君に出会った僕

鬼怒川 ますず

君に出会った僕

2時間前に恋をした。

君が初めて僕の前に現れたのは小学生の時だ。

僕は昔はやんちゃで悪戯が好きで、よく女子を泣かせては先生に呼び出されて親まで呼ばれてしまうほどに、僕は問題児だった。

同級生からも僕は疎まれていって、次第に距離が生まれてしまった。
僕はその腹いせにまた悪戯をして、泣かして、先生に怒られて、どんどん周りから距離を取られてしまう。

もうどうでも良かった。
孤独でも、一時の楽しみが味わえればそれで良かった。

心の痛みなんて、まやかしだと自分に言いつづけた。

そんな僕の前に君が現れた。

隣のクラスの顔も知らない名前も知らない。
お互いに面識なんてない立場だったはず。
でも君は教室の扉を開けると僕の名前を言って呼び出し、近づいて来た僕に向かって思いっきり殴りかかってきた。

あの時はほおが痛かった。
そのままつかみ合いの喧嘩になって、僕と君はお互いにお顔に青いアザや赤い擦り傷、強く掴んできたりしたので爪の跡までお互いの腕に残った。

その日から僕の目的は変わった。

喧嘩のあった次の日、僕は君に決闘を申し込んだ。
いつも女子だけを泣かせる卑怯で悪戯ばかりしていた僕自身、この行為が信じられなかった。

君は快く決闘状を受け取って、放課後の校庭で思いっきり喧嘩してくれた。
女のクセに、力は弱いのに、僕の攻撃を避けて隙あらば殴りかかる。
そんな戦い方に僕は心が踊った。

お互いに昨日と同じくボロボロになって、校庭の端っこで大の字に倒れた。
その時君が大きな声で笑うから、僕もつられて笑った。

そして、そんな君が起き上がって言ったんだ。

「友達から聞いたのより、ずっと面白いヤツだな」

って。
だから僕はそれに「お前こそ、女子のクセにやるな」って返したら君はニッて笑って僕に手を差し伸べてくれたんだ。

救いの手を。
僕はそれをギュッと掴んで支えにして起き上がる。

その時から僕と君は友達だった。



中学校、高校、大学と時間はゆるやかに決して遅くない速度で流れていき、大学最後の年に僕は君に初めて恋をした。

最初に会った時よりも美しく、見た目も見違えるほどか細くなった君。スタイルに不もなく、いつだって注目の的だった君。

僕はそんな君と、ずっと友達のままだと思っていた。
自分には不釣り合いだと思った。
綺麗で美しい君は、他の男と比べて劣る僕とは違うと思っていた。
僕の一方的な片思いだと思っていた。

でも、君がまだ桜も咲いてない木の前で「友達のままじゃ嫌」と言って僕に抱き付いてきた君に、僕は返事の代わりに強く抱きしめてあげた。

共に長年の間友達として遊び、笑って、そうやって楽しく過ごしてきた間柄だからこそ恋人以上にはならないだろうと思っていた僕と君との関係は終わりを告げ、僕は君に恋をした。

そして君と恋人になってから2時間後の現在。
君は冷たくなって道路の真ん中で横たわっていた。

交通事故。
そして轢いた車は近くの街路樹にぶつかって黒い煙を上げていた。
周りの人の悲鳴と喧騒、僕は君の倒れた身体に近寄ることも出来ず。ただ、ただ、血を流して倒れた君を遠くから見ていることしか出来なかった。

恋や間はこうも容易く無くなるもの。
しかし、いなくなろうが僕は君に恋した気持ちを忘れない。


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「って作品考えたけど、どうだろ?」

「どうだろって……私がちょっと接触して飛んでったのを轢かれたと思ったあなたがパニクって動けなくなった話じゃないの。変に脚色すんじゃないわよ」

「やっぱり〜、でも普通死ぬと思うじゃん」

「あのあと普通に歩いて戻ったらあなたビックリして逃げ出したのはそれか……」

アレから5年。
僕は売れない小説を書きながら会社勤めの生活をしている。
ほとんど自分の世界に浸ったファンタジー作品ばかりだが、今回は趣向を変えて恋愛ものを書こうと思った。

書こうと思っていざ指を動かすと、なかなか書けない。
そこで僕の実話を書いたわけだ。

僕の目の前にあるソファで優雅に座りながら僕の書いた小説を読んでいる君がいる。
その左手の薬指に、僕の少ない給料で買った指輪をはめながら。

「もっと表現を多くしたほうがいいんじゃないの?東野さんの文章みたいに引き込むように、山田悠介のように不思議な表現を交えてさ」

「僕は趣味で書いてるから僕の流儀で行くんだ……。最近はライトノベルというものにも手を出しているが」

「あなたの小説ってライトノベルじゃないの?」

「ファンタジー冒険ミステリー小説だ!」

妻となった君が僕の必死な弁論を聞いて吹き出し笑ってしまう。
僕もそれにつられて笑ってしまった。

全く、昔の詩人でバイロンが言った『事実は小説よりも奇なり』とは言い得て妙なものだ。

だって、いまだに君と一緒にいるのだからさ。


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