遅熟のコニカ

紙尾鮪

63「シュートコト」

 魔女は、勇敢な王に倒され、死にましたが、一人の魔女が生き残りました。

 とある童話では、姫を騙して毒果実を、また違う話ではみすぼらしい女にきらびやかな服を着せ、舞踏会にへと行かせた。

 伝記では、魔女が街に降りれば、厄災が起こり、人が消える。
 魔女が死ねば、一度地に幸訪れ、その地は未来永劫枯れることない。
 魔女と契約すれば、永遠の命を手に入れる事が。
 魔女の肉を食らえば、不老の身体を得ることが。

 童話は、魔女というイメージが、一人歩きして、登場したと呼ばれているが、伝記に関しては一つの根拠がある。

 オンター・ビーツ・イルゼが、魔女狩りの時期に目撃されてから300年、絶え間無く生存報告をされ、そして今に至る。
 故に、オンター・ビーツ・イルゼは、『不老不死の魔女ニヒト・シュテルベン』と呼ばれる。

 しかし、ククノチでは、『輪廻サンサーラ』とも呼ばれている。

 それと呼ばれるが由縁は、オンター・ビーツ・イルゼの目撃証言の姿が、男であったり、女であったりなどしているからだ。

 しかし、それがなぜオンター・ビーツ・イルゼだと確証出来るのか、それは、オンター・ビーツ・イルゼの眼にある。

 オンター・ビーツ・イルゼの黒目の中に、白色の線が、六角形を作り、刻まれている。

 「貴様らが勝手に決めた時間に従う程、僕の時間は安くはない」
 イルゼは、一人称を変え、そして、ヒルコの首を掴む。
 そして、そのまま、猫のように持ち上げる。
 ヒルコは顔を変える事なく、ただ前を見る。

 「あと、お願いしているんだ、この俺が。聡明な胎児である君であれば分かってくれるね?」
 ヒルコを、自分の方を見るように、向け、そして脅す。
 イルゼは、にっこりと笑って見せて、願う、いや強要させる。

 「オンター・ビーツ・イルゼ、貴様の反感を買おうと釣りが出る程の価値がある。そのような安い脅しに怯える程の我輩であるのも分かっているだろう?」
 ヒルコは感情を揺らす事なく、イルゼを見つめる、どうでも良さそうに、興味もなく。

 「まぁまぁまぁ! ここは俺様に譲っちゃうという事で」
 毛先を遊ばせ、全身黒のホストの様な服装をした金髪プリン髪の男が、割って入る。

 そして、イルゼからヒルコを剥がし、椅子に座らせる。
 その時、机の下から、呻き声が聞こえ、若干、金髪プリン男は身震いをした。

 「おーありがとねー。やっぱり『妄話メルヘン』くんは優しいね」
 リーダーと呼ばれる男は、つまらなそうに微笑んでいたが、金髪プリン男が、間に入った時に、驚いたように目を開き、誉めた。

 「バカ野郎リーダー、そっちで呼ばないでくれ、アイソーポス・ヤーコプ。そう呼んでくれ」
 『妄話』という名前を気に入っていないのか、ヤーコプは、訂正する。
 確かに、ヤーコプの見た目と『妄話メルヘン』では笑いものだとさえ思えるだろう。

 「で、イルゼさん、おツレの人はいるのかな?」
 リーダーは、グッと親指を突き立てヤーコプの前に出すと、イルゼが一人でいる事に気づく。

 「あたしは人見知りだからな、この子でいいだろう?」
 影のような服が、少し盛り上がり、そして膨れ上がる。
 ただの盛り上がりが、鼻の形を作り、そして、外に出ようとする指を象る。

 その光景に、コニカは、ヒルコの遺能を思い出す。
 しかし、それとはまた違う次元で起こる、現実。
 ヒルコの遺能は、言うなれば、呼び出すようなものだと、コニカは、思っているが、これは、まさに今産み出している。
 そうコニカは、思った。

 そして、影のような服から出てくる、一人の子供。
 その子供も影を纏っており、とてとてと数歩、歩けば辺りを見渡し、そして母体を見つければ向かっていく。
 イルゼは、母なる慈愛で受けとめ、撫で、そして抱えあげる。

