異世界行ったら魔王になってたんだけど(以下略)

N

16 . 決勝


戻ってきてみればなんなのだろうかこの騒ぎは。
大広間の真ん中にぐるっと円を描く様に青白い結界が張られているのが見え、その中でよく知る槍を手にする赤髪のメイド服とこちらは短剣を一本持つ青いフードが距離を持って待機していた。
「魔王様の側近召使い!綺麗な赤髪と美貌の持ち主で自身の武器、槍を使いこなす可憐なる花!しかし猛毒を供えている!メイドっこアイ!」
おおおー!っと外側で見守る観客から歓声が上がる。
「そしてこちらは世界最強とまで唄われる青いフードの中から覗く絶世の美女!」
そこで青いフードをパサリと後ろへ下ろした。そこから現れたのは見事な水色の髪に少しおっとりとした顔。その顔には強い好戦心が表れている。
「最強レイヤー!イオ!」
おおおおおーっ!とさらに歓声が上がる。
「今回は大規模な破壊が予想されるので特別に大結界の中で行いたいと思うどす!!」
術師なのだろうか、獣人の狐おねーさんがひな壇の反対側の実況席で興奮した様子で立ち上がった。
「それでは初めます!」
「レディ…」

「GO!!!」

まずアイが先手で飛び上がる、鬼人の身体能力は測りえない程なのは今日のうちにすでに学んでいた。この状況を見ればどう考えてもこちら側が有利だ。長い槍と短いナイフ、どちらが強いかは目に見えている。
アイは天井を蹴ると次は結界の壁へ右へ左へと飛びまくる。すると私には見えた。魔王の体だからなのかもしれないのだが、常人では見えない速さでアイは槍を突いている。そしてそれをイオという女は軽々避けている。当たらなくなってきた為かアイが下へ徐々に降り始め確実に狙う様になる。更にイオへの接近が5メートル程になった。
勝った。
アイの槍の先が完全にイオを定めていた。近距離なので逃げ場はほぼ無く避けきれない。しかしイオという女はそれを凌駕してきた。まるで掛かったなと言う微笑で真上へ蹴り上がる。逃がしてしまったかという様な観客は次の状況に息を飲んだ。

ナイフが降っている。

一本ではない、10本、いや100本とナイフの雨がアイめがけて降り注いでいる。やがてそれの殆どは猛烈な勢いで床に刺さった。
「痛ッ」
アイは避けきれていなかった。ナイフ2本が背中と右肩に刺さり血が流れている。アイはそれを瞬時に抜くと止まらない出血も気にせずイオへと接近する。

そっちがそうならこっちも。

と言いたげな笑みを浮かべて。アイは床を蹴り飛び上がりイオの真ん前まできた。そこでお互いにっこりと笑う。ここまで0.5秒。次の瞬間アイのメイド服の袖から無数の槍が出現した。その槍たちはイオめがけて飛び出る。その衝撃がすとんとイオは下に降りたった。よくよく見れば多くの擦り傷から血が出ている。そこでふと思った事があった。
「ねぇねぇメイ」
「なんですか?」
「魔法は禁止じゃなかったの?」
そう、ナイフが降り注いだりなにも入っていない筈の裾から大量の槍が突き出たりはしない、魔法がなければ。イオが数秒上空に留まっていた事にも説明がつかない。
「魔法が禁止というのは、魔法攻撃が禁止なので補助魔法と武器を駆使した魔法、つまり技ですね、は使ってもいいのですよ」
なるほどね、よくできてる。
「ていうかそろそろ決着つきそうですよ」
メイに言われた通り両方傷だらけ血だらけだった。この短時間になにがあったんだよ。
「あっ」
「あっ」
イオの突発的なナイフ一本がアイに突き刺さった。場所が悪かった様で噴水の様に血が噴き出す、そして血の水溜りに倒れこんだ。
「ここで勝者が決まりました!!勝者はイオ!今年もアイを勝ち抜きました!!!」
おおおおおおー!!!っと歓声が上がった。すっと結界が消えるのと同時に血だまりも消えてアイは立ち上がると服の埃を払い落とす。すっきりとした顔のアイとイオは握手をするとアイはこちらへ戻ってきた。
「おかえんなさーい」
「ただいま帰りました」
「お姉様!やっぱり凄かったですよ!来年こそ勝ちましょうね!」
「今年はナイフが降るのは予想外でした…」
アイはとほほという様な顔で笑った。
「さて、ケーキ買って帰りますかね」
「「いえーい!」」
「…ところでマイは?」

「「……」」


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