遅熟のコニカ

紙尾鮪

45「ヒトリトヒトリタチ」

 「何が言いたい」
 ヒルコは、弱りきっているナニカを見て、何も感情の起伏を起こさず、何もなげかける事なく、ナニカの言動を追求する。

 「一人……なのです」
 ナニカは、壊れたビデオのように、途切れ、そして同じ事を発し続ける。

 「チビさん、此れを見てくれ」
 ヒルコの目の前に、三本の足を並べ、にやにやとしながら、ヒルコの顔を伺う。

 「だからどうした」
 ヒルコは、それの意図を分からずにいた、いや勘違いしていた。
 獲物を捕らえた猫が、主人にへと見せるような物だと、そうヒルコは思っていた。

 「全て同じ味だ、食ってみるか? チビさん」
 全てが同じ味、という意味。
 ヒルコの頭の中にかかるモヤの中を全てを指し示す、一筋の光。

 「まさか……そんな筈は……いやつまり」
 ヒルコは、並べられた足を、じっくりと見て、泥中から砂を抉り取るように、足の肉を抉り、口元にへと運ぶ。

 ヒルコの、稀薄な桃色の唇を、紅をさすように、肉に滴る血で染まる。

 コニカが、背後で、異常を見つめ、何も思わない。

 馴れから来る異常を通常と見る、危機管理能力の低下。

 しかし、今は、そんな事で一々驚いている暇などはない。

 「……確かに、味に微量の変化もない、まさかそんな事が? 影人間? それともクローンか? まさかアイツが? いやそれはないか」
 ヒルコが、三本の足の肉を味わい、比べ、そして飲み込み、考える。

 ヒルコの脳内に、疑問が生まれては暴れる。
 取捨選択、いや捨てる事しかしていない。
 それほどに、難儀なのだ。

 いや、それは凝り固まった理念から来る、自分が作った道での成り行き。

 「そうか、帝国にも魔女の子孫がいる。簡単な話だったな」
 氷を溶かしながら水を飲むには、時間がかかり過ぎるという物。

 ただの人間だと思い、立てた作戦が通用しないのもこのせいだろう。

 ヘーレによる場所移動、それだけで判断材料は十分だった。

 だからこその早い断定。

 そして、湯水のように溢れる、ヒルコの悪能。

 「ビトレイよ、良くやった」
 ヒルコは、ナニカの頭を撫でる、いや撫でるというよりも、手を置くという方が近いだろう。

 たった少量の、労り。

 それだけで良い。

 何故ならば、少量の餌を与えられた獣のように、またその少量の餌であろうと、獣はそれを求め奮闘し、そして喜ぶだろう。

 ヒルコの教育論だった。

 「わ、わたしには、身に余る光栄です、できればこれが……」
 言葉半ばにて、ナニカは目を閉じる。
 グロルは、ナニカに貸した肩を、無理矢理ナニカから奪い返し、笑う。

 ヒルコも同調するように、笑う。
 コニカは、いふを思い描いていた。

────────
 玉座にて、そこに座るは王たる者。

 王、それ以外におらず。

 そして、目の前に広がる銀色の一人達、王の力を表す。

 「バレたか、いや問題ない。バレたとしても、対応など不可能。そうだったな? てんさいちゃん」
 王たる者に相応しくない、有象無象に意識を割き、更には意見を求めるなど、王たる者が行う事ではなかいのだ。

 しかし、それが確かに有象無象であればの事だ。

 烏のクチバシ象ったカタドッタマスクを着けた女が、一度頷く。

 目の奥には、銀色の鎧の持つ光沢が届かず、長く、手入れのされていない髪は、夕日を隠す雲のように橙色を少量持った黒色で、目の下の隈を霞ませるようだった。
 隈と共に、夏日斑があった。

 「全ては依頼通りに、お客様から請けた仕事は確実に。お客様は、神様……だ」

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