遅熟のコニカ

紙尾鮪

27「コニカトコドモ」

 金髪の子供が語ったのは、コニカが意識を失った後の事だった。

 グロルは、見境なく、全てを力を振るって壊し、そして、グロルは、コニカに攻撃しようとした。
 それを見て金髪の子供は、コニカを守りたい、そう思った。
 グロルの攻撃を何分も何時間も受け続け、グロルはやっと正気を取り戻し参ったと言った。


 これが金髪の子供から得られた情報だった。
 つまり、自分がこの小さな存在に守られたという事だった。
 前だったら、余計なお世話だったと思っていただろうが、コニカの心には感謝しかなかった。

 純粋な感謝、それをコニカは、金髪の子供にへと向けそして、それを返そう、そう思った。
 その当たり前の流れをコニカは、久しぶりに行った。
 とても真新しく感じ、新鮮だった。

 「お母さん私が守る!」
 えっへんと、腰に手を当ててみて、大きな声でコニカに伝える。
その姿にコニカは、母が子のことを可愛いと思うのと同じ感情を感じ、コニカは、とても金髪の子供の事を、愛らしく感じた。

────────────

 その夜は、二人は、猫の母子のように、身を寄せ暖まっていた。

 その夜、切るように冷たい牢屋の中は、快適で、そして暖かだった。

────────────

 「……コニカぁ」
 怯えるように、鉄格子の隙間から、コニカの様子を伺うヒルコはとても可愛く、叱られ、謝りに来た子供のようだった。

 「どうしたヒルコ、今日は何の日なんだ」
 ヒルコに向ける笑みは、また以前とは違った、なんというか自然な笑みだった。

 「! そうだな! 今日は特に決まってはいないが何かやりたい事はあるか?」
 勢いよく扉を開け、コニカ達の家に入った。

 特に決まってはいないという事から、ヒルコが決めていた事が分かる。
 ただ、今日やることがないと言われ、そして何がやりたいと言われても、すぐには浮かばず、コニカは悩んでいると。

 「お外! お外に出たいです!」
 すると、布団の中から、金髪の子供は、布団から生まれたような勢いで、直立し、自分の願望を伝える。
 ヒルコは酷く驚いた。
 金髪の子供が、自分の背を越していたのだ。

 「そうか……そういえば私もだいぶ外へ出ていない、いいか?」
 金髪の子供のやった事が少しおかしかったのか、若干微笑み、ヒルコに、金髪の子供の提案が良いのかどうか聞いた。

 「……あ、あぁ勿論! たまには太陽の光を浴びねばな!」
 ヒルコは空を見上げるように、金髪の子供を見て遠い目をしていたが、急に我に返ったのか、コニカの提案を飲み、ヒルコはエスコートするように、扉を開けて、外にへと誘う。

 「お母さん! 早く行こぅ!」
 いち早く牢屋の外に出た金髪の子供は、大きく手を振ってみてコニカを招く。

 コニカは、ゆっくりとベッドから降りる。
 コニカは、鎧を探した。外に出るのにも関わらず、流石にワンピースのような、薄い布の服では頼りないだろうと思い、探したが、そんなものはなかった。

 「コニカ、何も戦う訳でもない。純粋に楽しめ」
 ヒルコは、コニカが探している物が分かったのだろう。
 豊かな癒しの時間を過ごさせようと、ヒルコはコニカにそれを探すのを止めさせた。

 「……そうだな、だがしかし、この服では寒くはないか?」
 クルブシより少し上までの長さのワンピースの裾を、親指と人差し指で摘まむと、自分の触覚で布の生地の薄さを感じつつ、ヒルコにその薄さを伝える。

 「まぁまぁ、外に出て寒ければ何かまた新しい物を持ってこよう」
 外へ出させるのを急かすように、コニカの背を押して、牢屋の外にへと出す。
 金髪の子供は、コニカの手を取り、導くように引いて、監獄の廊下を走る。
 その姿は、母と姉弟のようだった。

