異世界行ったら魔王になってたんだけど(以下略)

N

45 . なくしたもの


午後の香ばしい夕日の差し込む窓辺。やや渋めの先程まで飲んでいた紅茶の冷めようから秋も深まってきたということを実感させる。壁の棚にぎっしり詰め込まれた日本語とよく似た言語の文字の様々なタイトルが羅列している。
シックな調度品というか、実にシンプルなツヤのある深い木目のわかる椅子と机の上には白い純白に書き込まれたシンプルな金細工のカップと皿が置かれていた。私はやや心細い柔い夕日を灯火に一つの書を手にしていた。
「アイナ様が御読書とは、珍しいですね」
そう声をかけてきたのは紅茶を注ぎに来たのであろう、カップを手にしたマイだった。
「珍しいとは大層失礼な言葉ね。私は一応これでも魔王よ?マイの首は飛ばそうと思えば飛ばせそうじゃない?」
冗談っぽく呟いてみたがマイは冗談じゃないと言うかのように苦笑いした。
「もう、すっかり魔王っぷりが板についてきましたね」
「ふふーん、でもエイルとかいう奴はもっとワガママだっただろうから。助かったでしょ?」
どうだか、とマイはまた苦笑いした。
「ところで、アイナ様。何を読んでおられるのです?」
「語学本」
あっさりと言うようにそう告げるとマイはえらくびっくりとした顔をした。ちょっと気にくわない。
「なによ」
「いや、アイナ様ってそんな真面目でしたっけ?」
「失礼なー。これでも私は読書家なんだからな」
ふんす、と鼻息強めで言うとマイはやれやれという顔をした。
「あれ?アイナ様」
「ん?なに?」

「あの、首のネックレスは?」

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