようにして進むと、一際開けた場所に飛び出していた。
そこは小さな広場であるように思えた。円形に広がる広場の中心には木で出来たベンチと噴水が備え付けられていて、普段であるならここは村民の憩いの場だったのだろうと、推測できるような場所だった。
「ここには手掛かりは無しか……」
そんな広場の中心。
そこには一人の青年が黒煙の隙間から覗き見える夜空に視線を向けて立ち尽くしていた。
純白の生地に金の装飾を散りばめた軍服のような衣服に身を包んだ青年は、航大よりもいくつか年上の印象を受けた。
これだけ火の粉が舞う世界の中、青年の存在は一際特異に見えた。なにせ、その服には一切の汚れが見えず、方の少し上で切り揃えられた薄紫の髪にも汚れなどは見られない。
炎に囲まれて夜空を見上げる青年は、それだけで絵画にもなるような美しさを持って存在しており、どこか憂いを帯びた表情は同性の航大にとっても、心から美しいと形容できるようなものであった。
「お客さんかな? この村の人間は全員殺したはずなんだけど……いや、さっきからウロウロしてるたくさんの気配の一つか」
青年は広場に足を踏み入れた航大を見て数秒の沈黙の後、そんなことを呟いた。
その言葉を航大が理解するまでに少々の時間を要した。
あまりにも無感情な様子で、危うく聞き逃すような小さな声量で発せられた言葉に、航大は呆然とする。
「本当は帰ろうと思ってたんだけど、ここで会ったのも何かの縁だよね。一変、死んでおく?」
やはりどこか感情の篭っていない声音で青年は航大に話しかける。
その青年の言葉をようやく脳が理解した瞬間、航大の怒りは最高潮にまで昂るのであった。
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