 魑魅魍魎チミモウリョウが収監されている牢屋を他所に、コニカ達は走る。

 そして、しばらく振りの、自然が、広がる。

 土の色を、入るときに恐れた鉄格子の扉を今、開き、外へと出た。

 今走れば元の生活にへと戻ることは出来るだろう、ただコニカはそんな事をする気など一切なかった。
 何故なら、今満足しており、そして、ここにいる意味、目的、そして楽しさを見つけたからだ。

 「それじゃあ楽しんできてくれ、我輩は少し仕事があるのでな」
 コニカが外にへと出たことを確認すると、ヒルコは、コニカの背から手を離し、監獄の中にへと戻っていく。
 ヒルコとコニカは笑みを浮かべていた。

 「分かった。それじゃあな」
 コニカはヒルコに手を振ると、力強く引っ張る金髪の子供の思いのまま、連れていかれる。

 「お母さん! でっかい! 臭い!」
 初めて見る木に、興奮を露にする金髪の子供は、コニカにそれを共有しようと、自分の感じている感情を伝える。

 初めて見る大木、監獄の天井までの高さしか知らない金髪の子供は、天にまで高くそびえる大木に興味津々で、木の独特な臭いを初めて嗅ぐ金髪の子供は、異臭としか感じないが、それにすら興奮していた。

 「分かった、分かった。凄いな」
 コニカも、高くそびえる大木に、驚きと、そして強く、そして単純な感情を覚えていた。

 素晴らしい。

 普段であれば見向きもしなかったその大木に、コニカは感動とも取れるような物を感じ、そして今の時間を与えてくれたヒルコに感謝した。
 まるで神に感謝をするように、無神論者のコニカは感謝した。

 「お母さん! あっち行こ!」
 コニカの手をぐいと引っ張り、また次の場所へと向かおうとする、それほどに、好奇心をくすぐる物がそこらにあったのだ。

 コニカは、森を通る風に服を掴まれ、金髪の子供の欲求による原動力に付いていく事が出来なかった。

 「お母さんはーやーくぅ!」
 もたもたするコニカを急がせるように、また更に力を強めコニカを引っ張る。
 その力にコニカは、腕を持っていかれそうになるが、それにコニカは別に嫌な気分になってはいなかった。

 子供の駄々に付き合うのは、じんましんが出そうになる程に、嫌だった筈なのだが、コニカはそんな事を微塵も感じたり、じんましんが出そうな予感すらなかった。

 自分の子供の場合であれば、何も感じる事がない、いやむしろ楽しく感じるという物なのだろうか。

 「ごめんごめん、もう少しペースを遅く……いや無理か」
 コニカは、色んな物を見て目を輝かせる金髪の子供の様子だと、ペースを遅くする事など無理だろうと、コニカは思い、口を閉じて付いていった。

 「お母さん! あれ見てあれ!」
 金髪の子供が指差す先には、高く伸びた草の中を掻き分けながらゆっくりと進む、肥えたタヌキがいた。
 それほどに、ここの森は自然豊かで餌が豊富なのだろう。

 「ん、あぁ……行ってきてもいいんだぞ?」
 コニカは、自分を引く手が弱まった事を感じ、金髪の子供が、タヌキの元へと行きたいという事を感じた。
 それを引き留める意味はなく、コニカはGoサインを出した。

 金髪の子供は、腕を千切れんばかりに振って、タヌキの元へと駆けた。
 以前のように、獣のように駆ける姿ではなく、人間のように、無邪気に金髪の子供は駆けた。

 その姿にコニカは、人であるという事を感じた。

 そして、木々が嗤うように揺れ、枝同士を触れさせ、うるさくその音は響いた。

 しかし、その音を無かったものにする音が響いた。

 自然には生まれない、人間の作った物の中で、最高で、そして最低な物の声。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品