 「我が稚児ややこだ。ワタクシと似ていて可愛いだろう?」
 イルゼは少し口元の綻びを見せた。

 コニカは、先程まで、イルゼを心傾ける事のない者だと思っていたが、揺れた。

 重なったのだ、自分と。

 我が子を愛し、そして喜ぶその姿に、自分と同じということにより親近感が生まれ、そして、少し良いヤツなんだなと思った。

 「へーそうなんだ、これで達成だね! この子には揺りかごの方がいいかな?」
 リーダーと呼ばれる男がそう言った時に、イルゼの子がコニカに対して手を伸ばしていた。
 それに気づいたコニカは、自分も手を伸ばし、人差しを近づけ、そして子供は握ろうとする。

 「円藤エンドウ ゲン、作る必要もない。コイツは失敗作だ」
 リーダーと呼ばれる男を、円藤玄と呼び、椅子の作成を中断させ、そして一度空で丸を画くと、光の輪が現れ、そしてイルゼの子の首元にかかる。

 まるで首飾りのようみ綺麗でそして、光は、警戒色のように、黄色の光に、泥を落としたような黒色の斑点が生まれ始める。
 そして、イルゼの子はコニカの指を掴み、笑った。
 コニカは、笑顔で返した。
 イルゼの子は、血液を返した。

 イルゼの子の顔は、コニカの足元にへと落ち、笑っている。
 コニカは、剣を手に取り、イルゼを殺そうとした。

 純粋に考える前に動いた。

 コニカの遺能なのかどうか、それは分からない。しかし、ただ一つ。
 一つの洗礼された殺意。

 「待たれよ、『生母事』。貴殿の一太刀で、どれ程の被害が生まれると思っている、剣を納めよ」
 三尺程ある刀が、間に入る。
 コニカの剣が、それほどに優しくはない、ただしかし、動くこともない。

 目の先に捉えた人間、それは、先程、エンドウが、椅子をあげる等と言って、紹介に近い事をしていたときに、見た人物。

 『斬り裂き権兵衛』、コニカが勤めていた時に、依頼が来ていたことが一度ある。

 そして、相対した事もある、その時、コニカ25、相対す『斬り裂き権兵衛』、コニカの記憶の中では、『斬り裂き権兵衛』は、年老いた老人だったはず、しかし今は、ヒルコと同年代ぐらいにしか見えなかった。

 「だけど、人間としてどうだよ、自分の子供を殺すってよぉ?」
 『爆音怒』と呼ばれるヤンキー風の男が、眉間に皺を寄せ、イルゼを睨み付け、そして影のような服を掴もうとするが、本当に影のように掴めず、空を切った。

 「プッかっけぇー、人殺しの癖によく言うにぇー。聞いたよー爆音鳴り響くなか、殴り続けてたっていうにょー、そんなやつがよく言うよにゃー、ヒーローくん」
 モルマが、『爆音努』を煽り、そしてにやけていた。
 ただ、『爆音努』は、怒りを、発散する事はなかった。

 それは、自分が周りのやつらより弱いと分かっている、だからこそ下手に出たら、自らが死んでしまう。
 故に、動くことは出来ない、今出来る最大の抵抗として、舌打ちをした。

 「殺処分だが、何が悪いんだ? 君らも粘土細工で気に入らない物が出来たら思いっきり潰すだろ?こういう風に」
 イルゼは、怒気に溢れた様子もなく、ただの平常心で、笑っている子の頭を叩き潰した。

 「別にこの行動に苛立ちを覚えるのならば、全員でかかってきてもらって構わない。友人のよしみだ、殺さないさ」
 影のような服が、幾倍にも膨れ上がる。
 中からは、人間の手のような物が外を求めて掌を服の表面上に表す。

 「待って待って、そんな殺る気はないよ。今日は次の"意味"を伝えにきたんだって」
 エンドウが、仲裁する。
 その声が聞こえれば、イルゼは、自分の影のような服を直ぐ様元に戻す。服の中から、黒い影の霧が、漏れだす。

 「やっと言えるよ。次の"意味"は、sueシュー、訴え、さ」

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