遅熟のコニカ

紙尾鮪

46「コドモトオヤ」

 「コニカ、どう動きたい?」
 ヒルコは、弧を画くように、コニカの腹部にあたるであろう鎧部分を指でなぞる。

 「どうせこの国で激しくやれば、警察とやらが出てくるのだろ? というかむしろ、何故出て来ていないんだ」
 コニカは、少し恥ずかしがりながらヒルコを引き離し、自分の疑問をそのまま告げる。
 あれほどに激しく、人を殺し殺されを繰り返したのだ、警察、または自衛隊や機動隊が出てきてもおかしくはない、いや、出てこないのがおかしいのだ。

 「自分等の立場や、命を重要視する奴等だ。出てくる筈がない、我輩の命を狙うのも、他社に委託するような奴等だ、人が死のうと対岸の火事という物だ」
 コニカに無理に離されたヒルコは、一度しょぼくれるような顔を見せて、ぶつぶつと警察などに対する愚痴にも似た、実情をコニカにへと伝える。

 「……酷いな、よくその様な組織が成り立つものだ」
 コニカは、眉をしかめて、それを批判し、遺憾な表情を見せる。

 「まぁそれを許すような国民性なのだ、致し方無かろう。それより!」
 ヒルコは、うんうんと頷きながら、腕を組み、自国の民の民性を嘆く。
 そして、嘆き終わると、コニカに飛び付くように、手を当てて、密着するように距離を縮める。

 「コニカぁ、何時からあの遺能を使えるようになったのだ?」
 ヒルコは、発情した犬のように、身を擦り寄せ、コニカにへと艶かしく言葉を話す。

 「……分からない、私の遺能を扱う方法が、ましてやなぜ私が使えているのかすらも」
 コニカは、ヒルコを剥がすこともなく、ただ笑みを浮かべて擦り寄るヒルコを撫でるのみ。

 母の如く行動にヒルコは、顔を隠す。

 それにコニカは、母性をくすぐられ、ヒルコを愛らしく感じる。
 一週間も前には、枯れ果てていたはずの、その感覚に連日のように襲われる、その事に、コニカは、酔いしれていたのだ。

 「いやなァ、そういうのは自室でやってくんねぇかな、何でビトレイが倒れてる横で、そんなイチャイチャ出来るんだよ」
 ビトレイが、コニカとヒルコの一連の流れを見て、イライラしながら床に倒れるナニカを蹴っている。

 「グロル、貴様が指示する権利などないはず、まぁいい。聞け! グロルよ!」
 明らかに憤りの感情を露にしながら、コニカから、はがれるように離れ、グロルの手を掴めば、跳び跳ね、憤りからすぐにへと変わり、喜びの表現を行う。

 「コニカが我輩を生き返らせたのだ!」
 その言葉により、ナニカとグロル、目覚める。

 「チビさん、てめェ一回死んだのか?」
 「主よ、どういう事か一度ご説明を」
 地面に倒れていたはずのナニカが、上体を起こしてヒルコを見上げる。

 グロルが、ヒルコの手を強く握り、ヒルコを見つめる。

 例え姿形、思想が違えど、この二人の絶対的主君はヒルコ、一人のみなのだから。

 「ん? まぁ、少し気を抜いてしまってな、コニカに殺されてしまった」
 ふざけた様に言ったヒルコの言葉が、ナニカとグロルが、コニカに牙を向けるに、十分過ぎる物であった。

 主君を殺した、その決定的な事実は、例え主君が生き返ったとしても、許す訳にはいかない、いや許してはいけない。

 「女、やはり殺すべき、今、殺す」
 「チビさん、思い入れがあるのは良いが、自分を殺した相手とつるむのは、俺らが許せねェ」
 ナニカの緑の鱗が、ボロボロと剥がれ落ちながら、その鱗の中から見える丸く大きな目が、コニカを睨む。

 グロルが、ヒルコを自分の後ろにへと引き、コニカを殺そうとするが、それを、ヒルコが、阻む。

 「お前ら子供ガキの意見など求めてはない。そして、コニカを殺そうとするならば、我輩がお前らを殺す。無論、歯向かうのならばお前らを殺す、どうする?死ぬか?」
 二匹は、壁を知る。

 主との関係の距離を阻む、人間と、人外の壁。

 それは厚く、高い。

 二匹の、人では成し得ないはずの力を使おうと、その壁は揺るがない、傷付かない。

 一匹や二匹の行動で、変わるような物では決してない。
 人間の愛の不条理が、植え付けられた感情を持つ物には、人間に憧れるだけの物には、到底理解が出来ないだろう。

 「コニカぁあっちで話そう? ここでは少しうるさいからな」
 コニカの手を引いて、何処かにへと向かうヒルコの背中を見て、グロルは、別段怒りは感じてはいなかった。

 子供と呼ばれるグロルではあるが、ヒルコの事をずっと子供と思い、そして、若干ではあるが、成長を楽しんできた。
 恋を嗜むタシナム事が出来るようになったと思えば、呆れるぐらいの感情しか芽生えなかった。

 しかし、地面に近いナニカは、そんな感情を思う事などなかった。

────────

 「……あんな態度をとって良かったのか? 一応ではあるが、貴様がアイツらにとって、長のような存在なのだろう?」
 コニカは、少しばかりの沈黙の後、口を開き、先程のヒルコの言動を心配する。
 ある意味、ヒルコの見捨てるような言動が、今後の指揮に何らかの影響が出るのではないかという、不安から来る物だった。

 「心配してくれるとは、コニカは優しいな」
 ヒルコは、コニカの不安も関係無しに、コニカの事を褒めるような事を言う。
 それにコニカは、ため息をつくように、一回大きく息をはいた。

 「まぁ心配するな、あんな事で一々凹むような奴等ではない。」
 ヒルコは、確かに信用している。

 それが、過信かどうかは、分からない。

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