遅熟のコニカ

紙尾鮪

59「フタツナトフタリ」

 簡素な、着色もされていない木の長机しかない部屋。あるのは三つのみすぼらしい椅子と、それを使う三人。

 「おそくにぇー? 一桁の人はそんにゃにえりゃいにょかにょー?」
 おちゃらけた喋り方をする、紫の毛がハネまくっている女が、椅子の上で寝ながらヒルコを見ている。
 彼女も、ヒルコと同じで白衣を着ている。

 「問題はないかと思われます、時間通り、いや178秒前に来ています。むしろ慎ましいかと」
 薄い黄色髪の女が、その目まで隠れている髪をくるくると回しながら、誰の方を見ることなく、言った。

 黄土色の若干爺臭いシャツを着て、トマトのような明るい赤色のジャケットを羽織っている。
 目まで隠れている髪とは対称的に、黒い半ズボンが、活発的な印象を見せ、困惑させる。

 「カッカッカ、時間通りに来たんやしええやろが! あとアッネ! 178秒より2分ぐらいの方が分かりやすいやろ!」
 赤色の髪が苔のように頭に生えた、坊主頭の青年は、笑いながら、黄色髪の女の横の椅子にへと座り、バンバンと背中を叩く。
 白のハチマキを頭に巻き、白い作業着を着ており、所々黒ずみがついていた。その事から仕事上がりのように思える。

 「……! まさか、『悪日アクビ』と『爆弾姉弟ハクダシテイ』か?」
 『悪日』、人殺し家、名をマタク=モルマ。
 モルマがアクビをする時、それを見た者の今日は、悪日となる。

 故に『悪日アクビ

 主な犯罪歴、殺人。

 確認出来ている被害者、80。
 全ての死体、五体満足、外傷無し。
 その事から、死体潔癖症とも呼ばれている。

 『爆弾姉弟ハクダシテイ』、爆弾魔。
 姉の名を佐々木寺ササキデラ 将子ショウコ
 弟の名を佐々木寺ササキデラ 規明ノリアキ

 姉弟は、手ぶらでその場に訪れ、手ぶらで帰り、多くの命を奪う。
 主な犯罪歴、殺人、テロル、建築物損壊。

 確定被害者247。

 実際は、2倍~5倍程だろう。
 何故ならそれは、遺体の損傷が激しく、数える事が困難であったり、遺体自体が無かったりするため、身元が分かる物だけを数えている。

 「ほぉお? ワイらの名前もそんな広まっとんか、めっちゃ嬉しいなあ! 犯罪冥利に尽きるで!」
 ノリアキが、オーバーに喜びながら、再びショウコの背中を強く叩く。

 「喜んでいるだけでは駄目です、それだけ相手に情報が渡っているということ、更には『ヨロズ』の連れ、確実に頭がおかしいでしょう」
 ショウコは、冷静に分析をしつつ、警戒する。
 『万』とは、ヒルコを指す名であり、姉弟は、ヒルコの異常性を知っており、それの連れという事は、異常だという事を結びつけていた。

 「ありぇー? まさか『生母事オママゴト』じゃにぇー?」
 モルマが、だらんと垂れていた体を起こし、コニカに向けて指をさす。
 その指もピンと伸びてはおらず若干のアーチ状を画き、その事から、めんどくさげでいる事を示している。

 「おおー! お前が『生母事』やったんか、最近話題の。まさかガキのツレやったとはな」
 ノリアキは、少しオーバーに反応する。
 それに特に理由はない。
 ショウコはただコニカを冷えた目で突き刺す。

 「後で紹介する。それよりも、今日は二人で来いと聞いたのだが、マタク=モルマ、もう一人どうした」
 ヒルコは、モルマと姉弟と少し離れた場所に移動すると、そこには椅子があった。
 コニカは、目を疑ったが、確かにそこには元々なかった。
 突如、わくように現れたのだ。

 しかし、ヒルコは何も驚かず、椅子に座る。
 体重の軽そうなヒルコが座るだけで、少し軋む音がした。

 そしてコニカに、小声で「すまないが立っていてくれ」と言った。

 「ん? あぁ連れてきたはずだけどにぇー」
 モルマは、背もたれに体を預け、後ろにへと傾けた瞬間、椅子と共に体が地面にへと落ちていく。
 コニカが、届くはずもないのに、手を伸ばそうとした時、大きな手が、モルマを掴み、椅子が地面に落ちる。

 「ありぇーおそかったにぇー」

 「あ……あの……うっす」
 低く野太く、自信の無さげな声がどうにかコニカの耳に届いた。

 その男は、コニカの身の丈の約1.5倍ほどであり、グロルの背を軽く越えており、着ているスーツが悲鳴をあげているように見える程、内側に秘めた筋肉が、外にへの自由を求めている。

 「ヒルコくんの子供達より凄いでしょ? こにょ子」
 ヒルコは、何も言わず、目を閉じ黒い鞄を指で叩くだけだった。



 10分後、6人だけしかいなかった部屋に、更に14人程集まり、コニカの肩身の狭くなった頃に、ノリアキが、口を開いた。

 「リーダーさん、はよ始めんかい、ワイらが仲良しこよしで、ここに集まった訳やないやろが」
 ノリアキが、若干苛立ちを見せるように、無言を切った。

 「あぁごめんごめん、若干こんなに集まってくれて感動してたんだ。それじゃ始めようか」
 茶色の天パ眼鏡の男が、ボケッとしていたが、ノリアキの言葉で現実に戻されたようにハッとし、司会のような事を始めようとする。

 「さぁ、第26回、甘物研究会を」

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