勇者の神剣《ブレイブソウル》
2.沈みゆく
白いローブの男についていくと、大きな広間に出た。数多の宝石で彩られた柱、金や銀に煌めく骨董品に飾られた壁、白く高潔さを漂わせる大理石の床、純白の扉から柱の間を抜け敷かれた赤いカーペット。眺めるだけで目眩がしそうな光景だ。
「では、しばらくこの部屋でお待ちくださいますよう……」
白いローブの男はそれだけ言い残し、どこかへ消えてしまった。本当に受けて良かったのかと不安が過る。だけど、僕は天王司の人間だ。ここまで来たら、後には引けない。
待っている時間は女の子たちと話して過ごした。最初は不安そうにしてた子たちを励ましていたのだけど、いつの間にか僕の周りに女の子たちの人垣ができてしまった。
話題も少なくなって、仕方なく柱に嵌められている宝石の石言葉を解説したりもした。本当はまだ不安そうな子だったり、若林君とも話しておきたかったけど……。いつの間にか、メイド見習いなのかメイド服を着た女の子たちも加わってて、それどころじゃなかった。
どうしたものか悩んでいると、白亜の大扉が大きな音を立て、開かれた。そこから表れたのは、一人の老人。
目を引くのは、先程僕たちをここまで連れてきた人が着ていたものと同じ白いローブ。そして、右手に携えた長い杖。その目につけた黒い眼帯には紅い宝石が埋め込まれ、腰まで伸びる顎髭を揺らしている。
その異様とも言える姿に唖然としていると、老人が口を開いた。
「皆さん、突然ここに、この世界にお招きしてしまい申し訳ありません。ですがこの世界にはあなた方の力がどうしても必要なのです」
聞き覚えのある問いに既視感を感じながらも答えようとすると、メイド服の女の子が老人に駆け寄り耳打ちをした。きっと、既に同じ質問に答えたことを教えたのだろう。
「わかった」
老人はメイド服の女の子に下がるよう目配せしてから、わざとらしく咳払いをした。
「そうか、君たちの協力に感謝する。しかし、万が一、こちらで死亡した場合にはもう君たちのいた場所に戻れないが、それでもいいのかね?」
死亡。その言葉に、かつて目の前で死んでいったクラスメイトの姿が脳裏によぎる。いじめっ子も、ムードメーカーも、僕を好いてくれていた人も。だけど、もう、同じヘマはしない。
「はい、僕たちにはその覚悟ができています」
何があろうとも、天王司の人間である限り、みんなを守り抜く。
僕の覚悟を確かめるかのように、老人は僕の目を見据えて来る。
静寂が広間を支配する。
「そうか、わかった。では、国王閣下と会う前に服装の着替えと君たちの能力について調べてしまおうか」
老人が目を逸らした、と同時に白いローブを纏い、顔を布で隠した人々が老人の背後から表れた。ざっと見て、クラスメイトと同じ人数だ。
「私の自己紹介がまだだったね。私はオーランド・ヴァ・ニルス、この国の王の側近だ。これから能力を調べる部屋に、君たちの目の前にいる私の分身が連れて行く」
顔を隠した白ローブは老人……オーランドの分身らしい。彼らは、僕たち一人一人に寄り添うように立った。
「まぁ、分身と言っても外見としゃべることだけだがね。顔は見ない方が賢明だ」
見回すと、手を引っ込めた状態で固まるクラスメイトが何人かいた。どうやら、今の言葉は僕たちへの警告らしい。
「さて、みなさん。私の分身の近くによって、腕につかまってください。そうすれば、すぐに部屋に入る事が出来るでしょう」
言葉に従い、正面にまで来ていた分身の腕を掴む。ぐにゃりと世界がねじ曲がり、視界が戻ると赤いレンガの部屋。窓も無い密室にいた。
部屋の中を見回すと、オーランドの分身が隣に立っていて、部屋の隅には赤く不気味な水で満たされたプールがあった。
ここならクラスメイトはいない。手を掲げ、“力”を使えるか試す……。やっぱり無理だった。そもそも、この力は神王司家から借り受けたもの。神王司家の当主に認められていない僕では使えないのはわかりきっていた。この力さえ使えたのなら、僕だけで…………
いや、僕は天王司だ。神王司に頼らずやり遂げなければ。
「ゴホンッ、では説明しよう」
「えっ、あ、はい!」
そうだった、オーランドの分身がここにはいたんだ。突然手を掲げたイタイやつに見えたよね?うわっ、恥ずかしっ。力が発動してれば恥ずかしくなかったのに。
「力は、そこの水に入れば発現させられる。この部屋にいれば手に入るといったようなものではないぞ?」
なんだろう、分身の目は見えないのに生暖かい目で見られてる気がする。
「この水は?」
気を紛らわすため赤い水のプールを眺めながら聞いた。見ているだけで気を病みそうな、そんな赤だ。
「君たちの体の中にある能力。それを発現させるための魔法道具、といったところか。どういうものかは入ればわかる」
この水に入るのか……、仕方ない。
水に入るのだから、制服は脱ぐか。
「おっと、服が濡れることは無い。着たままで結構だ」
「わかった」
濡れないのなら気にする必要もない。僕は赤い水のプールに入った。
腰ほどの水深の赤いプールに、体を横たえるように沈む。赤い水に引き込まれ、あっという間に全身が覆われる。
不思議な感覚だ。口も鼻も隙間なく覆われているのに、息ができる。ひんやりとした液体が、全身にピッタリと吸い付く。
オーランドの分身が何か言っているみたいだけど、声がくぐもって聞こえない。
