冷たい世界に太陽を

ノベルバユーザー189072

もどき中、気づいたこと

 
「ところで真白さん」
「んー?」

 気の抜けた返事をする彼女を正面に見据え、言葉を発する。

「――――昨日、ニンジン残しましたね?」

 ぎくーと突然動きがぎこちなくなる真白。
 先ほど調理室のゴミに紛れてオレンジの物体を見つけたのである。おそらく昨日こっそり捨てたものが何かの衝撃で出てきたのだろうが・・・
 彼女をを半目で見返しながら続ける。

「さっき甘いもの最近食べてないとおっしゃいましたが、もし今後もニンジンを残すようであるならば――――」

 判決は。

「もうお菓子は買って来ません」

 ギルティ。当然である。

「な、な、なんですと――――――!?」
「当たり前です!そもそも真白さんは栄養が偏る傾向にあるのにそれを直そうとしない。偏食の権化であるものなんて与えられるわけないじゃないですか」
「今までくれたじゃん!今日だって!」
「そりゃあクッキー作るまで、もといクッキー買って来るまで知りませんでしたから」
「私はペットじゃないんだ!好きな時に好きなものを食わせろー!」

 無茶苦茶言ってるぞこの人。しょうがない、説明するか・・・

「ええ、もちろん真白さんは人間ですよ。ですが人間が偏食を続けた場合、肥満や栄養失調、摂食障害などが発生する危険性があるんです。
 栄養失調になれば体の様々な機能が低下し、さらなる病気にかかりやすくなります。免疫機能が低下しているわけですから治りも悪いですし、最悪重症化することだってあります。
 摂食障害に至っては『障害』とまで言われる位ですから、これもよろしくありません。
 拒食症になればそれがそのまま栄養失調へ繋がるかもしれませんし、真白さんが好きなものも食べられなくなります。過食症になればこれがまた偏食となって栄養失調などの症状を起こし悪循環にはまるかもしれません。単純に食べ過ぎで肥満にもなります。自分は太った真白さんなんて見たくはありません。
 肥満のリスクとしては糖尿病があげられます。腎臓の機能不全で尿に糖がまざってしまい、体が十分な糖を供給できず寝たきりになったりもします。真白さんは今言ったみたいになりたいですか?」

 一気に捲し立てた。今ので伝わっただろうか?

「ううううっ・・・・・私は馬でもウサギでもないんだからニンジン食べれなくてもいいじゃん!人間ケーキだけ食ってれば栄養十分でしょー!?」

 思わずずっこけそうになる。ダメだ。あんまり伝わってない。

「そんなわけあるか!世界中探してもそれで体調崩さない人はいませんよ!」
「ええい私は大丈夫だと言っているのに!そこまで人の可能性を否定すると言うのなら、私は人間を止めてやるううう!」
「止めんな!」

 人の可能性ってなんだ!限界の話をしてるんだこっちは!

「はぁ・・・なんでそこまでニンジンを嫌うんですか」

 ニンジンおいしいのに。

 ここまでくると気になる。もしかしたらむお得ぬ事情があるのかもしれない。

「・・・昔ニンジンに捕食される夢を見たのよ」
「・・・えぇ・・・」

 この人夢で何と戦っているんだ・・・

 そんなことでと思う反面、昔のトラウマって中々手ごわいからなぁとも思う。

「それはいいんだけどね」
「いいのかよ!」

 原因別かよ!てっきりその恐怖が原因だと思い込んでたよ!

 彼女はその時のことを思い出したように段々と語気が強まってくる。

「そのあとそのニンジンに不味いって吐き出されちゃったの。本当失礼しちゃうわよね!?私くらいになれば高級食材間違いなしだってのに、それを不味いとか・・・! だから私も絶対ニンジンは食べてやらないって決めたのっ‼」

 断固たる決意と謎の自身に満ちた表情でえへんと胸を張る。
 ・・・なんというか、怒る気力が無くなってしまった。
 それに真白の胸は元々大きいだけあって余計強調されて、その、目のやり場に困る。

「ま、まあ、そこまで嫌なら他の食材でなんとかしますけど・・・」

 ニンジンだけなら別にそこまで問題ではないですし、と付け加える。
 しかし。

「えっそう?他で補えるならはじめから言ってよー。実はね、この間グリーンピースにハチの巣にされる夢を見たんだけどね・・・」
「やっぱダメだこの人‼」

 好き嫌いの多い真白はまるで子供のようである。

「さて、それじゃあ仕事に戻りますか」

 そう言ってその場をごまかそうとしているのが見え見えであったが、それを止める理由も無いので何も言わない。

「分かりました、それじゃあコーヒー淹れてきますね」

 手慣れた動作でコーヒーを用意して真白の自室まで持っていく。

「ありがとー」

 ずずーっと一口飲んでお礼を言ってくる。

「また何かあったら言ってくださいね」
「んー、りょーかい」

 さて、後片付けでもしますか。

 しかしそこでふと何か違和感を感じとる。
 違和感の正体を探していると。

「あっ」

 その正体はあった。否、『なかった』。

「真白さんっ、まさか『あのクッキー』・・・‼」

 その直後、形容しがたき真白の断末魔が研究所内全域に響いた。

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