[休止]The#迷走のディフォンヌ

芒菫

第七走 「闇照(やでん)」

――――風が吹いている。微かな温もりを感じた。男は私の前に現れ、家族同然の存在、コブ爺ちゃんは私を守る為に戦った末、意識があるのかないのか分からない状態にまで陥っていた。可笑しな依頼を頼まれ、以来主の使いが来るというのに。私の誤った判断で、コブ爺ちゃんを傷付けてしまった。なら、この喧嘩のけりをつけるのは私だ。

 「あんた、どこの国のヤクザだ?コブ爺ちゃんをここまで怪我させやがって!ゆるさねぇぞ!」

 「諄い諄い。諄いっつってんだよ。守るだの、助けるだの。大事叩いて結果がそれか?その爺さんもとんだ馬鹿につき合わされちまったようだな。所詮、お前には俺を止める事なんて出来るはずがない。その勇気と根拠の発生源を今から俺が潰してやるよ。お前がいくら諄く、青ざめた事いってんだかなぁ!!」

 「勇気?そんなものは最初からあるはずがないだろ。私はこの町で生まれ、この町で育ち、親に見捨てられ11年くらいだ。そんな私をこれまで助けてくれたのはコブ爺ちゃんなんだよ。コブ爺ちゃんと何不自由なく幸せに暮らしていく夢があるっていうのが私の唯一の根拠なんだ。だから、ここで朽ちる訳にはいかないんだぁ!!!」

しかし、私は無知で無力。出来ることは盗賊だけ。そんな私が、この男に勝てる勝率なんてない。そう、元々結果は決まっているのだ。なら、いっそのこと、コブ爺を逃がすために—————
突然、彼奴の手から炎が生み出された。それを拡散しては私に飛ばし、拡散しては私に飛ばしを繰り返している。私は、日頃の運動能力を発揮させ、全て避けかわした。

 「ほう。流石大事叩いてるだけ、実力は持ってるんじゃねぇか。称えてやるよ。ホラ吹きさんや!しかし、同じ攻撃の避け方が諄い。それではいつか避けきれなくて服に引火するぞ」

 彼奴は次々に、火の玉を投げてくる。玉、とはいってもそこまで大きめの玉ではないが、序盤と比べると、比較的に大きくなっていっているのが分かる。それを、この檎集庫きんしゅうこの中にあるテーブルや椅子などを足場に使い、ギリギリ避けていく。
しかし、相手の投げ方からして、動きが読まれ始めているのだろうか。人間の殆どは一定の状況になると同じ行動を繰り返す性質を持っていたりする。それがこの状況で現れているのだろうか。彼奴は、私の落下地点に狙いを定めて次々に炎の玉を放っていく。

————椅子や、テーブルに火が燃え移り始めた。非常にまずい。このまま行くと、檎集庫にある盗品や食料などの貴重品に燃え移る可能性がある。幸い、盗品や食料は地下の隠し扉にしまってある為、それほど問題はないが、寝床が無くなってしまうのが一番の問題だ。
しかし、今の状況では彼奴が火消し作業を許可するはずがない。いつの間にか焼かれてました。なんて事になり得るだろう。
そう考えている間に、私は辺り、炎で囲まれていた。黒い煙で呼吸も困難になり始めた。

 「ははは。そうだそのまま酸欠になって倒れこんでみろ。炎の餌食だ。このまま楽に酸欠で死ぬか、そのまま苦しみながら死んでいくか。さぁ、どちらか選べ!」

 彼奴はニヤリと笑い、ゆっくり私の方へ近づいてきた。
 勿論、答えは決まっている。やるだけやらないと気が済まない。どちらの選択も死が確定しているのなら、それに抗うってのが盗賊の役目。これを超えなければ、コブ爺を助ける事すら出来ないんだ———

「・・・抗う」

 「あ?」

 彼奴は、私の答えが聞き取れなかったのか。それに威圧をかけてくる。

 「どちらの選択にも従わないって事だよ!」

 「———お前、とんだ命知らずなのな。諄い」

 周りの火の玉の温度が上昇する。もう少しで建物ごと爆破しそうだ。コブ爺————

・・・・突然の出来事で唖然としている。頭の上から大量の水が降ってきているのが分かった。1秒に降る、雨などという単位の量ではない。もはや滝レベルだ。しかし、何故?

 「遅くなったわね。エレミー」

 聞き覚えのある声だ。何処か最近。依頼主に使いを送る時に挨拶に来た女の声だ。
 確か名前は———

「セシュレ・スミンだと・・・?何故、マリア・ローズの右腕がここにいるのだ!?」

 私は、完全に思い出した。そう、彼女は応戦候補マリア・ローズの右腕、そして今回の使いである『セシュレ・スミン』であると・・・・

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