遅熟のコニカ

紙尾鮪

65「ニセモノトアメト」

 「何が言いてぇんだよクソテロリストが」
 ヤンキー風の男が、長いリーゼントをセットしながら、ノリアキにへと近づく。

 「まぁ、B級のお前には分からんやろうが、お前を連れてきたヤツに聞いたらちっとは分かるんとちゃうんか?」
 ノリアキは、ヤンキー風の男を驚異とも思わぬ様に、小馬鹿にしながら、ヤンキー風の男の後ろにある金色に光る卵を指差す。
 金色の卵に、亀裂が入り、そして割れる。
 すると、金髪プリンの、髪を持った男が産まれた。
 『妄話メルヘン』。

 「まぁつまり、あっちも重い腰を上げたって事さ」
 ヤーコプは、金の卵の殻に噛みつき、期待に、笑みを溢すことを、押さえる事ができなかった。

 「あっちってどっちだよ、脳内プリン」
 ヤンキー風の男が、ヤーコプに向けて軽蔑の名称と、指表現を使った。
 連れ人である存在のヤンキー風の男だが、大概の者とは違って、主従の関係ではないと思われる。

 「どっちって、アイツらの事やボケ」
 ノリアキは、ヤンキー風の男を耐えず小馬鹿にしながら、アイツらなどと、抽象的な表現で、ヤーコプと同じ対象の事を話す。

 「通称甘党、甘物を食すただの人間だよ、ただの人間の癖にね」
 エンドウが、椅子の肘置きを、握りつぶした。

────────────

 「ありゃ、やられちゃったくぁ」
 小さな警官は、イヤホンを耳から勢いよく離し、嫌そうに目を細めて、イヤホンの方を見る。
 イヤホンからは、遠くからでも分かるほどの爆音が鳴り響いていた。

 「おいおい……マジかよ」
 巨漢な警官は、メモを書くのを止め、口に手を置き、驚きの表情を見せる。
 メモには、美麗な字で書き連なれた、イヤホンから流れた情報がびっしりと並んで、それをジッと見て、再びため息をつく。

 「おおまじまじ、ヤバイぬぇ、魔女の子孫の集会かぁ。楽しいねぇ」
 小さな警官は、子供のように笑いながら、こんもりと膨れたポケットの中から飴を出してぽいと、口の中へ放り、短いながらも幸せを味わう。
 そして、メモを渡すように、ん、と言って手を出す。

 「『家具死』、『悪日』、『爆弾姉弟』、『爆音努』、『妄話』、『天使の矢』、『万』、『生母事』、『霧単歩』、『自殺人鬼』……更には『輪廻』まで……無理だな無理!!」
 巨漢な警官は、指でなぞり、そしてそれに準ずる者の名前を呼び、身を放るように、背もたれ板に体を落とし、小さな警官にメモを渡す。

 「ひゃー凄いねぇ、しかも、名前が割れてないけどまだいるのくぁ」
 メモを受け取り、その内容を見て驚いた後、ぺっとゴミ箱に向けて吐き捨てた飴が、ゴミ箱に入ることを拒み、地面をコロコロと歩く。

 小さな警官が拾おうと、しゃがんだ時に、歩いていた飴を、潰す足が上から降ってきた。

 「……福田弘、ヤオ・シュイジ警部補、堺三郎警部がお呼びだ、至急向かうように」
 つり目の男が、要件だけ伝えると、一度、靴についた飴を拭おうとしているのか、一回尾っこ引いたような歩き方をすれば、その後は、ぜんまい仕掛けのロボットのように、キビキビと歩いていく。

 「つぁくさー堺センセもめんどくさがりだねぇ、僕たちいっつもここにいるんだから来ればいいのにぬぇー」
 シュイジは、立ち上がり、腰を伸ばし、猫背となり、持っているメモを乱雑に、こんもりと膨れておるポケットとは、反対のポケットに入れた。
 メモは、くしゃと音を立てて、吸い込まれていった。

 「馬鹿、俺らは警部補、あの人は警部、役職があの人の方が上なんだ、俺らが行くのが当たり前だ」
 フクダは、シュイジの尻をスイングするように叩き、肩を組み、歩く。

 「痛いぬぁ、フッくんは馬鹿ぢからなんだから気を付けてよぬぇ」
 シュイジは、お尻を擦りながら廊下を歩く。
 廊下からは、煙草の臭いと、豊かに日常を送る笑い声が響く。
 二人は笑いながらも、拳を握った。

 「失礼します!! 福田弘、ヤオ・シュイジ、共にここに、参上つかまつりました!!」
 フクダは、勢いよく扉をあけると怒号にも近い声で叫んだ。
 シュイジは、耳に指を突っ込んだものの、その声は脳に響いていた。

 「全く煩いね、まぁ聞こえてはいないが、しかし品位という物を軽んじてはいないか?」
 眼鏡を拭きながら喋る中年男性は、部屋の中であるのにも関わらず制帽を被っており、制帽では隠れないビンの毛は、少しばかりか白くなっている。

 「センセ僕らをなんで呼んだんですくぁ?」
 シュイジが、腑抜けた声で質問する。フクダが、頭を叩こうとした時に、センセと呼ばれる中年男性が、手を一回叩いた。
 フクダは、振り上げた手を下ろし、センセの方にへと向いた。

 「崩れた言葉程、聞き応えがあるものはない。わざわざ繕った物を聞くほど、暇ではない」
 センセは、眼鏡を掛け、椅子から立ち上がり、一枚の紙を手に取り、二人の元へと歩いて行く。

「君達を呼んだのは他でもない。新しい飴が出来たらしい」
 シュイジは、若干肩を落とした。
 それは、キャンディではなく、飴であっただけであり、しかし美味しいのかと、淡い期待に胸膨らませていた。
 フクダは、無表情を一貫して作っていた。

 「それを持って、至急、────へ向かってくれ」
 二人は笑った。

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