冷たい世界に太陽を

ノベルバユーザー189072

警報音は鳴り響く

 風速計の故障から二日が経ったある日の午後。

 ウ―――――ゥ・・・‼ ゥウウ―――――――――ゥ・・・‼

 突如、研究所内全体に警報音が鳴り響く。

「っ!?」

 その頃トイレ掃除をしていた隼人は急いで自室にいるはずの真白のもとへ走った。

「真白さん‼無事ですか!?」
「んー無事無事ー」

 ずずーっともう冷めたであろうコーヒーを飲む。
 いまだ警報音は鳴り止まない。

「何を呑気にコーヒーすすってんですか‼警報鳴りましたよ!?緊急事態ですよ!?」
「んー・・・引力測定値が気になるから待ってー」
「そんなのは後回しです!今は一刻も早く逃げますよ‼」

 後ろから彼女を羽交い絞めにしてそのまま自室から出て行く。

「えぇ?ちょ、ちょっと隼人くーん?」

 引きずられる形になった真白はコーヒーを片手に持ったまま、玄関へと連れていかれる。
 その間にも警報音の音は次第に大きくなっていて。

 ウゥ――――――!
       ウゥ――――――!
            ウゥ――――――!

 なんか回数増えてないか!?
 そうしている内にもどんどん警報の間隔は短くなっていく。
 いよいよ爆発でもするんじゃないか、という時。



『―――――津雲 真白さんはいらっしゃいますか?』



 施設内放送でそんなことが聞こえてくる。

「はいはーい。今行きますのでー」

 彼女はいつのまにか取り出したマイクのようなものでそれに受け答えしている。
 わかりましたーと最後に言い残し、通信が切れた。

「えっと、真白さん?今のはどういう・・・?」
「ん?宅配が来たみたいよ?」

 まあ今のやり取りからなんとなくは予想できていたが・・・

「そうじゃなくて、この警報は・・・?」
「ああ、これね」
 いまだに警報は鳴り続けている。危険を必死に伝えすぎて段々おかしな音まで混ざり始めていた。
 そういえば言ってなかったわね、と前置きをつけ、その正体を告げた。

「インターホン」

 ピンポーン。正解は据え置き型来客通知システムでしたー。

「紛らわしいわぁー‼」
「おぉっと!?」

 ぺいっと真白から手を放す。
 そのままバランスを崩して後ろに倒れるように落ちる。
 真白は頭をさすりながら、ゆったりと体を起こして、隼人に向き直った。

「痛たたぁ・・・もう、危ないわねー。 しょうがないなーそれじゃあこれからは「呼び鈴」って呼ぶことにするわよ」
「いやそこじゃないでしょ!」
「え?来客拒否にしろってこと?」
「そんなことしないで!?」
「ええ?じゃあどうすれば・・・?」
「とりあえず今すぐ警報音を止めろ―――――――‼」

 真白はまたもどこから取り出したのか、手にしたスイッチを切る。

『これは訓練です。これは訓練です。速やかに移動しま ピ―――――――ッ』

 それを最後に警報は鳴り止んだ。なんとも不安な終わりである。

 そういうのって普通最初に言うもんだろう・・・

 いろいろと気になることがありすぎる。
 最後の音声、言い切らずに停止したけど、あれもしかして本当に最期だったんじゃないのか?

 いろいろな疑問を考えている間に真白は玄関で宅配物を受け取っていた。

「ここにサインをお願いします」
「はいはい・・・っと、これでいい?」

 さらさらっと自分の名前を書く。

「はい、大丈夫です。それではこれで」
「はーいご苦労様ですー」

 手早くやりとりを済ませた宅配業者は足早に去っていく。
 届けられた荷物は思ったよりも大きかった。大体3~4mくらいだろうか。中身は外装によって見えなくなっている。なんにせよ人間一人では到底運べないだろう。

「なんですかそれ?」
「ふふふ・・・そう来ると思っていたわ・・・!」

 真白は、まるで全てを見透かしたかのような口ぶりで言う。顔には不敵な笑みが浮かび、大仰に手を広げる。
 ごくり、と唾を飲む。
 それは今から強敵に立ち向かう者の心持ちであった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・何だっけ」
「何だったの今の!?」

 真白は伝票を確認する。

「大型演算処理装置『八百万やおよろず』だって。へぇこんなの注文してたのね」

 やっぱり注文したこと覚えてないのか・・・・・・『八百万』?

「『八百万』ってもしかしてあの『八百万』ですか?」

『八百万』。それは数年前までこの国で、現役で活躍していたスーパーコンピュータの名称だ。
 今は三回ほど世代交代を経て、最前線では使われなくなった代物だが、その性能はさすがと言わしめるもので、地方の研究者からしてみれば喉から手が出るほど欲しいものなのであるが。

 それがどうして「津研ウチ」に・・・?

「んー・・・たぶん」
「たぶんって・・・」

 見たところ『八百万』全部と言う訳ではなく、本体の内、一基のようだ。
 本体はこれが何十個と連なり、大きな一つの「頭脳」を形成しているらしい。

「これ、どうやって中に運ぶんですか」
「どうしましょうね」

 えぇ・・・宅配業者に聞いとくんだった・・・

 しかし、こんな大層なものを外に放置する訳にはいかない。何とかして屋内に入れなければ。

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