奴隷少女の勇者道

巫夏希

2-13. 善と悪

「しかし彼が実際にこの盗賊団でそれなりの活動をしていることもまた事実です」

 そう語ったのは先ほどの女幹部であった。

「それもそうだ」

 ボスは素直に頷く。
 女幹部は首を傾げる。

「ところで、今日は何のために集められたのでしょうか? こんな朝早くから、我々全員でどこかに襲撃にでも?」
「いいや、そういうわけではない。今日は仕事の話ではなく、もっともっと重要なことだ。大事なことでもあるな」
「重要であり……大事でもある。それは?」
「まあ、そう急かすな。……本日をもって、ワイルドウルフはこの裏街を捨てる。メンバーに荷物を揃えて今日中に玄関前に集合だ。家族がいるやつはそいつらも連れてくることを忘れずにな」

 それを聞いた幹部三人は言葉を失った。

「オヤジ、それはいったいどういうことだ」

 幹部の一人でありボスの息子である少年は言った。
 その気持ちはほかの幹部もいっしょだった。今までこの裏街を拠点に活動してきたのに、それを捨てる? そんな判断を急にするなんて、いつものボスらしくない――彼らはそう思っていたからだ。
 ボスは溜息を吐いて、答える。

「お前にも言わずに決めたことは悪いと思っているよ。だがこれはお前たち幹部を含めた団員のことを考えて決めたことだ。頼む、素直に受け入れちゃあくれねえか。老いぼれの考えだが、きちっと筋は通っている」
「でもよ、ここを捨てるのはいいがどこに行くつもりだ? ここでの権力を捨てて、また一からやり直すとでも?」
「いいや。いくらなんでもそういうことをするわけにもいかないだろう。それは決まっている。……俺たちはマホロバに招待されることとなった」

 それを聞いて、首を傾げる。

「マホロバ……へ。どうしてまたそんな話が唐突に」
「さきほど来ていた客人を、お前たちは目撃していただろう? あれは、少年に見えるが、実際は違う。神国教会からの使いだそうだ」
「神国教会の使いってやつが、こんな辺鄙なところまでわざわざ来たとでもいうのか?」
「ああ、その通りだ」

 ボスは首肯する。
 しかし彼はそれに納得しない様子だった。

「納得いかねえ……。それでその使い、ってのがうちらにそれを提案したわけか?」
「まあ、そういうことになるな。もちろん、あちら側からの条件を提示された上での話になるが」
「条件?」
「ああ……裏街の破壊行為についての了承だ。即ち、神国教会はこの裏街を目の上の瘤としていて、さっさと破壊したいらしい。まあ、そうだろうな。俺がその立場だったら歯向かう或いは不安の種になっている場所があればさっさと潰すだろう」
「それで、それを了承したっていうのか!」
「ああ。これは私のためでもあり、ワイルドウルフを存続させるためでもある。あそこでもし了承しかねていたら、裏街とともにワイルドウルフは終わっていたよ」
「だが……だからといって……」

 彼は涙を流しながら、言った。
 それを見て、ボスは目を細める。

「お前がこの街にどれほどの思い入れがあるのか、私だって知っている。だが、時代の流れには誰も逆らうことなんて出来ない。強いて言うなら、『勇者』ってやつくらいだろうな。でもそいつはおとぎ話の中でしか登場しないし倒すのは神国教会ではなくて『魔王』という絶対的な悪だ。神国教会の行為には甚だ疑問を抱くところもあるが、やっていることは善意だ。悪ではなくて、善だよ。そんなやつに、勇者が戦意をむき出しにするとは思えない。勇者はいつだって善の味方だから、な」

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