遅熟のコニカ

紙尾鮪

55「オウトアイ」

 あったのは、機械の根に繋がれた、痩せこけた根菜のようなグラブから、栄養を得て実る、グラブ。
 人間として扱われず、まるで栄養剤のように、ただ実を大きくさせるために存在し、声など発っさず、息を補助する事もされず、自力で行い、搾取される。

 皆平等で、かつ、等しく、足並み揃えて、成長する。
 人を生き返らせる機械、そんな甘く幻想的な物などではない。

 復活と複製。

 これは、複製。

 しかし、元体が、死んでいようと、生きた複製が出来上がる。
 それは、復活、蘇生などと言えるのだろうか。

 否、別生物。

 しかしながら、記憶は、元体と、統合されており、死んでいく複製の記憶さえも統合される。

 そして、複製者を操る事すら可能。
 その指揮権は、その元体と立場が同じ、もしくはそれ以上である必要がある。

 つまり、命の大切さを知らぬ、ただの命令を聞く人形、いや、兵器。

 人間?

 言えぬ、答えは、人間によく似た、ただの、有機物。

 つまり、金髪の子供を複製する事は出来る。

 しかし、それは、コニカにとって、良いものなのだろうか。
 金髪の子供の、外身と、中身がよく似た、いや姿形は同じな金髪の子供を、愛情を込めて抱きしめる事など出来るのか。

 愛した犬が死んだ次の日、すぐに新たな犬を用意するような、一見普通に見えて、狂って、命を軽く見た、いとも容易く行われる、人間特有の人間以外の生物を、物として扱うような、傲慢な思想。

 それを思うのは、命を知らない、無知としか言えない馬鹿の思想。
 母にとって子は一人、よく似た子供を、自分の子だと勘違いするなど、する事はない。

 「コニカ、貴様の願いは叶ったか?」
 その答えなど、コニカは、当に導きだしていた。
 傷口深く、唯一の望みを断たれ、そして更には抉られる。

 ここに踏み入れた瞬間、コニカは、後悔していた。
 全てが合致し、そして、襲われる。

 恐怖という名の風に。

 風は、衣服で身を覆ったとしても、隙間を探し、極小であろうと、その場所をすり抜け、皮膚に触れ、自らの体温を相手に伝える。

 逃げる事など不可能。

 追いかけてなど来ない、いるのだ何処にでも。

 「手を多少加える事も可能だ、まぁ言わば品種改良のような物だがな」
 コニカが、怯えたように、王を投げ出す。
 王は、目を閉じたまま立ち上がり、何処かへと歩き、そしてソファーに座るように体を預け座った。

 「肉体を成長を進める上での栄養を加える事も可能だ」
 王が指を指す。
 指した先の照明が点いて、照らす。
 そこには、醜く膨れ上がった脂肪の塊のような、辛うじてグラブと分かる物がいた。

 「栄養を加え続けた末に出来た物だ、醜いの、一言だな」
 照明がつき始める。朗らかなランプの炎が、王のいる場所を照らし始める。
 王の座っている物は、赤黒く、新鮮な、血の滴る、肉の塊。

 「最初、この場所を知った時、私はただ、食料供給に困らないと思った。豚を繋いで豚を作ればいいとな」
 王は、肉に顔を埋め、自分の顔を赤く染めて、そして、語り始める。
 肉を撫でるように触りながら。

 「しかし、違った。間違っていた」

 「代々紡いで来たEiアイの使用方法とは、魔女の力を得ようとする事だ」
 肉を手に取り、そして、口付けをするように、顔に近づける。

 「臓器移植に、四肢の移植、行ってはみたものの、成功せず。苦節する事八世代。天啓を得たのだ」
 王が、何かにとり憑かれたように、その肉をねぶり、目を開く。
そして、笑い、語った。

 「食べればいいんだとな」
 王が、手を広げた時、全ての照明が灯る。
 黒々とし、赤々とし、濡れた壁が、見え、そして、床に並べられた、無数の頭蓋達。
 そして、壁に沿って立つ、数種類しかいない大勢の人が、王に従うように並び、命令を待っている。

 人間を、人間が食べる。それをしてしまったら、それは人間と呼べるのか、人間の姿をした、ただの獣。

 コニカは、思い出し、吐き気に襲われた。
 美味しくもない、栄養だけしか考えられていないとは言われていたものの、どんな肉で、どんな材料を使われているのかすら知らないままでいた。
 それが、今、分かった。

 「お察しの通り、君達の食事は全て、コイツらの肉さ」
 
 「コニカの魔女の力の覚醒の時点で、証明はされていた。更には、それを自由自在に操る事すらも」

 「まぁ、今では出来ないが、やはり途中からだと難しいな」

 「ただ、私達ですらその事が可能と分かった今、魔女狩りの意味を無くした」
 演説のような、長々とした語りが、一度止まり、そして叫ぶ。

 「全てを生け捕りにし!! 兵を量産!! 全ての兵に力を授け、全てを統べる。これが使命だと!!」
 射殺すような視線が、ヒルコにへと向けられる。

 ヒルコは一瞬身構える。
 自分に対する一瞬の敵意を感じたからだ。
 しかし、それも、一瞬で消える。

 「ただ、違った。騙されていた。そう、私は知った」

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