闇夜の世界と消滅者
第三十三話 阿賀崎黑葉 5
「そう、勧誘だ。史上最強最悪の異能力者である、三觜島戀君のね」
死狩者の言葉に、戀は怪訝な表情を浮かべる。
戀は異能のことを周りの人間には一度も口にしたことはない。
使用したことは何度かあるものの、それでもばれるようなミスは犯していない。
いったいなぜ……?
そう戀の表情に表れていたのだろうか、
「そう警戒しないでもらいたいな。私は別に危害を加えに来たわけではない」
「ほう? ならなぜこんな真似をしてまで私を呼び出したのか教えてもらいたいな」
ここで思い出してほしいのだが、戀はまだ11歳。
子供もいいところである。
そんな年端もない子供が、世界で最も凶悪であるとされる死狩者に対してため口である。
一真は冷や汗が止まらない。
「へぇ、その強気な態度。彼我の実力差がわからないわけではないはずだろうし、そうするとこの状況をどうにかする方法を思いついていると思ったほうがいいかな」
死狩者の口調が段々と硬いものから砕けたものに変わっていく。
「さて、私たちがなぜこのような真似をしたのかだったね、簡単な話、君の実力を知っておきたかった」
「それだけの為に、このようなことを?」
「もちろん、君を捕らえてこの家との交渉材料につかえればよかったのだけどね。その様子じゃあ、異能すら使わずに無力化されちゃったようだ」
死狩者の言葉にメイド長は目を伏せ、ただ一言「申し訳ありません。我が主」と言った。
「別に責めているわけじゃない。これほどの人物を君一人で抑え込めといった僕の方が悪い。すまなかったね」
そう謝る死狩者に、メイドはただ深く礼をした。
「さて、長ったらしい話もここまでにして、返事を頂けるかな? ああ、黙秘することは許さない」
死狩者が少しだけ殺気を漏らしながらそう言ってくる。
「そのような脅しを仕掛けるの奴に、ついてく人間がいるとでも本気で思っているのか?」
戀は遠まわしにNOと言った。
…………あくまで本人は遠まわしで言っているつもりなのだが、傍から聞けばかなりダイレクトに答えている。
「やはりね。では仕方がない。もう一人の候補者を連れていくとしよう」
「もう一人の候補者だと?」
戀の心が妙にざわついた。
「ああ。阿賀崎家のご令嬢、阿賀崎黑葉だよ。彼女は異能を持っているかどうかはわかっていないんだけど、あの霊能力はすごいものでね。彼女は欲しいと思って――――」
そう死狩者が続けようとした瞬間、顔のすぐ隣を光る何かがものすごいスピードで通り過ぎた。
死狩者は今何が起こったのかわからず、ゆっくりと後ろを振り返った。
そこには、先ほどまであったはずの家の壁が、消し飛んでいた。
「こ、これほどまでとは…………」
死狩者だけでなく、メイド長や一真でさえびっくりしている。
「流石、私の婚約者」
そんな声が戀の後ろから聞こえた。
「流石も何も、別に大したことはしていない」
「ううん、あの死狩者を圧倒してる。すごいこと」
無表情で称賛されても嬉しくないのだが、黑葉の顔をよく見てみるとわずかに口角があがっている。
ちゃんと褒めているのだろう。
まあ、戀は相変わらずの無表情で恥ずかしがりもしないのだが。
「ところで、黑葉は死狩者のことを知っているのか?」
「うん。でも知ってるといってもほんの少しだけ」
「例えば?」
「女たらしとか?」
ブフォッッ!!
その場にいた戀と黑葉を除くほぼ全員が咳き込んだ。
「その女たらしという汚名で呼ぶのはやめてくれ」
「でも事実」
黑葉に即答され、押し黙る死狩者。随分と情けない。
「……その証拠はどこにもないだろう」
「私の霊能力をあまり嘗めない方がいい」
たとえ死狩者のような秘密結社のトップであるといっても、超常の力を扱える黑葉にとって情報を集めるというのは造作もないことである。
まぁ、本当の意味で隠されている情報は見ることができないのだが。
「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。いや別によくはないが、それはまずおいておくとしよう」
コホンと、死狩者は一息ついて、勧誘を始めた。
「君の力はかなり買っている。もしこちらに来てくれるならば、それ相応の待遇は約束しよう」
死狩者がそういった瞬間、黑葉から異様な空気が流れ始めた。
「ふざけるのもいい加減にして。私は戀の婚約者。私は戀から離れるつもりはない」
珍しく長台詞を吐く黑葉に一真も驚いている。内容に関しては予想通りの反応だったのだろう。
いくら金を積まれようと、戀も黑葉も互いに裏切るような行為は絶対にしない。
そんな意思を見て取ったのだろう、死狩者は嘆息し、妥協案を提案した。
「二人の意志は分かった。ではアルバイトという名目で雇うのはどうだろうか」
「アルバイトだと?」
戀は訝しげな声を上げる。
「ああ、報酬は少なくなってしまうがね」
戀と黑葉は顔を見合わせて唸る。
なぜそこまでして戀や黑葉を欲しがるのか。二人の疑問はそこにあった。
「何故僕が君たちを欲しがっているのかわからない、って顔だね。じゃあ目的を明確にしようか」
そこで言葉を区切り、戀たちをみやる。
「僕たちが君たちのような異能力者を集めるのは、この先の未来に起こる悲劇を止めるためなんだ」
「悲劇だと?」
「一体どんな悲劇?」
戀と黑葉が続けて質問する。だが、死狩者はその質問には答えずに締めくくった。
「僕と一緒に来るか、ここに残るか、どうする?」
死狩者の言葉に、戀は怪訝な表情を浮かべる。
戀は異能のことを周りの人間には一度も口にしたことはない。
使用したことは何度かあるものの、それでもばれるようなミスは犯していない。
いったいなぜ……?
