奴隷少女の勇者道

巫夏希

1-5. 解除(前編)

「おねえさん、どうしたの?」

 不意に少女の声が聞こえた。
 それが聞こえたレミリアは冷や汗をかいて、その声が聞こえる方向へと視線を写した。


 ――少女の姿を見つけるまで、そう時間はかからなかった。


「やはり隠していたのだな……この裏切り者め!」

 そう言って男はレミリアを投げ払い、少女――イヴァンのもとへ歩いていく。
 その姿は彼女から見れば、どんなものに見えたのだろうか。
 どんなものかは解らないが、どのようなイメージであったとしても、その男を『恐怖の象徴』として捉えたのは間違いないだろう。
 彼女は後退る。しかしそれ以上に男のスピードが早い。

「逃げて……!」

 床に衝突し、怪我を負ってしまったレミリアだったが、彼女を守るために精一杯声をかける。
 残念ながら、彼女が使える守護魔法はそれほど強い威力を発揮しないし、遠隔操作もできない。一瞬で彼女の傍にいけば可能性は高まるだろうが、相手は強い。レベルも相当高いだろう。
 そんな相手に対して、レミリアは出来ることなら逃げたかった。
 でも、レミリアの目の前には助けを求める少女の姿があった。怯えている少女の姿があった。
 彼女は気を逸らすために、魔法を放とうとした――が。

「おっと。そうだった、忘れていたよ」

 そこで唐突に男が踵を返し、再びレミリアの方角へと歩き始める。
 レミリアの目の前で男は立ち止まり、そっと右手を掲げる。
 刹那、レミリアは呼吸ができなくなった。

「……の、ノーモーションで魔法が……!」
「聖天使隊はこういうこともできるのだよ。なにせ神のご加護が私にはついているのだから」


 ――神様。
 そこでレミリアは考えた。神様はどうしてこんな汚れたものを『正義』などと決めて、加護を与えたのだろうか、と。
 この男が正義だとは、すくなくとも今の行動からは理解出来ない。だからレミリアはくやしかったのだ。
 今まで自分が信じてきた神様は、これほどまでに汚れている存在だったのか、と。

「ああ、神様」

 声に出さずに彼女は呟く。


 ――どうして、このような者に加護をお与えになったのですか?


 レミリアは気が付けば、涙を流していた。

「今更命乞いをしても無駄だ。この魔法は一度発動してしまえば術者に何かあるか術者が止めるという意志がない限りは続く。お前の身体が酸素を欲しがっていたとしても、息が出来ないというのは苦しいだろう? だが、お前はそれほどまでの罪を犯した。神国教会への裏切りだ。苦しんで苦しんで苦しんで、今までのことを悔い改めて死ね。お前は神の国にも天国にも行くことはできないだろう。強いて言うならば待っているのは……地獄だ」

 ほんとにそうなのだろうか。
 レミリアは今まで正しいことをしてきたつもりだった。お祈りも、お掃除も、シスターとしてやらなくてはならないことは凡てやってきたつもりだった。もちろん、その行為凡てに神への感謝を込めて、だ。
 なのに、他者の神の加護により、彼女は今絶命させられようとしていたのだ。
 私は悪いことを、ほんとうに悪いことをしてしまったのだろうか。
 彼女は考える。しかし、その意識も徐々に朦朧になってきていた――。
 その時だった。

「……暑いな」

 唐突に、男が暑さを感じ始めた。しかし、ここは比較的気候が安定している地域であるし、唐突に暑くなることもない。
 男は背後を振り返る。
 そこにあったのは――巨大な炎の塊だった。

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