だんだんと眠くなってきた。これなら、落ち着いて、眠れ、そう、だ……
「では、しばらくこの部屋でお待ちくださいますよう……」
白いローブの男はそれだけ言い残し、どこかへ消えてしまった。本当に受けて良かったのかと不安が過る。だけど、僕は天王司の人間だ。ここまで来たら、後には引けない。
待っている時間は女の子たちと話して過ごした。最初は不安そうにしてた子たちを励ましていたのだけど、いつの間にか僕の周りに女の子たちの人垣ができてしまった。
話題も少なくなって、仕方なく柱に嵌められている宝石の石言葉を解説したりもした。本当はまだ不安そうな子だったり、若林君とも話しておきたかったけど……。いつの間にか、メイド見習いなのかメイド服を着た女の子たちも加わってて、それどころじゃなかった。
どうしたものか悩んでいると、白亜の大扉が大きな音を立て、開かれた。そこから表れたのは、一人の老人。
目を引くのは、先程僕たちをここまで連れてきた人が着ていたものと同じ白いローブ。そして、右手に携えた長い杖。その目につけた黒い眼帯には紅い宝石が埋め込まれ、腰まで伸びる顎髭を揺らしている。
その異様とも言える姿に唖然としていると、老人が口を開いた。
「皆さん、突然ここに、この世界にお招きしてしまい申し訳ありません。ですがこの世界にはあなた方の力がどうしても必要なのです」
聞き覚えのある問いに既視感を感じながらも答えようとすると、メイド服の女の子が老人に駆け寄り耳打ちをした。きっと、既に同じ質問に答えたことを教えたのだろう。
「わかった」
老人はメイド服の女の子に下がるよう目配せしてから、わざとらしく咳払いをした。
「そうか、君たちの協力に感謝する。しかし、万が一、こちらで死亡した場合にはもう君たちのいた場所に戻れないが、それでもいいのかね?」
死亡。その言葉に、かつて目の前で死んでいったクラスメイトの姿が脳裏によぎる。いじめっ子も、ムードメーカーも、僕を好いてくれていた人も。だけど、もう、同じヘマはしない。
「はい、僕たちにはその覚悟ができています」
何があろうとも、天王司の人間である限り、みんなを守り抜く。
僕の覚悟を確かめるかのように、老人は僕の目を見据えて来る。
静寂が広間を支配する。
「そうか、わかった。では、国王閣下と会う前に服装の着替えと君たちの能力について調べてしまおうか」
老人が目を逸らした、と同時に白いローブを纏い、顔を布で隠した人々が老人の背後から表れた。ざっと見て、クラスメイトと同じ人数だ。
「私の自己紹介がまだだったね。私はオーランド・ヴァ・ニルス、この国の王の側近だ。これから能力を調べる部屋に、君たちの目の前にいる私の分身が連れて行く」
顔を隠した白ローブは老人……オーランドの分身らしい。彼らは、僕たち一人一人に寄り添うように立った。
「まぁ、分身と言っても外見としゃべることだけだがね。顔は見ない方が賢明だ」
見回すと、手を引っ込めた状態で固まるクラスメイトが何人かいた。どうやら、今の言葉は僕たちへの警告らしい。
「さて、みなさん。私の分身の近くによって、腕につかまってください。そうすれば、すぐに部屋に入る事が出来るでしょう」
言葉に従い、正面にまで来ていた分身の腕を掴む。ぐにゃりと世界がねじ曲がり、視界が戻ると赤いレンガの部屋。窓も無い密室にいた。
部屋の中を見回すと、オーランドの分身が隣に立っていて、部屋の隅には赤く不気味な水で満たされたプールがあった。
ここならクラスメイトはいない。手を掲げ、“力”を使えるか試す……。やっぱり無理だった。そもそも、この力は神王司家から借り受けたもの。神王司家の当主に認められていない僕では使えないのはわかりきっていた。この力さえ使えたのなら、僕だけで…………
いや、僕は天王司だ。神王司に頼らずやり遂げなければ。
「ゴホンッ、では説明しよう」
「えっ、あ、はい!」
そうだった、オーランドの分身がここにはいたんだ。突然手を掲げたイタイやつに見えたよね?うわっ、恥ずかしっ。力が発動してれば恥ずかしくなかったのに。
「力は、そこの水に入れば発現させられる。この部屋にいれば手に入るといったようなものではないぞ?」
なんだろう、分身の目は見えないのに生暖かい目で見られてる気がする。
「この水は?」
気を紛らわすため赤い水のプールを眺めながら聞いた。見ているだけで気を病みそうな、そんな赤だ。
「君たちの体の中にある能力。それを発現させるための魔法道具、といったところか。どういうものかは入ればわかる」
この水に入るのか……、仕方ない。
水に入るのだから、制服は脱ぐか。
「おっと、服が濡れることは無い。着たままで結構だ」
「わかった」
濡れないのなら気にする必要もない。僕は赤い水のプールに入った。
腰ほどの水深の赤いプールに、体を横たえるように沈む。赤い水に引き込まれ、あっという間に全身が覆われる。
不思議な感覚だ。口も鼻も隙間なく覆われているのに、息ができる。ひんやりとした液体が、全身にピッタリと吸い付く。
オーランドの分身が何か言っているみたいだけど、声がくぐもって聞こえない。
だんだんと眠くなってきた。これなら、落ち着いて、眠れ、そう、だ……
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