遅熟のコニカ

紙尾鮪

66「イミトチーム」

 時を同じくして、エンドウが椅子に座り、笑いながら言った。
 「じゃ、今回の"意味"について伝えよう。今回は久しくチームで行動してもらうよ」
 リーダーが喋り終ったとき、ライズが急に立ち上がり、手を組み言った。

 「であれば、このライズと、八百一殿の二人のチームでよいのではないか? いや、それがいい、まさにベストパートナー、まるで夫婦のようで素晴らしき哉ですな」
 ライズは、机を強く叩き、まるで自分に注目するよう仕向けているかのようだった。
 まるで結婚を宣言するようだったが、ヒルコもコニカもまるで祝福する様子もない。

 「あぁ、ごめんね。もう決めちゃってるんだチーム構成。あと、お連れの人と行動して欲しいから、昼子くんと二人だけっていうのはないかなぁ」
 エンドウが申し訳なさそうに、言い、十枚板を取りだし、皆に配る。
 そこには、自分と、自分が連れてきた者の名前、そして、もう一組、パートナーとなる者達の名前が書いていた。

 「えー『万』とお?いやなんだけどぉ」
 タマネギ頭の女が、露骨に嫌な目で、ヒルコの方を見る。
 横目に見るヒルコの顔は何も変わらず、いつもの通り、ヒルコの見た目では到底似合わない、おおよそ、命を消す間際にしか見せない、一瞬の散り際の儚い眼。

 「こちらはどうだっていい、例え無知な者でも我輩であればカバーは可能だ」
 ヒルコは、目を輝かせる事もなく、タマネギ頭の女の方を向いて言う。
 心底どうでも良さそうに、しかし、タマネギ頭の女は、とても元気に殴りかかろうとするが、『斬り裂き権兵衛』に止められていた。

 「……『天秤』、蝮巳ハミ勢登セト。……こんな女児だったとは」
 コニカが、ヒルコの持っている板を、ハミセトとの間を割って入るように、覗きこむ。
 ヒルコは、急にコニカとの距離がグッと近くなったからか、さっきまで、ハミセトの方を向いていたが、咄嗟に反対側にへと向いた。

 「女児だってぇ? 死すの? 死す?」
 『斬り裂き権兵衛』の拘束を今外さんとしている。
 その時、三人がヒルコの前に現れた。

 「蝮巳よ、我が主と共に歩けるにも関わらず、何を言うか、ただ従い三歩後に歩けばよいだろう」

 「ヤツコだってコニカと一緒に行きたいさ、優秀な魔女を作るにはまず共同行動だからね」
 イルゼが、コニカの肩を叩き、離さぬよう、握る。
 コニカは、恐る恐る、イルゼの方を向くと、仮面のついてはいない、四角の線が入った眼がコニカの眼を捉える。

 「……我らを導く者が決めた物だ、それに従うしかないであろう」
 『斬り裂き権兵衛』は、アジロ笠を深く被り、顔を見せぬよう、顔を伏せながらも、コニカとヒルコに詰め寄る二人をやんわりと叱る。
 顔を伏せているのは、二人を目の前にして、正々堂々と言う自信がないからか。

 「私はあのウスノロに導かれる為にいるのではない、そう! 全てはこの八百一昼子殿のためにいるのだ!!」
 ライズが、ヒルコの椅子を持ち上げ、天に捧げるように、天井高くにへと場所を移し、そして星のように回る。
 神や、崇高なものは高い位置にいる。
 その思いからか、ライズはヒルコを自分の力で誰よりも高所にへと持ち上げていた。
 ヒルコは怖いのか、椅子の肘置きをがっしり掴んでいる。

 「酷いなぁ……まぁ伝えたから、これにてかいさ~ん」
 妙にしょんぼりした顔をした後、エンドウは、一回手を叩き解散を伝えた後、背後から現れた、ワニやカバなどの大口の獣のようなタンスに、食われて消えていった。

 「それじゃあ、拙者らも帰るでゴザルかな、タギー殿帰りますぞよー」
 たれ目の女をタギーと呼び、デブは共に帰ろうとする。
 タギーは、一度コクンと首を縦に振ると壁を握り、抉る。
 そして、抉りながら、穴を堀り、その身を暗く消しながら進んでいく。
 その道を、『爆音努』と『妄話』が、ついていくように歩いていく。
 おおよそあれらで一チームのようだ。

 「降ろせ、ライズ。我輩は帰る」
 若干震え気味の声でヒルコは、ライズに指示する。
 そのような声では威厳などなく、むしろ愛らしく、欲情さえしてしまいかねない、いや、していた。

 頭の中、背徳心から生まれた性への感覚から来る、探求心の突沸。
 それを、一人の教徒と思われる、大きな布を被った者が、止めた。

 正確に言えば奪った。

 ライズより少し大きく、そしてチラリと見える腕は太く勇ましい。
 そして、布から見える顔は、固く固まった黒い三つの点のみ描かれている仮面をつけており、仮面の表情も、仮面をつけている者の表情も分からない。

 ヒルコの座る椅子ごと、掴んだ仮面の者は、ヒルコを地面に下ろし、そして、喋った。

 「ライズさん、やめましょう。嫌がっています」
 ライズと話す仮面の者は、聞くだけの印象はただ紳士で、礼儀正しい人だと思えたが、布から覗く、人の足に、明らかな異変が、存在し、そして異常を感じていた。

 「ネトルス君、私と神が戯れるのを邪魔をするという事がどういう事か理解しているのか?」
 仮面の者を、ライズはネトルス君と呼び、そしてネトルスを、脅すように、言い責めながら、再びヒルコを手にしようと近づいていく。

 「神は遠く手の届かない存在であるべきではないでしょうか? 例え身近にあろうと、触れず、ただ手を合わせる、貴方が説いた物でしょう?」
 ネトルスは、尚も屈する事なく、ライズにつっかかる。

 その間ヒルコは、黒い鞄の中から手鏡を出し、さっきまで座っていた場所に、押し込むように、手鏡を置いた。
 すると、椅子は、黒を爛れタダレさせ、そして飲み込み、それを糧とし孕み、産む。
ズィ・チィという生体を。

 「ズィ・チィ、ビトレイを写せ」
 ズィ・チィの腹部の鏡に写る映像は、砂嵐が酷く、写すのに時間がかかったが、次第に写る。
しかし、写ってはいるが黒しか写らなかった。
 ヒルコは、首を傾げながら、ズィ・チィの腹部を人指し指でつついている。
 それに、ライズは再び欲情している。

 「……グロルを写してくれ」
 要求を変えると、次はすんなりとグロルが、トグロを巻き、寝ている姿を写した。
 そしてヒルコは、コニカの手を強く引き、ズィ・チィの中に入っていく。

 その最中、イルゼが、コニカの肩を離そうとしなかったのに、コニカは気付き、払った。
 事の他簡単に外れたので、コニカは疑問を感じながらズィ・チィの中に入っていった。

 そして、ズィ・チィは、机に飲み込まれ消えていった。

 「そんならうちらも帰りまひょ、フウちゃん」
 はんなり女が、犬歯を剥き出しにしていた少女を、フウと呼び、今回は普通に入ってきた場所から出ていく。

 「……で、あちしは帰っていいよね? ていうか帰るけど、ごんちゃん」
 ハミセトは、一度『斬り裂きの権兵衛』を呼び、そして、スゥっと溶けるように、消えていった。

 残った者達は、各々の方法で帰る中、四人だけ、その場に残った。

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