奴隷少女の勇者道

巫夏希

2-5. エルール


「なんだよエルール、失敗したのか?」
「まぁ何と無く失敗すると思ったけどねー。あんたのことだし」

 エルールを縛り上げてネチネチと話し合いという名の喧嘩を始めようと思っていたレミリアだったが、物陰から二人の声が聞こえて、レミリアはそちらを振り返った。
 そこに立っていたのは随分と奇妙ななりの二人だった。
 片方は黒と白の服を重ね着している。腰に色褪せたスカーフを巻いていてニコニコと笑っていた。中性的な顔立ちだが話し口調からして女性ぽかった。
 対してもう一人はズボンの中にワイシャツの下の方を突っ込み、茶色の帽子を被っていた。肩に手提げ鞄をかけていて、その手提げ鞄はたくさん何かが入っていた。何が入っている、というのは具体的には解らなかったが、今のレミリアとイヴァンには知る由もなかった。

「まぁ、ここまでついてこられちゃったんじゃあ逃げようがないし、しょうがないね。僕たちの負けだ。エルール、盗んだものは返そう」
「何でだ! 銀のロザリオだぜ? そんなものさっさと換金しちまえばあいつらに『税』を支払うことだって出来る」
「税? レスポークに税なんて存在しないんじゃあ……」

 訊ねたのはレミリアだった。
 それに答えたのは黒と白の服を重ね着した、中性的な顔立ちをした子供だった。

「税が存在しないのは『表』だけの話だ。だけど表に住むにはそれなりの地位と豊かな暮らしが出来る程の金銭が必要となる。とはいえこの街の仕事は代々引き継がれるものばかり。ただし外の人間はそんなことを知らない。ほいほい騙されてこの街にやって来て、金を吸い取られるだけ吸い取られてそのままだ。だが生きるためには働かなくてはならない。……ここはそういうならず者ばかりが集まった街だ。そしてレスポークが必死に隠そうとしている闇だよ」
「……それじゃ、あなたたちはみんな」
「はっきり言って、天涯孤独ってやつだよ。僕ら三人には家族がいない。代わりに僕ら三人が家族みたいなものだ」
「でも……この街に住むには、税が必要なのかしら」
「『ワイルドウルフ』って名前の盗賊団を聞いたことがないかい。ここはそいつらの本拠地だ。そして今は、そいつらがここを支配している。そいつらに認めてもらうには税を支払わなくてはならない」
「だが最近、あいつらは横暴を極めつつある……。あのやろう! あいつらは父さんの場所を横取りしただけなのに!」
「父さん?」
「リムファス・ゴルール……っていや、聞いたことがあるだろ」

 レミリアの疑問に答えたのは手提げ鞄を装備した子供だった。
 しかしながらイヴァンはそれが解らず、首を傾げる。

「リムファス・ゴルール……大盗賊団『黒い狼』の団長ね。悪逆非道の限りを尽くして、つい数年前に処刑されたと聞いたことがあるわ。それにしても、まさか子供が居たなんて」
「父さんはそんな悪いことなんてしていない! 悪逆非道だなんて、父さんを邪魔者扱いしていた連中が、勝手にそう言っただけだ!」
「もしかして、これがあなたの言う『父さん』?」

 イヴァンの声を聞いてエルールは前を向いた。エルールが持っていたのは写真立てだった。
 そこに写っているのは笑顔で被写体になっている男だった。顎髭を蓄えた男は、何処か威圧感がある。
 エルールは頷いて、言った。

「ああ……そうだ。それが僕の父さんだよ」


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