異世界行ったら魔王になってたんだけど(以下略)

N

61 . 緑蒼の歌姫


少しだけお日様の匂いのする布団。小さな窓から差し込む薄っすらとした光。
少し離れたところに置かれた青色のネックレス

「ここ、どこだ」

「あら。起きはったんやね」
バタンと扉を壁に打ち付け現れたのは少しふっくらとしたおばちゃんだった…しかし明らかに変わった所がある。
おばちゃんには人魚のような尾ひれがついていて浮いているということ。
温厚そうなおばちゃんは手に白いタオルを持っている。
「えっ、と…」
「あんた街外れの所でメガロドンに食われそうになってたそうじゃないか」
けらけらと笑ってなにやら物騒な名前を口に出した。メガロドンとやらが海底で見た巨大なサメの名前なのであろう。
「娘がそれを拾ってきたんだよ。あんた外のもんやろ?あんな所にいたらそりゃ食われそうにもなるわ」
「あの、他にも近くに三人の女はいませんでしたか!?」
どうかねぇとおばさんは唸ると部屋の掃除を始めた。
「とりあえず自己紹介だね、あたしはセイレーン…つまり人魚さ。セイレーンのロダムっていうのさ。あんたは?」
「私は魔族の相澤藍那です。あの、ロダムさん」
「なんだい?」
「ここはどこですか?」
そう聞くとロダムさんは忘れていたとでもいうような顔で振り返った。

「あぁ。ここは海底都市マリンファールの宿屋さ」

すでに目的地に到着していた。
私はリロロを一生恨む事にしよう。
「…あれは?」
ふと聞こえてきた歌声に耳を傾ける。透き通った、且つ滑り出すようななめらかな歌声。波に乗るような嫋やかな歌詞は魔法語なのだろうが、外国語の様などこか独特な雰囲気を醸し出している。
「また今日もやっているんだね、あの子はこの国随一の歌姫さ。元々セイレーンってのは歌や楽器が上手いもんなんだけどあの子はずば抜けているんだ」
ロダムさんはそう言うと窓に視線を向けた。不意に私もベッドから立ちあがり小さな窓を覗いた。
ここは三階の様で街をよく見渡せるようだ。一見普通の王都の様な街並みで奥の方に大きな一枚岩に塔が何本か立っているのが見えるのだがそこを行き交う人々は皆脚ではなく尾びれを動かし移動している。さらには空、否、天井というべきところか。ドーム型の薄い膜の様なものが大きくここら一帯を包み込んでいて、その中の空中…いや、水中を飛ぶように泳いでいる人もいた。
そして宿前の大通りの少し先のところで人盛りがあった。

「あれが…」

美しいエメラルドグリーン美しく長い髪。同様に長い二つ横髪が前に垂れており紫色のレースの大きなフリルのついた羽織り物。その下に水着といったほうが正しい、真ん中に丸いドーナツ型の白い筋の入ったトルコ石のようなものに紫のグラデーションになったストライプ模様が捻れている。
ミニスカートのようなものが尾ひれとお腹の繋ぎ目でひらひらとしていた。
歌い終わったのか上げた瞼の睫毛から琥珀色の瞳が覗いている。 
すくっと座っていた樽のような物から立ち上がると礼をして長い拍手を受けるとこちらの宿屋に泳ぎ始めた。

「そうさ、あれがあんたを助けた私の娘、歌姫ヴィルタさ」

ガタンと音を立てて下から扉を閉める音が聞こえた。

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