遅熟のコニカ

紙尾鮪

81「シューヲホカク」

 「ぉお! おお! 来た! この時が、何時もならばネズミ跋扈バッコするごみ溜めだが、今宵は妖精の舞う黄金に輝く草原にへと──変わる!!」
 ライズは、突然立ち上がり演説のように叫び始まる。
 ヒルコが主催の会合を讃えているのだろうか、それほどに声は高らかで神に捧げるようだった。

 「うるせェよ!! さっさと始めっぞボケ!!」
 『爆音怒ハネイド』は、机を蹴りあげ、音を立てギルズを牽制する。
 机は一瞬、「ぐえっ」と言った気がした。

 「まぁまぁ、ライズ君が興奮するのも仕方がないよ。まぁけどそろそろ始めないとね」
 エンドウが憤る『爆音怒』をなだめようと柔らかな声言う。

 「そうだな、では第27回魔女の子孫の会合、もといパンドーラの会合を始める」
 ヒルコの声は一斉に注目を集めた。
 コニカは、騎士の装いをしている。
───────────

 「始めに、本題である事を言わせてもらう」
 横にはコニカがいた。
その事から安心して、ヒルコは話す。

 「我輩達はsueシューを見つけた。今ハミセトが食い止めている。正直、言いたくはないが貴様達の助けが必要だ」
 ヒルコは悔しそうに言った。
 いや、そう演じ言った。
 こう言えば馬鹿にはされるだろうが、しかし、それほどに重要なのだろうと取るものがいると信じ、ヒルコは言った。

 「はて? なんと言ったかよぅ分からんかったわぁ、もう一回、ぉおきぃ声で言ってくれへん?」
 はんなりと喋る女は、わざわざヒルコを煽るようにもう一度確認と称して、ヒルコから屈するに近い言葉を出そうとしていた。

 「そうか、次はちゃんと聞いておくんだな。場所はトキハカシ洞窟、来ない物をどう思うこともない、しかし来るものは拒まん」
 ヒルコは、一度机を叩けば、机は「ぐぴぃ」と言って、口を開き、何かを入れればすぐに消えそうな、そんな黒を口の中に秘めた机は、ただ口を開く。

 まるで地獄の門のようだった。
殺人鬼達は、今、地獄の門の前にいる。

 会合に集まった者達は、驚いたり、興味を向けて前のめりになったり、笑ったり、汚物を見るような視線を向けたり、様々。

 「このけったいな机がトキハカシ洞窟とやらに繋がってるんやろ?」
 ノリアキはどうも思わず、ただの事実確認をする。
 もし、ただの机の餌になるような事も、『万』であれば否定しがたい物だった。

 「あぁ、貴様達が行ってくれるのは頼もしい」
 ヒルコは、淡々と言う。
 嬉しい事なのだろうが、ヒルコは感情変化を起こさずただ言った。

 ノリアキとショウコは手を繋いで机に食われていった。
 机はノリアキとショウコを完全に食うと「げぷ……」と吐いた。
 その事から残った者の入ろうとする気は若干失った。

 「んんー某はそこまで足が上がらない故、遠慮させていただくかな」
 デブの男は少し冗談混じりに、遠慮という体で、辞退しようとする。

 「申し訳ございません、ヒルコさん。私、このようなおどろおどろしい物には一切触れたくはありませんので」
 テラコは、その白い一切の汚れのない着物の袖で鼻を隠すようにし、机に対する嫌悪感を表す。

 「私も触りたくないですかね?」
 アデサバもテラコに賛同するように、テラコの隣で小綺麗に座りながら言う。

 「案ずるな、そう言うと思っていた」
 ヒルコは手を頭上で強く叩き、部屋の中にへと響かせる。

 その瞬間、椅子は黒く濁り、そして、皆を、椅子に座る皆を、食う、飲み込む。
 誰も決意してはいない、その勇気のない者達を椅子達はただ無慈悲に、躊躇なく食う? いや飲み込む。

 残った二人は、ただ笑っていた。

────────────

 「あぁ……安住が壊れるのですね。私たちはこれを望んでいたのかもしれません、いえ、あなたが、ですね」

───────────
 辺りは夜の不安に包まれていた。
 肌寒く、木々は低い声をあげ、獣達はこちらを伺うように目を光らす。
 そして殺人鬼の時間が始まる。


 「なんやお前ら遅かったやんけ」
 ノリアキは、鼻をほじりながら明らかに馬鹿にした様子で他の者達の到着を迎える。

 「マジでお前ッこのガキ!!」
 『爆音怒』は、ヒルコに突っかかろうとするが、『妄話メルヘン』に止められる。

 ヒルコは、恐れることも、苛立つ事もなく、哀れみを送るような目で『爆音怒』を見続ける。

 「やめとけって、『万』には喧嘩を売るな、俺様でも流石にカバー出来ないからさ」
 『妄話』は必死に止めるが、『爆音怒』は抗い続ける。
 しかし、ヒルコはそれを無視して洞窟の入り口にへと歩く。

 「おかしい……積み石ケルンがない」
 ヒルコがそんな事を言った時、ノリアキとショウコは、奥へと進んでいった。
 コニカはそれを横目でつまらなそうに見ていた。

 「して、主たる八百一殿、今宵の意味は何に分類されて?」
 ライズは、目を閉じながら微笑み、優しくヒルコに聞いた。
 『爆弾姉弟』と『妄話』『爆音怒』以外の者達も聞き耳をたてている。

 「そうだな、そういえば何なんだ? コニカ」
 ヒルコが横にいるコニカ聞いた。
 迷うそぶりもなく、言った。

 「どう言えばいいのかな……そうだな、ゴースト? かな」

 「ゴースト? つまりは、憑依系か。ハミセトが食い止めているのも納得できるな、『弾劾』を使ったか」
 ヒルコが顎に手を当て考える。
 そして、ライズとネトルスを残して他の者は一斉に洞窟内に走っていく。

 「ライズさん、いいんですか?」
 ネトルスが、顔もない仮面の下から喋る。
 ネトルスは、以前より少し膨れているように、ヒルコは見えた。

 「良い良い、私とネトルス君では何も出来まい。更に言えば我が主がここにいるので」
 ライズは、一向に動こうとしないヒルコを見て、どこかしてやったりとした笑みを見せる。

 「して、なぜ動かない?主よ」

 「今に分かる」
 ヒルコは、親指で後ろを指す。
 見えない、が。
 音が、する。
 ヒタヒタと歩く誰かの音が、いや、裸足なのだろう。

 誰か裸足の者はいたか、いやいない。
 であれば、歩くのは、皆ではない、なにか。
 それは。

 「来たか、"sue"。いや、神の遺物意味訴え。そして元祖。コニカ、構えろ」
 ヒルコは、どこからか出した黒い鞄から、魔方陣のような絵の描かれた紙を取り出した。

 「淘汰されるのですね。私達兄弟はもうあまりいない様ですね。簡単に相手の手に渡るのも面白そうですね。ですが、パンドーラの……いえ魔女の子である私が貴方達を試します」
 それは、女。
 それは、男。
 それは、雄。
 それは、雌。
 地獄の門を開けた場所に降り、そして現れるのは、鬼? いや、化け物。
 死骸の集。
 いや醜。

 流れるは液、漂うは腐、見えるのはハミセトの亡骸。
 笑うハミセト、泣く男、怯える猿のような生物。

 右に、左に、揺れながら、その巨体を動かす。
 猿のような生物の手が六つ、ペタペタと地面を触り、巨体を支える。

 神の遺物……いやそのような崇高な物ではない。
 これでは、ただの悪魔。

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