闇夜の世界と消滅者
二十三話 迷宮探索3 お留守番
シャードの背に乗った戀一行は、約一時間程度で迷宮《草薙》のある森に到着した。
馬車を使っても約三時間はかかるのだが、シャードに乗ってきて正解だったな、と戀は心の中でつぶやいた。
「ここが《草薙》のある森……か」
戀がしみじみとつぶやいた。
「ええ。この森には魔物だけでなく、普通の動物も生息しているのですよ」
イルディーナの言葉に戀は驚いた。
「普通の動物だと? ここは魔物の領域だろう。なのに普通の生物が生息しているのか?」
戀のその言葉に、鈴音が答える。
「先ほどの説明ではわかりにくいですわよ会長。兄様、この森は規模が規模だけに全体が魔粒子でおおわれているわけではありません。森の中心から外れているこの辺一帯は普通の森と何ら遜色ありません」
その言葉を聞いて、戀は再び驚愕することになった。
魔粒子が覆いきれないほどの規模を誇る領域。さすが国内最大級の迷宮が存在するだけはあるというものだ。戀は久しぶりに血が滾るのを抑えきれなかった。
「さて、こんなところで立ち話もなんだし、さっさと入るか」
そう言って戀一行は森の中に入っていった。
~???~
戀たちが森に入ってくのを、黒いローブに身を包んだ男が監視していた。
「対象が森に侵入するのを確認。次の指示を」
「うーん、あんまり手を出すと反撃されそうだしねぇ~」
男の通信機から声がする。
「ですが、イルディーナ・ベルファを回収するのであれば、誰の目も届かないこの場のほうが有利なのでは?」
「いや~。・・・彼女についている二人の護衛ってさ、男のほうは知らないけど、女のほうはまず間違いなく、メルガリアの人間でしょ~? 今相手するのは結構厳しいかもね~」
「私でも危ういと?」
「彼女の名前、知ってる?」
通信機の向こうから男に問いがくる。
「……いえ、しりませんが…………」
「彼女の名前は三觜島鈴音。あの忌子の家系で有名な三女だよ。能力は何か知らないけど、彼女が所属している部隊はメルガリアでも最強の後方支援部隊である【クシナダ】だ。下手に手を出してこっちに飛び火するのは避けたいんだよね~。少なくとも例の件を実行に移すまでは手を出さずに監視を続けて。あと、男の実力も確認しておいて、大した戦力にならなさそうであれば殺してくれもいいよ」
「了解した」
そういって男は戀たちの後を追った。
だが彼らは知らない。自分たちが追っている人間の実力を………………。
~戀一行~
戀たちは普通の森と魔物の森との境目に来ていた。
「この場所を拠点とするか」
戀がそう言うと、鈴音は慣れた手つきでキャンプセットを取り出し、組み立ていく。
イルディーナはシャードの毛づくろいをしている。
戀はそこからはなれ、今日の夕飯の食材と燃料となる薪を探していた。
燃料となる薪はそこらへんに生えている木を伐採し、食材はそこらじゅうに自生している山菜や茸を採っていた。だが…………
「せめて肉となるものが欲しいんだが…………」
そう、全くと言っていいほど動物の気配がしないのだ。
仕方なく戀は魔物の森に侵入した。
森の領域に侵入した瞬間、戀の体に突き刺さる大量の殺気。
常人なら失禁してしまうようなものだが、戀は平然とし、逆に獰猛な笑みを浮かべた。
「久しぶりに楽しめそうだな。--いいぜ、来いよ。まとめて相手してやる」
戀の言葉が通じたかどうかは定かではないが、戀を囲む幾多の魔物たちが戀に襲い掛かった----。
一方、イルディーナは鈴音やシャードと一緒に火を起こし、戀の帰りを待っていた。
「兄様遅いですね~」
鈴音は愚痴っていた。
「まあまあ、三觜島君も食料を探しに行ってくるといっていたので、何か見つけたのかもしれませんよ?」
だが、イルディーナもなんだかんだ言って心配はしていた。自分を負かした相手とはいえ、その実力はこのアヴァロンの中でも最強と謳われる剣士、ティナ・フィルファーベルをも凌駕するものだ。
そんな相手にいちいち嫉妬していては、いくら経っても成長できない。
だからこそ、そんな実力をもつ彼のことが気になるのだろう。