そう戀の表情に表れていたのだろうか、
「そう警戒しないでもらいたいな。私は別に危害を加えに来たわけではない」
「ほう? ならなぜこんな真似をしてまで私を呼び出したのか教えてもらいたいな」
ここで思い出してほしいのだが、戀はまだ11歳。
子供もいいところである。
そんな年端もない子供が、世界で最も凶悪であるとされる死狩者に対してため口である。
一真は冷や汗が止まらない。
「へぇ、その強気な態度。彼我の実力差がわからないわけではないはずだろうし、そうするとこの状況をどうにかする方法を思いついていると思ったほうがいいかな」
死狩者の口調が段々と硬いものから砕けたものに変わっていく。
「さて、私たちがなぜこのような真似をしたのかだったね、簡単な話、君の実力を知っておきたかった」
「それだけの為に、このようなことを?」
「もちろん、君を捕らえてこの家との交渉材料につかえればよかったのだけどね。その様子じゃあ、異能すら使わずに無力化されちゃったようだ」
死狩者の言葉にメイド長は目を伏せ、ただ一言「申し訳ありません。我が主」と言った。
「別に責めているわけじゃない。これほどの人物を君一人で抑え込めといった僕の方が悪い。すまなかったね」
そう謝る死狩者に、メイドはただ深く礼をした。
「さて、長ったらしい話もここまでにして、返事を頂けるかな? ああ、黙秘することは許さない」
死狩者が少しだけ殺気を漏らしながらそう言ってくる。
「そのような脅しを仕掛けるの奴に、ついてく人間がいるとでも本気で思っているのか?」
戀は遠まわしにNOと言った。
…………あくまで本人は遠まわしで言っているつもりなのだが、傍から聞けばかなりダイレクトに答えている。
「やはりね。では仕方がない。もう一人の候補者を連れていくとしよう」
「もう一人の候補者だと?」
戀の心が妙にざわついた。
「ああ。阿賀崎家のご令嬢、阿賀崎黑葉だよ。彼女は異能を持っているかどうかはわかっていないんだけど、あの霊能力はすごいものでね。彼女は欲しいと思って――――」
そう死狩者が続けようとした瞬間、顔のすぐ隣を光る何かがものすごいスピードで通り過ぎた。
死狩者は今何が起こったのかわからず、ゆっくりと後ろを振り返った。
そこには、先ほどまであったはずの家の壁が、消し飛んでいた。
「こ、これほどまでとは…………」
死狩者だけでなく、メイド長や一真でさえびっくりしている。
「流石、私の婚約者」
そんな声が戀の後ろから聞こえた。
「流石も何も、別に大したことはしていない」
「ううん、あの死狩者を圧倒してる。すごいこと」
無表情で称賛されても嬉しくないのだが、黑葉の顔をよく見てみるとわずかに口角があがっている。
ちゃんと褒めているのだろう。
まあ、戀は相変わらずの無表情で恥ずかしがりもしないのだが。
「ところで、黑葉は死狩者のことを知っているのか?」
「うん。でも知ってるといってもほんの少しだけ」
「例えば?」
「女たらしとか?」
ブフォッッ!!
その場にいた戀と黑葉を除くほぼ全員が咳き込んだ。
「その女たらしという汚名で呼ぶのはやめてくれ」
「でも事実」
黑葉に即答され、押し黙る死狩者。随分と情けない。
「……その証拠はどこにもないだろう」
「私の霊能力をあまり嘗めない方がいい」
たとえ死狩者のような秘密結社のトップであるといっても、超常の力を扱える黑葉にとって情報を集めるというのは造作もないことである。
まぁ、本当の意味で隠されている情報は見ることができないのだが。
「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。いや別によくはないが、それはまずおいておくとしよう」
コホンと、死狩者は一息ついて、勧誘を始めた。
「君の力はかなり買っている。もしこちらに来てくれるならば、それ相応の待遇は約束しよう」
死狩者がそういった瞬間、黑葉から異様な空気が流れ始めた。
「ふざけるのもいい加減にして。私は戀の婚約者。私は戀から離れるつもりはない」
珍しく長台詞を吐く黑葉に一真も驚いている。内容に関しては予想通りの反応だったのだろう。
いくら金を積まれようと、戀も黑葉も互いに裏切るような行為は絶対にしない。
そんな意思を見て取ったのだろう、死狩者は嘆息し、妥協案を提案した。
「二人の意志は分かった。ではアルバイトという名目で雇うのはどうだろうか」
「アルバイトだと?」
戀は訝しげな声を上げる。
「ああ、報酬は少なくなってしまうがね」
戀と黑葉は顔を見合わせて唸る。
なぜそこまでして戀や黑葉を欲しがるのか。二人の疑問はそこにあった。
「何故僕が君たちを欲しがっているのかわからない、って顔だね。じゃあ目的を明確にしようか」
そこで言葉を区切り、戀たちをみやる。
「僕たちが君たちのような異能力者を集めるのは、この先の未来に起こる悲劇を止めるためなんだ」
「悲劇だと?」
「一体どんな悲劇?」
戀と黑葉が続けて質問する。だが、死狩者はその質問には答えずに締めくくった。
「僕と一緒に来るか、ここに残るか、どうする?」
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