遅熟のコニカ

紙尾鮪

58「ククノチデオママゴト」

 ティーグルブラン帝国の事実上の破綻。
 その事が、ウェンズ大陸全土に伝わった時、世界は大きく動き出す事はなかった。

 その代わりに、ククノチの国王が、ティーグルブラン帝国の土地を支配下にしたという事実が、ウェンズ大陸全土に駆け巡った。

  平等に土地を分配されるという事ではなく、全ての領地を、ククノチの支配下にへと取り込んだ。

 しかし、それでさえも、世界は動かず。

 北の国、シュヴァロコスの王、異論があるかどうか、確認する方法は、ただ、行動するかどうか、それのみ。
 シュヴァロコスの王は、動かず。

 南の国、フォニクスの王、異論など無し。
 こう明言する。
 「ならそれもよし」
 フォニクスの王は、今日も一日を楽しく過ごす。

 各国、何も変化が起きず、歯車が一つ欠けていようが、平気で世界は動く。


 「コニカ、コニカ。我輩と一緒に来てほしい場所があるのだが」
 白い髪が、いつもより白衣と同化しているように、コニカは思えた。

 「久しぶりに二人での仕事か……楽しみだな」
 コニカは、時折ヒルコの手伝いをしていく内に、仕事を一人で行う事も多くなり、今では国際手配される身にへとなっている。

 そして、全ての現場に、手作りの、金髪のぬいぐるみを持っている事から、コニカは、何時からか、『生母事オママゴト』と呼ばれていた。

 「仕事というより会合のような物、以前言ったおちゃらけた団体
さ」



 街の中を右へ左へ、下へ上へ。
 今回は鉈を使う事はない。
 必要なのは、鎧を脱ぐこと。

 最近になって、コニカは、ある程度のファッションが分かってきたのか、服を着こなそうとしている。
 しかし、肌を見せる事に若干の抵抗があるのか、黒いパーカーと、黒に近い青のパンツを着ている。
 地味な色を選んでいるのは、若干まだ恥ずかしいという事があっての事と、ヒルコと対になるようにしようと思った事が、コニカはないとは言えない。

 それにしても、コニカは、変わらぬ光景に若干の不安を思っていた。
 どこをどう曲がろうと、変わることもなく生えるビルと、ビルの間の道は、既視感しか与えてはくれない。

 目新しさと言えば、路上に置いてある飲料水が入った箱、それと、ゴミ箱をつつく烏。

 「コニカ、到着した、気を張れ」
 ヒルコの言った意味が分からなかった物の、テロルを指示し、国を落とす事を命令するような団体の会合。
 それだけで身を引き締める事は容易に出来た。
 そして、ヒルコが扉を開ける。

 「「「「いらっしゃいませ~」」」」
 呆気に取られた。
 聞こえた言葉は、厳格で言葉だけで人を殺すような物ではなく、脳に響くカン高く、甘ったるい、人を色んな意味で刺激する声。

 そしてピンクを基調とした、壁紙に、椅子に机に服。

 「いらっしゃいませぇ~今日はどのようなご用件ですかぁ?」
 見るにおしゃれ、というより派手な女が、ヒルコに話しかける。

 「今日は
 「え?この子まぢできゃわたんじゃん!!」
 ヒルコが要件を言う前に、要件を聞いてきた女が、何をふと思ったか、後ろにいる女達へ情報を送る、すると、後ろにいた女達は、ヒルコの周りに集まり、ヒルコに質問を始める。

 「えーぼくちゃんどこからきたのぉ?」
 「ヤババババw」
 「あーうちキュン死確定w」
 「てゆーか子供来てよかったっけ?」
 「そういうのマジないわー」
 「年齢制限とか意味ふー」
 「とりま可愛いからよくね?」
 「「「はげどー」」」

 「いい加減にしてくれないか、コイツも困ってるだろ」
 見かねたコニカが、ヒルコの後ろから、注意をするが、女達はそんなので止める程優しくなかった。

 「はぁー? 別に困らせてないし、ねー困ってないよねー」
 「てゆーかオバサン何?」
 「お母さんなんじゃねw」
 「子供と一緒にこんなとこ来るとか鬼DQNじゃんw」
 「こんなとこ言うなしw」
 「こわたんー」


 「……明日来るべきだった」
 ヒルコが呟いた言葉、それは来店を後悔する言葉とも取れたが、その言葉を行った時に、奥の扉が開いた。
 ピンクの壁に空いた、洞窟のようで、異質を放ち、孕んでいる。

 「行くぞ、コニカ」
 ヒルコは、女達を避けながら突き進んだ。
 女達は、不自然にその場に止まり、なにもしない。

 「あ、あぁ」
 一度、一人の女と肩がぶつかったが、弾力がなかった。

 暗い道を歩く。

 先程の部屋からの光はとうに消えて、辺りを見渡しても、見えるのは黒。
 ただ、歩く。
 不思議と、逸れることなく、真っ直ぐ進んでいた。

 そして、光が差し込む。
 目映く、そして全てを包み込む、光。

 「No.5、八百一 昼子到着した」
 コニカは、既視感しか感じなかった。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く