異世界行ったら魔王になってたんだけど(以下略)

N

62 . 期待外れの歌姫


「お。起きたんね」

第一声はそれだった。扉の前で冷徹極まりない眠そうなジト目でこちらを見下ろした。そして何より全裸。先程の水着やら羽織りやらは取っ払われそこそこ豊かな胸に張り付いたように垂れている横髪が際どい所を隠していた。
その余りにも酷いギャップに窓に思わず後ずさった。何より私の思い浮かべていた人物像とは全く違ったからだ。

清楚女子…ソレラちゃんみたいな子だと1人勝手に思っていたらこのザマだ。

「ほら、起きたんならさっさとしたくしぃや。今までお前が起きなかった3日の宿泊費をぐっと稼いでもらうでな?ま、そんな魔力籠ってない様な服を着た魔族、いや邪族には期待はしていないけどな」
「こらヴィルタ」

「はぁ?あんた言ってくれるじゃない。私を誰だと思っているの?」

仲裁に入ってきたロダムを無視し思わず喧嘩腰の私がひょっこりと顔を出したらもう遅く、慌てて口を噤んでも歌姫ヴィルタと呼ばれた緑蒼髪の露出狂がにんまりと眉間に深いしわを寄せ口角を上げた。
「へぇ、じゃあ誰なんだ?」

「この国の魔王よ」

「…フッ」
此奴鼻で笑った。鼻で笑ったぞ。

「魔王城にお住いの魔王がこんな辺地に来るわけないやろ?あの偉大な魔王を偽ったら最悪死刑やしやめときやめとき」
こいつけらけらと嘲笑いやがって。

すると下の入り口の扉が優しくノックされる音が聞こえた。

「来客かい?母さん見てきてよ」
「あいよ」

ロダムさんは部屋を出て音を立てて階段を下るとガチャリとドアの開いた音がした。
か細いながらも床を通してなんとなく会話が聞こえる。壁やらが薄いのだろう。
「貴女達は誰なんです?」
「陛下付きの側近です」
…どこかのずぼら長女と似ている声ですね、なぜでしょう。すると下からガラスの破壊音に続いて数々の悲鳴が上がってきた。それを聞いたヴィルタはみてくるわ、と呟くとヴィルタも部屋を出て後を追う。
ガッシャンガッシャンと一階にはバーでもあったのかガラスと瓶の割れる音が響く。


…まさか、ね。


心配になって私も部屋を出た。

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