二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~

魔法少女どま子

気づかなかっただけで

 しばらくの間、重厚な沈黙が流れた。

 すべて最初からやり直し。

 明日、また学校に行けば、いつも通りいじめっ子のターゲットになる。

 その事実を突きつけられ、すべての者が黙り込んだ。

 もうあの苦しい日常には戻りたくない。魔法を使用し、何者をも恐れぬ生活に戻りたい。

 そう思うのも本当に無理からぬことだ。俺とても、また坂巻にいじめられる日々が戻ると思うと、正直鬱になる。

 もちろん、ステータス99の俺にかかれば、坂巻なぞ一瞬にして塵にすることはできる。だが、それでは意味がない。暴力の繰り返しは、ただ悲しみを生むだけでしかない。

「俺たちは結局、いじめられる運命なのか……」

 誰かがぽつりと呟いた。



「いや、違うよ」



 ふいに育美がはっきりとした声音で告げた。全員の視線が彼女に集まる。

 育美は数秒だけ俺に笑顔を向けると、両手を胸に当て、小声ながらもよく通る声で続けた。

「私も……明日からいじめられるかもしれない。だけどいまは信じられる人がいる。それだけで元気になれる」

 信じられる人……
 言われてみればそうだ。俺にも育美という最愛の恋人がいる。たとえ彼女が遠く離れていようとも、育美という女性が存在するだけで、心に安心感が生まれる。そんな気がする。

 ーーいや。
 育美だけじゃない。俺には……

「勇樹か?」

 ふいに聞き慣れた男性の声がして、俺は反射的に振り向いた。

「お、親父……」

 応接室の出入り口で、十七年間、男手ひとつで俺を育てあげてくれた父親が立っていた。

 白髪まじりで、頼りないくらい細い身体をしていて、正直、鬱陶しいと思ったこともあったけれど。

 だけど。

 父親は俺の姿を認めるなり、泣きそうな顔で駆け寄ってきた。

「よかった……生きていたか、生きていたか!」

 両手をぎっしりと掴み、何度も生きていたかと連呼する。

「馬鹿野郎……死にそうだったのは、そっちだったじゃないか……」

「おれはいいんだよ。本当に、本当によかった……」

 俺たちの再会を、育美が微笑ましそうに見つめているのが視界に映った。

 なんだか恥ずかしい。
 だが、それでも父を突き放そうとは思えなかった。

 いままで気づかなかったのだ。
 坂巻にいじめられ、自殺すら考えていた、あのときの俺にすら。
 味方がいたんだ。
 気づかなかっただけで、こんなにも近くに。  

 中学生になったあたりから、親の存在を邪魔だと思ったこともあった。こんな貧乏な家庭に生まれたくなかったと思うこともあった。

 でも。
 でも……
 気づいたとき、俺も父親と同じように泣き出してしまっていた。

コメント

  • ノベルバユーザー602641

    キャパシティが超える展開が、良かったです。

    0
  • imosama

    転移タグ付いてるんだけどどう言うコト??異世界じゃなくてパラレルワールドローファンタジーでは?

    0
  • ゼロ

    最高だ〜感動した

    0
  • ショウ

    良かったです。面白さや悲しさもある作品でした。とにかく良かったです。

    0
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