そう、自分は決して彼に変な気は持っていない。
……………………だから、その気持ちが戀に対する恋心だということに気づかない。
そんなイルディーナのことを、鈴音はジッと見つめる。
「あ、あの……なにか?」
「いえ~べ~つに~。ただ、会長は自分自身の気持ちにもっと素直に向き合ったほうがよいと思いますよ」
鈴音の言葉にイルディーナは首をかしげている。
鈴音は「まあ、別にいいですが」と言い、森のほうを見やる。
兄である三觜島戀は、その驚異的な知能の高さと圧倒的な実力のせいで、実家から差別的な扱いを受けていた。
その酷さと言えば、実の妹である鈴音からしても相当なものだった。
人間らしい扱いを受けてこなかった。
そのせいだろうか。兄が、以前にもまして他人との距離を広げ、決して埋めることのできない、深い溝を作ったのは。
戀はどれほどの苦痛を受けても、何事もなかったかのように平然と過ごす。
そんな異常な光景が、私たちの感覚を狂わせ、何時しかそれが普通になった。
鈴音も、戀に対する暴行に何の疑問も持たなかった。
いや、疑問を持たなかったのではなく、持てなかったのほうが正しいのかもしれない。
なぜなら、鈴音は当時、兄である戀が実の親や親せきから虐待を受けていたことを知らなかったのだから。
それに加え、戀は一切感情を表に出さない。故に、彼が今どんな気持ちでいるのかがわからない。
鈴音がこのことを知ったのは、戀が家出し、メルガリアに入隊してからだった。
鈴音はこれに激怒し、家出。
戀を追って、戀が入隊して一年後にメルガリアの支援部隊に配属された。
今でこそ戀と共に生きていられることに満足しているが、もしこんな生活がなかったら自分はどうなっていたのか、今考えると恐ろしい。
…………………今の幸せがあるのなら、ほかのものは何もいらない。
鈴音が決意新たに生きこんでいると、視界の端に、人影が写った。
すぐさま警戒態勢に入るが、人影の正体に警戒を解く。
なぜならそれは、
「お待ちしておりました、兄様」
「ただいま、鈴音」
鈴音の最愛の人、三觜島戀その人だからだ。
馬車を使っても約三時間はかかるのだが、シャードに乗ってきて正解だったな、と戀は心の中でつぶやいた。
「ここが《草薙》のある森……か」
戀がしみじみとつぶやいた。
「ええ。この森には魔物だけでなく、普通の動物も生息しているのですよ」
イルディーナの言葉に戀は驚いた。
「普通の動物だと? ここは魔物の領域だろう。なのに普通の生物が生息しているのか?」
戀のその言葉に、鈴音が答える。
「先ほどの説明ではわかりにくいですわよ会長。兄様、この森は規模が規模だけに全体が魔粒子でおおわれているわけではありません。森の中心から外れているこの辺一帯は普通の森と何ら遜色ありません」
その言葉を聞いて、戀は再び驚愕することになった。
魔粒子が覆いきれないほどの規模を誇る領域。さすが国内最大級の迷宮が存在するだけはあるというものだ。戀は久しぶりに血が滾るのを抑えきれなかった。
「さて、こんなところで立ち話もなんだし、さっさと入るか」
そう言って戀一行は森の中に入っていった。
~???~
戀たちが森に入ってくのを、黒いローブに身を包んだ男が監視していた。
「対象が森に侵入するのを確認。次の指示を」
「うーん、あんまり手を出すと反撃されそうだしねぇ~」
男の通信機から声がする。
「ですが、イルディーナ・ベルファを回収するのであれば、誰の目も届かないこの場のほうが有利なのでは?」
「いや~。・・・彼女についている二人の護衛ってさ、男のほうは知らないけど、女のほうはまず間違いなく、メルガリアの人間でしょ~? 今相手するのは結構厳しいかもね~」
「私でも危ういと?」
「彼女の名前、知ってる?」
通信機の向こうから男に問いがくる。
「……いえ、しりませんが…………」
