遅熟のコニカ

紙尾鮪

35「ハカイシコロシ」

 まず、煉瓦の巨人、いわばゴーレムが動いた。
 ゴーレムは、大きく振りかぶり、目の前の住居を壊した。

 煉瓦が壊され、飛び散る。それには、ゴーレムの体の煉瓦は含まれていない。
 強固なる住居を前にして、同じ素材で出来たゴーレムであっても、傷をつける事など無理なのである。

 分かりやすいアピール。
 生活の基点である住居を壊された、それが自分の所有物か否は関係はない、壊した者がまだ健在している。故に、自分にも危害が及ぶ可能性がある。
 ここまで考える者は多くはない、ただ、本能がアラームを鳴らしているのだ。

 今すぐ逃げろと。

 その光景を目にした人々は、直ぐ様、悲鳴をあげて何処かにへと逃げる。
 一体何処に? 目的場所は一つ、王の城にへと、一番安全であろう場所だった。
 しかし、我先にへと、自分の生命の保身を優先させ、人を押し退ける姿は、まさに愚か、逃げられる筈がないのだ。

 次に、人間に紛れた子供達が動く。
 こんな状況でも、目を奪われるような美女が一人、転けた。
そんな美女に、手を差し伸べる優男。
 その手を取り、むしゃぶり尽くす後頭部の口。
 骨まで味わう口と、その痛みに叫ぶ優男、優男は、美女の頭を殴り、逃れようと試みる。
 それに激怒した美女は、180度首を回し、口を大きく開けて、頭の上半分を食った。

 人の顔をした大蛇が、五人程の人間を締め上げ、悲鳴をあげる前に、一匹づつ、食った。

 青年は、舌を伸ばし、目の玉を引っこ抜き、飴玉のように口の中で転がす。
 そして、耳に唇、二つある物を、片方づつ食っていく。

 小さな子供が、大人の足元を走る。
 その子供が通った場所にいた大人の足は全て折られ、地面に座る事しか出来ない。
 その姿を見た大人は、小さな子供を蹴るが、ビクともせず、大人の足の骨が、粉々に砕ける。
 小さな子供は、背中に鎧とよく似た者を纏い、己の体を守る。

 空から、一人、地上の物を掴み、楽しげに下に落とし、それを笑うドラゴンがいる。
 道を塞ぎ、人をじっくりと味わい、脇道から逃がすドラゴンがいる。

 異形な大男は、腕を振るい、人をなぎ倒していく。いとも簡単に、大男がつまらない程に、人間は軟らかで脆い。

 犬は、まさに雷が如く、天から落ちては、辺りの人間を焦がす、それをヒルコの元へと持っていき、褒めてと言わんばかりに、尻を振っている。

 狐は、人間の身体にへと姿を変えて、一人一人、首を絞める。
 それに飽きれば、口に人差し指を当て、何かを唱えたと思えば、狐火が、そこらを舞う。

 達磨は、自らが転がりながら、人々を踏み倒す。
 大声で野太い笑い声をあげながら。

 そして、英雄気取りか、男が、煉瓦の破片を手に取り、ヒルコにへと襲い掛かる。

 その煉瓦を持つ手が、意図も容易く斬られた。
 コニカだった。
 無表情の兜は、英雄気取りの男を威圧するように見て、そして、銀色の剣の握られた手が、男を斬り刻む。

 なんの躊躇もない、依頼主であるヒルコの護衛、しかも相手は一般人、これほど簡単な依頼はない。
 であれば、確実に完遂せねば。

 しかし、味方ではあるが、人を殺していく子供達を見てコニカは、ある物を思い出していた。
 昔、ククノチの絵本の、創作の中で語られた、様々な奇々怪々な動物とは言えない異形達が、百の鬼が夜中闊歩する、ヒャッキヤコウ、それを思い出した。

 ヒルコは、その光景に興奮、そして愉悦。
 身体を震わせ、快感を露にする。

 しかし、これはただの、デモンストレーション。
 言わば前菜。


 そして、10分もたたない内に、騎士と、兵隊が現れた。
 まずそれらは、血の臭いに鼻を覆い、地獄であるその光景に自らの目を疑う。

 おおよそ、400人。

 死んだ。
 人が死んだ。
 いっぱい死んだ。

 死体は400体もない。
 人間の死体198。
 人間らしき死体137。
 人間の破片500超。
 行方不明88。

 町のほとんどの人間が死に、消えた。

 そして、ヒルコらも全て消えた。

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