異世界行ったら魔王になってたんだけど(以下略)

N

32 . 不思議な少女

うーむ、暇だ。
あれからもうすでに30分。どれだけお叱りが長いのだろうか。私はといえばロビーのような広いスペースに置かれたテーブルと椅子で貰った紅茶を啜っていたがもうカップの中は無論空だ。すでに暇を持て余していた。通りかかるメイド達がチラチラとこちらを見て顔を赤らめるが一体なんなんだろうか。
「ちょっと貴方」
「ひゃ、ひゃい!」
適当にメイドを捕まえたがどうやらさっき玄関で出迎えて案内してくれた銀髪クレオパトラちゃんのようだ。顔を赤らめて相変わらずか細い声でな、なんでしょうと言われる。
「アイとかに私は庭にいるって言っといてちょうだい」
「は!?はい!!??わ、わかりました!!!!クレア受け賜わりました!」
お前がクレアかよ。
しかし余程またあいつらと話せるのが嬉しいのかルンルンでどこかへ行ってしまった。あいつらここではアイドル的存在か何かなのだろうか。実に負けた気分だ。席を立つと少し先の玄関へと向かった。しかし時間はもう三時なのだが、あのケーキはメイが持っているため食べることはできない。と今更考えこんちくしょうと思った。
扉を抜ければ昼下がりの秋の日差しが差し込み少々眩しい。左に行くか右に行くか迷ったが、私は右利きなので右へ行く事にした。特に意味はない。
花々と木々が咲き乱れる小さな森のようで散策するのも楽しい。ふと、木々のない丸の開けた場所が見えた。そこは色とりどりのコスモスが咲き少しの風に揺れていた。
…あれ。
その円の中心にくるくると回る少女がいた。楽しそうに腕を広げ、緑と白のドレスが汚れるのも気にせず目を閉じ微笑んでいて、頭の上には緑の小さなドラゴンが乗っていた。綺麗な青髪を大まかな二つ結びにし下の方でリボンで結び、頭には黄色の輝く宝石のような雫型の装飾、横髪には金の蛇が巻きついているような装飾。絵に描いたような白い頬にふっくらと紅色をした唇、なによりたゆんたゆんと足を踏み出す度にふくよかな胸が揺れていた。絵のような美しさにしばし心を奪われてしまった。
木陰に隠れ、その姿を目に焼き付けんとじっと見つめる。もうちょっと前へ行こうと足を踏み出した。

パキッ。

足を踏み出した先には枝があった。そう、よくある展開だ。冷や汗を垂らしながらばっと顔を上げ青髪の少女を見やった。スッと目を開け黄色とオレンジの混ざったような綺麗な琥珀色の瞳がこちらの方を見つめる。バチッと目が合ってしまった。



「誰、です?」



透き通るような声が小さな森を駆け巡りこだました。これはもう前に出るしかないだろう。
「ごめんね、盗み見てたことは謝るわ」
ガサガサと枝をかき分け円のうちへと踏み入った。腰あたりまであるコスモス達も風にざわつく。
青髪の少女はこちらに右手を向け、魔法を打つ体制になっていて明らかに警戒をしている。頭の上から飛び立ったドラゴンもこちらを睨みつけていた。
「だから誰、です?」
とってつけたような敬語に内心首を傾げながら素直に答える。
「魔王だよ。この国の」
その言葉に青髪の少女はハッと私の頭の上の冠に気が付いたようだった。右手をゆっくりと下げるとドラゴンは右肩に乗る。
「貴女は魔王、ですか?」
「ええ、魔王」
再度聞かれたので頷くと基本無表情のような顔が少し緩んだ。それを見て肩のドラゴンが何かを訴えてるがこちらには聞こえない。
「魔王様に少し頼みがあるの、です」
「へぇ、言ってみるだけ言ってみてよ」
と言っても魔王を当てにする事であれば魔法などの事なのだろう。魔法がほぼ使えない私にできる事はないと思った方がいいのだ。

「私とあるダンジョンに入って欲しいの、です」

「ダンジョン!!!???」

今度は私の声がこの庭に駆け巡った。それに少女は少し焦ったような顔をする。
「あの…、そのような大きな声を出されると…」
「ご、ごめんごめん」
ついにファンタジックな展開になってきたじゃないか!!そう思った矢先。
「ほら…このように…」
青髪の少女は冷や汗を垂らし私の後ろを指差す。はてなんだろう。後ろを振り返ると…。
「ガルルルル…」
白い狼が牙をむいていた。
「この子が迷い込んで行くのを見たので退治しに来たの、ですが…」
「ひいぃぃ….っ!」 
ダッシュで少女の後ろに隠れる。すると半端呆れたような顔をされた。何故だろう。
「あの…本当に魔王様、ですか?」
「そこは間違ってない」
 はぁっと少女はため息をつくとにじり寄ってくる狼に向き直った。
「精霊使いソレラが命じ精霊真木種ラピに術かせる」
少女が一語一句唱えていくたびに辺りが風に揺れている。これが魔法…?
「」
少女がそう叫ぶが何も起こらない。え、何これやばくないか。そう思った矢先。
「捕!」
透き通る声が響いた。すると白狼の周りを太い木の根っこが生え白狼の足を絡め取る。
「絞!」
身動きが取れなくなった白狼の体をさらに包み込み根っこは有らん限りの力で締め付けていた。
「封!」
なんとそのままでは飽き足らず白狼の姿が見えないくらい木の根っこの大きなボールになってしまった。
「えっと、これは…」
「精霊魔法…。この狼は閉じ込めてるだけだから森に持って行って森で開封すればいい」
開封って奥さん…。

「ところで、貴女、誰?」

「へ?」



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