「彼女の名前は三觜島鈴音。あの忌子の家系で有名な三女だよ。能力は何か知らないけど、彼女が所属している部隊はメルガリアでも最強の後方支援部隊である【クシナダ】だ。下手に手を出してこっちに飛び火するのは避けたいんだよね~。少なくとも例の件を実行に移すまでは手を出さずに監視を続けて。あと、男の実力も確認しておいて、大した戦力にならなさそうであれば殺してくれもいいよ」
「了解した」
そういって男は戀たちの後を追った。
だが彼らは知らない。自分たちが追っている人間の実力を………………。
~戀一行~
戀たちは普通の森と魔物の森との境目に来ていた。
「この場所を拠点とするか」
戀がそう言うと、鈴音は慣れた手つきでキャンプセットを取り出し、組み立ていく。
イルディーナはシャードの毛づくろいをしている。
戀はそこからはなれ、今日の夕飯の食材と燃料となる薪を探していた。
燃料となる薪はそこらへんに生えている木を伐採し、食材はそこらじゅうに自生している山菜や茸を採っていた。だが…………
「せめて肉となるものが欲しいんだが…………」
そう、全くと言っていいほど動物の気配がしないのだ。
仕方なく戀は魔物の森に侵入した。
森の領域に侵入した瞬間、戀の体に突き刺さる大量の殺気。
常人なら失禁してしまうようなものだが、戀は平然とし、逆に獰猛な笑みを浮かべた。
「久しぶりに楽しめそうだな。--いいぜ、来いよ。まとめて相手してやる」
戀の言葉が通じたかどうかは定かではないが、戀を囲む幾多の魔物たちが戀に襲い掛かった----。
一方、イルディーナは鈴音やシャードと一緒に火を起こし、戀の帰りを待っていた。
「兄様遅いですね~」
鈴音は愚痴っていた。
「まあまあ、三觜島君も食料を探しに行ってくるといっていたので、何か見つけたのかもしれませんよ?」
だが、イルディーナもなんだかんだ言って心配はしていた。自分を負かした相手とはいえ、その実力はこのアヴァロンの中でも最強と謳われる剣士、ティナ・フィルファーベルをも凌駕するものだ。
そんな相手にいちいち嫉妬していては、いくら経っても成長できない。
だからこそ、そんな実力をもつ彼のことが気になるのだろう。
そう、自分は決して彼に変な気は持っていない。
……………………だから、その気持ちが戀に対する恋心だということに気づかない。
そんなイルディーナのことを、鈴音はジッと見つめる。
「あ、あの……なにか?」
「いえ~べ~つに~。ただ、会長は自分自身の気持ちにもっと素直に向き合ったほうがよいと思いますよ」
鈴音の言葉にイルディーナは首をかしげている。
鈴音は「まあ、別にいいですが」と言い、森のほうを見やる。
兄である三觜島戀は、その驚異的な知能の高さと圧倒的な実力のせいで、実家から差別的な扱いを受けていた。
その酷さと言えば、実の妹である鈴音からしても相当なものだった。
人間らしい扱いを受けてこなかった。
そのせいだろうか。兄が、以前にもまして他人との距離を広げ、決して埋めることのできない、深い溝を作ったのは。
戀はどれほどの苦痛を受けても、何事もなかったかのように平然と過ごす。
そんな異常な光景が、私たちの感覚を狂わせ、何時しかそれが普通になった。
鈴音も、戀に対する暴行に何の疑問も持たなかった。
いや、疑問を持たなかったのではなく、持てなかったのほうが正しいのかもしれない。
なぜなら、鈴音は当時、兄である戀が実の親や親せきから虐待を受けていたことを知らなかったのだから。
それに加え、戀は一切感情を表に出さない。故に、彼が今どんな気持ちでいるのかがわからない。
鈴音がこのことを知ったのは、戀が家出し、メルガリアに入隊してからだった。
鈴音はこれに激怒し、家出。
戀を追って、戀が入隊して一年後にメルガリアの支援部隊に配属された。
今でこそ戀と共に生きていられることに満足しているが、もしこんな生活がなかったら自分はどうなっていたのか、今考えると恐ろしい。
…………………今の幸せがあるのなら、ほかのものは何もいらない。
鈴音が決意新たに生きこんでいると、視界の端に、人影が写った。
すぐさま警戒態勢に入るが、人影の正体に警戒を解く。
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